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黒檀の魔女  作者: ラテオレ
永焔のフィオロオウラ
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11. クロエの秘密

 監視役の不足。

 それにより、クロエさんの監視は今までどうしても抜けが出ていた。

 本来であれば、せめて起床中の行動すべては把握しておくべきだが、それすら出来ずにいたのだ。


 とは言っても、精々数十分から二時間程度の隙間時間、大した問題ではないと、思っていた。

 相手が、クロエ・エヴォニアでなければ。


「これは……」


 監視役からの報告書を眺める。

 早朝に自室を出てから、夜遅くに自室に戻るまでの、抜けの無い監視報告書。

 たまたま一日だけ監視役が増やせたので、数時間おきに交代し、全部で八名からそれぞれの報告書を受け取った。それらを組み合わせ、クロエさんの行動を時系列順に並べてみた時、問題が浮かび上がったのだ。


 外出から帰宅まで、おおよそ十八時間。

 その間、クロエ・エヴォニアは、食事も採らず、水分補給もせず、風呂にも手洗いにも行かず、行動し続けている。


 加えて、私が私物の魔道具を使った結果、クロエさんの部屋から夜通し魔法の反応が絶えなかった。

 以前「まさか」と思っていた『灯の眼』を使い続けている説が真実味を増し、少なくとも眠ってはいないことが確実となった。


 つまり。

 クロエ・エヴォニアは、一睡もせず、飲まず食わずのまま、行動し続けていることになる。


 信じられず、過去の報告書も読み漁った。

 しかしそのどこにも飲食の記録はなく、手洗いにも向かっていなかった。


 生物とは思えない。

 不飲不食で、不眠不休。

 はっきり言って異常だ。


 所謂アンデッド……動く死体なのではないか。

 だがそれなら術者が居ない。

 人形なら精巧すぎるし、どちらにせよ動力や燃料が不明だ。


「たしか、「薬がなければ眠れない」と言っていましたわね……」


 まさか本当に眠っていないとは思わなかった。

 これは不眠症というレベルではない。

 おそらく、クロエさんにとっては不眠不休こそが日常であり、眠るには薬で無理矢理意識を途切れさせる必要がある、ということだろう。

 あんな些細なやり取りにそんなすれ違いがあったなんて、思いもしなかった。


「そりゃ逃げますわよね……」


 あの日の変なリアクション。

 それと、三つの魔法の秘密。

 きっと、クロエさんが活動し続けている絡繰りが、その辺りにある。


「そう言えば、商会長も神様に「なんでクロエちゃんが変わらず可愛いままなのか」と訊いてしましたわね」


 記憶が大分あやふやだが、そうだ、確かにそんなことを言っていた。

 初めは師匠に「どうなっている」と訊いていたはず。

 あれは、クロエさんが商会長の知るクロエさんと「なにも変わっていなかった」から……?


 だとすれば、クロエさんは『不変の魔法』か何かを使っている?

 いや、それなら行動自体が出来なくなる。

 それなら単純に『不老不死の魔法』とかの方が現実味がある。


 勿論そんな魔法は無い。

 あるとすれば大問題だ。

 しかし『三つの魔法』がそこに結び付くのなら、ひた隠しにする理由も分かる。


「でもクロエさんは言いましたわ」


 最強の矛であり、最強の盾である。

 それならば不老不死は盾たり得ても矛たり得ない。

 永久に攻撃し続ける、という意味では、最強っぽいですが、矛のイメージからは離れますわね。


 まあ、その辺は考えても答えが出そうにないのでやめておきましょう。


「ショックですわね……」


 ここまで散々怪しんできた。

 それを乗り越えて、信用もした。

 しかしここにきて、こんなに大きな秘密を知ってしまった。


 ――それなのに、少しも動揺しなかった。

 まあ、クロエさんですからね。で済ませてしまったのだ。


 どうしてしまったのだろう、私は。

 いや、薄々気づいていたからなのだろう、とは思う。


 そもそも円卓が禁じ名指定した『エヴォニア』だ。随分前から円卓に信用されているはず。

 クロエさんが魔法学校に来るにあたって、魔導院と飛脚連が監視役を付けることを騎士団が了承したのも、他の党に同意したのではなく、寄り添うために一歩譲っただけなのだろう。

 初めから彼らは「クロエ・エヴォニアに監視は必要ない」と確信していたはずだ。

 そうでなければ、魔法学校なんて国内有数の公的機関かつ教育機関に身元不明の少女を推薦するわけがない。


 円卓や騎士団は初めからクロエさんが問題を起こすわけがないと考えていたのだろう。

 その事は、私自身がクロエさんとの交流で実感していた。


 素朴で素直な少女でしかないクロエ・エヴォニア。

 どうしてそんな彼女に、『不飲不食』と『不眠不休』の能力が備わっているのだろう。

 あと、自分の目では未確認だが、騎士候補生を素手で圧倒できるだけの身体能力も。


 一番分からないのは、それだけの力を持ちながら、肩書が「旅の薬師見習い」だということ。


「……なんにしろ、これはこのまま報告は出来ませんわね」


 困りましたわ。

 このままでは公文書偽造に手を染めてしまう。


 はあ、と溜息を吐いて、手紙の用意を始める。

 まずは円卓に、クロエさんを紹介した『黒鉛の騎士』に、連絡を取ってみよう。

 クロウ・クロムウェル様。あなたは、クロエさんの異常さを知っていらっしゃいますか?と。


 犯罪に手を染めるのは、そのあとだ。







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