表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒檀の魔女  作者: ラテオレ
フォストレアの白い花
13/36

12. フォストレアの白い花

 知恵の神の信徒は、過去に学び、未来に活かす。


 長い旅の中で私たちの間で恒例になったイベントがある。

 それが、『良い子の反省会』。

 ファストレア教皇国編、開幕です。


 神殺しシステムは、神官達の信仰を利用した荒業である。


 師匠が整えてくれた舞台、「女神の居場所は大神像しかない」という状況。

 大神像にフォストレアさんを『神降ろし』することで、居場所の信仰と現実をリンクさせる。

 それを、神様を宿し、半概念融合体化した黒檀の杭で粉砕する。


 これで、信者の中でも現実的にもフォストレアさんは粉々になり、死ぬ一歩手前までは持っていける。

 一時的に神秘が使えなくなる、くらいまでは行けたんじゃないかな。

 それがトドメ、「神官達に『神は死んだ』と思い込ませる」に繋がる。

 信者に死んだと思われること。それが、神の死だ。


 あとはもうアドリブです。


 たまたまそこに咲いてたフォスの花を摘んで、ゼノロスさんに渡して、それに神降ろしを使う。

 賭けだった。でも勝ちの目は十二分。

 フォスの花が無ければゼノロスさんの聖印を使うつもりだったけど、一番良い触媒があって良かった。


 元より『意思』と『力』に切り分けられていたフォストレアさん。だから神降ろしで『力』の方を大神像に降ろせば、『力』だけ殺せると考えた。

 フォストレアさんの『力』は、『意思』がないから、神降ろしに抵抗しないだろうなーって打算も込み。

 神官たちの助けてって願いもあったし、あれも『力』の方を呼ぶよね?


 そんなわけで『力』を殺した後、ゼノロスさんに渡した花に『意思』の方を降ろした。

 花は咲いて、神の存命を示せた。

 ……私は、それで終わりだと思ったんだけど。


 結局フォストレアさんは目の前の怪我人を見捨てられなかった。

 自由になった途端、自分を散々利用したデリング枢機卿を癒すだなんて。

 ゼノロスさんもゼノロスさんだよ、まったく。


 ほんと、良かった。

 みんなちゃんと前を向いていた。

 健康で、健全な変革だった。


「と、思ってたんですけどぉ」


「■■■■」


「詰めが甘い、30点。だってさ」


 き、厳しぃーーーっ!

 この反省会、何か事件がある度にやってるけど、毎回酷い点がついて凹む!


「最後のあれ、何だったんですか?」


「黒の世界樹? あれは相棒がやったんだよ」


 備えの一つ、『神の再臨封じ』だ。と、神様が言う。


 神を殺すのは信仰だけど、神を生むのも信仰だ。

 死んだり消えたりした神が復活する逸話は、結構あちこちに実在する。

 私はフォストレアさんを殺し切ることだけ考えていたけど、師匠はそこも対策していてくれたらしい。


「クロエちゃんの魔女ムーブに乗っかって、俺が相棒に合図出して、技名口にしてドカーンっとな」


「やっぱり! いきなり変なこと喋りだしたからびっくりしましたよ!?」


「■■■■■■」


「あれくらいやらないと『力』の方の信仰が復活しかねないってさ。神殺しの目撃者が少なすぎたな」


「ええー!?」


 確かに目撃者は少なかった。

 大聖堂が立ち入り禁止になった時点で作戦を変えるべきだったのかも。

 せっかく大神像が動いてくれたんだから、それを広場まで引っ張っていけば……いや、だめだ。最悪神官たち以外に巻き込まれる人が出てきちゃう。


 対して、師匠がやった『黒の世界樹』は派手だった。

 派手な上に犠牲者ゼロ。

 しかも幹にでかでかと「神は死んだ」の文字まで刻んで。


「神は死んだ、私が殺した。

 だが種は残した。

 次は腐らせずに育てよ」


「いい言葉ですけど、これは信仰復活の切っ掛けにならないんですか?」


「大丈夫。ゼノロス君の神秘見てから書くこと決めてるから」


「それであのタイミングだったんですか……」


「今後の混乱でゼノロス君が活躍すれば、誰だってフォストレア教が生まれ変わったって思うさ」


「■■」


 これが後詰……。

 きっちりしてるなあ。

 その上、『癒しの神秘』が激烈に弱くなる(というか神官が圧倒的に不足する)事に関しては、師匠の更なる備えにより解決している。


 フォストレア教皇国は怪我人や病人が集まる国。

 それを癒す神秘が無くなったとすれば、『需要』だけが大量に残ってしまう。

 そこで師匠は伝手を使ってあちこちの医者や薬師や商人達にビジネスチャンスを伝えたのだ。

 師匠の伝手と言えば『円卓』。あの清廉潔白な実力者しかいない騎士連盟が情報を流したのなら、それを疑う者はまずいない。


「さすが『黒檀の騎士』ですね」


「■■■」


「クロムウェル氏に借りが出来た、って」


「いやクロムウェルさんの方が借りが出来たって思ってますよ絶対。あの人、人助けに命捧げてますから」


 違いない、と笑う神様。

 揺れる黒い塊こと師匠。

 いつも通りの光景だ。


 結局ゼノロスさんは宗派分け計画を取りやめ、今は神官として頑張っている。

 ゼノロスさんが集めていた同志や、地方でも心清らかで有名な人たちが、新たに神秘を授かっているらしい。


 私こと魔女への追撃はなかった。

 指名手配とかもない。

 その辺はなんでか分からなかったけど、ゼノロスさんが言い放った言葉をみんなが思っているのだろう。

 魔女なぞどうでもいい、それどころじゃない、と。


 ゼノロスさんは急に出世して大変だろうけど、遠目で見た時は笑顔が眩しかった。

 今、彼は迷いなく人を助けている事だろう。


「……そう言えば神様、ゼノロスさんが「まずい」って何だったんですか?」


 気になって何度か考えていたけれど、答えらしいものには辿り着けなかった。

 精々「自棄起こして無謀な変革を起こしそう」というぐらい。

 でも、それは同志を募って抗議デモを起こすくらいで、すぐに神官たちに鎮圧されそうだった。


「それであってるよクロエちゃん」


「え?」


 パッと顔を上げると、神様が師匠の中に溶けていった。

『神降ろし』だ。


「クロエ、抗議とは、声を上げること自体に意味があるんだ」


「師匠……」


 私は、どうせ鎮圧されるだろう、という所で思考を止めてしまっていた。

 師匠が話してくれるということは、師匠が適任だということ。

 師匠の考え方は私には分かりやすい。

 一本道を、どこまでも伸ばし続ける、という考え方だ。


 抗議と鎮圧の先について考える。

 声を上げる意味。その声が届く先。

 大衆は知る。フォストレア教の闇の一端を。


「……この国は綺麗過ぎる。『ゼノロスさんみたいな人』、つまり、純真で正しくあろうとする人が生まれやすい国でした。

 そんな中、フォストレア教の闇を知れば、それを暴き、正そうとする者はきっと多いはず」


 最初の抗議は鎮圧されても、次には更に大きな抗議が起こる。

 強引な鎮圧は、更に大きな反発を生む。

 やがてそれは抑えきれない大きなうねりとなる。


「フォストレア教の内部分裂。ひいては内紛・内乱。ゼノロスさんは、その先駆けに成り得た?」


「それだけじゃない。もし闇が公に知られれば、円卓の介入もあり得た。

 円卓支持派の国々はフォストレア教を邪教認定する可能性も有ったわけだ」


 円卓。

 世界的な騎士連盟。高潔なる守護者たち。

 彼らがフォストレア教の腐敗と、それが引き起こす国民の破滅を知れば、間違いなく敵対する。


 円卓は分かりやすいけど、別に円卓に限った話じゃない。

 どこかの国や宗教が、フォストレア教の闇を知り、『邪教』と定めたならば、その流れは止まらなくなる。

 それほどにフォストレア教上層部は腐りきっていた。


「そうなるとこの国は立ち行かなくなる。諸外国からの輸入品で食い繋いできた国だからな。

 女神は邪神認定、諸外国は国交断絶、輸入も観光業も崩壊する。

 そうなれば、国は変わらざるを得なくなる」


「ど、どういう風に、ですか?」


「媚び諂うだけだ。あれだけ価値を吊り上げた『神秘』を安売りしてでもな」


 それは。

 ……それは、最悪なのでは?


 フォストレアさんは封じられたまま、国は豊かさも平和も失い、信仰を失ったせいで『癒しの神秘』も弱体化を免れない。

 誰も、何も、救われない。


「そもそも今の時代には合わなかったんだ。他の医療を拒む『癒しの女神』の一本体制など。

 治療行為はフォストレアに限らず存在し、昔と違って『癒しの神』も幾らか存在しているというのに」


「いずれ破綻する運命だった……」


「概ねな」


 師匠は淡々と語る。

 神様が言っていた「時代と状況は移り変わるもの」とは、この事だったんだ。

 その移り変わりの切っ掛けに、ゼノロスさんは成りかけていた。


 その事を教えてくれなかったのは、神様でもゼノロスさんを反転させる方法を思いつかなかったからだろうか。

 それとも、私が「首を突っ込まない」選択を、罪悪感を感じずに選べるように、だろうか。


「悲劇だと思うな、クロエ。これは自然淘汰であり、腐り果てた者が地に落ちるのは道理でしかない」


「あんなに張り切ってフォストレアさんを救う手助けをしてくれたのに、ですか?」


「そうだ。俺たちは道理に背こうとしている。

 俺たちの方が間違っているんだ。それを忘れるな」


 忠告として、真っすぐに言い放つ。

 冷たく、厳しく、なにより重い。


 でも私はその言葉の重みより、師匠が道理に背き過ちを犯してまでフォストレアさんを守ろうとしてくれたことが嬉しかった。


「はい! 師匠!」


「……響いていないな」


 私がニッコニコで返事をすると、師匠が溜息と共に神様を吐き出した。

 いや、分離の仕方! なにそれ! 私もやってみたい!


 ……大丈夫。ちゃんと響いてますよ、師匠。


「そういえばクロエちゃん、渡すものが有るんだよ。

 神殺しおめでとうのご褒美」


 にょろりと地に降り立った神様が言う。

 なんでこの人はこんな扱いされても突っ込まずにいられるんだろう。


「おめでたくない……。でも頂きます! なんですか?」


 はいこれ、と、師匠経由で小さな白いヘアピンを貰う。

 シンプルなデザインだけど、可愛い。


「わー! こういうの初めてもらいました!」


 実用性皆無、って言うと師匠っぽいけど、純粋なアクセサリーは初めてかも。

 私の一張羅も武装の数々も、何の意味もないのは下着とインナーくらいだ。


「隣界ではそのデザインは『十字架』って言ってな、神を磔にして殺した時のデザインから来てる」


「え、縁起でもない!」


「転じて、神が宿る、神聖なデザインとしても用いられるんだ」


「神聖……」


 なにか、前にもそんなこと聞いた気がする。

 神は全身縁起物扱いだから、血が付いた布とか、抜け落ちた歯とかが、ご利益たっぷりの聖遺物になるとか。

 さすがのフォストレア教でもそんなことしてなかったのに、もしかして隣界って、怖いとこ?


 あ。もしかしてあれだろうか。

 前に『御分霊』の練習してるって言ってた時、社や石碑のようなポイントが有れば分けやすく宿りやすいって。

 つまりこのヘアピンは神様の加護を宿しているのかも?


「ちなみに俺のご利益はない」


「なんで!?」


 この人本当に神様なのかなぁ!?

 加護とか神秘とか権能とか何にもないぞ今のところ。


 でも、せっかく頂いたし、可愛いからいっか、とヘアピンを付ける。

 すると、


 ――ありがとう、クロエさん。


 声がした。

 ……気がした。


「あの、今の、……え?」


 ぷるぷるしながら師匠と神様を交互に見る。

 頷く神様。

 よく分かんない黒いの。


「■■■」


「多神教だな、だってさ」


「やっぱり!」


 はっはっはと笑う神様。

 笑い事じゃない。

 なにさらっと国神を誘拐してるんだ。


「これフォストレアさん宿ってますね!?」


 どういうこと?

 私があの時、フォストレアさんをフォスの花に宿したけど、魔法が切れれば自動的にフォストレアさんは解放されたはず。


「俺には出来ない『御分霊』だよ」


 神様が言う。

 フォストレアさんは、「各地の神像」や「意思と力」のように、『複数に分かたれた同一存在』という概念特性を獲得しているのだという。


「■■■」


「それにクロエも神官だからな、だってさ」


 そう言えば私も流れで信仰してた!

 でも神官? 数少ない『意思』の信仰者だったから神官任命されてるの?


「まあ残滓みたいなもので、神秘も激弱だけどな」


「そういう問題じゃないですよ!? って使えるんですか? 神秘!?」


「目的達成じゃん、ラッキー!」


「そういう問題でもない!

 というかホントだー! 目的達成してる! なんで!?」


「■■■」


「追加点込みで80点、だってさ」


「フォストレアさん追加点でっかい!! やっぱり師匠もフォストレアさんのこと気にしてたんでしょ! ツンデレー!」


「はっはっはがはぁ!? おい殴んな相棒! ツンデレは教えていいだろ別に!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける私たち。

 いやいやいや、本当に良いの? こんなに簡単に神を連れ出しちゃって。

 私は嬉しいけど……。


「――いや」


 これで、良いんだ。


 フォストレアさんはここに宿っている。

 解放され、健康を得た上で、フォストレアさんはここを望んでいる。


 私と一緒に居ることを。

 今度は安住の地ではなく、世界を知るための旅に出ることを。


 それなら私は、その願いを叶えたい。


「■■」


「んや、それは内緒で行こうぜ相棒」


「聞こえてますよ!? なんですか、なに隠したんですか!?」


 さーてね、とか言いながらふらふらと歩き去る。

 私はそんな神様を追いかけつつ、時々黒い塊に体当たりする。硬い。

 そうやってまたぎゃあぎゃあと騒ぎ合う。


 そんな私たちの足元で、白い花が一輪、揺れていた。



































 知恵の神、サギリ様。黒檀の騎士、ツカサ様。

 どうか私を連れていってください。

 私は、クロエさんと共に在ることを望みます。

 そして、あの子の痛みを、少しでも癒したいのです。



                ――第一章・完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ