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7.平穏な、日常

「おはよー、お前ら席つけー!」


チャイムが鳴り、入ってきた担任の声にクラスメイトはぞろぞろと自身の席に向かい歩いていく。

担任は教室を1度見回し、俺と目が合うと日誌を広げ中を見る。


「朝礼の前に御影!お前どの委員会にするか決めろ~」

「入らないとダメなんですか?」

「全員参加、これ原則。なんでもいいから入っとけ〜!」


だるそうに頬杖を突きながらの担任の言葉に、半ば諦めながら思考を巡らせる。


(護衛任務のためには動きやすいのが一番だが、必ず選ばないといけないとなると...)


入るしかないのならと、しぶしぶ少し離れた席のまひるに声をかける。


「まひるは何に入ってるんだ?」

「体育委員だけど...」


不思議そうに答えるまひる。

言われて妙に納得した。

確かに明るく活発なまひるには体育委員が一番似合う。

僅かに頬が緩むことを自覚した俺は、それを隠すように担任に向き直った。


「んじゃ、俺もそれで」


自由に動けないならば行動を共にするべきだと判断し、まひると同じ委員を選ぶ。


「よろしくね、御影くん!」

まひるを見ると、嬉しそうに笑っていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


午前の授業が始まり、英語の時間がやってきた。

視界の端では、少し離れた席にいるまひるがうとうとと舟を漕いでいる。

かと思うと顔を上げ、ぼーっと板書を見たあと、眠そうにノートを取り続けている。

なんだか見ていて忙しない。


(ほとんど眠れなかったんだろうな、)


「日向さん、次、ここ読んでみようか」


先生に声をかけられ、まひるがハッと顔を上げる。

焦ったように立ち上がり教科書を手に持つが、どこのことを言われているのかわかっていないのだろう。

それどころか教科書が逆さまで、先生も苦笑している。


「“What do students do on their smartphones?”……と聞いています。答えは”They watch videos and message their friends.“ですね」


ひどく焦っているまひるの横顔。

見かねた俺が立ち上がり答えると、遠くからまひるのか細いありがとう〜!の声が聞こえてきた。


「御影くん、そのまま次も読んでくれる?」


「ああ」


俺はすらすらと続きの英文を読み上げる。

文法も発音も、躊躇なく。

教室が静かになり、生徒たちの目が俺に向けられた。


「すっご……」

「ネイティブかよ……」

「顔が良くて英語もできんのかよ!」


そんな3バカの声が聞こえてくる。

まひるが感心したように小さく拍手をしてくれて、次第にクラス全体に広がっていく。

それに軽く会釈で返し席につくと、合わせたように授業終了のチャイムがなった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「さ、さすが御影!」

「かっけえ……!」


休み時間、まひるがノートを抱えてやってきた。


「さっきはありがとう!本当に助かった!」


「別にいいよ、逆さま教科書を見てられなかっただけだから」


「あはは、ちょっとぼーっとしちゃってて」


まひるは恥ずかしそうにノートで顔を隠しながら言って、思い出したように顔を上げた。


「そうだ!英語得意なんだね。教えてくれない?」


「俺で良ければ」


笑って答えると、聞き耳を立てて様子をうかがっていた他のクラスメイトたちが、わっと寄ってきて俺の机を囲んだ。

ノートを持っているやつはまだわかるが、カメラアプリを起動したスマホを持っているやつは一体何をするつもりなんだ。


「すごいね!」

「なんでそんな上手なの?」

「もしかして住んでたとか!」

「すごーい!どこ!?アメリカとか!?」


「うん。シアトル」


「わあ~!おしゃれ!」

「普通だよ。暮らしやすさで言うと日本のほうがいいし」


返すと、みんなが「かっこいい~」と盛り上がった。

俺は一つ一つ丁寧に対応し、時折挟まる記念撮影と格闘しながら、ふと見えた横にいるまひるの表情がちょっと得意げだったのが、なぜか印象に残った。


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