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6.転校生、初登校

朝の光はまだ柔らかく、通学路を包み込むように伸びていた。

護衛対象を学校まで送り届けるためまひるの家の前についた俺は、素源を練り感覚を広げる。

薄く、広く、どこまでも染みわたっていくように。

まひるの家の中での様子を探ると、3人の気配を感じることができた。


そのうちの1人がバタバタと忙しなく同じ場所を二度ほど往復した後、こちらに向かって近づいてくる。

それを確認し一度その場から離れ、あくまで偶然を装い、何気ない風を装って彼女の家の前を通りがかる。

家の玄関が見えてきたとき、ちょうど扉が開き、制服姿のまひるが姿を現した。


「あ、御影くん……おはよう」


俺に気付いたまひるは少し驚いた後、安心したようにほっと顔をほころばせた。


「……おはよう。ここ、まひるの家だったんだな」

「うん、」


ちゃんと誤魔化せたようだ。

俺がたまたま通りかかったと思っているまひるは、嬉しそうに笑い小走りに近づいてくる。

しかしよく見ると、まひるの笑顔は少し曇っていて、足取りもどこか重い。

よく見ると目の下にクマができていて、ひどく疲れた顔をしている。

その姿を見て俺の疑念は確信に変わる。

彼女は気づいているのだ。昨晩この場所で何かが起きたということを。

きっとよく眠れなかったのだ。


無理もない、気配は感じるのに何が起きているのかわからない恐怖。

つい最近までただの女子高生として、普通の生活を送っていた彼女にとって、この上ない不安とストレスを抱えていることだろう。

まひるの体調を気遣いつつも、それ以上は踏み込まなかった。

昨晩、彼女の身に起きたことを知っているからこそ——。

今聞き出したとしても、俺にはどうしてやることもできないのだから......。


他愛もない話をしながら学校に向かい二人で歩いている途中、小さな声に気づいて足を止めた。


「……猫?」

道端でうずくまる小さな猫。

毛並みが乱れた白い猫が、苦しげに鳴いている。

ところどころに血が滲んでいて、怪我をしているようだ。

きっと車か何かに弾かれてしまったのだろう。


「えっ……怪我してる……!」


猫を見るなりまひるは駆け寄り、しゃがみこんで瞳に涙をためる。

救急車!?病院...!この近くの病院は...!と青い顔で慌てるまひるをよそに、俺は静かに膝をつき素源を練る。

猫にかざした手に集中し、細く、柔らかく、繊細に。

丁寧に組み上げた治癒の力を、指先から、猫の小さな身体へ。

ひと筋の光がふわりと広がり、猫の体を包み込み傷がスッと癒えていく。

本来なら見えないはずの力の波動。

まひるはそれを唖然と見つめ、「綺麗...。」と呟いている。


(確かに綺麗だが...)


回復結界リストア・ライン》――基礎的な癒しの術。

能力の治癒への派生は国なのかでも数十人しか行えない高等技術だ。

治癒の中でも基礎的な技術ではあるが、少し粗が出れば悪化させかねないし、命を奪ってしまう可能性も少なくない。

専門家でもない若人が治癒能力を使ったこの現場を、知っている人が見れば目をむいて驚くところだろう..。


(知らなくてよかった。まひるは騒ぎそうだからな...)


「……治った……すごい……!ありがとう!」

「あぁ。助かってよかった」

「猫ちゃん~、もう大丈夫?痛いところない?」


まひるは手の中で一通り猫に異常がないことを確認したあと、そっと地面に降ろす。

子猫はすぐに立ち上がりしばらく俺の顔を見つめた後、まひるに一度鳴き、尻尾を揺らして茂みの奥へと去っていった。


「お礼言ってたみたいだね」

「まひるに向かって言っていたのが腑に落ちない...」

「ふふ、御影君が怖かったんだよ。近寄りがたい雰囲気があるもん」


まひるは少し照れくさそうに笑って、「優しいんだね」と呟いた。


その後、まひるは「休みの日は何してるの?」「能力っていつから使ってるの?」などと話を広げてくる。

明るい調子だが、好奇心の中にどこか探るような雰囲気が混ざっている。


「んー……普通に。散歩とか、読書とか。

昔のことは……あんまり覚えてないかな」


とぼけるように答えながら、俺は心の中で嘘を重ねた。

そうだ。俺はノーフェイス。C.A.S.T. No.3。

だけど。今の“御影琉依”には、それを話す理由も資格もない。


「学校では能力の話はしないでくれよ。まひる以外に知られると困るからな」


彼女は「うん、わかった」と素直に頷いた。


────────


学校が近づくにつれ、生徒たちの視線がこちらに集まってくる。

転校生が人気者のまひると一緒に登校しているのだ。

多少のやっかみは覚悟していたが...


「やばくない?めっちゃイケメン……」

「え、あれが御影レイくん?」

「日向さんと一緒に来てるの、もしかして付き合ってる!?」


騒がしさを無視して歩き続けたが、教室に近づくにつれ生徒たちの注目はますます増していく。

ふとまひるを見ると、軽く伏せられた顔はほんのり赤く色ずいていた。

教室に着くと、まひるはすぐに何人ものクラスメイトに囲まれて消えていく。

俺は一人、自席に向かって腰を下ろした。


「お〜い御影〜!」

「お、やっと来たか!初日から大注目の転校生君!」

「まひるちゃんと一緒に登校とか、うらやまし〜!」


騒がしい男子三人組――陽介、リョウ、光太――が絡んでくる。


「お前とまひるちゃん、いい感じだったな?」

「朝からいろいろ大変だね~」

「見てたなら助けてくれよ…。」

「いやいや、あんなのにつっこんでいく勇気なんか俺らにはない!」


こいつらの楽しそうな笑顔が憎らしい。

今日から3か月間、毎朝こうなるのだと思うと、騒がしくなりそうな学校生活を思い朝から少しだけ疲れてしまった。

軽口を叩かれながら、俺もこの日常に溶け込んでいく ̄ ̄



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