第四話 義賊『暁牙団』
村長爆破直後。
――って、あらためて文字に起こすと、わりとシャレにならないなこれ。
とにかく、村長を爆破四散させたその直後、黎麟はというと――麒麟の姿のまま、山の草むらで優雅にモーニングタイム中だった。
もぐもぐ、ごきゅ。優雅に咀嚼していたその途中、目の端に映ったあるモノが、彼の悪戯心を刺激する。
「おや、これはこれは……」
曼陀羅花。れっきとした毒草。乾かして粉にすれば、咳き込んで涙が出て止まらないという、煙幕界の隠れた逸材。
(ふふふ……これは、使える)
にんまり。笑みを浮かべながら花を摘んで、懐へイン。そこからは、ノンストップで宿に戻って荷物まとめて、いざ出発。
――次なる目的地は、煬震王の治める国の中心、天極州は日輪都!
空を駆けて日輪都着。黎麟、まず市場へ直行。そこで道具を一式かき集めて宿を取り、戦利品の曼陀羅花を天日干しにする。お天道様ありがとう。
で、その隙間時間でやるのは――
そう、錬金術師らしいお仕事。昨日の残りの火薬と胡椒粉をこねこねミックス。導火線を仕込んだ“煙玉”を製作開始。お手製スモークボム爆誕まで秒読み。
花も押し花方式で丁寧に乾燥させて、よーし完璧!
……からの、疲れ切った黎麟はベッドに突っ伏して夢の国へ。爆睡。
◆◆◆
翌朝、黎麟はけろっと起床。起きて五秒で変身、子どもの姿で無邪気に日輪都を探索!
(やっぱ王城周辺は見ておかないとね~)
……が、現実は非情。
王城、マジで鉄壁。筋骨隆々の兵士たちが四六時中パトロールしてるし、空には獣人の航空師団。要塞か。
中には近衛も禁軍もウジャウジャいて、そりゃあもう鉄壁&鉄壁のハーモニー。
(これは……無理ゲー……)
――ので。
黎麟、即断。強攻策は見切りをつけて、正攻法でいくと決めた。煬震王を“国を乱す王”として白昼堂々吊るし上げて、焚刑に処してやる作戦!
が、そのためには――そう、“新しい王”が必要なのだ。
ふと思い出す、かつての父の言葉。
『麒麟は真の王に出会うと、自然と頭を垂れるらしいぞ』
(はああああああ!?)
ツッコミ炸裂。いやいやそんなわけあるか。どこのおとぎ話?幻想か?物理で頭垂れんの?誰得?
が、理屈の通じないこの世界。そういうオカルトが“真実”とされるのも、悲しきかな現実。
(俺は信じねぇ!だからこそ、自分で“選んでやる”!)
煬震王を討ち倒すに足る、強くて影響力もあって、なおかつ焚刑に賛成してくれるヤバめの人物!――そんな奴に、自分から頭を垂れてやろうと決意する。
(まずは四大諸侯、会いに行くぞー!)
――こうして、王探しの旅は幕を開けた。
……のだが。
「……あれ?ここ、どこ?」
気づけば周囲は田園風景。稲穂が風に揺れ、蛙がゲコゲコ、のどかの極み。王城なんて影も形もなし。
「迷った……。完全に迷った」
物思いにふけりすぎて道を外し、気づけば初見の市場へ突入済み。
人!人!人!そして怒号!なにこのカオス!?
「なんか騒がしいな……」
気になって、近くの餃子屋台のおばちゃんに声をかける。
「なあ、何かあったの?」
「暁牙団の頭領が、闇市で捕まっちまったのよ!」
(暁牙団!?)
黎麟の脳裏をよぎるその名。それは今をときめく義賊団。黎麟ですら耳にしたことがある。
「なんでそんな奴が、闇市で……?」
「今ね、王宮の禁薬“赤蒼花”が疫病に効くって噂が出てさ。それが闇市に流れてるって情報があったのよ。で、偽情報だったんだけど、それに釣られたんだって。仲間を庇って、囮になって捕まったのよ……泣ける話でしょ」
市場の空気が、どんよりと曇る。
「……助からないわよ。捕まったら処刑。焙られるか、鋸挽きか……」
(ふぅん。“赤蒼花”なら、霧野郷の山にも咲いてるのにな……ま、関係ねぇけど)
冷たくそう判断して、踵を返す黎麟。が、方向音痴スキルが火を吹いた結果、気づけば――
(え、俺、なぜか人だかりのど真ん中いるんだけど!?)
そこには、縄で縛られ、小突かれる一人の男。
鋭い目、銀混じりの黒髪、傷だらけの体。けれど屈せず、空を睨むその姿は――
(……なんだよアイツ。小突かれてるの見てると、なんかムカつく……うっ!?)
――バシュッ!!
思考より先に手が動いた。
帯に仕込んでた煙玉を、ポイッと!からの、炸裂ッ!!
「ギャアッ!!目がああああ!!」
「煙だ!煙があああ!!」
(やっちまった!俺ぇええええええええ!?)
咄嗟に己の姿を変化させ、人間離れした麒麟の肢体で人波をかき分け、男の前に躍り出る!
「むっ、お前は……!?」
(乗れッ!)
頭を垂れ促すが――乗らない。察しが悪い男だ!
(ええいッ!もういい!)
男の襟首くわえて背にぶん投げ、強制送迎!煙の渦を蹴り裂いて、脱出劇スタート!!
「罪人が逃げたぞ!」
「なんだあの獣!?鹿か!?馬か!?いや何だァ!?」
麒麟、音もなく疾走。追いつける者は、なし!
人気のない路地へ滑り込むと、背に乗った男に一言。
「おい、しっかり掴まれ!振り落とすぞ!」
「お前ぇ……獣人、なのか……?」
「今はそれどうでもいいだろッ!!首にしがみつけぇえええ!!」
男が首にしがみついた、その瞬間――黎麟、地を蹴り空を跳ぶ!
「はあああ!?空飛んだ!?マジで馬!?いや鹿!?なんだお前ぇ!?」
「どっちでもいいわぁああああああっ!!」
混乱と煙の街を背に、黎麟は雲間を切り裂いて――空を翔ける。
(くっそぉ……どうしてこうなった……)
「なぁ、俺の仲間が天極州の外れに潜伏してる。悪りぃが、そこまで運んでくれねぇか?」
(ああ、図々しい。振り落とせばよかった。なんで俺、こんなヤツ助けたんだろ……はぁ)
行き場もなく、背中の男も落とせず――
黎麟は、空を飛ぶ。ため息を吐きながら。
(……次からはちゃんと見捨てよ)
——そう思ったはずだったのに。