陸品目 鶴ヶ城
「香奈美が観戦状況でのゲーム許可を求めてきたって?」
赤瓦と、山界政府の八咫烏を描写する旗や垂れ幕に彩られた若松城――通称、鶴ヶ城の天守最上階内部。照明の消された暗闇で、カシミヤの絨毯に置かれた豪華な玉座から影が尋ねた。
昂だった。もう就寝する予定でいたのか、眠そうな眼差しで派手な寝巻きを纏っている。
「へい、すぐにでもしたいんだそうで」
目前に跪く地味なパジャマの戸木沢が回答すると、主人は応じた。
「ずいぶんと急だねえ。師を超えたつもりになって、あたいとやろうってのかい」
「いえ。そいつは違うみたいでさあ」
「? じゃあなんだい」疑問を顔に浮かべ、女は身を乗り出した。「山爺を超えるためにあたいでテストするってのか、順番が逆だろう」
恐る恐る目線を上げた戸木沢は、主人の形相を確認するやすぐに面を伏せて述べた。
「そ、それが。相手は昨日、この街に来た若者だそうでして。滝定陸徒って名の……」
「……なんだって」
一瞬の絶句。やおら玉座に掛け直してから、昂は深刻な顔つきで推理を呟く。
「ただのよそ者に、香奈美ほどの女がバトルを仕掛けるってのかい。あの老いぼれも把握してるだろうに」
月明かりが僅かに移動するほどの間が空いた。
眠気が消え、すっかり厳しくなった昂の眼差しが輝く。彼女の掛ける座の背後で、金屏風が月光を反射した。
「その若造、山爺に見込まれた可能性があるね」
仰天した戸木沢は面を上げた。
「ど、どういたしやしょうか」
「いいだろう」
なにかを企んだように、昂は立ち上がった。そのまま、どうどうと命じる。
「品定めに行く手間が省けたよ。デイダラボッ娘に布告させてやんな、大舞台で見極めるんだ。ちょいと準備期間を挟んで、明後日辺りにしよう」
疎らな街明かりが、ふと明度を増したようだった。命が潰えていた街中の電化製品に、魂が戻ったのだ。
スピーカー、テレビ、ラジオ、パソコン。空き家や店舗や施設など、地孫光臨以降廃墟に打ち捨てられていたかつての情報発信機器までが、再稼働しだしたのである。
半分壊れたりコンセントが繋がっていなくても、それらは一様に同一のことを伝えていた。
『山界新政府より新会津若松市の諸君に、観戦状況による山菜バトルの知らせだ。開催時刻は明後日、正午ちょうどより。開催場所は、三ノ倉スキー場跡地。
挑戦者は優日名香名奈美、対戦相手は滝定陸徒となっている。当日午前中に会津若松駅で観戦者を募集後、十一時より、集団縮地ワープで送迎する予定だ。繰り返す――』