メタルハートプリンセス
科学技術が発展した世界。中でも帝国は特に優れていた。
王宮の訓練場で一対一の模擬戦が行われていた。全高約十メートルの人型ロボット、メタルマシン(通称マシン)に双方が乗り込み新型の性能テストをしていた。パイロットは皇女リーティと皇子レオス。新型のマシン、白き騎士を思わせる外見のホワイトソードナイトにはレオスが搭乗しており凄まじい剣さばきを披露していた。
「どうした、我が妹よ。逃げてばかりで」
それに対して彼女のマシンは今は作業用として主に使われている少し古い灰色の量産機。旧名はメタルソルジャー。耐久性と安全性、拡張性は高いが新型の相手になるとは言い難い。そのため、互いに訓練用の剣で戦ってはいるが逃げることしかできていない。
(直撃を避けるには剣の軌道を読まなくてはいけない。構えの段階で予測しなければ!)
今までの攻撃パターンから次なる攻撃を予測し逃げ続ける。だがソードナイトはフェイントを仕掛け追撃を行った。彼女のマシンの両腕が切断されて模擬戦は終わる。
「所詮は型落ちの量産機、話にならないか」
レオスはメカニックたちに感想を告げるとすぐに超能力の瞬間移動で去っていく。リーティは落ち込んだ様子でゆっくりとコクピットから出てきた。そんな彼女にもう一人の応援していたもう一人の皇女が近付いてくる。
「お姉様、かっこ良かったです」
「無様に負けちゃった。自信はあったはずだけど……」
そこにメカニックが会話に入り込む。
「リーティ皇女殿下、失礼ですがこれは新型のテストを兼ねた模擬戦です。勝ち負けは関係ありません」
「......そうね」
リーティはその言葉に半分だけ納得しつつメカニックらとともに訓練場を後にしていく。訓練場に残ったのは彼女の妹のルーリャとそのメイドロボットのルーラだけ。彼女は壊れたマシンを眺めてこういった。
「ねえルーラ、私にも乗れるかな?」
『大きくなればルーリャ様もいつか乗ることができますよ。それよりも明日の建国祭の準備をしましょう』
「はーい」
皇女とはいえルーリャは百人近くいるきょうだいの末っ子。次期皇帝は先の新型に乗っていたレオス皇子と言われていた。
そして建国祭の当日。王宮から皇族が出てきて大勢の国民の前に姿を現す。その周囲には隣国の王国の関係者やテレビ局の人々も来ていた。リーティもドレス姿で手を振っていく。だけど兄のレオスほどの注目されることはない。
(やっぱり兄さんには敵わない)
彼女たちの父親である皇帝の挨拶が終わりレオスにマイクが渡される。
「国民の皆さん。私はレオス・サイキッカー。記念すべき帝国百周年に立ち会えたこと嬉しく思います。そして今日この日に真実を伝えましょう!」
彼の後ろの巨大モニターの映像が切り替わる。同時に周囲の警備ロボットなどは彼の支配下に置かれた。
『私は皇帝の息子ではない。ここにいる皇族のきょうだいたちは誰一人血の繋がりなどない』
リーティらは驚愕することしかできない。皇帝と皇妃は止めようともう遅い。
『ご存知の通り、俺たちほとんどの皇族は超能力が使える。歴代の皇帝もそうだった。それによって帝国は大きく発展してきた。だがこれは皇族が持つ特殊な才能ではない。人体実験の果てに生み出されたスキル因子というものをを植え付けられたからだ! 後ろの映像が何よりの証拠だ』
ベッドに縛られた数多く赤ん坊や幼子たちが映し出されていた。注射などで投薬実験が行われている。壊死した部位は麻酔なしで切除されていく。無数の死体も映っている。
『俺を含めた皇族、彼らはこの国の孤児たちだったものだ。親に捨てられた不要な俺たちは実験を施された。スキル因子に適応出来なかったものや他の実験に失敗したものは山ほどいた。生き残った俺たちは都合の悪い記憶は薬品で消され皇族という名の道具として生かされてきた。スキル因子の影響で免疫力が極端に低い上、子どもが作れぬというデメリット付きでな』
これを聞いた一部の皇族や王国の者たちは衝撃を受けていた。しかし帝国の民は詳細は知らなくても薄々勘づいていた。
『やはりな。ある意味愚かで優秀な国民は察していたか。ここまで発展しているにも関わらず孤児院がほとんどない国などおかしい。捨てられた子供はどこに消えたか、姿の似ていない異常な数の皇子や皇女。少し考えれば答えは出てくる』
レオスは超能力の瞬間移動で皇帝と皇妃の元へ行き反撃される間も与えずに剣で二人の首を斬り落とし拳銃で念入りに撃つ。
『百年というこの節目で皇族という呪いに終わりをこの俺が告げる。そしてこの帝国を破壊する!』
「兄さん、お父様、お母様……一体何が?」
リーティは訳が分からず立ち尽くすことしかできない。そんな彼女とは無縁にレオスが用意したマシンが一斉に動き出す。それにはレオスに協力する極一部の皇族と王国のパイロットが乗っていた。レオスは彼らに密かに持っていた無線機で命令する。
『非戦闘員の王国のものたちは皇族どものシェルターに避難させろ。生体認証システムは書き換えてある。皇族とここにいる帝国の国民は抹殺しろ。悪しき伝統を残すな!』
レオス自身も新型マシン、ホワイトソードナイトに乗り込み残る皇族を潰していく。超能力があろうとこの巨大なロボットには勝てない。超能力者を殺すために作られたのがメタルマシンなのだから。逃げ惑う皇族は警備ロボットに妨害されシェルターにすら辿り着けない。
「死にたくない! 俺は選ばれた皇族だ!」
「私だけは生き延びてやる。何のために不正したと!」
(……これが皇族。腐ったシステムは腐敗したものしか生まない。俺も同じ外道だ)
レオスは顔を確認しながら巨大な剣で皇族に切り裂いていく。リーティは殺されていくきょうだいたちを見て正気に戻る。
「ルーリャ、あなただけでも逃げて!」
『ルーリャ様は私が守ります。リーティ様、私に能力を使って下さい。ルーリャ様の囮になります。所詮はメイドロボット。使い捨てて下さい』
ルーリャは能力が使えないがリーティはロボットの外見を変える能力が使える。リーティはルーラの姿を主人のルーリャそっくりに変える。声も変えて見分けがつかないようにした。
「お姉様、ルーラ、勝手なことをしないで!」
「ルーリャ様、リーティ様必ず生きてください!」
「嫌だ、ルーラ!」
リーティは抵抗するルーリャを引っ張りシェルターとは反対の方向に逃げていく。それを見たレオスは囮のルーラを無視してすぐに追っていく。
(訓練場の専用機のメタルマシンに乗るつもりか。リーティ、いいだろう。決着をつける!)
リーティとルーリャは訓練場に着きリーティの専用機を格納庫から出してくる。
「ルーリャ、ここからは一人で逃げて。私はみんなの仇をとってみせる。たとえ負けても時間は稼げる」
(自分勝手なのは分かっている。だけどこのまま逃げたくない! たとえ偽りでも家族だったから!)
リーティは専用メタルマシン、ルビースピアナイトに搭乗する。
「ネットワークオフライン、セキュリティ正常、リミッター正常、システムオールグリーン。リーティ・サイキッカー、ルビースピアナイト行きます!」
紅いメタルマシンの両目が光輝き、訓練場の壁を破壊しながら進む。狙うは仇のレオスただ一人。
『出てこい! レオス・サイキッカー! お前は私が引導を渡す』
レオスもモニター越しにリーティを確認する。性能はホワイトソードナイトが断トツで上。だが油断は死を招く。
『呪われた皇族同士、殺し合うのも面白い! 殺してやるぞ、リーティ!! 運命はここで断ち切る!』
レオス機は剣を構えて高速で距離を詰めてくる。
(レオスのマシンは早い。でも武装は剣のみ。なら距離を取りつつマシンガンで牽制し隙を作る)
彼女は模擬戦と環境データを即座に打ち込み行動パターンをAIに予測させマシンガンでレオス機を狙う。レオスはマシンガンの弾道を見切り全て剣で切り払っていく。彼はらしくないリーティの動きを見て接近戦を仕掛けるタイミングを見計らっていると予想する。
(リーティ、言葉は乱暴に見えて動きは保守的。この動き、一部をAIに委ねているな)
そのままレオス機は加速しながら死角に周り込んでいく。
『もらった!』
リーティ機は槍で対応するも軽く避けられてマシンの両腕を斬り飛ばされる。
『勝負あったな!』
レオスがとどめを刺そうとした瞬間に後ろから声が聞こえる。
「やめて! お姉様を殺さないで!!」
そこには逃げなかったルーリャがいた。リーティを庇うようにマシン同士の間に入ってくる。
『何で、どうして? ルーリャ、逃げて!』
『偽装したメイドロボットではなく本物がいたか。ルーリャは能力が使えないがいつ発現してもおかしく無い。不確定要素はここで潰す』
レオスは生身のルーリャを容赦なく剣で叩き潰した。彼女はもう原型を留めていない。
『うわあああああ! よくあの子を、ルーリャまで!』
腕のないマシンで無謀にも突撃する。
『さよならだ』
レオスは剣でリーティのコクピットを正確に真っ二つにして彼女を終わらせた。ルビースピアナイトは爆発してパイロットとともに消えることになった。
(あとは愚民どもの始末か)
ところが鳴らないはずの警告音が鳴る。
「何!?」
突然現れた、模擬戦から修理されていた量産型のメタルマシン。それが異常な速度で体当りしてレオス機が押されていく。
『遠隔操作の類ではないな。誰が乗っている? 帝国の兵士か?』
不意を突かれたものの体勢を立て直し瞬時に敵のコクピットを切った。安全性の高い量産型のマシンは火花を散らすが爆発まではしなかった。コクピットに生体反応は確認できない。
『レオス、作戦の時間は間もなく終わる』
『ああ、俺も撤退する』
同志からの連絡を受け彼は撤退を決める。
(マシンは残ったが間違いなくパイロットは死んだ)
レオス機はそこから去り、残ったのは量産型のマシンの残骸……のはずだった。
『よくもお姉様を、みんなを、許さない。絶対に殺してやる! どんな姿になろうとも!』
マシンのコクピットには人の姿はない。だがしかしそこに人はいた。ルーリャは死の間際で能力を発現させて彼女の魂がマシンに乗り移ったのだ。復讐を果たせるなら人の姿でなくても構わなかった。
だけどコクピット内部の機器が損傷してマシ
ンは動かない。
「探しました。ルーリャ様。どのような姿になろうとも私はあなたを探してみせます」
ルーリャの外見のままのルーラが彼女を見つけたのだ。機械であっても忠誠心はある。ルーリャはマシンのスピーカーでルーラに話し掛ける。
『ルーラ、良かった。無事で……』
「ルーリャ様、どのような経緯と原理かは不明ですが出来る限り修理致します」
『これで私はまだ戦える!』
見えないはずのルーリャの笑みがルーラには見えた。
「この体が鉄くずになるまでお供します、ルーリャ様」
レオスの反乱から一週間が過ぎた。帝国は滅び民や土地などは王国の支配下になった。だがまともな管理はほぼされておらず治安は最悪。駐屯している王国兵は元帝国民から金品などの略奪をメタルマシンで行っていた。部隊の隊長であるラースが指揮をしていた。
『腐りきった帝国はもう存在しない。お前らも負け組だ。恨むなら帝国とあのモルモット皇子を恨め!』
金を奪ったあとはマシンで火炎放射器を構えて逃げる人々を蹂躙する。他の兵士らもマシンに乗り虐殺に加担する。
『このレッドファイアーナイトは最高だな。こいつらを燃やし放題だ!』
調子に乗っていると味方のマシンが爆発した。
『お、まさか、まさか! 虐殺を止める正義の味方気取りがきたか?』
ラースたちの暴走を止めにマシンのルーリャが現れる。パイロットはルーラ。
『お前たちは私が止める!』
『帝国、それも皇族のエンブレム付きの量産型か。たかが一機で俺たちをやれるかな? お前らは囲め』
ラースは敵パイロットの正体について考察する。帝国の一般人が安々とエンブレム付きのメタルマシンを調達し動かせるとは思えない。とすれば皇族関係者か王国の裏切り者。前者はレオスなどの王国側に寝返った者たちを除けば生き残りはいないはず。ただし能力という未知の力を考慮すれば生き返ったものがいてもおかしくはない。
(皇族、またそいつらのスペアの死体は王国に回収されて処分された。だが全ての死体が間違いなく消滅したとは断言できない。不死の力か蘇生かそれとも別の何かか。どれにせよ、面白い!)
兵のマシンたちはルーリャを取り囲みマシンガンを構えて狙いを定めた。
「弾道計算終わりました。ルーリャ様」
ルーラの計算を頼りにルーリャはルーラの操縦と合わせて機体を動かす。隠し持っていた煙幕弾で煙を発生させ回避率を上げる。
『流石帝国の奴。姑息な真似を!』
兵士が混乱しながら発砲している間にルーリャは敵機に向けて爆弾を投てきする。
(爆弾だと!? メタルマシンでは普通使わないようなものばかり。訓練されたものではないな)
兵士らのマシンは爆弾で損傷していくがラースだけは回避しており無傷。ラース機はルーリャ機に火炎放射器を向けて火を放つ。炎はルーリャの機体に当たるが分厚い装甲は簡単には溶けない。だが高熱で中のパイロットは普通なら蒸し焼きとなる。
「ルーリャ様、私なら問題ありません」
ルーラはロボットのため熱には強い。そのままルーリャは反撃に出ようと爆弾を複数投げた。ラースは驚きつつ爆弾をかわしていく。
(火炎放射器が効かない? 動きが鈍くなった様子もない。パイロットがいない、AI、遠隔操作などならこんな動きはしない。……そうか、そういうことか)
『お前たちは一度下がれ』
ラースは今まで調べ尽くした帝国の情報で敵の正体にたどり着く。彼は通信をルーリャに繋いだ。モニターには互いのコクピットの中の様子が映される。
『やっぱりな! お前は皇族の中で能力が不明だったルーリャだな』
ルーリャの代わりにルーラが返事をするが彼は否定する。
『偽物のメイドロボットに用はない。能力でコクピットのメインコンピューターの中にでもいるのだろう? 肉体はもうない人でなしのルーリャ!』
『お前が何故それを!?』
『俺は元々帝国にいた。お前たちと同じ人体実験を受け皇族になるはずだった。だが失敗し半身はまともに動かず焼却処分される直前に逃げ王国に拾われた。まあ、王国で実験されて生身の肉体はほぼない。機械仕掛けのモルモットだ。そしてレオスに帝国のことを教えたのは俺だ! 反逆したのは奴自身の意志だがな』
『そうか、お前のせいでみんなが! 許さない!』
ルーリャは目の前のラースを殺すと改めて決めた。ルーリャが狙う前にラースの部下が彼に発砲する。
『モルモット、喋り過ぎだ。いくら腕が経つとはいえ隊長は分不相応だっ』
ラースは前進しながら銃弾を避け喋っている途中の部下らを焼き殺した。彼には罪悪感の欠片もない。
『味方を殺した!?』
『攻撃すら避けられない雑魚などモルモットにすら劣る。それにいつ寝返るか分かったものではない』
彼らは互いに見下しており信頼関係などなかった。
『モルモットと人間が仲良く出来るわけないだろ!』
ラースは火炎放射器の炎の勢いを利用しながらルーリャとの距離を詰めていく。
(私に炎は効かない。ならこのまま)
「ルーリャ様!」
『遅い!』
炎を目眩ましにして至近距離まで接近してくる。ラース機は赤く、その上、周囲は高熱でレーダーなども反応しにくい。ラースはそのままナイフでルーリャを切りつけた。機体の右肩の関節部分をやられてしまう。
ルーリャは体勢を立て直すために後退しようとするがラースは火炎放射器を投げつけて質量兵器として扱った。追い撃ちに彼は火炎放射器をマシンガンで爆破させダメージを与える。
『く!』
彼女の持っていた爆弾まで誘爆し装甲も剥がれ落ちてボロボロになる。マシン内の機器にエラーが出てくる。ルーリャ自身が限界に近いことはよく分かっていた。だけど復讐を果たすまで、ましてこんなところで終われる理由などない。演算処理を加速させ計算では出ない希望を作り出そうとしていた。
『……ルーラ降りて』
「……分かりました。それがご命令とあらば」
ルーリャは機体からルーラを脱出させてラースから距離を取っていく。ラースはルーラが囮と考え先にルーリャを潰そうとするが攻撃が当たらない。
『ち、回避に専念したか。しかし時間の問題だ!』
ラースはフェイントをかけながら逃げる彼女をマシンガンで着実に追い込んでいった。
『……いけえええええ!』
逃げることを止めルーリャは全力でラースの機体に体当たりする。不意を突かれたラースはその場で踏ん張ることしか出来なかった。
『悪あがきを! 自爆でもするつもりか?』
彼は自爆を警戒するがルーリャの機体にその素振りはない。
(何が狙いだ? …‥まさかあいつらの機体を)
急いでルーリャを振りほどこうとするが機体と一体化している彼女の全力を超えられない。
「全マシンのネットワーク接続。遠隔操作、目標、敵メタルマシン!」
ルーラはラースが倒したマシンに直接接続しまだ生きているコンピューターを利用した。機体間でネットワークを構築し遠隔でマシンの一部を操作する。ルーラがロボットでマシンのパイロットが死んでいるからこそできる芸当だった。
「マシンガン一斉発射!」
ルーリャに抑えられているラース機は逃げることが間に合わずに弾丸の直撃を受け爆発寸前になる。マシンの手足もまともに動かない。コクピットの中は火花が飛び交っていた。
『これで!』
このチャンスを逃さずにルーリャはナイフを取り出してラースのコクピットに突き刺した。ラースの機械の体はナイフで裂かれていた。彼は死を覚悟して最後の仕事をこなす。
『戦闘データは送ったぞ、レオス。人間扱いしてくれた礼は返した……。だが愛機とともに終われるのならモルモットとしてではなく人間として死ねる。死に方としては最高だ! 俺は先にモルモットを卒業する。じゃあな、運命に抗ったきょうだいたち、頑張れよ』
最後にラースは笑いながらマシンとともに爆散した。
「ルーリャ様、ご無事ですか?」
『ええ、でもレオスが時間が経てばここに来るはず。』
周辺には殺された民間人の焼死体が転がっていた。だからといって埋葬している時間はない。彼女はルーラと協力してマシンの残骸から使えるものを取って修理と改造、トラップを仕掛けていく。腰部にはワイヤーアンカーを付けた。
その頃、レオスは王国の研究所で実験体として扱われていた。裏切りものなどラース以外の王国の者は信用しておらず実験動物くらいにしか思われていなかった。
(王国でスキル因子の実験は続くだろうが孤児たちが犠牲になることはもうない。研究もいつか人々の役に立つ時がくるだろう。犠牲は無駄ではなかった)
処刑台か実験台か、最後の場所にさしたる違いはない。そんな時、研究所が爆破されメタルマシン、ホワイトソードナイトが彼の元にくる。そのコクピットからかつての専属メカニックが出てきた。
「レオス様、ラース様がお亡くなりになりました。まだ亡霊がいるようです。あなたは決着をつけなければいけません」
「帝国の亡霊か。ありがとう、すぐに向かう」
帝国の呪いは死んでも断ち切る。その覚悟とともにレオスは乗り込みスキルシステムを起動させる。
ラースのデータの近くまで行きレオスはメカニックを降ろす。
「ここまで付き合ってくれてありがとう。しかしなぜ?」
「帝国を壊してくれた借りがありますから。ご武運を、同類のレオス様」
(ふ、きょうだいは意外と多いものだな)
万全の準備をしていたルーリャたちの元にレオスのマシンが現れる。レオスはルーリャに通信を繋いだ。
『情報通りのようだな。ルーリャ、それにルーラ。』
『レオス、私はお前を殺す!』
ラース戦と同じようにルーラはマシンを遠隔で操作し発砲するが戦いのデータを持っているレオスには効かず全て避けられ弾切れとなる。
「ルーリャ様、次いきます」
ルーラは戦闘データを分析しつつ地面に設置した爆弾を起爆させルーリャはマシンガンでレオス機を狙う。
『爆弾と射撃。二人の同時攻撃ということか』
彼は弾丸を剣さばきで凌ぎ、爆弾もラース戦との地形の違いで位置を把握し回避する。
『技量が違い過ぎる!』
彼女は驚きながら次なる手を打つ。高速で動きつつマシンの残骸を投げてそれをマシンガンで撃ち抜く。そのままマシンガンは連射することで爆煙から弾が飛んでくることになる。弾道と敵位置はルーラが計算済みだった。
弾はレオス機に命中するが彼は構わず突進しルーリャのマシンの右肩の関節を狙い剣で切りつけた。
『いくら直しても完璧ではない』
『だから仕掛けた!』
レオスは剣を抜こうとするが肩にはまったままで取れない。ルーリャたちはレオスが右肩を狙ってくることに賭けた。だから修理用の特殊な接着剤で剣を取れなくなるように細工を施した。右腕の稼働には制限がかかるが敵の武装は減らせる。
『見たところ他に武装はない。一気に仕留める!』
ルーラに周囲を警戒させてルーリャはナイフで攻撃を行う。しかしレオス機は白い装甲をパージしマシン本体は姿を消す。
『え、消えた?』
『こっちだ!』
レオス機は彼女の背後を取り細身の剣で右腕を完全に斬り落とす。彼の機体は全く別の黒い細身のものに変わっていた。
『機体が変わった!?』
『これが真の姿。マシン名はダークソードアサシン。俺の超能力、瞬間移動が使用できる専用機だ』
「そんなのありえません。マシンは機械で超能力が使えるわけありません」
『そのために武装を減らした新型だ。スキルシステムによって超能力をマシンでも発動させることができる。量産型とは格が違う!』
ルーリャが反撃をしようとすればそこにはもう彼の機体は見えない。レオス機は背後に瞬間移動しており斬撃が繰り出される。ルーリャが咄嗟に反応し機体の高度を下げてコクピットの直撃は回避できた。だが頭部は斬られメインカメラが大きく損傷する。これによりルーリャの目が使えなくなった。
「ルーリャ様、コクピットハッチを開けて下さい。私と端子接続で情報を共有し有視界戦闘を行います。私のリミッター解除も行ってください」
ルーラのリミッターを外せば自壊するかしれない。だけどここで死ぬよりはマシ。ルーラと繋がりハッチを開く。レオスは自爆を警戒し後ろへと下がる。
『接続完了。ルーラ、メタルソルジャー双方リミッター解除!』
マシンの関節に異常な機械音が鳴り響き壊れた頭部の目が鋭く光り反応速度は上がる。
『リミッターを外しただと!? だが瞬間移動は対処出来まい』
ルーラはレオスの瞬間移動のパターンを学習しルーリャは策を講じた。煙幕弾を投げてからマシンガンに持ち替え機体を回転させながら不規則に周辺を撃ちまくる。
『適当に撃ったところで!』
レオスが瞬間移動しようとした時、地面に弾丸が散らばり瞬間移動できないことに気付く。一部範囲は煙で見えない。何かの物質があればそこに移動することは出来ない。見えない場所にも瞬間移動は不可能となる。
(弱点をついただと!?)
レオスは仕方なく弾丸のない死角となる場所に瞬間移動する。
(また瞬間移動。移動先のパターンはいくつかある。……でもあの時)
ルーリャたちは行動を読みワイヤーアンカーを撃ち込む。
『瞬間移動を見抜いただと!?』
リミッターを外した今ならパワーでも新型ともやり合える。
『掴んだ! ルーラ!』
ワイヤーアンカーはレオス機の腹部に刺さり引き寄せる。ルーリャは左手のマシンガンを投げナイフに装備し直す。手首を高速で回転させナイフをドリルのように攻撃できるようにした。足りない威力は執念と憎しみで補ってみせる。レオスはすぐにワイヤーを切ろうとするが間に合わない。
『復讐を貫いてみせる!』
ルーリャはドリルでレオス機のコクピットを貫き爆発させた。彼女も爆発に巻き込まれ大破し目の光が静かに消える。
……システムダウン
直前に瞬間移動で脱出したレオスは逃げようとした。だが先に待ち伏せしていたルーラが近くにいた。
「……流石だな、皇女殿下」
「レオス様、お覚悟を」
ルーラは拳銃でレオスの額を撃ち抜いた。復讐は終わったのだ。ルーラはボロボロで動かない主人の元へと戻る。
「ルーリャ様、成し遂げました。次のご命令を」
彼女を信じてルーラは待った。
ほどなくしてマシンの壊れかけた目が光りだし再起動した。
『まだ死ねない。生きて続けてみせる!』