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チェンジリング  作者: 湖霧 月
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侯爵閣下のぼやき

クラスタ王国の貴族の屋敷が建ち並ぶ中、一際大きな屋敷の一室で男は盛大なため息をついていた。


この屋敷の主人、クラスタ王国副宰相にしてアニアス侯爵家の若き当主ダグラスタス・アニエスその人である。


どうしてこうなってしまったのだろう…

傍に積まれた領地の報告書類などよりも尚重い苦悩が彼を押し潰さんばかりに鎌首をもたげる。


「出来ることなら取り替えたいものだ…」




誰に聞かせる事もない言葉が薄暗い執務室に静かに響いた。



彼の苦悩の始まりは今から12年前に遡る。

彼には愛する妻がいた。豊かな金髪とキリリとした藤色の瞳の美しい、アニエス侯爵家の長女アイリーヌ。同じ侯爵家で三男故に才能があっても優秀な長男がいるため家督の継げないダグラスタスと、侯爵家筆頭であっても男子に恵まれなかったアニエス家とは利害の一致した政略結婚であった。

しかし彼女とは結婚から5年たっても子が出来なかった。貴族社会において子孫を残す事は重要な義務と責務である。


『旦那様、私の他に夫人を娶り下さい。それがこの家のためですわ。でなければ、私が他の男に花を許さなくてはならなくなります。そんな事耐えられません。』


国の法で貴族位の重婚は認められている。寧ろ推奨されているので第五夫人まで居るのも珍しく無い。

アイリーヌとは政略結婚であったがお互い幼少の頃から想いを寄せ合った仲だったのでダグラスタスは第二婦人を娶ってこなかったのだが、流石にそろそろと周りに急かされ追い討ちをかけるように妻から進言されてしまった。

そしてダグラスタスが22歳の時に同じ派閥でアイリーヌの親戚筋のいとこから4歳ほど年若い子爵家の第三令嬢であったライラを第二夫人として娶ったのだった。


ライラはアイリーヌとはまた違った雰囲気の女性だった。アイリーヌが蜂蜜のような金髪ならばライラは鼈甲のような落ち着いた金の髪に菫色の淡い瞳の年より落ち着いて見える容姿であった。血縁だけあってか2人並ぶと何処となく似ているが陽だまりのようで気品のあるアイリーヌと木陰の木漏れ日のような落ち着きある知的なライラの2人をダグラスタスは分け隔てなく愛した。


程なくしてライラが懐妊した。


先に懐妊した事をライラは大変気に病み悪阻も相待って伏せる事が多くなった。

そんな頃にアイリーヌもまた懐妊している事が分かった。

アイリーヌは不妊等のストレスで月の障りが不安定な上に悪阻が殆ど出ていなかった為に懐妊の判断が遅れただけで、2人の子は1ヶ月も違わないくらいで産まれるだろうと医者はいった。


この嬉しい知らせに侯爵家は上に下にの大騒ぎ。

ダグラスタスも婿としての仕事がひと段落着いた心地だとほっと胸を撫で下ろしたものだ。



2人の妊娠がわかってから経過の順調だった第一夫人アイリーヌは自分が幼少期母と過ごした東の別館に移り、第二夫人のライラも悪阻が重く何度も寝込み一時は母子共に危ない事もあったことから本館から西の別館へと居を移した。


時は静かに過ぎ、初夏の頃にライラが先に産気づいた。夕方から寝室に籠り次の日になってもまだ赤子は降りてこない。

そんな知らせを聞いて、我が子はいつ顔を見せてくれるのかとふっくらとした産月のお腹をさすっていたアイリーヌに突然ちくりとした痛みが走った。

そのままアイリーヌは産気づき、あっという間に出産へとなった。陣痛からわずか5時間ほどと産婆も太鼓判の安産であった。

アイリーヌの出産から2時間ほどたった頃西の別館でも小さな産声が上がった。


少々せっかちぎみに先に元気に産まれたのが第一夫人アイリーヌの娘。祖母のクリスニーナから名を取り、クリスティーヌ。

のんびりとか弱く後から産まれたのが第二夫人ライラの息子。名をクリストファーとそれぞれ付けられた。


若君とお嬢様の誕生に屋敷は1月の間お祭りのような騒ぎでありました。


「男女で子が誕生日されるとは誠にめでたい。」

「生日も同じだなんて運命的ですわ。」

「いやいや、男女の双子は前世の不義者が心中した生まれ変わりとも言いますぞ。何やら不吉な…」

「あらあら、双子ではありませんから運命ですのに。其々第一婦人と第二婦人のお子様ですわ。」



口さがない貴族連はこんなに面白い娯楽は無いとばかりにサロンで話題にした程である。

このまま何事もなく2人が大きくなれば何も問題は無かったかもしれない。


歯車が狂い出したのは赤子が産まれて半年も経たない頃だった。

王都から馬車で3日程の侯爵領地で大雨による土砂崩れと川の氾濫がおきた。その土地はライラが嫁入りの際に持参した土地であったためライラは息子と領主名代として向かう事になった。

産まれてからも何かと病弱な息子の療養も兼ねての人選出逢った為、王都に2人が帰ってきたのはそれから5年後の事だった。


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