絶対的糖度
にわ
紅音の顔が覗いた···········が。
「おやすみ。」
「なんで!?」
「きっと私がいたので無害と判断したのでしょうね。さすがに寝すぎたとは思いますが。適当に頭でも撫でてやってください。」
「いいんですか!?」
「ええ、何かあったら責任は取ってもらいますので。」
少し強か過ぎないか?と思った紅音だったが、当人は微塵を気にする様子がない。
むしろ、甘えるように寄ってきスウスウと寝息を立てている。
紅音は何故かちょっとムカついたので、先程よりも丁寧に、愛でるように撫でてやった。
「着きましたよ〜。」
美咲にそう言われて外へ出てみると、身長の3倍はある荘厳な門が紅音達を出迎えた。
車はどこに置いたのか、運転手の人が駆けてきて門を開ける。
その先にはちょっと引いてしまうレベルの日本庭園が広がっていた。
「「ナニ········コレ·····?」」
脳みその許容量がオーバーしたのかしばらく黙ったままだった。
「あれ〜?早く行きましょ〜!おうちはこっちですよ〜?」
「「は、は〜い。」」
何とか持ち直しつつ、この敷地の家の方へ向かった。
すると、すこし身長の高いすらっとした男性が超豪邸の入口の所でニコニコしながら待っていた。
「おかえり美咲。この人たちは?」
「ただいま。えぇ〜っとね、ゴニョニョ·····」
「それはそれは、葵がご迷惑を·····」
「い、いえいえ!当然のことをしただけですから!」
本日2度目の目上からの謝罪に戸惑う紅音。
母親も少し居心地が悪そうである。
「あの、この話はここら辺までにしませんか?」
紅音は気まずさに耐えきれず、提案する。
「ええ、それもそうですね。ええっと、お二人共生魚は大丈夫ですか?」
「「は、はい。」」
緊張は未だに抜けない様子である。
「ふむ、それでは今日は鯛と旬の魚のお造りにしましょうか。葵!起きて!夕飯は魚だよ!」
「····ほんと!?」
紅音の背中の方から声がした。食べ物に釣られるとは現金なものである。しかし、その声はまさに鈴のようで、非常に可愛らしいものであった。
その発生元は魚と聞いて少し眠たげながらも落ち着かない様子である。
「本当さ。だから白崎さん達を居間に案内してあげてね。」
「うん····ってなんで白崎さんが?」
なんと葵、自分を背中に乗せている人物が誰か気づいていなかったようである。美咲が経緯を話つつ、紅音は気まずい時間をやり過ごした。
「なるほど。ふぁあ····」
理解の意を示すも、まだ寝足りないと言わんばかりに欠伸をこぼす葵。
「はやくいこ···くぁ」
「そうですね。」
返事をする紅音を置いて、1人トコトコと歩いていく葵。
紅音達は苦笑混じりに笑いながらついて行く。
居間に着いたら葵が目を擦りながら座って待っていた。葵を除く全員が頭にハテナを浮かべる中、衝撃の一言が放たれた。
「白崎さん。」
「ど、どうしたの?」
「膝枕。」
「ぇえ、ぇぇえええ!?」
そう、膝枕おねだりである。
葵は朧気ながらも車の中での頭の感触を覚えていた。紅音がいることを知り、繋ぎ合わせて気づいたのだろう。
しかし、それは紅音にとって天国でもあり地獄でもあるだろう。
素直に甘えてくる可愛い猫耳男子。受け入れたら、合法的に頭を撫で、愛でることが許されるのだ。天国以外の何物でもないだろう。
しかし、ここで受け入れてしまえば学校や外で出会った時にも不意に甘えてきてしまう可能性がある。
通っている学校は私服登校が可能なので、葵は猫耳パーカー&爆睡でバレずにすんでいるが、頭を撫でろと言われ、猫耳バレした場合取り返しがつかない。ここは、心を鬼にして断るべきだろう。
「ごめんな────────」
「ダメ?」
「いいえ、滅相も無い。」
上目×『ダメ?』なんか言われてしまった紅音は絶賛萌死中だ。
しかし、彼女には死んでる暇などない。目の前の最優先事項を疎かにしてまう事など万に1つもあってはならないのだ。
「は、はい。」
正座をして、膝をポンポンと叩き葵に微笑む。
するとなんということでしょう。膝に頭をのせた葵がいま紅音に微笑んだではありませんか!
紅音は吐血しそうになったが、葵に血が飛んでしまうので死ぬ気で耐えた。
すると見えてきたのは膝の上で寝息を立てる可愛いの権化、葵part2
車の中は少し緊張していたところがありよく見れなかったが、よく見てみると本当に顔面国宝である。
この人神を好きに愛でていいんですか!?
紅音はそう心の中で叫ぶと時が経つのも忘れて頭を撫でまくった。
【一方その頃】
「美咲、これはいい人が見つかったね。」
「そうでしょう。あの子には絶対葵を貰ってもらうわ!」
「あはは、逆じゃない?普通に考えたら。」
「普通じゃないのよ。うちの子は。」