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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第三章:record with you

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九十二:新たな始まりは少しの変化から

 魔法合宿が終わり、休み明けの朝。


 灯と一緒に学校に登校するため、清はリビングのソファで待っていた。

 いつものように灯を待っているはずなのに、どこか落ちつかない感じもあり、落ちついた感じもある、という謎の感覚に清は襲われている。


 魔法合宿で様々なことはあったが、帰って来てから灯との距離感が変わった、なんてことはなかったのだから。特に距離感が変わることは無かったが、強いて言うなら、灯がより自然と近づいてくるようになったくらいだろう。


(……気を抜けば灯の事ばかり考えているな)


 どちらかと言えば、清自身の方が変わっている。

 魔法や記憶のカケラといった、大切な物を取り戻す日々をここ最近は送ってきていたため、自分の価値観を清は見出せていなかったのだ。

 自分の事は後に置き、目の前の目標を探る、というのが過去の自分という存在だ。


 気を抜ける時間が出来た今だからこそ、灯に少しでも気持ちを伝えていきたい。そんな気持ちが増えてきているのだろう。

 気づけば俯瞰的に自分の事を見ていた自分自身の心と、向き合い始めているのかも知れない。


「……少しずつでも、変わらないと」


 言葉を口から漏らした時、階段の方から小さく足音が聞こえてくる。

 音の鳴る方を見てみれば、いつも隣に居てくれる存在が、リビングへと姿を見せた。

 透き通る水色の髪と瞳を持ち、学校の制服をきっちりと着こなしている、一番気になる存在の灯だ。


 灯は微笑みながら視線をこちらに向けつつ、ふわりと距離を詰めてくる。


「あの、清くん……」

「灯、どうした?」

「一週間ぶりに制服を着るので、清くんに確認してほしいなと思いまして」

「え、あ、別に俺でいいんなら構わないけど……」

「じゃあ、お願いします」


 なぜ自分なのか、という疑問が清には残るが、改めて灯の姿を見た。

 制服よりも先に、灯が普段身にまとっているものがないと気づいた。


「灯、いつも身に着けているローブはどうしたんだ?」


 灯は制服の上にローブを普段から身に着けており、本人が忘れてきた、というのはまずないだろう。

 そう思っていれば、灯は小さな笑みを浮かべた。


「ふふ、気になりますか?」

「まあ……気になるよな」

「実はですね、私……少しずつ変わろうかな、と思いまして」

「え、変わる?」

「はい。このローブ、清くんは特によく見ていましたから知っていますよね」


 そう言って、灯は今まで身に着けていたローブを手に出した。


「……私は一人だ、って思ってずっとこのローブに気持ちを隠していたのです。でも、もうやめてもいいのかなって」

「その、理由を聞いてもいいか?」

「理由なんて、聞かなくてもわかると思いますよ」


 灯は静かに手を伸ばし、清の気持ちを隠している前髪を優しく避ける。

 光が差し込んできた瞬間にしっかりと見えた彼女は、どこか輝いたように見えた。まるで、日に照らされながら咲き誇る花のように。


「今は一人じゃない……本当の記憶を取り戻した清くんに、頼もしいご友人である心寧さんに古村さん……私の周りには、今の私を受け入れてくれる、そんな居場所がありますから」

「俺も……その居場所になれているのか?」

「ふふ、清くんは私を嫌いますか?」

「俺が灯を嫌うなんて、絶対にあるはずがないだろ」

「清くんなら、そう言うと思っていましたよ」

「これ、試されていたのか?」


 灯は、どうでしょうね、と言いつつ小さく微笑んでいる。

 灯が自分を受け入れてくれていれる、清としては、それを知れただけ嬉しかった。

 少しずつでも変わろうとしていたさなか、灯は清よりも先に行動へと移し、有言実行と言わんばかりに変わっている。


 自分の不甲斐なさを清が痛感していれば、前髪は自分という存在を隠すように戻ってきていた。


(いつまでも、うずうず立ち止まっていられないな)


 急に清が首を振ったせいか、灯は少し驚いたように体をピクリと震わせた。


「ごめん、灯」

「え、急にどうしたのですか?」

「少し待っていてくれないか」

「ふふ、私はずっと清くんを待っていますよ」


 そう言って笑みを浮かべる灯に見送られながら、清は洗面所の鏡へと早足で向かった。



 今目の前の鏡には、自分が映っている。

 鏡に映る自分は今の心そのものを映す、と言わんばかりに最悪だ。

 清は慣れない手つきながらも、前髪をどうにか分け、髪を整える。


「……俺だって、変われるんだ」


 灯の先陣があった故の後押しとはいえ、気持ちを行動に移せるのが大事だろう。

 今まで見ていた世界が偽り、とまではいかないが、清は慣れない世界の光景に改めて驚愕した。


「こんなに輝いていたんだな」


 そう言って、清は鏡に映っていた自分にさようならをした後、灯の待つリビングへと戻った。



「灯、お待たせ」

「あ、清、くん……」


 灯は口を小さく開いたまま、こちらを見て顔を赤らめている。

 変だったのか、と思って清が困惑していれば、灯が距離を詰めてきていた。


「かっこいいですね」

「あ、ありがとう」

「ふふ、少し直してあげますね」


 灯はそう言って、どこからともなくヘアコームを取り出し、前髪を優しく整え始める。

 灯に髪を触られるのが嫌でない清からすれば、嬉しいものだった。また、灯の方が明らかに清よりもセンス等は上の為、直してもらえるのはありがたい限りだろう。


 灯がこの優しさを惜しみなく振舞ってくるからこそ、過去の自分は灯を受け入れられたのかも知れない。

 傷ついた時や、諦めかけた時、灯はいつも近くで慰めてくれていたのだから。同級生なのに、親らしさすら感じてしまう。


 清は親の優しさや愛情など微塵も知らないため、親が何なのかという所だが。


 ふと気づけば、灯が頬に優しく触れてきていた。


「清くんも、変わろうとしていたのですね」

「……まあな」

「偉いです」


 灯が頬を撫でてくるため、むず痒さを感じてしまう。

 灯は清の髪を整え終わったのか、手鏡を手に持っていた。


「終わりましたよ。どうですか?」

「灯、ありがとう。うん、大丈夫」

「喜んでもらえたようで、良かったです」


 鏡に映る自分は、清が自分で整えた時よりも髪がきれいになっており、どことなく安心感がある。

 灯は手鏡をしまった後、手をぽんぽん、と清の頭に置いてきた。


「私は、頑張る清くんを応援していますよ」


 清は笑顔満開で言ってくる灯に恥ずかしくなりつつも、ありがとう、とだけ返した。二人の間にいつもある言葉、ありがとう。


「とりあえず、時間も時間だし行くか」

「はい」


 清は灯のカバンをさりげなく腕から取り、灯の手を取りつつ玄関へと向かった。

 そんな清の行動に、灯は頬を薄っすらと赤めていた。

第三章始まりました! 今月はわけあって、二日に一回のペースの投稿になりますが……今月も宜しくお願いします。

そして、今後の二人の様子を見守っていただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 早くくっついちゃえ! と思うのは私だけではないはず(笑) 清が待っていてと言ったとき、つい告白を待ってくれという意味かと邪推しました。 前髪でそっちかーと納得しつつちょっぴり残念ー。 …
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