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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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おまけ3:解放された今だからわかるもの

 魔法合宿が終了し、魔法の庭から自宅へと帰宅した日。

 荷物の整理や軽い掃除を終わらせた清は、リビングのソファに座っていた。

 隣にいつも座ってくる、透き通る水色の髪と瞳を持った少女――灯は未だに部屋から出てくる姿を見せていない。


 灯との距離が魔法合宿を通して近寄ったのならいいが、逆に気まずくしてしまったのでは無いかと思える。

 故意でないにしろ、お互いに触れ合うことが多かったのだから。

 灯の柔らかな手の感触や小さな微笑みは、清が一番好ましいと思っている。


 しかし、むやみやたらに灯に手を出そうという気持ちは微塵も沸いていない。湧いていないというよりは、本当の思いを伝える前に同じ空間で過ごせる日常を崩したくない、というエゴがあるせいだろう。

 無論、思いを伝えたとしても、清から手を出そうとは思っていない。むしろこの日常のままでも良いと思っている方だ。


 焦りそうになる気持ちを落ちつかせていれば、小さな足音が聞こえてくる。

 音鳴る方を向けば、透き通る水色の髪を下ろし、綺麗なストレートヘアーの灯が立っていた。


「清くん、お待たせしました」

「え、いや、別に待ってないし……灯が持つ、自分の時間を大事にしてくれれば良いと俺は思っているよ」

「……馬鹿。そうやって、かっこいいことをサラッと言うのですから……」


 灯は小さく呟きながら、清の隣に空いた空白を埋めるかのように、ふわりとソファに腰を掛ける。

 もはや自分の隣に座ってくれるのが当たり前になっているんだな、と清は思いつつも、今まで気にしていなかっただけなのかも知れないとすら思えてしまう。


 記憶や魔法のような呪縛とも言える戒めから解放された今、気になる事が増えてしまったのだろう。それは、今まで身近だと思えていたことも例外ではないはずだ。

 ふと気づけば、灯はこちらをジッと見つめてきていた。


「……具合が悪いとか無いですか?」

「……別にないけど。どうしたんだ、急に?」

「魔法や魔力が完全に戻ったと言っても、清くんの体に不調があったら心配でしたので……」


 そう言って、灯は顔をうつむかせていた。

 灯がこちらの体の事を気遣ってくれていたのに対し、普通に答えてしまったのは不味かっただろう。

 清は、顔をあげてくれ、と灯に言ってから呼吸を整える。


「灯、心配してくれてありがとう。気遣ってもらえて、嬉しいよ」

「ふふ、素直ですね」

「灯の前だから素直なだけだ」

「……私以外の前では素直でないと?」

「いや、なんでそうなる!?」


 冗談ですよ、と言いながら灯が微笑んでくるため、言葉が出なかった。

 これは、距離が近づいたと言ってもいいのだろうか。それでも、心臓に悪いからかいは遠慮してもらいたいものだ。


「まあ、それに……あるかどうかはわかんないけどさ、期末試験や、一部の行事が終わるまで俺は魔法を使わない気でいるんだよ」

「……それ、過去や今までやってきた生活に戻るだけですよね?」

「言われてみればそうだな」


 そう言って、気づけばお互いに笑みをこぼしていた。

 心から幸せを感じてもいいと気づかされて以降、自然に笑えるようになった、と清は思っている。


(月夜さんや、魔法合宿の成果さまさまだな)


 心に染みる言葉というのは、意外にも脳裏に残っているらしく、鮮明に覚えていられるほどだ。

 ふと手にむず痒さを感じて見てみれば、灯がそろそろと小さな手を這いあがらせてきていた。


「灯?」

「……黙って受け入れてください」

「やだって言ったら?」

「……今すぐ部屋に帰ります」

「なにもいいません」


 灯が部屋に帰ると寂しさが静かに襲ってくるため、清は受け入れるしかなかった。


 灯が優しい手つきでふにふにと触ってきたり、不意に指を絡めてきたりするため、くすぐったく思えてしまう。

 灯は何かとこちらの手をよく握ってくるが、それほどいいものなのだろうか。

 そう思っていれば、灯は距離を縮めてきていた。


「はいはい、今度はなんでしょうか?」

「目をつむっていてください」

「本当に命令しまくるな……別に俺はいいんだけど」


 灯が「じゃあ、問題ないですね」と言ったのを聞いた後、清は静かに目を閉じる。

 心臓が破裂するかのような衝撃を受けたのは、その直後だった。

 目を閉じていてもわかる、真正面から柔らかな温かさを感じさせられ、後ろに手を回されていると。


「……灯、もしかして……ぎゅーってしているのか?」

「はい、清くんをぎゅーって抱きしめています」

「それはまた唐突だな」

「魔法合宿の時……ずっと我慢していたのですから……」

「え、なんて?」


 灯が消えるような声で呟いた為、清の耳には届かず、清は思わず聞き返していた。

 灯は「二回も言いません」と言って、口を閉じたままだ。それでも、目を閉じた暗闇からでもわかる、確かな温かさは今も尚顕在している。


「わかった。今は納得しとく」

「わかればよろしいのです」


 灯が満足して寝息を立てるまで、清はずっと灯に抱きしめられたままでいた。

 また、灯はなぜ抱きしめたまま寝落ちてしまうのだろうか、という疑問が残るのは仕方ないのだろう。

 灯と居られるこの時間に、答えなど不要なのだから。

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