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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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九十一:数多の休息

 寝静まった夜、渡り廊下へと清は向かっていた。

 ふと目を覚ませば、隣で寝ていた灯がおらず、ここに居ると直感が感じたからだ。

 音を立てないように戸を開ければ、月明かりに照らされ、透き通る水色の髪と瞳を持つ少女――灯の姿が目に映る。


「灯、いつもここに居るな。眠れないのか?」


 ゆっくりと灯の方に歩んで声をかければ、灯は驚いたような表情を見せた。

 透き通る水色の瞳は、星の明かりを反射して輝かせつつも、こちらを見て目をぱちくりさせている。


「清くん……ええ。この一週間も終わりだと思うと、眠れなくて」

「それで星を見に来たと……隣、座ってもいいか?」

「清くんならいつだって構いませんよ」


 小さく微笑む灯を横に、清も釣られるように笑みをこぼしつつ、隣で足を宙に浮かせる。

 灯のネグリジェに付いている紐に繋がったポンポンは、胸の中央で小さく結ばれていた。それでも、二つの白いポンポンは存在感を主張している。


 ふと灯の姿に見惚れていれば、ひんやりとした風が肌を撫でるように、二人の間を通り抜けていく。

 その時、透き通る水色の髪は風になびき、自然の黄白を映しこみ、数多に燃える命を受けて綺麗に輝いている。


(……これ、持ってきていたんだよな)


 清は手に持っていたブランケットを灯の肩にそっとかける。

 部屋に灯の姿が見当たらないと思った時に、気づけば手に持って渡り廊下まで来ていたのだ。


「あ、ありがとうございます」

「俺は勝手にしたことだから、気にするな」

「それでも、私は清くんの優しさを受け取っていますので」

「そうかよ……ありがとう」

「素直ですね。星を見つつ、お話をしましょうか」

「……灯とこの世界で会った時を思い出すよ」


 灯と初対面時は、本当に知らない、ただの顔見知り程度のはずだった。しかし、本当は過去から知っていて、心から大切な存在であった。

 今は戻った全ての記憶も……今思えば、灯とあの場所で会えたキッカケがあり、戻っているのだ。


「星を見て、魔法勝負をする……ふふ、あの時は私の圧勝でしたけどね」

「記憶以前に、魔法すらあやふやだったからな」

「あー、そうでしたね。一緒に住んだ直後、魔法を教えましたよね」

「魔法を教えてもらったのがキッカケで、俺は忘れていた記憶……灯との記憶を思い出し始めた」

「清くんが私との記憶を思い出す際、私が古村さんと揉めちゃった、というのは良くも悪くも大切な思い出ですよ」

「あれをキッカケで、四人の距離は近づいたよな」


 過去の記憶なんて、と思うかもしれないが、一つ一つの積み重ねが今を生み、自分という存在を生み出す大事な痕跡だ。そして、記憶のカケラを巡るこの日常で、何度も改めさせられることが多くあった。


 家族との記憶は確かに嫌ってはいる。しかし、それを乗り越えて、大切な存在の隣にこうしていられるのだから。


「一つ目の記憶のカケラが戻った束の間の休息のあと、家族との記憶を失っていると知った……」

「でも、辛い過去を乗り越えて、家族と決別した清くん……すごくかっこいいし、かわいいと思いますよ」

「可愛いは余計だろ」

「え、かわいいは事実ですよ?」

「どこがだよ?」

「照れるとことか」

「それは、灯があーんをさせてくるからだよ……まったく」

「ふふ、そうかもしれませんね」


 小悪魔のように小さく微笑む灯は、本当に困ったものだ。

 ケーキの一件はこちらが迂闊だったとしても、最近は灯が故意に攻めてきているからこそ、精神が何度も試されている。

 もしこれが故意ではなく、灯が素でやっているのだとしたら、恐ろしいにも程があるだろう。


「そして最後の記憶、星夜の魔法……この魔法の庭での思い出を色濃く付けてきたよ」

「復活祝いかのように湖を消し去って跡地にする……今は湖として戻っていますけどね」

「あれは本当に反省しているよ」

「ふふ、そして、清くんと正真正銘の本気の魔法勝負」

「まさか灯が、魔力覚醒を無制限化(アンリミテッド)っていう魔法で対抗してくるとは思わなかったよ」

限界(オーバー)負荷(フロー)を超越した力みたいなものですからね」

「未知数の努力をしまくる灯が恐ろしいよ」

「清くんも努力をしているじゃないですか」


 灯程はしていない、と言いたくなったが、素直に受け止めておくことにした。

 灯と記憶を巡る魔法のような日常に終止符は打たれたが、ここからは胸の内に秘めた思いが本番と言えるだろう。

 誰よりも灯の隣に居たいと思っているのは自分だ、と清は決意しているのだから。


 灯との話に夢中になっていた為、接近に気づかなかったのだろう。


「よっ、お二人さんの甘い時間に水を差してごめんな」

「魔法合宿最後の夜くらい、みんなで星を見ようよー」


 ふと現れた常和と心寧は、清の隣に座る。

 なぜこの場所だとわかったのか聞きたかったが、心寧が全員の位置を把握しているらしいので、それが理由だろう。


 灯が、四人で星を見るのもいいですよね、と笑顔を携えて言ってくるため、清は首を小さく縦に振る。

 灯と二人きりで見ていたかった、という思いはあれ、帰れば二人でいつでも見られるからな、という思いが混ざる複雑さを感じさせてくる。


「にしてもさー」

「お二人さんは本当に、今までよりも仲良くなったよな」

「うんうん、過去の二人に見せてあげたいくらい!」

「ふん、俺と灯は前から仲が良いからな」

「そうですよ……忘れていたのは致し方ないことですから」


 そう言って小さく微笑む灯は、こっそりと手を握ってきていた。

 小さい手なのに、確かな温もりがあり、安心できる優しい手だ。


「お二人さんは似た者同士だな」

「常和、それはどういう意味で?」

「さあな?」


 首をかしげて見せる常和は答える気がないのだろう。また、答えたとしてもろくな返答では無いと思えてしまう。

 常和はいきなり何を言い出すか不明なところがあり、そこが良いところでもあり、怖いところだ。



 それから四人で星を見ていれば、夜が更に深まり始めていた。

 肌を撫でる風も五月終盤であるのに関わらず、冷たさを感じさせてくる。

 部屋に戻ろう、と提案しようとしたその時、清は肩に温かな重みを感じた。

 ふと肩を見てみれば、灯が小さく寝息を立てて寄り掛かってきたのだ。


「あかりー、魔法勝負して疲れていただろうに、ずっと準備を頑張っていたから……疲れが溜まって寝ちゃったんだね」

「清、俺らは先に戻るから、星名さんは任せる」

「まことー、あかりーをあんまし冷やしちゃだめだよ?」


 二人はそう言って、その場を後にする。

 灯が肩に寄り掛かっているこの状況で、心寧が言った『冷やしちゃだめ』というのは意味が違うだろう。

 そして、寝ている灯の横だからこそ、胸の内を明かすことが出来てしまう。


「簡単に好きを伝えられればな……」


 灯とこれだけ長く居て、好きにならない理由なんてないだろう。

 それなのに、たった一つの言葉を伝えられず、思いが行き詰まったように苦しいのだ。

 記憶という戒めを抜けた今だからこそ、灯に思いを伝える時が来ている、というのは清も心の中では理解していた。

 魔法合宿が終わった後、清は刻々と迫りくる日から動き出す気でいる。


「こんな俺に愛をくれて……本当にありがとう、灯。今が、幸せだよ」


 気づけば、清の頬に流れ星が通り過ぎていた。

 清は灯の膝裏と背に手を回し、優しく抱きかかえる。そして、その場を立ち上がった。


「……清くんと……ずっと一緒……」


 灯から小さく漏れた声は、風に優しくかき消されるかのように、清はついぞ気づかなかった。

 星の明かりが見守る中、清は大切な人を腕に抱え、部屋へと戻った。


 一週間の魔法合宿の舞台だった魔法の庭は、最後まで二人を優しく包み込んでいた。

この度は数多ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。


第二章はこれにて終幕となります! 記憶を巡る日常を見守っていただき、誠に感謝申し上げます。※一応、夜くらいに「おまけ3」が投稿される予定となっております。


第三章は現在準備中となりますので、いきなり始まった毎日投稿は勝手ながら区切りをつけさせていただきます。第三章の公開は、十一月の初旬を予定しております。

清くんと灯の今後の行方を見守っていただければ幸いです。

長くなりましたが、第二章の最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました! 今後も精進してやっていきますので、「君と過ごせる魔法のような日常」が気に入ったら応援していただければ嬉しいです。

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