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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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九十:夜に咲く花

 魔法合宿も、気づけば最後の夜を迎えようとしていた。

 月明かりが差し込む校庭の真ん中に、温かなオレンジ色の火は囲まれた中で灯され、木炭の上で音を立てている。

 そして網の上に置かれた、串に貫かれた食材の数々が、香ばしい香りを周りに漂わせていた。


 清達とツクヨを含めた五人は、灯と心寧の事前用意もあり、魔法合宿最後の夜ご飯で焼肉を開催していたのだ。


 現代文明の力はしようせず、四角い石を囲うように置き、その上に鉄の網を置くという、魔法の庭の自然を存分に利用している。鉄の網が文明の力なのは、仕方のない妥協点だろう。


『まさか、私も誘われるとは思ってもいなかったよ』

「魔法合宿を開催した主催でもあるし……最後くらいは呼びたいと思っただけだからね」

『多く言わなくとも、美咲君と君達のご厚意はありがたく思っているよ』


 心寧が何故かツンデレ気味に見えたが、黙っておくのが身のためだろう。

 ツクヨは食べることをしないが、肉や野菜の串を丁寧に裏返しては、香ばしく焼き上げている。


 一つの温かな火を皆で囲み、それぞれが笑顔で食べる時間は、とても幸せなのかもしれない。

 お互いに恨みや憎しみ、疑心暗鬼があれば、こうして仲良くできていなかった未来もあるのだから。


「にしても、星名さんと心寧が仕込みをしたとはいえ、この肉美味しいよな」

「常和、俺もそれは思う」

「おお、淡白なご感想で」

「これが俺らしいだろ」

「確かに……清が丁寧な食レポしてたら逆に怖いわな」


 常和がさらっと貶したような気もするが、否定できないのが難しいところだ。

 と言っても、これから自分を磨いていくつもりでいるため、今は進化の過程に過ぎないと清は思っている。


 ふと気づけば、灯が焼かれた野菜が刺さった串を持ち、こちらへ近づいてきていた。


「清くん、お野菜もしっかり食べないと駄目ですよ?」

「……母親かよ」

「はい、どうぞ」

「自分の手では食べさせる気が無いと?」

「どう思います?」


 灯は表情に笑みを蓄えているが、このまま食べてください、と言わんばかりの圧を透き通る水色の瞳の奥から感じさせてくる。

 灯の優しさは嬉しいが、自制を保ち続けるこちらの身にもなって欲しい、と思ってしまう。

 それでも、灯に手を出そうや、傷つけるような真似をする気は一切ない。男としてではなく、清という灯を愛する一人の存在としての、ゆるぎない決意表明だ。


(ただ、食べればいいだけだ)


 灯から目の前に差し出されている野菜の串は、火の明かりに照らされ、鮮やかな色素を輝かせている。


「……いただきます」


 清は目をつむり、灯に持たれた野菜の串へとかじりつく。

 一噛みすれば、広がるのは野菜の甘みと、違う何かの甘みが中枢神経を強く刺激してくる。

 羞恥心から来るものなのか、はたまた子供扱いされているからなのか、という理解を脳は拒んでいた。


「灯、ありがとう。すごく美味しかった」

「ふふ、良かったです。ほら、まだ残っていますよ」

「いや、自分で食べるか――」

「清くんは頑張ったのですから、遠慮することは無いのですよ?」


 清は引き下がる気のない灯に折れて、灯の手から食べさせてもらう事となった。

 恋人同士でならやっても困惑は無いと思うが、灯とは付き合ってすらいない関係だ。それでも、控えてほしいと言う気もなければ、止める気もない。

 灯の楽しそうな笑顔が、頑張る希望の星となるのだから。


 常和と心寧から微笑ましいような視線が飛んできているが、諦めて受け入れるしかないだろう。

 火が灯っている横で、二つの温かな火は小さく燃料を増やし続けた。




 焼肉が終わり、星々の輝く夜空の下で、四人は一つのロウソクを前にしている。そして、手には花火を持っている。

 以前、清と灯は心寧に『心寧の好きなことを一緒にやる』という形の無い誕生日プレゼントをあげていた。無論、後日形あるプレゼントは渡している。


 プレゼントをあげた際『魔法合宿の時にしたい』と言っていたが、みんなで花火をしたいというのは予想外だった。

 心寧は普段から誰よりも、四人の仲を大切に思っており、笑顔を絶やさないでいる。だからこそ、みんなで楽しめて、思い出に残る花火を選んだのだろう。


「えっと、火をこの先端につければいいんだよね?」

「ええ、そうですよ」

「わかった! 久しぶりだから忘れてた……準備は良い?」

「心寧、力入れすぎだ……ゆったり楽しもうぜ」

「そう言う常和も、ずいぶんと力、入っているんじゃないか?」

「清、入ってるわけないだろ。初めてだから緊張しているだけだ」

「それを力が入っているって言うんだよ……」


 心寧は一人で花火をやったことあるらしいが、常和は花火の存在すら知らなかったと言っていた。だからこそ、まだ見ぬ世界への恐怖があるのだろう。

 四人に笑みが宿った時、心寧が先陣を切る。


 花火にロウソクの火が燃え移り、暗き世界に鮮やかな色が音を立てて吹き出した。

 心寧に続いて清は灯と一緒に、短き命を吹き込み、花火に産声をあげさせる。

 常和は心寧の花火から火を分けてもらい、鮮やかな世界を生み出していた。


「わー! 綺麗!」

「子供の時以来したことなかったのですが、とてもいいものですね」

「灯に誘われて、こっそりやったのを思い出すよ」

「子供の時に火を軽々しく使うとか……お二人さん反抗期早いな」

「とっきーは反抗期来なかったもんねー」

「反抗する必要が無かったからな」

「花火はまだまだあるし、楽しも―!」

「無視かよ」

「心寧らしいな」

「心寧さんらしいですね」


 花火の火は途絶えようとも、次の色が世界を何回も彩り、暗闇を作ることは無い。

 ふと気づけば、清も含め、四人は笑顔を宿していた。


「魔法の庭でね……皆で楽しんでみたかったの。その夢が今は、独りぼっちだったこの魔法の庭に、笑顔という名の花で今は咲き誇ってる。心から嬉しいよ」

「心寧……よかったな、夢が叶って」

「うん!」


 花火をしながらも心寧の頭を撫でる常和は、見ていて微笑ましいものだろう。

 そうして、鮮やかな色で世界を輝かせた花火は、最後の一本が燃え尽きた。


 これで終わりと思っていた中、心寧は袋からあるものを取り出した。

 赤いひらひらが持ち手の細い紙紐みたいなもの、線香花火だ。


「……締めと言ったらこれかなと思って」

『線香花火か、懐かしいものだね』


 近くでずっと静かに見守っていたツクヨが、線香花火に興味を示したかのように声を出した。

 心寧はツクヨの方に近寄り、線香花火をひとつ差し出している。


「これは、頑張っているツキに対する労わりだから……うちが中立を離れた訳じゃないからね」

『君の思いは、わかっているよ』

「あ、そっ」

「心寧、あまりツクヨ先生を敵対視するなよ」


 そう言う常和を横に、心寧は線香花火を全員に手渡した。

 五人同時に花火に火を灯せば、最初は赤いだけの先端が徐々に弾けて、花を散らし始める。

 昔ながらの物とは言え、線香花火はいつの年代もいいものだろう。それも、切羽詰まるような時間の日々に、ゆっくりとした癒しを与えてくれるのだから。


「シンプルなのに飛び散る感じ、まさに古人の教え、だね」

「独特な感想、心寧さんらしいですね。落ちてしまうのは悲しいですが……」

「……この火が落ちようとも、俺らの希望はどんな地からも咲き誇り、新たな星となって輝き続けるけどな」

「清……言う通りだよ、ほんと。まるで、希望を届ける先導者だな」


 音を立てていた線香花火は、五人同時に地へと赤い玉を落とした。

 そして、ロウソクの明かりだけが灯り続け、校舎までの帰り道を月と共に照らしている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 線香花火を落として終わる、という発想がなかったので、なるほどこういう使い方もありかと勉強になりました。 落ちる玉←過去を置いていく、とも、想い出として残していく、とも読み取れていい余韻に…
[一言] 線香花火のシーン、泣いてもた。(´°̥̥̥ω°̥̥̥) きれいなお話ありがとうございました。(◡ω◡)
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