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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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八十八:六日目、覚悟を決める時

 魔法合宿六日目の朝。

 常和と心寧、ツクヨに見守られながら、清と灯は校庭の中央に舞い降りていた。

 約束の魔法勝負をする、その日が訪れたのだ。

 灯とする魔法勝負は全て敗北している。

 それでも、今目の前で改めて同じ土俵に立っている――星の魔石本来の力を得た本当の清として。


 お互いが同じジャージ姿である以上、勝っても負けても文句は言えないだろう。


「灯……今日はお互いに全力で、だな」

「清くん……私はこの日を、また同じように星の魔法を使える日をずっと待っていました。だから、持てる力全てでかかってきてください」


 灯と魔法勝負を現実世界でしたことはないが、同じ星の魔石の魔法使いとして、幼馴染として支え合ってきたのだ。だからこそ、負けられない勝負がここにある。


 ――己の魔法の全てをぶつけて、灯という存在を近くで知る為にも。


 その時、灯が右手を開いてこちらに出してきた。

 清も灯に合わせるよう、右手を開いて合わせる。


「星と共に静かに眠りて」

「……空間となる魔法」

「――夜のベール――」


 灯の詠唱魔法が発動するのと同時に、二人を中心にして、校庭が薄く黒い空間で包み込まれていく。

 そして、お互いに距離を取り、空間に星の魔石を輝かせる。


「――魔力シールド展開」

「――魔力シールド展開です」


 魔力シールドの展開と同時に、灯はいつもの見慣れたローブを身にまとう。


 風が静かに世界を揺らした瞬間、止まっていた時は動き出す。


「いつもの行きますよ! 無制限合成魔法――複合式【ふくごうしき】――」


 灯は魔法陣を周囲に展開し、清に狙いを定めている。

 そして、清が魔法陣を片手に展開した瞬間、時は全ての音を一斉に鳴らす。


 様々な合成魔法の魔力を感じさせながら、複合式は放たれる。


「……魔法」


 複合式は瞬時に四方八方をふさぎ、逃げ道すらない。

 また、弾幕の間に針を通すかのように、光線が襲い来る。

 清は昨日の基礎を活かし、止まるような弾幕の中を動きだした。

 弾幕は出来るだけ引き付け、寸前で軌道をずらす。そして、光線は弾幕の方に姿勢を傾け、余裕の回避を選んだ。


 複合式を打たれる寸前で発動した魔法は、清の手の中で圧縮された魔力の魔法陣となり、機会を窺う。


「ここだ! ――圧縮弾幕【あっしゅくだんまく】――」

「圧縮弾幕をここで……え、魔法玉?」


 本来であれば無数の弾幕を魔法陣から打つ魔法は、一つの魔法玉に圧縮されている。

 清は魔法玉を、弾幕の隙間めがけ上空へと放つ。

 複合式の弾幕の雨が襲い来る中、清の放った魔法は時間差で牙をむきはじめていた。


「清くん、反撃しなければ……勝ちはないですよ?」

「ふん、その言葉通り、反撃開始だ」

「……まさか」


 灯が気づいただろう時には、魔法はもう星のように降り注ぐ準備が出来ている。


「降り注げ、圧縮弾幕!」


 清が片手の魔法陣を輝かせた時、上空に大きな爆発音が響きわたる。そして、圧縮弾幕が輝きながら降り注ぎ、灯を狙う。

 灯は瞬時にこちらに飛ばしていた弾幕を消し、一気に迎撃していた。

 迎撃された弾幕は空中で爆発し、爆風を起こしながら魔力の粒を煌めかせている。


 爆風は複合式とぶつかった威力が相まって、地を震わせた。

 また、肌にひりひりとした熱さが伝わってくる。


 爆風が収まれば、灯がこちらを真剣な表情で見つめてきていた。

 透き通る水色の瞳の奥に、明らかな意思を感じさせてくる程の視線だ。


「清くん、なぜ星夜の魔法を使わないのですか」


 清は思わず息を呑んだ。

 星夜の魔法は、魔力覚醒をしなければ使うことが出来ない。

 過去のように自由に使用することは、今の清には出来なくなっていたのだ。

 魔力覚醒は、発動時間と連発出来ない制限があるだけで、それ以外は基本的にない。

 灯が限界(オーバー)負荷(フロー)を抱えて勝負している以上、使うのは控えようと清は考えてしまっていた。


 灯は目をつむる。そして、右手を胸に当て、ローブを強く握りながら目を開く。


「本気で魔法勝負をするって言いましたよね……私に嘘をついたのですか?」

「嘘は――」

「嘘をついていないというのなら、今から、全力でかかって来てください。清くんの深層心理が全力を出した時、私も私の今を超えて――あなたに届かせてみせます」


 灯に嘘をついてしまっていたのは、事実となる。

 心寧から、灯は魔法を打ち消す力を持っている、と聞いていたはずだ。

 もしものことがあれば、という思いが邪魔する必要は、本来要らなかっただろう。

 大切な人にだからこそ、思いを届けたいからこそ、ここで踏みとどまっていては意味がないのだ。


(灯の方が俺より今の状態では格段に強い……はずなのに……それなのに!!)


 清は強く握りしめた拳を開き、腕を真上に向け、魔法を自身の頭上へと放つ。

 空間には頭上の魔法を中心に、風が音を立てて吹き荒れる。

 頭上へ放った魔法が自身の胸を響かせるように、清へ雷のように直撃した。

 魔法のダメージは清になく、あくまでこれは自分への戒めに過ぎないのだ。

 灯がその光景を見て驚いている際に、清は自身を隠していた前髪をどかした。


 この勝負の中に隠すつもりだった気持ちを、しっかりと大切な人を見て伝えるために。


「俺は今――灯に本気をぶつけたい!」

「ふふ、私も今、清くんと同じ気持ちです!」


 清は覚悟を決め、自らの体の周囲に魔力を溢れ出させる。

 その時、灯は左手を胸に当て、もう片方の手を前に出していた。

 清が魔法陣を足元に展開させた。と同じ時、灯の透き通る水色の髪と瞳は魔力を煌めかせている。


「これが俺の全力! 魔力覚醒――希望の灯火【きぼうのともしび】――」

「私の更なる領域! 限界(オーバー)負荷(フロー)解放(リリース)――無制限化【アンリミテッド】――」


 清から溢れ出た魔力は光の粒となり、周囲で白と赤が煌めき浮かび上がっている。

 灯は、周囲に白色に透き通って輝く魔力を纏い、時折水色の魔力を輝かせながら、宙に浮いていた。


 今ここに、星々による本当の魔法勝負の幕が上がる。

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