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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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八十七:星々の前夜

前置きなので短めです

 夜ご飯時となり、四人は食堂に集まっていた。

 テーブルに綺麗に並べられた、カレーが盛られたお皿に、各々手を付けている。

 お皿とスプーンが静かに当たる音を立てている中、崩れゆく氷が音を響かせた。


「そう言えばさ、灯はどのくらい校舎の本を読み漁ったんだ?」

「全て読み終わりましたよ?」

「全、て……? 灯は本当に努力がすごいな」


 灯は平然と言っているが、校舎の本を全て読み終わること自体、偉業とすら言えるのだ。

 一日目の案内の際に心寧曰『本は百冊以上あるね』と言っていたので、瞬時に凄いと理解できるのだろう。


「お褒めに預かり光栄です。そう言う清くんは、星夜の魔法をちゃんと習得できたのですか?」

「ああ、習得できたよ」

「明日の魔法勝負、楽しみですね」

「まことー頑張ってたわけだし、後で労わってもらえば?」

「それだけは丁重にお断りする」

「ふふ、残念ですね」


 清からしてみれば、自分が頑張っている間にも灯は頑張っていた、という考えがあり、どちらかと言えば灯を労わりたい方なのだ。

 それに、灯との魔法勝負で、努力を灯という希望に届かせてみたいエゴでもある。

 努力をした意味を実現に持っていけていない以上、労わるになるのは早い方だと思えてしまう。


 ふと考えていれば、常和がスプーンを咥えながら、こちらを見ていた。


「常和、どうしたんだ?」

「いやー、お二人さんは、明日の魔法勝負で零式を使う予定はあるのか?」

「灯に本気をぶつけたいから、零式、を使う予定はないかな」

「私も同じくですね」

「……零式よりも上がありそうで怖いねー」

「あるといえばあるよな?」

「あるには、ありますね」

「聞いといてなんだけど……星の魔石の話にはついていけないな」


 そう言ってカレーを口に運ぶ常和は、美味しそうにカレーをほおばっている。

 本気をぶつけたいため、これ以上手の内を明かすのは不要だろう。ましてや、一番こちらの魔法を理解している灯が相手なのだから。


 気づけば、心寧が常和のスプーンを取り、カレーを食べさせていた。

 どうしてそうなったという困惑と、若干の心配が入り混じる感覚に清は襲われる。

 今、清の隣に座っているのは灯であり、変なところで対抗心を燃やしやすいのだ。

 そして対面上に居る相手が、気心を許しているであろう心寧。


(……心寧、なんで余計な事を目の前でやるんだよ!?)


 恐る恐る灯の方を見てみれば、案の定、灯がこちらをじっと見てきていた。

 何かを言われなくとも、灯が言いたい事を理解できてしまうのは困るものだろう。


「灯、俺は大丈夫だから」

「清くん、スプーン貸してください」

「嫌だ」

「……まこと、くん」

「分かった! わかったからそんな目で俺を見ないでくれ……それと、その言い方はやめろ」


 灯が悲しそうな目と言葉を使ってきたため、押し負けてスプーンを手渡した。

 渡された灯は、嬉しそうにこちらのカレーを掬っている。

 常和と心寧の様子を見ていたので予想は出来ていたが、灯はカレーを掬ったスプーンを口に近づけてきた。


 清は恥ずかしさや、ある二人の視線を頭から追い出し、ゆっくりと口にした。

 口の中に広がる香ばしさとコク、ご飯の甘みにカレーのほんのりとした辛さが交わりながら、味覚を刺激してくる。そして、明らかにわかる、別の甘さがとどめを刺しに来ていると。

 清は口の中を空にした後、ゆっくりと水を口に含み、勢いよく体内へと流し込んだ。


「灯から食べさせてもらえて嬉しいよ……ありがとう」


 今の清の脳には、この言葉しか思いつかなかった。

 それでも、灯は柔らかな笑みを浮かべている。

 目の前で咲き誇る笑みを見られただけでも、食べさせてもらえて良かったと思えてしまう。


「清くん、明日はこんな甘さがあると思っちゃダメですからね?」

「灯、その言葉……そっくりそのまま返すよ」


 灯から溢れ出した笑みに、気づけば清も笑みをこぼしていた。


「二人の甘い空間、しびれるねー」

「付き合っていないのが不思議なくらいにな」

「常和、全部聞こえているからな」


 付き合うどうこうの話は今に始まったことではないが、灯の前では出来る限りやめてほしいものだろう。


「まー、うちらも二人の魔法勝負楽しみにしているから、頑張ってねー」

「心寧さん、ありがとうございます」


 今思えば一週間の魔法合宿も、明日で実質最後と言えるだろう。

 七日目は掃除をして帰るだけの為、夜を迎えることが無い。だからこそ、明日の夜が魔法合宿最後の夜になる。


「あかりー、明日の夜も楽しみだね」

「ふふ、そうですね」

「何かあるのか?」

「清と同じく」


 疑問に思って聞いてみたが、今は内緒らしい。

 また一つだけ教えてもらえたのは、明日の夜に心寧が誕生日プレゼントとしてあげた権利を使う、という事だけだった。


(全てを本気で楽しんで、四人で居られる幸せな時間を記憶に刻まないとな)


 清はそう思いつつも、残ったカレーをゆっくりと味わった。

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