八十七:星々の前夜
前置きなので短めです
夜ご飯時となり、四人は食堂に集まっていた。
テーブルに綺麗に並べられた、カレーが盛られたお皿に、各々手を付けている。
お皿とスプーンが静かに当たる音を立てている中、崩れゆく氷が音を響かせた。
「そう言えばさ、灯はどのくらい校舎の本を読み漁ったんだ?」
「全て読み終わりましたよ?」
「全、て……? 灯は本当に努力がすごいな」
灯は平然と言っているが、校舎の本を全て読み終わること自体、偉業とすら言えるのだ。
一日目の案内の際に心寧曰『本は百冊以上あるね』と言っていたので、瞬時に凄いと理解できるのだろう。
「お褒めに預かり光栄です。そう言う清くんは、星夜の魔法をちゃんと習得できたのですか?」
「ああ、習得できたよ」
「明日の魔法勝負、楽しみですね」
「まことー頑張ってたわけだし、後で労わってもらえば?」
「それだけは丁重にお断りする」
「ふふ、残念ですね」
清からしてみれば、自分が頑張っている間にも灯は頑張っていた、という考えがあり、どちらかと言えば灯を労わりたい方なのだ。
それに、灯との魔法勝負で、努力を灯という希望に届かせてみたいエゴでもある。
努力をした意味を実現に持っていけていない以上、労わるになるのは早い方だと思えてしまう。
ふと考えていれば、常和がスプーンを咥えながら、こちらを見ていた。
「常和、どうしたんだ?」
「いやー、お二人さんは、明日の魔法勝負で零式を使う予定はあるのか?」
「灯に本気をぶつけたいから、零式、を使う予定はないかな」
「私も同じくですね」
「……零式よりも上がありそうで怖いねー」
「あるといえばあるよな?」
「あるには、ありますね」
「聞いといてなんだけど……星の魔石の話にはついていけないな」
そう言ってカレーを口に運ぶ常和は、美味しそうにカレーをほおばっている。
本気をぶつけたいため、これ以上手の内を明かすのは不要だろう。ましてや、一番こちらの魔法を理解している灯が相手なのだから。
気づけば、心寧が常和のスプーンを取り、カレーを食べさせていた。
どうしてそうなったという困惑と、若干の心配が入り混じる感覚に清は襲われる。
今、清の隣に座っているのは灯であり、変なところで対抗心を燃やしやすいのだ。
そして対面上に居る相手が、気心を許しているであろう心寧。
(……心寧、なんで余計な事を目の前でやるんだよ!?)
恐る恐る灯の方を見てみれば、案の定、灯がこちらをじっと見てきていた。
何かを言われなくとも、灯が言いたい事を理解できてしまうのは困るものだろう。
「灯、俺は大丈夫だから」
「清くん、スプーン貸してください」
「嫌だ」
「……まこと、くん」
「分かった! わかったからそんな目で俺を見ないでくれ……それと、その言い方はやめろ」
灯が悲しそうな目と言葉を使ってきたため、押し負けてスプーンを手渡した。
渡された灯は、嬉しそうにこちらのカレーを掬っている。
常和と心寧の様子を見ていたので予想は出来ていたが、灯はカレーを掬ったスプーンを口に近づけてきた。
清は恥ずかしさや、ある二人の視線を頭から追い出し、ゆっくりと口にした。
口の中に広がる香ばしさとコク、ご飯の甘みにカレーのほんのりとした辛さが交わりながら、味覚を刺激してくる。そして、明らかにわかる、別の甘さがとどめを刺しに来ていると。
清は口の中を空にした後、ゆっくりと水を口に含み、勢いよく体内へと流し込んだ。
「灯から食べさせてもらえて嬉しいよ……ありがとう」
今の清の脳には、この言葉しか思いつかなかった。
それでも、灯は柔らかな笑みを浮かべている。
目の前で咲き誇る笑みを見られただけでも、食べさせてもらえて良かったと思えてしまう。
「清くん、明日はこんな甘さがあると思っちゃダメですからね?」
「灯、その言葉……そっくりそのまま返すよ」
灯から溢れ出した笑みに、気づけば清も笑みをこぼしていた。
「二人の甘い空間、しびれるねー」
「付き合っていないのが不思議なくらいにな」
「常和、全部聞こえているからな」
付き合うどうこうの話は今に始まったことではないが、灯の前では出来る限りやめてほしいものだろう。
「まー、うちらも二人の魔法勝負楽しみにしているから、頑張ってねー」
「心寧さん、ありがとうございます」
今思えば一週間の魔法合宿も、明日で実質最後と言えるだろう。
七日目は掃除をして帰るだけの為、夜を迎えることが無い。だからこそ、明日の夜が魔法合宿最後の夜になる。
「あかりー、明日の夜も楽しみだね」
「ふふ、そうですね」
「何かあるのか?」
「清と同じく」
疑問に思って聞いてみたが、今は内緒らしい。
また一つだけ教えてもらえたのは、明日の夜に心寧が誕生日プレゼントとしてあげた権利を使う、という事だけだった。
(全てを本気で楽しんで、四人で居られる幸せな時間を記憶に刻まないとな)
清はそう思いつつも、残ったカレーをゆっくりと味わった。




