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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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八十六:希望はいずれ咲き誇る

「まことー、さっきはごめんね!」

「し、心寧……何の事だよ?」


 清と常和、心寧の三人で休憩しようとした時、心寧が急に謝ってきたのだ。

 心寧が謝るようなことや、謝られるようなことをされた覚えがないため、清は困惑するしかなかった。

 近くで見ていた常和が苦笑いしながら、心寧を落ちつかせている。


 心寧は落ちついたのか、こちらに再度向きなおした。


「ほら……まことーに全力を出させるためとはいえ、あかりーを餌にして煽っちゃったわけだからさ? 流石に申し訳ないなと思ったの……」

「あー。いや、別に俺は気にしてないというかさ……逆にそのおかげで魔力覚醒を使えたのもあるから。二度目は許さないけどな」

「本当にごめんね!」

「心寧、清も今回は気にしてないみたいだし、あまり自分を責めすぎるなよ」


 常和が心寧の頭を撫でれば、心寧の表情には柔らかな花が咲いていた。

 彼氏彼女同時の関係でやるのは構わないが、目の前でやるのは避けてほしいものだろう。

 付き合っていないとはいえ、清にも大切な存在でとても大事な灯が居るため、撫でたくなる気持ちは分からなくもない。


「そういや清」

「常和、どうした?」


 常和が心寧の頭を撫でながら、ゆったりと声をかけてきた。


「魔力覚醒をした時の感覚、忘れるなよ。至高の味という領域を知る知らないだけでも、魔法を使う場面や再度魔力覚醒を使う時……それだけで天と地ほどの差があるからな」


 常和の言葉は、確かにその通りと言えるだろう。

 魔力覚醒をした時に味わった魔力の流れ、それを知っているかどうかで感覚が大きく変わるのも事実と言える。

 清は忘れないように、心の中で言葉の重みを胸に刻み込んだ。


 その時、心寧がスポーツドリンクを口にしながら、こちらをじっと見ていた。


「まことー、煽ったお詫びとしては何だと思うけど……何か知りたいことはあったりする?」

「今でもこうして教えてもらっているしさ、これ以上は欲張りというか」

「ほら! まことーの愛しきお嫁さんを言葉で使っちゃった分、割に合わないというか何と言うか―的なやつ!」

「心寧、灯はまだ俺の嫁じゃないから……というか、付き合ってすらないから」

「まだ、か……。まあ、清、心寧もこう言ってるから諦めて折れてくれ!」


 常和が何か余計な事を考えたように見えたが、気にするのは良くないのだろう。

 清としては根掘り葉掘り聞く予定では無かったが、苦笑いしつつ先程の勝負で気になっていたことを口にした。


「じゃあさ、心寧が最後に使っていた『自然(しぜん)(ことわり)』ってどんな魔法なんだ?」


 隣で聞いていた常和が、明らかに嫌な顔をしている。やはり、聞くのは不味かったのだろう。

 ふと使用者本人である心寧に目を向ければ、何故か顔に笑みを宿していた。

 常和も気づいたのか、近くにあった葉を適当にむしり、風に乗せて飛ばしている。


「とっきー……清になら、話してもいいよね?」

「そうだな。清が過去を乗り越えたんだし、次は俺らの番だよな」

「清。自然の理の話をする前にね、うちらの話になるんだけど……いいかな?」

「俺は別に、常和や心寧が辛くなければ、何でも聞く気だから」


 二人は緊張がほぐれたのか、軽く息を吐いた。


「まずは、うちの話だね……」


 心寧はどこか暗いような雰囲気で陰りをみせていたが、胸に手を当て、自分を落ちつかせているようだ。

 常和が心配そうな顔をしているのを見るに、心寧の過去の話になるのだろう。それも、この魔法の庭関連だと推測できる。


 清としては、普段から灯に話を聞いてもらっていることもあったため、二人の話から逃げようとは思っていない。


(灯が優しくしてくれたように、今度は俺が届ける番だから)


 葉が地面に落ちて音を立てた時、心寧はゆっくりと口を開いた。


「うちはね、幼い頃から魔法の庭で一人で過ごしていたの……それも、特殊な魔力の子として生まれたが故の宿命、魔力の制御を命じられてね。あ、お父様は何かと近くで、うちの事をずっと見守ってくれてたからね!」

「そして俺は……どうして俺という存在が生まれたかもわからないまま……この魔法の庭に迷い込んで、現当主に拾われて、心寧と一緒に育ててもらっていたんだよ」

「俺が何か言えるような立場じゃないけどさ……二人も、それ相応の過去があったんだな」


 常和や心寧とは高校からの付き合いであるが、清は初めて聞いた二人の過去に、胸が締め付けられるようだった。

 胸が締め付けられるというよりも、気後れしているが正しいだろう。

 辛い過去というものは、他人に話そうとした際、自分が壊れないようにと脳が抑制しようとしてくるのだから。

 現に清がそうだったから、自分の不甲斐なさに気後れしてしまっているのだ。


(二人の方が……俺よりよっぽど優秀だよ。本当に)


「そんな過去の中ね、うちはとっきーに会えてよかったと思っているの。だってさ、感情を失って、魔法の庭だけがうちに寄り添ってくれていた時……とっきーが希望を届けるように、うちに手を差し伸べてくれたんだから」

「……心寧、恥ずかしいからやめてくれ」

「別にいいじゃん? とっきーは自信を持って誇っていいと思うよ」

「常和、俺もそれはかっこいいと思うぞ」

「ま、清もそっち側かよ……」


 常和の恥ずかしがるような言動に、心寧は嬉しそうな笑みを咲かせていた。


「色々省くけど、これが……清の知りたかった空間魔法『自然の理』の原点だよ」


 そう言って心寧は、手に魔法陣を展開させ、指を鳴らして見せた。

 指を鳴らすと同時に魔法の波紋が周囲を駆け巡っている。

 魔法の波紋が収まった――その瞬間、近くの地面から小さな双葉は芽を出し、開花を始める。


 ピンク色に黄色、緑色に白色や紫色の花が咲き誇った。咲き誇った花は、風に吹かれて花びらをちらし、見る場所全てを鮮やかな景色にしている。


「自然の理はね、うちに寄り添っていてくれた魔法の庭から生まれた……美咲家でうちだけが知っている特別な魔法。空間を一瞬だけ展開させて、魔法を全て跳ね返す魔法って感じだよ!」

「全てを跳ね返すって言っても、限度はあるからな」

「自然の理の中に、思い出が乗って……希望が託されているんだな」

「おー、まことー、いいところに気づいたね!」


 心寧のテンションが上がりすぎることを察したのか、常和は心寧の頭を撫でて軽く落ちつかせようとしていた。

 心寧が若干落ちつきを見せた頃、常和は口を開いた。


「まー、俺たちの過去も色々あってさ、それを乗り越えるために……こうしてまた俺たちはここに来たのかなって今は思えてるよ。いつまでも過去に怯えていられないからな!」

「うちととっきーが一緒に居るもう一つの理由、まことーはわかった?」

「なんで急に聞くんだよ」


 常和を軽く睨めば、すまんすまん、と言って理由を言い始めた。


「俺は心寧の隣で一生を共にする覚悟を持った。それを心寧が受け入れてくれた。それだけの話だよ」

「そうそう、本当に大事なのは……お互いに信頼し合える心だよ」

「……肝に銘じておくよ」



 その後、休憩を終わりにして、魔力覚醒を完全にものにしよう、という話になったため清はその場を立ち上がった。

 次からは指導に常和も加わるらしく、頼もしいことこの上ないだろう。


「まことー、魔法合宿が終わった後」

「星名さんにどう告白するのか、楽しみに待っているからな」

「よ、余計なお世話だ」

「あはは、俺らはお前の愛が実ることを陰ながら応援してるだけだから……そんな目で見ないでくれよ」


 おせっかいをかけられた気もするが、これも常和と心寧なりの励ましなのだろう。

 清は嬉しさを心にしまいつつも、顔を赤くしていた。


「相変わらず、あかりーにメロメロでうぶだねー」

「うるさい。……ちゃんと指導してくれよ」

「お、素直な清だ」


 清は二人にニヤニヤされたり、構われることとなった。

 それでも、指導になれば手を抜かない常和と心寧は、最高の親友で、幸せな希望の一つなのだろう。

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