八十五:星夜の再臨
休憩が終わり、清と心寧は簡易実践魔法勝負をしようとしていた。
そして、二人で校庭の真ん中に立った時、ある人物が清の目に映った。
「ツクヨさん、こんにちは」
「うわぁ……」
「ツクヨ先生、急にどうしたんですか?」
『星名君が君達を気にしていたから、私が代わりに様子を見に来ただけだよ。私のことは気にせず、黒井君の指導を続けてくれたまえ』
「うちは元から気にしてないからー」
心寧は何故か不服そうにしているが、こちらが気にするようなことではないだろう。
ツクヨが様子を見に来たのは、灯も灯で頑張っている証拠と考えた方が良いだろう。
清は、灯に負けていられないな、と思いながら気合を入れ直した。
簡易実践をするためにも、清は心寧の方をしっかりと見た。
心寧も気づいたのか、さわやかな笑みを咲かせて清を見てくる。
風が肌を柔らかく撫でた時、お互い静かにうなずく。
「全力でぶつかって、清自身の魔力覚醒……ものにしてよね。――魔力シールドてんかーい!」
「当たり前だ! 絶対にものにしてやる。――魔力シールド展開」
双方の周囲が透明な魔力シールドで覆われた時、魔法勝負開始の合図となった。
魔法勝負といえ、本題は簡易実践である。その為、魔法を基本的に使わない勝負方法となっている。
魔力の流れを自在に操り、相手の魔力シールドを魔力の帯びた体術で破壊するのが簡易実践だ。
清が距離を詰めようとした時、心寧が口を開いた。
「清、魔力を流すというよりも、魔力を体全体に行き渡らせるイメージを持ってみて。そして、魔法陣を瞬時に展開する感覚を掴んでみて……魔法を打たないようにする感じだよ!」
「……わかった」
心寧は簡単そうに言っているが、実際は難しい動作の一つだろう。だが、簡易実践のルールに従えば、一番に理に適っているとも言える。
(魔力を……体全体に……)
清は心寧に言われた通り、体に流れる魔力を感じとり、全体に行き渡らせてみた。
清のあっさり行う実力に、心寧は嬉しそうな笑みを浮かべている。
普段の日常から魔法の抑制及び、魔力の調整をしている分、清には造作もないことだ。
「じゃあー、始めようか!」
「心寧、望むところだ!」
清は心寧に拳を繰り出したが、ある違和感が体をよぎる。
心寧に手を出しても、浮くような感覚で全て流され、攻撃が一切当たらないのだ。
心寧は魔法の受け流しも心得ている、と常和が以前言っていたので、それが原因の一つだろう。
もう一つの問題としては、こちらの動きが心寧に完全に読まれていることだ。
殴り、蹴り、裏打ちの動作全てを見抜かれ、心寧に当たる寸前で軌道を外されている。
それでいて心寧は表情一つ崩さず、真剣に相手をしてくれているのだ。
(心寧が攻撃をしてきていたら、俺は今頃何十回も負けているぞ……これ)
魔力の流れを意識しながらやっているとはいえ、明らかに心寧との差が出ているは一目瞭然だ。
緊迫しつつも、静かに勝負という名の指導が行われている中、心寧が口を開いた。
「清、本当に星夜の魔法を使う気があるの?」
「力を完全に取り戻すためにも、俺はやっているんだ……当然だろ」
心寧は小さく息を吐くと同時に後ろへ飛び、清との距離を取った。
「じゃあ、全力で行くから……行動で証明して見せてよ!」
心寧がそう言った瞬間、心寧の足元に魔法陣が展開される。
この状況で瞬時に理解できるのは、先ほど心寧が見せた、魔力覚醒をするということだ。
「美咲家相伝――咲く一線【さくいっせん】――」
魔力覚醒をした心寧の周囲には、溢れ出た魔力が粒となって浮かび上がり、水色の光の粒として煌めいている。
(……やばい!)
清がそう思ったのも束の間、気づけば心寧が速攻で距離を詰めていたのだ。
先ほどの光景とは正反対となり、清は心寧の攻撃に防戦一方となっていた。
心寧は魔力覚醒の影響で身体能力も強化されているのか、攻撃を見切るのだけで清は手一杯だ。
少しでも反応が遅れようものなら、無事では済まないだろう。
「清、隙だらけだよ」
「くっ――」
心寧の合図があったこともあり、清はとっさの判断で、心寧の蹴りに魔力で固めた手を入れることに成功した。
しかし、清の身体は宙に浮かび上がり、勢いのまま校庭の端まで吹き飛ばされていた。
清の身体は地面へと叩きつけられたものの、魔力シールドのおかげで地面を抉る程度で済んでいる。
これが魔法勝負で無ければ、明らかにただでは済んでいないだろう。
前を見れば、心寧がゆっくりと近づいてきている。
「つまんないねー。これだったら、うちが先にあかりーと勝負して勝っちゃうよ?」
「……灯は、灯は関係ないだろ……」
「あるでしょ? 清があかりーに手を下すより先に、うちが仕留めてあげるって言ってんだから?」
今のままでは灯に勝つどころか、心寧に手が届いていないのも事実だ。それでも、灯と共に過ごしてきた日々を、記憶のカケラを取り戻すための数々の日々を、無下にしていい理由があるわけないだろう。
清は気持ちを再構築し、その場を強く立ち上がった。
(俺は、灯の横に堂々と立っていたいんだ!)
そして、心寧の魔力覚醒状態を一気に分析する。
魔力覚醒状態は清が本気を出せば、出来ない理由がなかった代物だ。
清は息を吐きながら、静かに目をつむる。
そして、心の中に落ちた――魔力の源へと手を伸ばす。
魔力の源に触れた瞬間、清の周囲に白色の魔力が溢れ、静かに浮かび上がった。
清が目を開けば、魔力は光の粒となり、赤と白の煌めきを生み出す。
手を見てみれば、軽い感覚と共に、今なら全ての魔法を使える自信が湧いてくる。
「まことー、すごいね! できたじゃん、魔力覚醒!」
心寧にそう言われても、清は実感が湧かなかった。
思いに身を任せた結果できたことであり、自分自身の力ではないのだから。
それでも、魔力覚醒から感じる温かさは忘れたくない感覚だろう。
「まことー、感覚を忘れないうちに一回だけ……魔法をぶつけてみようか!」
「え、ああ、わかった」
心寧が一気に距離を取って魔法陣を展開すると共に、清も魔法陣を展開させた。いつもの魔法陣とは違う、星夜の魔法を打てる魔法陣を。
「心寧、いくぞ! 星夜の魔法――星粒【スターダスト】――」
「星夜の魔法……おめでとう、清。空間魔法――自然の理【しぜんのことわり】――」
心寧に向かった無数の弾幕は、全て上空へと跳ね返され、上空でまばゆい爆風を引き起こした。
上空であるにも関わらず、地上に居る清の肌をひりひりとさせる程の威力がある。
爆風が収まった時、常和が清と心寧の間に立っていた。
「清、魔力覚醒おめでとう。魔力の大幅消費した体を労わる為にも、いったん休憩だ。心寧もそれでいいだろ?」
「うちは異議なーし!」
「常和、心寧……ありがとう」
清と心寧は魔力覚醒を解除し、常和が差し出してきたスポーツドリンクを受け取った。
ふと周囲を見渡せばツクヨの姿が見当たらないので、灯の所に戻ったのだろうか。
校舎の軒下で休憩を挟むため、三人は校庭を後にした。




