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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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八十五:星夜の再臨

 休憩が終わり、清と心寧は簡易実践魔法勝負をしようとしていた。

 そして、二人で校庭の真ん中に立った時、ある人物が清の目に映った。


「ツクヨさん、こんにちは」

「うわぁ……」

「ツクヨ先生、急にどうしたんですか?」

『星名君が君達を気にしていたから、私が代わりに様子を見に来ただけだよ。私のことは気にせず、黒井君の指導を続けてくれたまえ』

「うちは元から気にしてないからー」


 心寧は何故か不服そうにしているが、こちらが気にするようなことではないだろう。

 ツクヨが様子を見に来たのは、灯も灯で頑張っている証拠と考えた方が良いだろう。

 清は、灯に負けていられないな、と思いながら気合を入れ直した。


 簡易実践をするためにも、清は心寧の方をしっかりと見た。

 心寧も気づいたのか、さわやかな笑みを咲かせて清を見てくる。


 風が肌を柔らかく撫でた時、お互い静かにうなずく。


「全力でぶつかって、清自身の魔力覚醒……ものにしてよね。――魔力シールドてんかーい!」

「当たり前だ! 絶対にものにしてやる。――魔力シールド展開」


 双方の周囲が透明な魔力シールドで覆われた時、魔法勝負開始の合図となった。

 魔法勝負といえ、本題は簡易実践である。その為、魔法を基本的に使わない勝負方法となっている。

 魔力の流れを自在に操り、相手の魔力シールドを魔力の帯びた体術で破壊するのが簡易実践だ。


 清が距離を詰めようとした時、心寧が口を開いた。


「清、魔力を流すというよりも、魔力を体全体に行き渡らせるイメージを持ってみて。そして、魔法陣を瞬時に展開する感覚を掴んでみて……魔法を打たないようにする感じだよ!」

「……わかった」


 心寧は簡単そうに言っているが、実際は難しい動作の一つだろう。だが、簡易実践のルールに従えば、一番に理に適っているとも言える。


(魔力を……体全体に……)


 清は心寧に言われた通り、体に流れる魔力を感じとり、全体に行き渡らせてみた。

 清のあっさり行う実力に、心寧は嬉しそうな笑みを浮かべている。

 普段の日常から魔法の抑制及び、魔力の調整をしている分、清には造作もないことだ。


「じゃあー、始めようか!」

「心寧、望むところだ!」


 清は心寧に拳を繰り出したが、ある違和感が体をよぎる。

 心寧に手を出しても、浮くような感覚で全て流され、攻撃が一切当たらないのだ。

 心寧は魔法の受け流しも心得ている、と常和が以前言っていたので、それが原因の一つだろう。

 もう一つの問題としては、こちらの動きが心寧に完全に読まれていることだ。

 殴り、蹴り、裏打ちの動作全てを見抜かれ、心寧に当たる寸前で軌道を外されている。


 それでいて心寧は表情一つ崩さず、真剣に相手をしてくれているのだ。


(心寧が攻撃をしてきていたら、俺は今頃何十回も負けているぞ……これ)


 魔力の流れを意識しながらやっているとはいえ、明らかに心寧との差が出ているは一目瞭然だ。

 緊迫しつつも、静かに勝負という名の指導が行われている中、心寧が口を開いた。


「清、本当に星夜の魔法を使う気があるの?」

「力を完全に取り戻すためにも、俺はやっているんだ……当然だろ」


 心寧は小さく息を吐くと同時に後ろへ飛び、清との距離を取った。


「じゃあ、全力で行くから……行動で証明して見せてよ!」


 心寧がそう言った瞬間、心寧の足元に魔法陣が展開される。

 この状況で瞬時に理解できるのは、先ほど心寧が見せた、魔力覚醒をするということだ。


「美咲家相伝――咲く一線【さくいっせん】――」


 魔力覚醒をした心寧の周囲には、溢れ出た魔力が粒となって浮かび上がり、水色の光の粒として煌めいている。


(……やばい!)


 清がそう思ったのも束の間、気づけば心寧が速攻で距離を詰めていたのだ。

 先ほどの光景とは正反対となり、清は心寧の攻撃に防戦一方となっていた。

 心寧は魔力覚醒の影響で身体能力も強化されているのか、攻撃を見切るのだけで清は手一杯だ。

 少しでも反応が遅れようものなら、無事では済まないだろう。


「清、隙だらけだよ」

「くっ――」


 心寧の合図があったこともあり、清はとっさの判断で、心寧の蹴りに魔力で固めた手を入れることに成功した。

 しかし、清の身体は宙に浮かび上がり、勢いのまま校庭の端まで吹き飛ばされていた。

 清の身体は地面へと叩きつけられたものの、魔力シールドのおかげで地面を抉る程度で済んでいる。


 これが魔法勝負で無ければ、明らかにただでは済んでいないだろう。

 前を見れば、心寧がゆっくりと近づいてきている。


「つまんないねー。これだったら、うちが先にあかりーと勝負して勝っちゃうよ?」

「……灯は、灯は関係ないだろ……」

「あるでしょ? 清があかりーに手を下すより先に、うちが仕留めてあげるって言ってんだから?」


 今のままでは灯に勝つどころか、心寧に手が届いていないのも事実だ。それでも、灯と共に過ごしてきた日々を、記憶のカケラを取り戻すための数々の日々を、無下にしていい理由があるわけないだろう。

 清は気持ちを再構築し、その場を強く立ち上がった。


(俺は、灯の横に堂々と立っていたいんだ!)


 そして、心寧の魔力覚醒状態を一気に分析する。


 魔力覚醒状態は清が本気を出せば、出来ない理由がなかった代物だ。

 清は息を吐きながら、静かに目をつむる。

 そして、心の中に落ちた――魔力の源へと手を伸ばす。


 魔力の源に触れた瞬間、清の周囲に白色の魔力が溢れ、静かに浮かび上がった。

 清が目を開けば、魔力は光の粒となり、赤と白の煌めきを生み出す。


 手を見てみれば、軽い感覚と共に、今なら全ての魔法を使える自信が湧いてくる。


「まことー、すごいね! できたじゃん、魔力覚醒!」


 心寧にそう言われても、清は実感が湧かなかった。

 思いに身を任せた結果できたことであり、自分自身の力ではないのだから。

 それでも、魔力覚醒から感じる温かさは忘れたくない感覚だろう。


「まことー、感覚を忘れないうちに一回だけ……魔法をぶつけてみようか!」

「え、ああ、わかった」


 心寧が一気に距離を取って魔法陣を展開すると共に、清も魔法陣を展開させた。いつもの魔法陣とは違う、星夜の魔法を打てる魔法陣を。


「心寧、いくぞ! 星夜の魔法――星粒【スターダスト】――」

「星夜の魔法……おめでとう、清。空間魔法――自然の理【しぜんのことわり】――」


 心寧に向かった無数の弾幕は、全て上空へと跳ね返され、上空でまばゆい爆風を引き起こした。

 上空であるにも関わらず、地上に居る清の肌をひりひりとさせる程の威力がある。


 爆風が収まった時、常和が清と心寧の間に立っていた。


「清、魔力覚醒おめでとう。魔力の大幅消費した体を労わる為にも、いったん休憩だ。心寧もそれでいいだろ?」

「うちは異議なーし!」

「常和、心寧……ありがとう」


 清と心寧は魔力覚醒を解除し、常和が差し出してきたスポーツドリンクを受け取った。

 ふと周囲を見渡せばツクヨの姿が見当たらないので、灯の所に戻ったのだろうか。


 校舎の軒下で休憩を挟むため、三人は校庭を後にした。

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