第九話:君に喜んでもらいたくて
灯の隣に居る約束をして以来、あることを考えていた。
「なあ常和」
「お、どうした清? お前から話しかけてくるなんて珍しいな」
実は普段世話になっている灯にプレゼントを贈りたいのだ。女子に何を送ればいいかわからないため、常和に相談しようとしているのだが。
学校でこちらから話しかけるなんてことは滅多にないため、不思議がられている分、話をしづらいと思ってしまう。
「人にプレゼントを贈りたいんだが、何なら喜ばれると思う?
「なるほど、だから心寧に星名さんを引き付けさせているのか」
人にと言ったのに、どうして常和はこうも感がいいのだろう。もしくは、心寧に灯を引き付けさせるように連絡したせいでもあるのだろうか。
「プレゼントの話なら心寧に聞くのが一番だと思うんだが?」
「心寧にも聞く予定だが、先に常和の意見を聞きたいと思ったんだ」
言ったことが不味かったのか、常和は悩んだように俯いてしまった。
確かに女子である心寧に聞くのが一番だとは思うのだが、常和が彼女にプレゼントをしているものを知ろうと思ったのだ。
こちらが相談できる唯一無二の親友だからこそ、期待を寄せてしまっている一面もある。これに関しては申し訳ないとしか思えなかった。
気づけば常和は顔を上げ、考えがまとまった様子だった。
「俺のやり方だとさ、心寧に選ばせているからサプライズにはならないんだ」
「選ばせるやり方があったか。でも、渡して喜ぶ顔が見たいんだよな」
常和のやり方は心寧の性格を思っての故で出来ることであり、灯と清の関係だと成立させるのは難しいだろう。
「ところでさ、星名さん本人に何が欲しいのかは聞かなかったのか?」
「聞いたんだけどさ……」
――遡ること数日前――
灯とソファでくつろいでいる際に聞いたのだ。
「灯はさ、何か欲しいものとかないのか?」
「え、ほしいものですか」
聞かれると思っていなかったのか、灯は不思議そうな顔をしていた。
「本当に欲しいものはお金で手に入らないですね」
物欲がないと言うよりは、高嶺の花を欲しているようだった。
灯にはどうでもいいようなことだそうで、ソファの横をぽんぽんと叩いていた。
「『そんなことより、清君はなんで隣に座らないのですか?』って話を逸らされて終わった」
「……なんでお前らが付き合っていないのか不思議なんだが」
こちらが話をし終えると、常和は内容よりも恋愛の方に興味がいってしまったらしい。
詰め寄られると思っていたのだが、チャイムが鳴ったことによってその場は解散となった。
「まことー! あかりーに借りること承諾してきたから、今から探しに行こう!」
放課後になった瞬間、清は心寧の行動力を目の当たりにすることとなった。
確かに心寧にも相談した。買い物に付き合ってくれることになったのはよかったが、ここまで急展開になるのは予想外だった。
常和も一緒に来てくれるらしいのだが、心寧のやり方には苦笑いするしかないようだ。
ここら辺のお店を知らないので、おとなしく付いていくことにした
心寧に連れられてきたところはアクセサリー屋さんだった。
店内には魔法世界ならではのアクセサリーが売っており、灯が気に入ってくれそうな物もありそうだなと思った。
「まことー、うちはとっきーと見ているから、選べないと思ったら声をかけてね!」
「こいつの言っていることは気にしないで、ちゃんと選んでやれよ」
少し前に常和は『誰かに最終的に相談して悔いが残るくらいなら自分でしっかり選べ』と言っていたので、それを改めて思い出させてくれたのかも知れない
心寧に引っ張られるかのように連れられる常和を見つつ、アクセサリー売り場に目をやった。
棚には様々なモチーフの物が売っていた。桜、月、花、魚、図形などと種類は様々だ。
そんな商品を眺めていると、ある一つの売り場が目に入った。魔石ペンダントと言うものが売っているようだ。
見た感じ、外見はペンダントそのものだ。けれども、魔石をはめこめる窪みがあるのが違いと言ったところだろう。
現実世界で言う所の、宝石のない外見だけのペンダントと言ったところだ。
(こんなにも種類が……これは)
魔石ペンダントに一つだけ目を引かれるものがあった。
モチーフが星で、星の周りには二つの氷の結晶がついている。星の好きな灯に似合いそうだし、氷の結晶が透き通る水色の瞳と髪をイメージしていてよさそうだ。
仮に灯が付けたとしても、しつこく目立つこともなく、チャームポイントになるんではないかと想像してしまった。
「まことー? 決まったの?」
そんなとき、後ろから心寧に声をかけられた。
「すまん、悩んでいたところだ」
「何を見て悩んでいたの?」
これだと言って心寧にペンダントを見せた。常和は後ろから見ていたのだが、特に何も言う様子はないようだ。
心寧はなぜだか目を輝かせていた。
「まことーが本気で選んだものなら、あかりーに喜んでもらえるから! だから……清はもっと自信を持っていいと思うよ!」
「……清、周りが何を言っても最後に受け入れたのは自分自身なのを忘れるなよ」
「二人とも、ありがとうな」
(二人が後押しをしてくれたから買うんじゃない。これは、灯に似合うって自分が決めたから)
そう思いつつ、ペンダントを持ってレジへと向かった。
「……ただいま」
「清君、おかえりなさい」
家に帰ると、夜ご飯を作っていた灯が出迎えてくれたのだ。
着替えをするために清はとりあえず、自室へと向かった。
……夜ご飯を食べ終わり、灯と紅茶を飲みつつゆっくりしていた。灯と過ごしてからはこれが日常となっている。
(プレゼントを渡したい。でも、どう渡せばいいんだ)
そんなことを考えていると、ソファに据わっている灯が声をかけてきた。
「清君、意地を張ってないでそろそろ一緒に座ろうとは思わないのですか?」
灯はそう言いつつ、隣をぽんぽんと叩いて誘っているようだった。
これはチャンスと捉えるべきなのだろうか。近しくも、遠い存在である灯のそばに近寄れるのだから。
清は言われるがままに灯の隣に座った。
「隣に座ったのに素直じゃないですね」
小悪魔っぽく言う灯はどこか楽しそうに見えた。
(今なら渡せるかも知れない)
清は灯に気づかれないように、小箱をそっと前に差し出した。
灯は急なことに驚いたようで、体をピクリとさせていた。
「な、なんですか急に、ビックリするじゃないですか」
「え、えっと……普段からお世話になっているお礼をしたくて。だから、これを」
この時だけは、心臓が今にでも張り裂けそうなくらい痛く感じる。数分が何時間のように長く思えた。
灯はおとなしく、差し出された小包を受け取った。そして、水色の瞳がこちらをちらりと見た。
「開けていいですか?」
「好きにしてくれ」
それを聞いた灯は、開けると中身を取り出した。小箱から出たのは星の周りに二つの氷の結晶が付いたペンダントだ。
それを手に持った灯の顔はとても嬉しそうで、星のように輝いて見えた。
「魔石のペンダントだ。気に入らなったか?」
「いえ。清君、ありがとうございます」
灯は感謝を言うと、慣れた手つきで星の魔石をはめ込んでいた。
灯の魔石とも相性が良かったようで、あるべき姿になったペンダントは星のような輝きを放っていた。輝きが落ち着くと、可愛らしく灯の手のひらに収まっていた。
灯が首にぶら下げると、それは小さなチャームポイントになった。
身に着けている姿は可愛らしく、灯の笑顔も相まって見とれてしまうほどだ。
「似合っていますか?」
「とても似合っている。可愛いよ」
可愛いと言われたことに照れたらしい灯は顔を赤くしていた。
それから少し時間が経ち、その場を立とうとしたのだが、服を引っ張られた。
「……もう少し、お喋りしませんか」
「わかった、少しだけな」
そう言いつつ、清は再度ソファに腰を掛けた。
隣に座って灯と話している時はとても楽しく思え、この時が終わってほしくないと思えるほどだ。
この後、話している途中に寝落ちしてしまい、灯に毛布を掛けられる事となった。
「おやすみなさい、清君。良い夢を」




