八十四:五日目、指導とは?
魔法合宿五日目。
清、常和と心寧の三人は現在、校庭の中央に立っていた。
星夜の魔法を使うための指導ということもあり、心寧が一番ワクワクしているようだ。
清からしてみれば、心から信頼できる二人に指導してもらえるのは、この上なく頼もしいと思っている。
また、魔法や魔力の扱いに関して、四人の中では常和と心寧が一番高いというのが事実だ。清と灯の場合は魔法を使えるものの、そこまで熟知しているわけではない。
「まことー、体を魔力に慣らすためにも、まずは基礎からだよ!」
「清は四人の中だと、率直に言って動作や魔法までの感覚が一番弱いから……諦めて受け入れてくれ。あ、俺は清の補佐に回るかも知れないだけで、基本は見てるだけだからな?」
「一対一の方が教える面でも楽だからねー。そうそう! 基礎が出来たら、うちと簡易実践の魔法勝負だからね!」
「心寧と勝負か……何気に一対一は初めてだな」
心寧とはペア戦で一戦交えているが、ペア戦以外では勝負をしたことが無かったのだ。
心寧の魔法は今でも未知数のところがあるため、実践して学べるのはいいものだろう。
また、お互いにジャージという動きやすい服装であり、動作による差が起きにくいと思われる。
その時、「ほらよ、清」と言って常和が木刀をこちらに投げてくる。
「これは?」
「あー、魔力シールドを張っていれば、直接的なダメージは心寧に無いから安心しろ」
「いや、聞きたいのはそこじゃなく――」
「魔法を集中して使えるようにする前置きみたいなものだよ……本来は必要ないけどねー」
「……じゃあ、なんで渡したんだよ」
「え。基礎の動きだけだと素手でうちが圧勝だから?」
何気に心寧に貶されたが、やってみればわかる話だろう。
清としては、心寧が素手というハンデを設けられたが、手を抜く気はない。しかし、これで心寧に手が届かなければ、明らかな実力差が判明するのもまた事実だ。
「清がうちから一本でも取れたら褒めてあげる! ――魔力シールドてんかーい!」
「心寧、ハンデをあげた上で負けても文句言うなよ? ――魔力シールド展開」
魔力シールドを展開するとともに、お互い動きだす――。
数十分後、清は疲れたように座り込んでいた。そして、心寧はニコニコした様子で清を見ている。
清は勝つと意気込んだものの、心寧に手も足も出ずに敗北したのだ。それも、僅か数十分の時間の中で百戦し、百敗している。
行動に無駄は見当たらないと思っていても、心寧から見れば隙だらけだったらしい。清は木刀を全て空振りした挙句、心寧の繊細とも言える手刀で魔力シールドを次々割られたのだ。
指導という名の完全なる蹂躙になるとは常和も思っていなかったらしく、常和の止めが入り、今に至っている。
「ほらよ」
「常和、ありがとう」
清は常和が渡してきたスポーツドリンクを受け取り、ゆっくりと口に含んだ。
近くに立っていた心寧は、その様子を見ながら清の隣に座ってくる。
「力量に技術差、全てに応じて今はうちの方が上なのに……まことーはなんで手加減をしているの?」
心寧は若干の迷いを見抜いていたのだろう。それも、手を交えたあの一瞬のうちに。
「……俺の魔法で、灯を傷つけたくないからだと思う」
「清は魔法で人を傷つけた過去があるらしいし、それがついでにストッパーの役割を果たしてるのかもな」
「本当に優しいね……あかりー、魔法を打ち消す力を微かにだけど持っているみたいだよ? だから、まことーが心配するようなことではないと思うよ?」
心寧から言われた言葉に、清は一瞬言葉を失った。
確かに灯は、ツクヨもとい月夜の娘である。だからこそ、打ち消す力を持っていても不思議ではないだろう。
疑問に思うのはそこではなく、何故心寧が知っているのかが問題なのだ。
「心寧、何でそれを?」
「あー、うちの憶測に過ぎないよ?」
「心寧、清に聞かせてやってくれ。俺も気になるしな」
心寧はうなずいた後、小さく息を吸う。
「うちが普段からあかりーに抱きついているのは知ってるでしょ?」
「まあ、目の前で見ているからな」
「一日目のお風呂の時にね、油断したら魔力溢れて気持ち悪くなっちゃったの。それで、慌ててあかりーに抱きついたら魔力の溢れが和らいだから、確信を持ったの! 普段はビーズを通して調整してるから、あまり違和感なかったんだけどねー」
「あー、あの時に灯が若干機嫌悪かったのってそう言う事だったのか……」
清は心寧に苦笑いしつつも、心の迷いが晴れた感じはしている。
心寧が言うから信用できるのもあるが、灯と対等に勝負をしたいと思っている以上、ありがたい情報だろう。
灯の魔法を打ち消す力が本当だとすれば、気合を入れ直さなければ勝ち目は限りなくない。
「とりあえず清! 今は心寧に本気でぶつかって思いを証明して見ろよ!」
「ああ、わかった」
「まことー、見るからにやる気だねー」
休憩を終わりにして、清と心寧は立ち上がる。
また常和が、心寧から一本取ったら次に進むからな、と言ってきた以上、いつまでも負けるわけにはいかないだろう。
その時、常和が手に小さな魔法陣を展開しながら声をかけてくる。
「清、手に魔法陣を展開しつつ、魔力を全体に流した状態で心寧とやってみな」
清は小さくうなずき、木刀を持った手に小さな魔法陣を展開させ、魔力を身の内の全体に流した。
魔力の流れに慣れないうちは、清は何回も心寧に敗北を期した。
(次なら、いける!)
迷いを完全に捨てきり、清は深く息を吸い込み、集中力を限界まで引き上げる。
「なるほどー、おもしろいね! その覚悟、うちに見せてよ!」
木の葉が地に落ちて音を立てた瞬間、清は心寧との距離を一気に詰める。そして、最小限の動きで心寧の反応よりも早く、清は心寧に木刀を触れさせることに成功した。
魔力シールドをうっすらと削るような形になってしまい、これでいいのだろうか、と清は疑問に思う。
そんな考えがよぎった時、心寧が嬉しそうな表情で拍手をしてきた。
常和も手を鳴らしている辺り、大丈夫なのだろう。
「まことーおめでとう! じゃあ、魔法勝負する前にお手本を見せるから、見ててねー」
「お手本?」
「清、言っただろ? 『心寧に教えてもらえるかもな』って。心寧が手本を見せるから、見て盗め。星夜の魔法を完全に使うためにもな」
常和が真剣な眼差しで言ってくるため、清の直感が本気だと伝えてくる。
念の為という事で、清は常和と共に、心寧から距離を軽く離した。
距離を離せば、心寧は足元に魔法陣を展開させる。
魔力が溢れるように心寧の体の周りに流れ始めているのか、魔力が心寧の周囲を包み込んでいた。
「清……これが魔力覚醒状態のやり方だよ! 美咲家相伝――咲く一線【さくいっせん】――」
心寧が魔力覚醒の言葉を言うと共に、溢れ出た魔力が光の粒となり、周囲に煌めき浮かび上がる。
灯の限界負荷に通ずる何かを感じるが、本質が違うのだろうか。
「魔力覚醒……簡潔に言えば、集中状態となって、魔力を使い放題になるんだよ、無論、限界負荷に唯一ならない、美咲家相伝――今は魔力が溢れる体質の心寧だけができる、魔力覚醒状態になる魔法だ」
「心寧だけしか出来ないのに、俺が出来るのか?」
清がそう言えば、魔力覚醒を止めた心寧が疲れた様子で近づいてきていた。
「まことーにはうちとの魔法勝負中にこの力に目覚めて、星夜の魔法を完全に使えるようにしてもらうからね!」
「清の星の魔石なら、やれるはずだ。一応、星名さんに許可取りがてら少し聞いてみたらさ『清くんの魔石なら出来ますよ』って言ってたから、出来るだろ?」
「……わかった、俺の事を信用してくれている灯の為にも――魔力覚醒、ものにしてやる!」
常和が「その意気だ」と言うのと同時に、背中を軽く押してきたので、清はその場を立ち上がった。
灯に限界負荷になる心配をかけたくない以上、自分なりにあがくのが今できる唯一の方法だろう。
その時に心寧が「少しだけ休ませてよー」と言ってきたので、三人は一旦休憩を挟むことにした。
灯の出番を楽しみにしてくださっている読者様へ
この回を含め、三話の間は名前だけが出るだけになっております……大変申し訳ございません!




