八十三:思いを込めた願い
起きた経緯を説明し終わった後、心寧が湖の跡地を見渡していた。
星夜の魔法を試すついでとはいえ、魔法の庭の一部を消し飛ばしてしまったのはまずかっただろう。それも、心寧が幼い頃から生まれ育った土地の一部にもかかわらず。
近くに居る灯と常和も、ただただ心寧を見つめているだけだ。
「心寧、すまな――」
清が心寧に謝ろうとした時、常和が腕をそっと横に出し、言葉を止めてきた。
常和の真剣な眼差しが見つめる先には、こちらの方に振り向く心寧が見える。
魔法で起こしたとはいえ、何を言われても仕方ないだろう。
清が心の中で反省していれば、心寧がゆっくりと口を開く。
「まことー、別に気にしなくても大丈夫だよ。この湖は日が昇る頃にまた戻るだろうしね。それに、清の本当の魔法が戻ってきた事実が……見守ってきたうちらとしては嬉しいから!」
「心寧……」
「お二人さんには、星夜の魔法とか色々聞きたいが、何はともあれだ。魔法……戻ってきてよかったな、清」
そう言って肩に優しく手を置いてくる常和に「ありがとう」とだけ、清は返した。常和になら多く語らなくともわかる、と思ったからだ。
また、隣では相変わらず心寧が灯に抱きついており、いつもの日常が戻ってきたように思えてしまう。
――この四人が今後も笑顔で居られると思える、そんな日常。
魔法の庭に来た時よりも、今の雰囲気はどこか柔らかくなっているようにすら思える。
自分を抱きしめてあげたからこそわかる、というものだろうか。
「あ、そうだ! 夕方、みんなである場所に行こうよ!」
「あー、なるほど。俺は心寧に賛成だ」
「私も賛成です」
「灯と同じく」
そうして、夕方にある場所に行くこととなった。
日が落ち始めた頃、心寧の案内で、来た時に見えていた近くの山へと足を踏み入れていた。
心寧にある場所の詳細を聞こうとしたのだが、着いてからのお楽しみ、という理由で教えてもらうことは出来ていない。
山の中は木々や草花が生い茂っており、何の補装もされていない。だが、心寧は歩きやすい場所がわかっているのか、後を続くだけで道が出来ているようにすら思える。
常和は「心寧に任せれば大丈夫だ」と自信満々に言っていたので、問題は無いだろう。
「そういや、清? 体の調子は大丈夫か?」
「ああ、今は大丈夫だ」
「清くん、あの後ぐっすり眠っていましたもんね」
「……眠っていたまことーに、膝枕をしたり、頭を撫でたり、顔をぷにぷにして遊んでいた子も居たよねー。離れる時にはちゃっかりブランケットかけていたしねー」
「し、心寧さん!?」
後ろを振り向かず前を進んでいた心寧が不意に落とした、暴露という爆弾に、灯は顔をわかりやすく赤らめている。そして、灯が首をふりふりしているせいか、ポニーテールでまとめられた透き通る水色の髪が小さく暴れている。
清としてはそこまで気にしていないが、二人の前でやればこうなるのは目に見えていただろう。もしくは、二人が影からこっそり見ており、気づかなかったのが濃厚となる。
「まあ……体の調子は大丈夫なんだけどさ、星夜の魔法が上手く扱えない、というよりも今の魔力で使えないのがな」
「え……星夜の魔法が使えない?」
「あー、うちらに考えがあるからそこらへんは任せてよ!」
「そうそう。星名さん、後は俺らにバトンを渡してくれよな」
「常和、心寧……ありがとう」
「ありがとうございます。後は頼みますね」
湖の後、体の調子が悪くなって寝込んでしまったのも事実だ。
星夜の魔法が戻ったことにより、神秘の力が体に流れ始めたのも影響しているだろう。
体に馴染まないこともあってか、清は今でも違和感が少しある方だ。
それでも、今は常和や心寧の言葉を信じて、希望が実る瞬間を自らの手で掴み取るのが最善だろう。
「あ、見えてきたよ!」
「……あれは、神社?」
「清、まとめてる時に言っただろ『ある場所の名称は魔法神社』だって」
「魔法の庭は御二方が総称した呼び名、とは言っていましたものね」
「にしても、近くの山の山頂に魔法神社があるとは思わないだろ」
山頂付近に上り詰めた時、石の階段が山を円状に囲いながら姿を見せた。そして、木々に囲まれながら、中心に古びた木の神社がポツリと佇んでいたのだ。
神社自体が小さいこともあって、周りの木々に囲まれ、校舎などの下からは見えなくなっていたのだろう
「みんなでお願いをしたいな、って思ったからここに来たの! それに、四人がそれぞれ思うべきことを、再度思い返す面でもちょうどいいでしょ?」
「さすが心寧! 考えが違うな」
「とっきー、そんなに褒めても笑顔しか出ないよー」
「俺からしてみりゃ、一番のご褒美だな」
隣でイチャつき始めた二人を横に、気づけば灯が服を引っ張ってきていた。
「清くん、ちょうどいい機会ですし……一緒に思い思いの願いを祈りましょ」
「そ……そう、だな」
灯が満面の笑みを浮かべながら言ってくるため、清は気持ちが落ちつかず熱くなっていた。
四人で神社の御賽銭箱前に立ち、鐘を鳴らした。鳴らされた鐘は山の中に響き渡るかのように、綺麗な音を響かせている。
そして、四人は静かにお辞儀をし、手を鳴らした。
「この四人で今後も楽しく過ごせますように! 心寧の笑顔がもっと見れますように!」
「四人でいつまでも楽しく過ごせますように。とっきーの隣でずっと一緒に居られますように」
常和と心寧が思い思いの願い事を口にする中、清と灯は目をつむっていた。
(四人で笑顔の絶えない、幸せな毎日を過ごせますように。灯との魔法のような日々に、永遠を誓えますように)
多分、これはお願いするようなものではないだろう。
それでも、大事な思いを心の中で、改めて固めておきたかったのだ。
四人が思い思いの願いを祈った後、月明かりの差し込む山の中を下り、帰路を辿っていた。
「そう言えばさ、灯は何を願ったんだ?」
「内緒です。そう言う清くんこそ、何を願ったのですか?」
「俺も内緒だ」
「ふふ、じゃあ、お互い様ですね」
うっすらとした月明かりに照らされながら、灯は優しい笑みを顔に浮かべている。
隣でずっと一緒に居たい、と思ってしまうのは、欲張りなエゴの塊だろうか。
その時、前を先行して歩いていた心寧が口を開いた。
「明日はまことーが星夜の魔法をしっかりと使えるように本気で指導するから、覚悟しといてよね!」
「あはは。清、俺も付いてるから安心しろ」
「別に心配はしてない」
「清くん、無理はしちゃ駄目ですよ?」
「灯もそれを言うのかよ……」
灯が微笑みながら言ってくるため、清は苦笑いした。
「あかりー、一緒に歩こうよー」
「ふふ、今行きますから」
心寧が灯を前に誘い隣を歩かせれば、常和がこちらへと下がってくる。
「清……彼女の希望であるご期待に添えられるようにしないとな」
「ああ、わかっているさ」
茶化して小声で言ってくる常和に感謝しつつも、清の決意が変わることは無い。
再度心の中で、覚悟を決め直しているのだから。
風に吹かれた木々が音を立て、月明かりが帰り道をちらちらと照らす山の中は、四人の思いを自然が祝ってくれているのかもしれない。




