七十七:三日目、魔法を知ることで
魔法合宿三日目。
清と灯、常和と心寧、ツクヨは校庭に集合していた。
昨日の予定通り、魔法について勉強するようだ。
また魔法よりも先に、管理者の存在意義を軽く話す、とツクヨは言っていた。
管理者の存在意義はペア試験でも触れている為、その時の延長線上になるらしい。
ペア試験では魔法勝負について話していたが、今回は生まれた歴史に遡るようだ。
ツクヨの発言次第では管理者への警戒が高まるだけだろう。
『昨日、魔法論理法は争いを抑制するため、と話したのは覚えているよね?』
「争いを起こした魔法使いがいたから、その抑制の為でしたね」
「あかりー、補足ありがとう!」
灯が補足をしてくれたためか、ツクヨは静かにうなずいて続ける。
『管理者と魔法勝負は密接に関係していてね……魔法世界の秩序を守る役割を果たすために、管理者の集いが結成され、魔法勝負という魔法を使う安全な遊びが生まれたとされている。そして、尚も語り継がれる管理者は、魔法世界を守るために今も存在しているのだよ』
魔法勝負と管理者の存在に関わりがあるのは初耳だった。
ペア試験の際に灯が『魔法世界を壊そうとする者がいる』と返していたのは、この歴史を知っていたからだろうか。
四人で納得してまとめていれば、ツクヨはフードから魔石を取り出していた。そして、魔法陣を展開させながら言葉を口にする。
『次は、本来の魔法とは何を指すかだ』
「本来の魔法?」
「え、ツクヨ先生! 魔石を通して感じとった魔力を、魔法として具現化して使う。それが魔法って事じゃないんですか?」
『黒井君は着眼点が良いね。古村君、君はもう少し鳥籠の外に目を向けるように』
本題は『本来の魔法について』であり、常和が口にしたのは一般的な答えのため、回答としては間違いになってしまうのだろう。
常和が首をかしげている中、ツクヨが『場所を移そう』と言い、清達はツクヨに続いて森の中へと足を進めた。
太陽の光を反射して輝く湖の横に近づいた時、ツクヨは足を止めた。
そして、魔法陣の色を変えながら振り向いてくる。
『魔法というのはね、本来の性質は目に見えない自然の力を利用しているのだよ。魔法陣から個々の力として、属性の性質を変化させて生み出しているのだよ』
「魔力と魔法陣はどういう関係があるの?」
「心寧さん、魔力というのは魔法使いの体内に宿るものですよ」
『そうだね。魔力は生まれたころから自然的に生み出され、魔石に触れて初めて自覚することができる。だからこそ、魔力を持たざる者は魔石に触れても変化がないと言えるね。つまり、魔法陣を使えるのは魔力を持つ者だけ、ということになるのだよ』
魔法は自然の力を使用しており、魔法陣は個々が本来持つ魔力の属性である。そして、魔法陣を通して自然の力を属性魔法にしている、とツクヨは言いたいのだろう。
清は星の魔石使いということもあり、理解するまでは造作もなかった。
(魔力の源は自然の力が関与していたのか……?)
星の魔石は魔力の源を感じられるため、それを感じ取る際に魔力を理解する必要があったのだ。しかし、魔法すなわち自然の力であったのは驚きが隠せない。
だとしても、星の魔石は主属性を自由に変えられる、というのは納得がいかないだろう。
『ちなみに言っておくが、何故魔力に属性付与されえているのかは未だに解明されていないのだよ。そもそも、魔石自体がなぜ日本と魔法世界だけに存在するのかさえも不明だからね』
「魔法って奥が深いんだな」
「とっきーがそれ言う?」
「常和と心寧って風と水属性だから、この中だと一番自然の力に近いよな」
「はあ……清くん、それを言ったら、全ての魔力を扱える私たちが一番自然に近いことになりますよ?」
「冷静に考えれば、星名さんの言う通りだよな」
「まことーは意外と抜けてるとこあるよねー」
星の魔石を抜いたのを前提で言ったが、迂闊だった。
清は炎、灯は氷、常和は風、心寧は水が主属性であるため、四人全員が自然の力に近いとすら言えるだろう。
場が笑みで包まれていれば、ツクヨが提案をしてきた。
『なら、この機会にお互いの魔法を知ってみるのはどうだい? 私は魔法を使えないから補足を入れる程度になるがね』
「ツクヨ先生は星名さんの魔法を打ち消してませんでしたか?」
「古村さん、ツクヨが魔法を打ち消せるのは、生まれつきの魔力そのものの影響ですよ」
『うん、星名君の言う通りだね』
「なんで灯が知っているんだよ……」
清が呆れながらに言葉を口にすれば、悩んでいた心寧が灯をじっと見つめていた。
心寧の傾向からして良からぬ事でも考えているのだろうか。
そして、心寧は思いついたかのように灯との距離を詰める。
「気になってたんだけど、あかりーの無制限合成魔法って結局どうゆうものなの?」
「あー、俺も気になっていたかな。灯に後で教えるって言われてから聞かされてなかったし」
「確かにな……俺と心寧の魔法は普通よりも洗練されてるだけだから、他とほとんど同じだしな」
「ちょうどいい機会ですし、お話しましょうかね」
灯から以前話されたのは零式についてだが、無制限合成魔法となれば話は別だろう。
灯は一呼吸置き、ツクヨに目線を送っていた。
『仕方ないね。星の魔石については先に簡単に話させてもらうよ……星名君、そういうことだろ?』
「ええ、私から話すことを今の状態では禁じられていますからね」
「禁じられている?」
「清くんには何れ話しますから、今はツクヨの話を聞きましょうね」
灯はそう言って、柔らかな微笑みをこちらに向けてくる。
ツクヨと灯の問題に割って入る気はないため、おとなしくしておくのが最善だろう。
灯が何れ話すと言う事は、記憶に関与しているとすら思えてしまう。
『星の魔石はね、流れ星から生まれた特別なものとされているのだよ。色々と省くが、星の魔石は魔力ではなく、神秘の力を源として使っているのだよ』
「私が神秘の力を使っているからこそ……不完全な清くんはペア試験の時、魔力が逆流してしまった」
「あの時の違和感はそれだったのか……じゃあ、俺はやっぱり魔法を?」
「それはどうでしょうね?」
灯は答える気が無いらしく、不思議そうに首をかしげて見せる。
灯が分かっていたとしても、答えることを出来ないが正しいのだろうか。
何があっても灯を疑う必要は無いだろう。それは、隣で支えてくれている灯にだからこそ思える、安心と信頼だ。
(え……目眩が)
ふと気づけば、目の前が歪んでいた。
『最後になるが、星の魔石が神秘の力を使っていることが判明してからは――魔力の祖先となる、自然の力そのものなのではないかと推測されているのだよ』
「え、清くん、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ……少し頭が痛いだけだから」
「……清、無理するなよ」
神秘の力という言葉を聞いてから、清は脳が刺激されるような痛みを受けていた。そのため、頭を押さえたことで心配されてしまったのだろう。
落ちつけるために目を閉じれば、今まで空いていた記憶が埋まるような感覚が襲ってくる。
(……もしかして、俺が忘れていたのって)
「まことー、大丈夫?」
声が聞こえて目を開ければ、心寧が回復魔法陣を展開してくれていた。急に楽になったのは心寧のおかげだろう。
清は心寧に感謝をしつつ、ありがとう、と伝えて灯の方に目を向ける。
気づけば、灯は右手に魔法陣を展開し、様々な形で無数に形成しながら口を開く。
「清くんも大丈夫そうですし……無制限合成魔法が何たるものなのかを、皆さんにお話しますね」
そう言って、灯の口から無制限合成魔法というものが語られる。




