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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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七十六:笑い合える希望にすがって

 夜ご飯の時間となり、四人は食堂に集まっていた。

 献立は灯特製の蕎麦らしく、清は食べる前から心が躍っている。

 現実世界以降、灯が定期的に作ってくれるため、気づけば虜にされていた。


 また今回の献立が蕎麦なのは、常和のリクエストらしい。

 常和は蕎麦が大好物ということで、灯の作る蕎麦が以前から気になっていたようだ。

 常和が気になっていたのは、清が美味しかったと話題で話すことが多かったせいだろう。


「灯、ありがとう」

「ふふ、お代わりもしっかり用意してありますからね」

「清……すごく嬉しそうだな」

「まあまあ、嬉しそうなのは良いことじゃん! 作った方も嬉しそうな表情を見るのは作った甲斐があるってもんだよ?」

「ふふ、心寧さんの言う通りですね」


 話もほどほどにし、蕎麦と天ぷらが乗ったお盆を各々で持ち、席に向かおうとした。

 数歩歩いた時、清はふと思っていたことを口にする。


「そう言えばさ。魔法世界の歴史って、魔法があるのにも関わらず解明されていなかったんだな?」


 清の言葉に、心寧は軽くため息をこぼした。

 また、灯は隣で苦笑いをしている為、おかしなことを言ってしまったのだろうか。

 歩を進めるたびに鳴る木のきしむ音が、空白の間をゆっくりとした時間に感じさせてくる。


「まことー……魔法すなわち何でもできるわけでは無いの」

「そうなのか?」

「人にも向き不向きがあるように、魔法も全てに応じて全知全能ではないんだよ?」


 心寧の言う事は理に適っていて、間違いないだろう。人で例えることにより、双方の捉え方の誤差を無くしているのが良い例だ。

 微かな部分への配慮をしているのは心寧らしく、頼りになる一面でもある。

 普段は繊細で見え隠れしている部分が鮮明に見えているのは、魔法合宿だからこそ出来る収穫と言えるだろう。


「星名さんは心寧の言葉に追加することはあるか?」

「そうですね……清くん、魔法の全てがわかっていれば、魔法が限られた者しか使えない世界……もしくは、魔法の存在しない世界を簡単に生み出せますからね」

「確かに」

「全てがわかっていれば、うちらみたいな要注意危険人物とかに危険度を分ける必要もないんだよ」

「お二人さんの星の魔石が良い例だよ……まったく」


 そう言う常和はどこか嬉しそうな表情をしているため、三人は小さく笑いをこぼした。


 全員が席に座り、食に感謝をした後、礼儀を正してから箸を進める。


(……これは)


 蕎麦を口に入れた瞬間、清の中枢神経は強く刺激された。

 作った蕎麦であるにも関わらず、口に残る粘り気はなく、コシとハリのある麺の艶やかさ。また、灯と心寧オリジナルのつゆとの相性がとてもよく、口中香(こうちゅうか)による鼻で感じる匂いすらも愛おしく思わせてくる。


 気づけば、清の頬は美味しさにとろけていた。


「灯、心寧、とても美味しいよ。ありがとう」

「ふふ、ありがとうございます」

「今回は真面目に作ったから、当然だよ」

「心寧は普段から魔法で実験しなきゃ、すごい美味しんだけどな」

「とっきー。何か言った?」

「いやー、なーにも。星名さんに心寧……作ってくれてありがとうな」


 ふと灯の笑顔が目に留まり、清は心が温かくなるのを感じた。

 灯と二人での食卓は無言の時間があるため、灯を笑顔に包める幸せな時間を作っていたい、というエゴが心の中にあるせいだろう。


 灯の笑顔は清からしてみれば、小さなつぼみから咲き誇る花のようで、できることならずっと見ていたいものだ。


「清くん、どうしました?」

「え、あ、いや……なんでもない」

「天ぷらとか冷めちゃいますよ?」

「ああ、今から食べようと思っていたとこだ」

「お蕎麦と合わせて食べると美味しいですよ」


 灯が満面の笑みで言ってくるため、清の頬は赤くなっていた。

 常和と心寧は清の手が止まっていたことに気づいていたらしく、二人で優しい眼差しを向けてきていた。


 清は自身が灯に見惚れていたことを隠しながらも、思い出した事を口にする。


「そう言えばさ、なんで常和はあの時に走るのを拒んだんだ?」

「えっとな……魔法結界に沿って走ればわかるんだけどさ、見えてる以上に広いんだよ。同じ場所に戻ってくることが出来ないんじゃないかってくらい」

「ま、とっきーは以前、うちが注意したにも関わらず無謀な賭けに出たからねー」

「無謀な、賭け?」


 心寧の不思議な発言に清が首をかしげれば、常和は苦笑いをしていた。

 灯も不思議に思ったのか、心寧に尋ねている。

 心寧が教えてくれた情報によると、過去に常和が無謀な賭けに出て魔法の結界に沿って走り、それで迷子になった常和を心寧が迎えに行った経緯があるらしい。


 心寧の話から直感で感じ取れるのは、魔法結界には近づかない方が良いということだろう。


「一応言っとくけど、これでもうちは魔法の庭の管理人でもあるから、誰がどこにいるかはなんとなく分かるから安心してねー」

「心寧さんは魔法の庭の管理人をしていたのですね?」

「うん、そうだよー!」

「大変そうだな」

「いやー、うちの管理力をなめてもらっちゃーこまるねー」

「……あ、お二人さん。心寧は実際のところ絶対分かってるからな」


 常和は喋るタイミングを窺っていたのか、なぜか呆れながらに言っている。

 教えてくれることには安心感を覚えるため、ありがたいのに変わりないだろう。


「そういえばさ? まことーは夢で魔法の庭を見たって昨日言ってたよね。どんな夢を見たの?」

「それは俺も気になってたんだよな」

「えっと……」

「清くん、教えても良いと思いますよ」

「灯……そうだな」


 灯の後押しもあり、夢で見た光景を常和と心寧に話すことにした。

 校舎前の校庭で魔法勝負をしていたこと、見たことのない魔法を使っていたことを嘘偽りなく。

 聞き終わった心寧が思いっきり両手を合わせ、高く響く音を出す。

 心寧の隣に座っていた灯が微かに体を震わせたので、灯からしても予想外の行動だったのだろう。

 そして隣に座っている常和が苦笑いをしているあたり、嫌な予感を感じさせてくる。


「じゃあさ! 清が本来の魔法を取り戻したら、灯と夢のように魔法勝負だね!」

「ふふ、魔法を戻したとしても、清くんの体に馴染んでからですね」

「その時は俺と心寧が指導してやるよ!」

「いやいや、話がトントン拍子で進んでいるのはいいけど、魔法が戻るときまった―

―」


 最後まで言い終わらないうちに、常和が肩に手を置いてきたため、清は思わず口を止めた。

 そして三人を見てみれば、真剣な表情と眼差しだ。

 期待を背負ってしまっているが、これが運命というのなら、微かな希望に手を伸ばしてもいいのだろう。


「清、前に言ったろ? 『この四人の絆は奇跡を生む』ってさ」

「まことーとあかりーの役目は記憶を全て戻すこと。その協力は出来なくとも、思い出した後に力を貸せるのは……美咲家の末裔であるうちと、親友である常和だよ。一人で頑張っていたあかりーは少し休んで欲しいからね」


 灯は小さく微笑み、静かに呼吸をし、ゆっくりと言葉を口にする。


「清くん、心寧さんと古村さんの言う通りですよ。四人ならどんなことでも受け止めて、乗り越えることができる……皆でご飯を食べながら、そう約束したでしょ?」

「……そうだったな。灯、常和、心寧、その時はよろしく頼むよ。希望を手にするまで、頑張ってみせるから」

「もちろん、俺は元からその気だぜ!」

「うちもー!」

「私は二人が清くんの指導をしている間は、この校舎の本を全て読み漁っていましょうかね」


 その場は希望に満ちて盛り上がり、温かさを感じさせてくる。

 人は希望に強くすがり、絶望を知ってしまう。それでもこの四人でなら、希望をずっと失うことがない、と言い張れるのだろう。

 その時、灯が微笑みながら声をかけてきた。


「清くん、本当に頼もしきご友人を持ちましたね」

「本当にその通りだよ……俺にはもったいないくらい、最高の親友だよ」

「……類は友を呼ぶ、ですね」

「その言葉、ありがたく受け取っておく」


 清は顔を赤らめながら、灯から目を逸らして小さく呟いた。

 灯はそんな清を不思議に思ったのか、微笑みながらも首をかしげている。

 ふと清の脳裏によぎるのは、この状況を常和と心寧が見逃すはずがないということだ。


(先に逃げておくか……)


 脱兎のごとく逃げる為、清はその場を立ち上がる。


「灯、蕎麦のお代わりを頼んでもいいか?」

「……いいですよ」


 灯も顔を赤くしているあたり、状況を理解したのだろう。

 常和と心寧にからかわれるのは仕方ないことだと思い、清は心の中で素直に受け入れておいた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで清の記憶が戻るのかな、と期待していると共に、 心寧と常和のことも白す語られるのかな、と期待しています。 美咲家と管理者の関係なんかも。 灯の手打ち蕎麦(じゅるり) めちゃくちゃ美…
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