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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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七十五:二日目、魔法世界の生まれた歴史

 二日目となり、四人は勉強するための部屋に集まっていた。


「勉強って言ったって、どんな勉強をするんだよ……」

「歴史に触れる的なことは言っていたけどな。というか常和、珍しくやる気だな?」

「いや? 俺は逃げるつもりで――」

「とっきー、やめといたほうが身のためだよー」

「うーん……私も心寧さんの意見に賛成ですね」

「ほ、星名さんまで……」


 逃げることを制止された常和は、分かりやすく肩を落としていた。

 常和は思ったことを行動に移そうとするため、それが悪い方向に働こうとしたのだろう。

 どんな勉強内容かを清と灯、心寧の三人で予想していれば、木製の扉が静かに開く。

 そして、ツクヨが紙を四枚ほど携えて姿を見せる。


『待たせてすまないね』


 ツクヨはそう言って、持っていた紙を四人に一枚ずつ配り始めた。

 受け取った紙は白紙となっており、文字が一つも書かれていない。


(……これに書けってことか?)


 不思議に紙を眺めていれば、ツクヨが話し始める。


『まず先に、今日と明日の勉強内容について軽く話しておこうか』

「勉強内容を?」

『そうだね、星名君。本日は魔法世界の歴史について、この教室で学んでもらう。そして三日目だが、魔法についてだ。場所は外で実施を予定しているよ』

「ツクヨ、質問があります」

『なんだね?』


 灯が疑問をツクヨにぶつけていれば、後ろの席に座っていた心寧が清の肩を叩いてくる。

 清が後ろを振り向けば、心寧は呆れたような表情をしていた。

 なんでその目でこちらを見るんだ、と言いたくなったが、清は静かに耳を貸す。


「あかりーって、あれには相変わらず厳しいよね?」

「あれ? あー……これでも柔らかくなった方だぞ?」

「え、噓でしょ!?」

「御二方、全て聞こえていますよ」


 心寧と小さい声で話していたが、灯は気づいていたようで目を細めてこちらを見てくる。

 心寧が知らん顔をしてそっぽを向くので、清も黙って前を向きなおすことにした。

 四人がツクヨに視線を向ければ、ツクヨはフードの中から魔石を取り出し、軽く指を鳴らす。

 その時、微かに魔力を帯びた波紋が教室の中を舞うのが見えた。


 ふと気づけば、先ほどまで白紙だった紙に文字がくっきりと浮かび上がっていた。


『全員、資料に文字は浮き出たかね?』

「私は問題なく」

「うちもー」

「灯と同じく」

「ツクヨ先生!」

『古村君、どうしたのかね?』

「頭痛いんでさぼっていいですか」

『魔法結界に沿って一周走ってもらう予定だ――』

「すいません! 授業を受けさせていただきます」


 常和の運動能力をみれば、一周走るくらいは容易だろう。だが、常和が本気で嫌うのを見るに、魔法結界には何かしらの仕組みがあると想像できる。

 清と灯は苦笑いをし、心寧が常和に笑っていれば、ツクヨは軽く咳払いをした。


『準備できたという体で始めさせてもらうよ。まずは、資料に目を軽く通してくれたまえ。全員が目を通し終わった後、補足しつつ話すからね』


 紙に目を通してみれば、魔法世界に関する歴史の事がいくつか書き込まれていた。

 一番目を引かれるのは、『魔法世界の生まれた歴史』として内容が一括りされていることだろう。


 魔法世界、魔法論理法、魔法を認知できる理由、最後に管理者の存在意義について記載されていた。

 言葉だけを並べれば、ほとんど灯と勉強した内容になっている。だが、今回書かれている内容はそれ以上に深く、今までの勉強が浅はかだと感じさせてくる。


『……見た感じ、全員目を通し終わったようだね。先に言っておくが、管理者の存在は明日の授業の時に触れるからね』


 清はふと紙から目を離し、ツクヨに視線を合わせた。

 その時、何気に灯が机の距離を寄せてきていたが、清は小さく笑いながら受け入れる。


『では、補足を始めるとしようか。見てもらっての通り、魔法世界が生まれた歴史は詳しく解明されていないのだよ』

「あの、ツクヨさん。それならなぜ、生まれた歴史は存在しているのでしょうか?」

『そうだね。では美咲君』

「うわ……」


 わかりやすいくらい嫌な顔で引き気味に声を出す心寧は、ツクヨが苦手なのだろうか。


『過去に魔法を使える者たちが魔法世界を生み出した、というのは表の内容だね』

「この魔法の庭には歴史に関する資料があるよ。でも、肝心のページは全て白紙。灯達に渡したあの本のようにね」

『黒井君、そう言う事だよ』

「清くん、解明しようにも解明のしようがない、ということですよ」

「灯、ありがとう」


 灯が軽く補足してくれたため、清はすぐに理解が追いついた。


 魔法世界の生まれた歴史は、表以外の謎が闇に潜んでいる。だが、根本に魔法が強く絡んでしまい解明が不可能になっている、というのが現状なのだろう。


 不明な理由さえ判明すれば、世界を揺らがす可能性でもあるのだろうか。


(管理者のツクヨさんさえ分かっていないんだ……無きにしも非ず、か)


 ふと気が付けば、灯が清の手を静かに握ってきていた。

 清は表情にこそ出していないが、灯が心の不安を和らげてくれている、というのは理解できる。それは、灯と長く居たからこそ分かる仕草だろう。

 そっと息を吐き、目の前の壁に立ち向かう覚悟を清は決めた。


『そして魔法論理法……これは、世界を創った魔法使い達が争いを好まないことを理由に制定された、と推測されているのだよ。決して、管理者が定めた訳ではないからね』

「ツクヨ、なぜ私を見るの?」

「灯、少し落ちつこうな」


 清は握られていた手に力を軽く籠め、灯の気を多少紛らわせる。

 灯がこちらをそっと見て小さく微笑んだため、嫌ではなかったのだろう。


 ツクヨがここまで話してきていたのは、あくまで不確定要素の前置きに過ぎない。

 下の行に目を通せば、日本という文字が刻み込まれ、魔法を認知できている理由の裏付けを記載しているのだから。


『今から話す内容は、日本国内の最重要機密事項――魔法や魔法世界の存在を日本、というよりは日本人だけしか認知できていない理由になる』


 ツクヨは一呼吸置き、言葉を口にする。


『意外かもしれないがね、海外及び日本に来ている外国人は魔法を認知できていないのだよ』

「ツクヨ先生。でもさ、何で海外の人が認知できてないってわかるんだよ?」

「とっきー、どうせ明日言われるかも知れないけどね。……魔石という異質なもの自体、現実世界でいう日本と、この魔法世界にしか存在してないからだよ」

「それは初耳ですね」

「灯と同じく」


 ツクヨが、その件は明日話す、と言って一旦保留となった。

 海外の方が魔法を認知できていない理由は、魔法論理法が他国に情報漏洩しないように抑制しているのでは、と紙に書かれている。

 魔法世界や魔法論理法、一筋縄ではいかない謎が深まるばかりだ。


『重苦しい勉強もこれで最後にしようか。魔法で危害を加えてしまった場合、魔法世界への移動を余儀なくされる。それは理解しているね?』

「俺と灯は嫌というほど味わいましたよ」

「私と清くんは実際に体験していますからね。魔法が使えたら隔離される……それだけの話では?」


 灯の返答に、ツクヨは頭を抱える様子を見せた。

 ツクヨは一呼吸置き、裏に隠された真相を話し始める。


『一つだけ、明らかな事実があるのだよ……魔法世界が生まれる前、力に溺れて愚かな争いを起こした魔法使いがいた。しかし、魔法使い達は臆せず対抗する。魔法を便利な力の姿に戻すために。その結果の上で魔法世界は生まれ、争いを抑制させる圧力として、魔法論理法は今の形に制定されたのでは? と管理者内で語り継がれてきたのだよ』


 ツクヨは話終われば『今日は解散、この後は自由でいいからね』と言い残し、部屋を後にした。


 ツクヨが居なくなった後、灯が悩んだ様子を見せていた。


「灯、どうしたんだ?」

「……あ、いえ、少し気になることがあっただけですので」

「そうか。あまり一人で無理するなよ」


 清は灯に優しく声をかけ、そっと頭を撫でる。

 灯は驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑む表情を見せてきた。

 いつの間にか二人の雰囲気になりかけていたところで、咳払いと小さな拍手が鳴り響く。


「お二人さん、今はあまりいちゃつかないでくれよ……心寧が焼きもち焼くから」

「焼かないから! あかりー、お昼と夜のお食事作りに行こ! その時にうちが清に代わって悩みを聞いてあげるから」

「ふふ、心寧さん、ありがとうございます。そうですね、作りに行きましょうか」


 その時、灯がこちらを急に見てきた。

 灯の自由にしてほしいため「俺は気にしなくていいから」と言えば、灯は嬉しそうな表情のまま心寧と部屋を後にした。

 清としては灯の行動を縛る気は一切なく、灯の気が赴くままに行動してほしい、と思っている。


「清、俺らはお風呂でも洗いに行こうぜ」

「そうだな」

「聞きたいことは、夜ご飯の時にでも聞けばいいさ」

「ほんと、常和はなんでもお見通しだな」


 清と常和は共に笑いながら、部屋を後にする。

 お風呂掃除の際、常和と歴史の気になるところを気づけば話し合っていた。

 気兼ねなく話せるのが、幸せという小さな形なのだろうか。

※追記

10月9日の本日、古村常和の誕生日です! これで全員の誕生日が出揃いましたね……今後も頑張っていきます!

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