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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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七十四:君の隣で変わらない星空

 魔法の庭及び校舎内の説明が終わり、気づけばすっかりと夜になっていた。

 清と常和は、食事の後にお風呂を先に頂いたため、灯と心寧がお風呂から上がってくるのを待っているところだ。

 寝泊まりする部屋は、個人個人で空間を確保する余裕があり、場所を取り合う事態が起きることはないだろう。


 清が読書をしていれば、常和が近づいてきていた。


「清、魔法の庭はどうだ? といっても、今日は校舎と外を見まわったくらいだけどさ」

「自然豊かで良い場所だなと」

「まあ、そうなるよな」

「この自然豊かな感じ、俺は好きだけどな」


 魔法の庭はたくさんの木々に囲まれ、自然と触れ合って伸び伸び育つにはうってつけの場所と言える。


「清は本当に優しい奴だな……てか、読書ばかりしてないでさ、恋バナしようぜ! 恋バナ!」

「なんで本命が戻ってくるとこですんだよ!?」

「好きな人の事とは言ってないんだけどな」


 恋バナといえば好きな人を暴露、という認識をしていたこちらの自爆ではあるが、互いに分かっているうえでの恋バナは本質的にどうなのだろうか。

 世間ではアドバイスや手助けをしてもらう場合もあるらしいが、常和の考えは明らかに違うだろう。


 その時、障子扉がすれた音を立てながら開き、二人の少女が姿を見せる。


「二人ともお待たー」

「清くん、お待たせしました」


(……すごく、かわいい)


 清は灯の姿を見た瞬間、言葉を失った。

 灯は長袖のワンピースパジャマ、いわゆるネグリジェという寝間着に身を包んでいる。フリルが付いた薄水色のネグリジェに、胸元から伸びた紐先に繋がった二つの白いポンポンが、灯の可愛らしさを素直に引きだしている。


 灯のパジャマ姿を何度も見ているとはいえ、ネグリジェタイプは見たことが無い。

 露出が少ないのは普段通りであるが、うっすらとして風通しが良さそうな生地に身を包み、灯の整った体型と小さな果実を目立たせている。


(見慣れていないとはいえ……心臓に悪い)


 早まる心臓の鼓動を落ち着けていれば、黙っていた心寧が口を開いた。


「まことー、顔赤いけど……大丈夫? あ、もしかしてー、あかりーに見惚れていたなー?」

「心寧、それくらいにしとけ。清が可哀そうだろ。心寧と星名さん、すごく似合っているよ」

「……ありがとうございます」

「清、お前は黙ってないで、星名さんになんか言ってやれよ」

「あ、それかうちの姿を褒めてくれてもいいんだよ?」

「心寧さんは少し静かにしましょうね」

「あかりー、お風呂の件……もしかしてまだ怒な感じ?」

「そうです、と言ったら……?」


 灯が深みを込めた言い方をしたためか、心寧は渋々常和の隣に座った。

 心寧も心寧で特徴的なパジャマをしており、白色のセパレートタイプでフリルが付いており、胸元に薄桃色の小さなリボンがワンポイントとなっている。

 心寧の傾向から考えるに、フリルを灯とお揃いにしたのだろう。


 二人とも傍から見れば理想の可愛らしさを持っているため、どう見ても可愛いのは事実だ。しかし、清からしてみれば灯の方が一段と可愛く見えている。


「灯、似合っているし……その、かわいいよ」

「清くん、ありがとうございます。えっと、その、褒めてもらえて嬉しいです」

「ま、あかりーは選ぶ時、まこっ……」


 心寧が何か言おうとした瞬間、灯がすぐさま心寧の元に駆けより口を両手でふさいだ。

 心寧は口を塞がれながらもごもご、と何か言っているが、到底聞き取れるはずがない。

 清は常和と共に二人を制止しつつ、少しだけ距離を取った。


「もう……とりあえず、今日は早めに休みましょう……」

「灯が選ぶ時何を思っていたのか気になるが、俺は灯に賛成かな」

「えー、もう少し起きてようよー」

「そうだぜ清! 恋バナしようぜ、恋バナ!」

「なんで男女入り混じる空間でするんだよ! 俺と灯は寝るから……二人でしたらどうだよ?」

「えー、ほんとーにいいのかなー? まことーとあかりーの好きな人、大声でバラしちゃうか――」

「心寧、実行したらどうなるか覚えとけよ」

「ええ、右に同じく」

「あはは、安心してくれお二人さん……俺らも疲れてるし、心寧も冗談で言ってるからよ」


 苦笑いをしながら言う常和に、本当かよ、と返してその場は静まった。


(……灯の好きな人、か)


 魔法の明かりは静かに消え、部屋に差し込む月明かりだけが光となる。




 寝静まってから時間がだいぶ過ぎたころ、小さく擦れる音に清は目を覚ました。

 重い体を持ち上げつつ上半身を起こせば、透き通る水色の輝きがこっそりと部屋を抜け出しているのが目に映る。

 見間違いかと思い隣を見れば、灯の姿が無かった。

 ペア同士で固まって寝ていた為、必然的に清は灯の横で寝ることになっていたのだ。


 清は常和と心寧を起こさないようにしつつ、静かに部屋を抜け出した。


 灯の魔力を追って歩けば、渡り廊下の中心でその魔力は止まっていた。

 渡り廊下を繋ぐ戸から目をやれば、透き通る水色の髪を風になびかせ、月明かりに照らされながら、その場に座り足を宙に浮かせている灯の姿が目に映る。


 渡り廊下は足場だけの為、策や天井が一切ない。そのこともあり、星や月を見るには最高の場所と言えるだろう。


 灯がネグリジェを着たままなのと、月明かりに照らされている影響もあり、さらに可憐さと美しさが増して見える。


 清は音を立てずに戸を開けて、そっと灯に近づく。


「隣、失礼するよ」

「え、あっ」


 灯は急に声をかけられて驚いたのか、一瞬ピクリと体を震わせた。

 清はそんな灯に笑みをこぼし、ゆっくりと隣に座る。

 場所が場所なのもあり、吹き抜ける風の音が幻想的に耳の奥へと優しく響く。


「灯、こんな時間にどうしたんだ? 眠れない感じか?」

「そう……ですね。この場所と、四人で過ごせる時間を考えたら眠れなくて」

「少しだけ、一緒に話すか」

「うん」


 灯は小さくうなずき、ゆっくりと夜空を見上げる。

 灯につられて空を見上げれば、満天の美しい星空に、綺麗な月の明かりが視界に優しく差し込む。星雲を肉眼でしっかりと認識できるほど澄んでいる星空だ。

 自然の織り成すプレゼントもいえる光景に、清は気づけば言葉を失っていた。


「すごくきれいですよね」

「ああ、そうだな。美しい自然そのものだよ」


 清が言葉を返せば、灯は小さく呼吸をしている。


「清くん、この場所が色々な謎に包まれているのはわかりました。でも……」

「でも?」

「この四人で過ごせる時間は謎や運命なんかじゃない、大切な幸せそのものなんだ、って私は言い切りたいです」

「俺が言うのもなんだけど、言い切れるさ――絶対にな」


 清の発言に灯は驚く様子を見せたが、表情はすぐに微笑みへと包まれる。


「この一週間の魔法合宿、最高の思い出にしたいですね」

「それは俺も同感だ」


 気づけば、灯はそっとこちらの腕に寄りかかり、頬をすりすりしてきていた。また、灯の頬が何度も形を柔らかく変えるため、愛らしさを感じさせてくる。

 灯がたまに見せる、可愛らしい仕草の一つだ。


「灯、明日も早いし……そろそろ部屋に戻るか」

「そうですね……え?」


 清は右膝をつき、右手を前に出しつつ、左手を自身の胸に当てる。そして、小さな笑みを作り出す。

 その瞬間、月明かりが差し込んだこともあってか、灯は固まったようにこちらを見たまま言葉を失っている。


「姫さえ良ければ、お部屋までお送りいたします」

「ばか……少しだけ、甘えてもいいですか?」

「……姫のお望みのままに」


 灯の背中と膝裏に腕を回し、優しく持ち上げる。

 灯は以前と変わらない重さで、本当に心配になってしまう。

 持ち上げた体勢が安定すれば、灯はギュっと清の服を掴み、幸せそうな笑みで顔を胸に埋めてくる。


(本当に、可愛らしい奴だよ……灯は)


 清は、星と月明かりに照らされながら、灯を抱えて元居た部屋へと静かに戻っていく。

 この時、灯の顔が照れて赤くなっていたことに、清は知る由もなかった。

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