七十二:親友の不安
休日になり、清は常和と一緒にお店の前まで来ていた。
「清、今日は付き合ってもらってすまないな」
「常和の相談とあれば、断る理由が無いからな」
「その考え、お前らしいな」
「まあ……俺は俺だから、な」
「はは、とりあえず入るか」
常和の言葉にうなずいてから、お店に足を踏み入れる。
このお店は以前にも常和と来た、真ん中のスペースに可愛い装飾、左にレトロな雰囲気を兼ね備え、右に近未来風のデザインが施された店内のお店だ。
そして、以前は無かった二階が増えたことにより、休憩と飲食すらも可能になったらしい。元から数多の品物を取り揃えていたのに対して、飲食まで可能となれば、これ以上便利なお店はなかなか見つからないだろう。
「そういえばさ、常和は何を買いに来たんだ?」
「あー……五月一日、心寧の誕生日なんだよ」
「五月一日って、もうすぐじゃないか」
「ああ。だから下見も兼ねて、相談乗ってもらう前に決めようと思ったんだよ」
彼女のプレゼントくらい早く決めとけよ、と言いたかったが、常和には常和なりの考えがある。ましてや、想いを伝えかねている清自身が言えた義理ではないだろう。
後を着いていけば、常和は一つの棚の目の前で止まり、商品を選び始めた。
常和の様子を見つつ、ふと辺りを見渡してみれば、灯が好みそうなアクセサリーが目についた。
「そういや、清はさ」
常和は、商品を手に取って見ながら言葉を口にした。
「魔法の庭……いや、魔法合宿で何を目的にしているんだ?」
行事に名前を付けたいね、という心寧の発言からついた『魔法合宿』の名前を聞くことになると思っておらず、清は一瞬思考が停止した。
思考が停止したというよりは、目的を聞かれて驚いたが正しいだろう。
常和はこちらの思惑を見透かしている感じがあるため、唐突なのは今に始まったことではない。しかし、目的があるのを見透かされているのは予想外だ。
「目的、か。というか、よくわかったな」
「はは、清と何年付き合っていると思ってんだよ」
「正式なのは一年弱しか経ってないだろ」
「ちょっとくらいボケてもいいんだぞ?」
「丁重にお断りする」
「おお、辛らつだな……で、あるんだろ、目的?」
本当によくわかっているな、と清は常和に言った後、目的という名の思っていることを口にした。
自由時間で記憶を取り戻したい事、記憶を理由に踏みとどまっている自分と別れたい事、それらを常和に嘘偽りなく清は話した。
「……清だったら思い出せるかもな……いや、絶対に思い出せるな! 俺が保証する!」
「常和、ありがとう」
今日は常和の相談に乗るつもりだったため、逆に励まされるとは思ってもいなかった。それでも、心に染みる温かさは嬉しいものだ。
清は常和の応援に照れ隠しをしつつ、商品を決めてそっと手に取る。
「おっ、清も決まった感じか?」
「も、ってことは常和も決まったのか?」
「そうだな。早く買って、二階行こうぜ」
お互い思い思いのままに、手に取ったものを購入して二階に向かった。
二階は広々としたスペースの他にいくつもの個室があり、食事や休憩を状況に合わせて出来る構造になっているようだ。
今日の目的は常和の相談に乗ることが本題である。そのため、軽く飲食を購入した後、常和と共に一つの個室へと向かった。
道中会話が起きなかったのは、察するに聞かれたら不味いことがあるからなのだろう。
個室へ入り、対面上に置かれた椅子にお互い腰を掛ければ、静かな時間だけが過ぎていく。
ほの暗い部屋の中に、オレンジ色の光が影を生み、静かなのも相まって緊迫感を与えてくる。
飲み物に入った氷がカラン、と小さく響く音を奏でた時、常和が口を開く。
「相談の事なんだけどさ」
「ああ」
「俺の事というよりも、心寧のことの方が近いんだ」
「心寧のことを?」
聞き間違いかと思い再度確認してみれば、常和は黙ってうなずいた。
常和から心寧関連で相談を受けたことが無かったため、深く悩んでいるのだろう。
「諸々の事情は省くんだけどさ、魔法合宿……俺は反対なんだ」
「常和が反対って、珍しいな」
常和は何事にも前向きであり、反対という言葉を使うとは思わなかった。また、言葉を口にした常和の表情には、雲がうっすらとかかっている。
それでも、常和は視線を一切逸らそうとせず、真剣な眼差しのままだ。
「行先である魔法の庭はさ、心寧が生まれ育った土地でもあるんだ……だからこそ、行きたくないんだ」
「その、反対している理由って何なんだ?」
そう聞けば、常和は悩んだように顔を歪ませた。
現状はどうあれ、常和が今でも反対しているのは聞いていてよくわかる。だが、問題はそこではない。
何故そこに行きたくないのか、明確な本質がはっきりとしていないのだ。
心寧が生まれ育った土地に行きたくない、だけが本心からの理由ではないだろう。
ふと一息つき、常和はゆっくりと口を開いた。
「心寧は行くことを拒んではないんだけどさ……どこか不安なんだよ」
「その不安って?」
「心寧は魔力が溢れる体質だってこと、清も知ってるだろ」
「ああ、以前勝負を見ている時に聞いたからな」
「心寧は美咲家の歴代で語り継がれてきた歴史を、唯一持って生まれてきた特殊な魔力の子なんだ。それゆえに、魔法の庭で密かに、相伝を継いで育つしかなかった。あの広すぎるのに、小さな庭で……人に対しての感情を失ってさ」
常和はそう言って、テーブルの上に置いていた拳を力強く握り締めた。
「まあ、言っちゃえばさ、俺はあの時初めて会った心寧の姿は二度と見たくないんだ。魔法の庭に戻って、心寧がまたあの時の感情になるかもしれないって思うと……俺は怖いんだよ」
常和の言葉はどこか自分勝手のようにも思え、それでいて心寧を守りたい、という強い思いが伝わってくる。
灯の笑顔を守りたい自分の意思は、今の常和の言葉と重なる一面があり、他人事には思えない。
常和や心寧と同じ境遇に立っているわけではないが、清自身も辛い現実を何度も目の当たりにしてきた。
魔法があれば便利な反面、それ相応の悩みや苦しみを抱えながら、清は灯と共に生きてきた。しかし、魔法世界で育ってきた常和たちの方が、一番理解して実感しているのだろう。
現実世界で無いが故に――魔法から離れるという行動を封じられているのだから。
「常和……俺はその当時を知らないから何かを言える義理ではない。だけどさ、今は常和と心寧の二人だけじゃない、俺と灯も居るんだ……一人で抱え込まず、いつだって頼ってくれよ」
心寧の感情に関して、清はあえて触れなかった。
起きてしまうかもしれない、という恐怖を抱えていれば、一歩も進めないのは目に見えている。だからこそ、もし何かあれば頼ってもらえばいいという、一つの道筋を見いだしたのだ。
今まで歩んできた四人の時間は、数多ある未来の一つへ進みながら変わりつつある。
心寧や常和が悲しんだり悩んだりすることがあれば、清はいつだって助ける気でいる。以前から灯にしてもらっているように。
「……ありがとう清。なんか、俺は過去の恐怖に囚われていたのかもな。そうだよな……今は清に星名さん、ツクヨ先生だっているもんな」
「いつだって手を取り合うのが……俺ら四人の力だろ?」
「ああ、そうだな!」
常和はそう言って、飲み物を一気に飲み干し、気づけば表情には太陽が戻っていた。
常に場を和ませ、いつも明るい自称ムードメーカーの常和らしく。
「それとさ、俺は心寧をありのままに愛していたいんだよ。だから、感情を今よりも取り戻してほしい、って心のどこかで強く願っちゃってたのかもな」
「愛していたい、か……なんとなくわかる。俺も、灯を心の底から愛しているから」
清が小さく呟けば、常和が呆然とした表情を見せた。
「あのさ、清……なんでその言葉を本人に直接伝えないんだよ? だからお前が分かってないって思って、心寧とかに『鈍感』って言われるんだぞ?」
「分かってないって、何の事だ?」
「いや、ごめん。やっぱお前は鈍感だわ」
何故か引いたような顔で常和が言ってくるため、清は不思議でままならなかった。
清は、灯に対して片思いの一方通行だと思っている。だからこそ、ずっと近くにいてくれる灯に気持ちを伝えられず、その一歩を踏み込めず遠いままなのだ。
何の事だか呆れてため息を吐けば、常和は苦笑いをしていた。
「話は変わるんだけどさ。魔法合宿中、上手くいけば心寧から教えてもらえるかもな」
「……何をだよ?」
「今は秘密だ」
そうかよ、って言って茶化せば、自然と二人して笑っていた。
お互いに思い思いの恋愛感情はあるが、どこかに互いの共通点があり、似ているのだろう。
「清、魔法合宿……最高の思い出にしような!」
「ああ、常和に言われなくともそうするつもりだ」
その後、常和とは好きな人のことについて、時間が許す限り話し合った。
この度は数多ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
「君と過ごせる魔法のような日常」のPVが一万を超えておりました!
読んでくださる読者様、本当にありがとうございます! 今後も清くんと灯の近くて遠いような不思議な恋物語を楽しんでいただければ幸いです。




