表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/258

六十九:試験後の休息と驚き

「灯、テストお疲れ。ほら、これ」

「あ、ありがとうございます。清くんもテストお疲れ様です」


 清はテストが終わった後、目をつむって席で休んでいた灯に労わりの言葉を添え、水筒を手渡した。

 水筒を素直に受け取った灯は、ゆっくりと口に含み、幸せそうな笑みを浮かばせている。


 灯を小さな気遣いから労わろうと思ったため、この笑みを見られるだけでも準備したかいがあったというものだろう。

 灯に見惚れていたのもあってか、後ろから近づいてくる二人に清は反応が遅れた。


「相変わらず、二人のあまーい空間魔法が展開されているねー」

「清が星名さんを、労わってる……だと?」

「とっきーはまことーを見習ったら?」


 常和は心寧に正論を言われるも、完全に目を背けていた。

 常和は心寧を労わる気が無いというよりも、こちらを茶化すために言った発言が地雷になったせいだろう。

 灯と一緒に笑って見ていれば、心寧が思い出したように問題用紙を机の上に置いた。


(え……問題が違う?)


 清は心寧の問題用紙と、近くにあった灯の問題用紙をちらりと見た瞬間、確かな疑問が脳をよぎった。

 テストは全部で五教科及び、おまけ一つだ。だが、問題はそこではなかった。

 問題用紙をちらりと見ただけでも、清と灯、心寧の問題は全て違っていたのだ。中間試験であるにも関わらず、各々の出題範囲が違うのは不思議でしかないだろう。


「……常和も問題は違う感じか?」

「清、勘がいいな。ご察しの通りで間違いないぜ」

「私達四人の問題、それぞれが違う……」

『それは私が答えようか』


 声がした方向を向けば、ツクヨが近づいてきていた。


『今回のテストは、君達個々の勉強能力を主にして作らせてもらったよ。本題に入る前に問うが、問題を解いていて苦しい、と本気で思う箇所はあったかい?』


 ツクヨのその言葉に、清は息を呑むしかなかった。

 問題を解いている際は、戸惑う箇所があったとしても、しっかりと考えれば解ける問題が多かったのだ。さらに言えば、授業中に習っていない、先に勉強していた範囲が出ていたほどだ。

 今回の範囲は清からしてみれば、少し上くらいの範囲だった、という認識で落ちついている。

 ツクヨの問いに対して、四人が無かった、と言えばツクヨは話を続けた。


『先ほども言ったが、今回のテストは全て、私が一つ一つ作らせてもらったよ。この学校の共通テストだと、君達四人が真面目にやれば百点が余裕、と言えるほど簡単すぎたからね。だからこそ、君達には私自身が壁となって立ちはだかり、超えてもらおうと思ったわけだよ』


 ツクヨは話が終われば『この後は各自解散で構わないよ』、と言い残し教室を後にした。


「ツクヨさん、本当に管理者の中でもずば抜けているというか何というか」

「あれじゃね……ツクヨ先生だから、で今は納得するしかないよな」


 あれこれ思うことはあるが、清は取りあえず常和の言葉に納得した。

 今回の中間試験は、ツクヨの優しさと厳しさを実感できる良い機会だった、と受け取っておくべきだろう。


「そう言えばさ、クラス順位はどうなるんだろうな?」

「……確かにそうですよね」


 ふと不思議に思いながら言えば、灯がうなずきながら共感した。

 今までが学年共通だったこともあり、今回は明らかに異例であると目に見えている。だからこそ、清は気になった。

 灯の隣に堂々と立ちたいと思い、本気で勉強を頑張ってきた努力が無下になるのは悲しいものだろう。


「あー、清……それなんだけどさ」

「どうしたんだ?」

「俺らのクラスは今回特別枠だからさ、この四人だけで順位が出るんだよ」

「常和……何でそれを知っているんだよ……」


 軽く常和を睨めば、常和は苦笑いしていた。

 常和が謎に情報を持っているのはいつものことだが、話せるのなら先に話してほしいものだろう。

 清が肩を落としながら呆れれば、灯が心寧へと視線を向けていた。


「心寧さんも知っていたのですか?」

「うーん、あー……知ってはいたかな!」


 灯が「心寧さん」と呆れたように言えば、「あかりーごめんねー!」と言って心寧は灯に抱きついた。

 心寧に抱きつかれた灯はくすぐったそうにして、嬉しそうな表情をしている。

 清は灯の嬉しそうな表情を見るのが好きなため、思わず心が和らいでしまう。

 そんな二人を見ていれば、常和が清の肩に手を乗せてきた。


「清、文句を言うのは結果次第にしようぜ」

「……それもそうだな」


 常和の言葉に納得した後、四人でお昼を食べてから解散となった。




 中間試験の次の日、テストと進歩表が各々の手元に返された。

 自由時間になった瞬間、常和が嬉しそうな顔をしながらこちらに近づいてきた。


「清はテストの結果どうだったよ?」

「やけに嬉しそうだな」

「まあな。とりあえず気になるし、お互いに進歩表を見せ合おうぜ!」

「ああ、別にいいぞ」


 常和が机の上に進歩表を置いたのを見てから、清も対になるようにして進歩表を置いた。

 自分の順位は人に見せても悔いが無いほど努力できた、と自負している。しかし、順位的には灯が上であると確実に言える。


(常和の自信はすごいな……だけど、俺だって努力はしている)


 順位より大事なのは、その時その時に積み上げた努力が花を咲かせるか、というのを理解できているかだろう。

 清は息を呑み、常和と視線を合わせてから、お互いに進歩表をめくった。

 進歩表を見た瞬間、記載された数字に驚くしかなかった。


「清と同率……二位」

「問題は別だったけど、常和と同率……」

「とっきー、まことーはどうやら接戦だったみたいだねー」

「清くん、今回は本気で頑張ったようですね」


 驚いていた時、灯と心寧が横から顔を覗かせてきた。

 二人は近くでテストの見直しをしていたので、常和との話が聞こえていても不思議ではないだろう。

 また、微笑んだ表情で灯が褒めてくるため、清は少し恥ずかしい思いが勝っていた。

 清が顔を少し赤くしていれば、何かを察したようにニヤニヤしていた心寧が口を開いた。


「あ、ちなみにうちとあかりーは、オール満点で同率一位だよー」

「それでも、最後のおまけ問題は抗議しますけどね」


 二人は笑いながら言っているが、一位と二位しか順位が無いということをサラッと公表しているようなものだ。もしくは、常和と同率二位だった時点で察しておくべきだったのだろう。


 頑張って勉強しても、灯と心寧に一歩届かなかった事実は悔しいが、次の期末の糧にするのが最善の選択肢だ。

 清が心の中で覚悟を決めていれば、心寧が思い出したようにニヤついていた。


「それにしても、二人とも欲深い男だねー」


 心寧の発言に、清は首をかしげるしかなかった。


「うん? あーそういうことね!」

「心寧、俺は何も言ってない」

「まことーの顔が教えて、って言ってるよー」

「清、多分……俺らは同じ条件を出されてたんだよ」


 常和に言われ、清はふと思い出した。

 灯から以前「頑張ったらご褒美をあげます」、と約束されていた。また、それと同時にあった出来事を思い出し、恥ずかしさがじりじりと込み上げてくる。

 清は勉強を無心で頑張っていたため、すっかりと頭から抜けていたのだ。


 灯からのご褒美を本気でもらうために頑張ったわけではないが、傍から見れば欲深い男になってしまうのだろうか。


「ふふ、実はですね……心寧さんと買い出しに出た時、二人で決めたのですよ」

「まあー、あかりーがまことーに『清くんが頑張っているご褒美をあげたい』って言い出したのが原因なんだけどねー」

「し、心寧さん!」


 灯は心寧から秘密を明かされるとは思っていなかったのだろう。瞬く間に灯は頬を赤くして、恥ずかしそうに清の腕を掴んでくる。

 小さく呻きながら声をあげている灯は、どことなく幼い感じがあり、可愛らしさがある。

 灯をなだめるために優しく頭を撫でれば、見ていた心寧と常和にニヤニヤされていた。


「それは置いといて! 二人とも頑張ったから、ご褒美は確定だよー!」

「心寧からのご褒美……やったぜ!」

「とっきーはすぐに興奮しないで、冷静なまことーを見習ったら?」


 常和は心寧にそう言われ、苦笑いしながら目を逸らしている。

 数分後、灯が落ちついたところで解散となった。


 帰り道に灯と手を繋いで歩いていれば、灯が逆の手で服の袖を引っ張ってくる。


「……あの、清くん」

「灯、どうした?」

「家に帰ったらご褒美をあげますので……期待しておいてくださいね」


 灯にそう言われ、ほどほどに期待しとく、とだけ返しておいた。

 清としては、灯も頑張ったのは事実の為、労わりたいと思う気持ちの方が強いのだ。それは、大切な人の笑顔が見たいからというエゴでもある。

 灯は「もう」と言いながら、可愛らしく頬を膨らませていた。その仕草自体が最高のご褒美、ということを理解していないのだろう。


 ――灯と居られる時間そのものが何よりも大切で、今後も綴られてゆく思い出だから。


「灯、ありがとう」

「……清くん、幸せをありがとう」


 灯は三日月が付いたヘアゴムを外し、ストレートヘアーにしてから、自分にだけ見せてくれる微笑みを表情に出した。

 その時、柔らかな風が静かに吹き、灯の透き通る水色の髪をなびかせ、天使のような微笑みを更に輝かせた。また、雲の隙間から差し込む光により、透き通る水色の髪は神秘的な輝きを生み出していた。


(本当に……ありがとう)


 清は隣で一緒に歩く灯との距離を詰め、腕をそっとくっつける。

 また、灯が負けじと距離を詰めてくるため、気づけば零距離になっていた。

次回はおまちかねの灯からのご褒美タイムです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ