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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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六十八:君と背中合わせの距離感

 常和と心寧が帰宅した後、清は灯と一緒にソファに座っていた。

 ふと清は常和から貰った紙を思い出し、ポケットから取り出してテーブルの上に置いた。


「清くん、それはなんですか?」

「ああ、常和から五月中旬の内容が書いてある、って渡されたんだ」

「五月中旬……気になりますね」

「お風呂に入るまでは暇だし、読んでみるか」


 灯がうなずいたのを確認し、清は紙を開く。

 静かに内容を読んでみれば、五月中旬に『ある場所』で何日間か泊まり、魔法について学ぶ、という主旨が書かれた手紙だった。しかし、肝心な場所は明記されていない。


 五月中旬に何かある、と以前にも灯から聞いていたが、学校行事での泊まりだとは思わないだろう。

 また、この行事は自分達のクラスだけが行うらしく、絶対に他言無用とも書かれている。

 本当に大雑把な内容を最後まで読み切れば、灯がこちらを見ていた。


「内容は大体理解できましたが、これが本当だとするならば……泊まる準備を頭に入れておかないといけませんね」

「準備大変そうだな」

「すごい他人ごとですね」

「いや、だって俺は男だし」


 呆れたように言ったのがまずかったのか、灯はこちらを軽く睨み、ぺちぺちと腕を叩いてくる。

 当然といえば当然だが、人によって準備の幅は違う。清はその中でも大雑把な準備の分類に入るため、発言には注意すべきだった。

 清は灯の叩いてくる手を止め、優しく手を握って落ちつけさせる。


「清くん、発言には十分気を付けてくださいね。私だったからよかったものの」

「まあ、そもそも灯としかこんな会話しないからな」

「……なら、いいです」


 灯は他に何か言いたかったのか、不服そうに機嫌を悪くしていた。

 灯の頭を静かに優しく撫でれば、数分後には機嫌を取り戻してくれたのが救いだろう。


「……それより、中間試験も頑張らないといけませんね」

「そうだな。灯に追いつける程度には頑張るよ」


 清は、灯の隣に堂々と立っていたい、というのが未来に向けた今の目標ではある。そのため、勉強という分野の目標よりも、個人目標に近いだろう。

 灯は努力の塊と言えるほどの頑張り屋さんだが、追いつけない程ではない、と思いたい。

 ふと気づけば、灯は息を小さく吐いた後、凛とした表情でこちらを見ていた。


「清くんが頑張ったら……特別にご褒美をあげます、と言ったらもっとやる気出ますか?」


 灯から唐突に言われたことに、清は驚くしかなかった。


(灯からのご褒美って……)


 ご褒美という言葉に心を引かれるが、雑念になってしまわないか、というのが清としては心配だった。だが、無いよりかはいいよな、とも思えてしまう。


「灯……ちなみに聞くけど、ご褒美はなんだ?」

「もちろん、内緒です」

「まあ、そうなるよな。でも、頑張る気ではいるし、もらえるのなら……欲しいかな」

「ふふ、いいですよ。判定基準は私から見た感じで決まりますが、テストの点数だけが全てではないですからね」


 灯から念押しをされた気がするが、清としては頑張る後押しが出来たのは嬉しかった。

 点数だけが全てではない、と灯が言ったのは、お互いの成績なども考慮した上での発言だろう。


「やれる範囲で頑張ってみるかな!」

「……清くん、私が思った以上にやる気を出したようですね」


 灯はそう言って、こちらを見ながら小さく微笑んだ。その微笑みは、小悪魔っぽさを含んでいるのではないかと思わせてくる。

 やる気を出したのは事実だが、灯のご褒美が本気で欲しい、という欲だけではなく自分の為でもある。

 ふと気づけば、灯がじっと清を見てきていた。


「灯……なんだよ」

「いえ。いきなり頑張りすぎても疲れちゃうと思いますし、ご褒美の前払いとして、私をぎゅーっとして堪能しますか?」


 灯からの唐突な驚く発言に、清の思考はキャパオーバーを起こしかけた。


(ぎゅーっとしますかって、灯を抱きしめるってことか……?)


 心臓の鼓動は分かりやすいほど勢いを増し、清の全身を熱くしていた。

 清からしてみれば、灯を抱きしめたいと内心で微かに思っている。だが、今それを実行すれば、自分自身を抑制しきれる自信がない。

 灯とは付き合っていないにも関わらず、添い寝や手を繋いだりをしていたが、過剰なまでのスキンシップは出来るだけ避けたいものだろう。実際は付き合ってから存分に楽しみたい、というエゴでもある。


「し、しないから」

「ふふ、残念ですね」


 灯が微笑みながら見てくる中、気づけば清の顔は赤くなっていた。

 恥ずかしさが勝ちそうになった清は、ソファに座ったまま灯に背を向ける。

 灯に背を向けた瞬間、清は背中に懐かしい温かさを感じた。

 ゆっくりと清が後ろに顔を向ければ、灯が背中を合わせてきていた。


「懐かしいですね……この感じ」

「そうだな。……あの時は、記憶を一つも思い出してない時だったからな」


 清がそう言えば、「今の清くんは、すごく安心しますよ」と灯は小さく呟いた。

 今でも灯との距離は近くて遠いような感じもあるが、壁という壁を感じさせない程に近づいてはいるだろう。

 その時、清は両手の指の間に、細くて優しい柔らかさを感じた。


「本当に、灯は変わらないな」

「その言葉、そっくりそのまま清くんにお返します」


 灯に指を絡められるのは、清としては距離が近くなったようで嬉しいため、小さな笑い声だけを返した。

 灯の肩から流れた透き通る水色の髪が、肌に直接触れてむずがゆさを感じさせてくる。


(俺は灯とのこの感じが……前からずっと好きなんだよな)


 清はそっと目をつぶり、神経をゆっくりと背中に預け、灯の温かさを堪能した。

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