六十七:四人での勉強会
陽気が世界を包み込み始める四月の中旬。
清と灯、常和と心寧の四人は清の家に集まり、勉強会を開いていた。
灯との魔法勝負が終わった後、勉強会の件を常和と心寧に話したところ、楽しそうを理由に承諾されたのだ。
休日になった現在、清と常和、灯と心寧で向き合うようにしてテーブルを囲っていた。
「だあー! やっぱりわからん!」
「とっきーうるさい。あかりーが茶菓子を用意できるまでは頑張る根性見せてよ」
「わからないのはわかんないだろ!」
「常和、どこがわかんないだ?」
「おお、神様仏様! 清はどこぞの鬼とは違うな」
「……ふーん。そういうこと言うんだ」
常和が心寧から完全に目を逸らしたところで、清は苦笑いしながらも、常和のノートを覗いた。
国語で手は止まっているようだ。見た感じはつまずくところが無いため、文章を読み飛ばしてしまったのだろうか。
常和は基本的に苦手科目がないらしく、勉強能力も高い。しかし、集中力の持続が欠けている。本人のやる気と集中力次第では成績上位であるため、才能に恵まれているが故の目立つ短所だろう。
「常和……ここの文を読んだか?」
「どこらへんだ?」
指で文章をさせば、読み忘れてた、と常和が言うため、集中力が切れていると目に見てわかる。
問題が解決した時、リビングに食器の擦れる音が小さくこだまする。
「お待たせしました」
灯はそう言って、四人分の紅茶とクッキーの乗ったお皿をテーブルの上にゆっくりと置いた。
心寧が嬉しそうに手を伸ばし、「すごく美味しー!」と言って笑顔でクッキーを味わっていた。
また、常和は心寧の笑顔を見て笑みをこぼしている。
二人の雰囲気を見て、心が和むように落ちつくのを清は感じた。
ふと気づけば、灯がこちらを微笑みながら見ていた。
「清くん、古村さんに教えてあげていたのですね。偉いですね」
「べ、別に偉くない。親友が困っていたら……ほっとけないだけだ」
「他者が助けを求めた時、手を差しのべてあげる。十分すごくて偉いですから」
「……その言葉、受け止めておく」
「ええ、受け止めておいてください」
灯に肯定されていれば、心寧が手を二回鳴らした。
「はいはい、そこのお二人さーん。いちゃつくのもいいけど、今は勉強に集中しようねー」
清は、はっと我に返り、顔を赤くした。また、灯も意識してなかったのか、頬がうっすらと赤みを帯びていた。
灯と会話する時、この二人の前では普段と同じ感覚でしない方が得策だ。
清と灯は二人して顔を赤らめたため、案の定、常和と心寧からニヤニヤされた。
「本当にお二人さんは似た者同士だな」
「常和……うるさい」
「すまん!」
常和に茶化されたところで、勉強は再開となった。
自分の苦手な箇所をある程度は灯に教わっていたこともあり、清は四苦八苦するということなくページが進んでいた。
また、常和とは苦手意識のある教科がお互いの得意教科と真逆な為、教え合うことが出来るのは良いものだ。
気づけば、一人でやるよりも手が早く進んでいた。
数十分が経った頃、常和はさすがに疲れたようで、クッキーに手を伸ばし始めていた。
意地を張るように四人がクッキーに手を出さなかった為、常和の行動を皮切りに各々手を伸ばし始める。
「うめえ! 星名さんって料理も上手いよな」
「うんうん、あかりーのクッキーはいつ食べても美味しいよね!」
「ふふ。おほめに頂き光栄です」
「美味しいよ、灯。いつもありがとうな」
「そうですか……嬉しいです」
「あかりー、クッキーどうやって作ってるの?」
「心寧さん、えっと――」
灯と心寧が作り方で話を弾ませている中、清はゆっくりと紅茶を啜る。
ふと一息ついたとき、常和がこっそりと隣に近づいてきていた。
「清は中間試験、というか、勉強をどのくらい頑張る気なんだよ?」
「……灯の次、もしくは上に行けるくらいかな」
目標というのはあくまでも通過点にすぎず、清は自分の限界を目指してやっているため、どこまで頑張るかは決めていない。
「清の成績的に心寧を目標通過点としたらさ、終わりの見えない無限じゃねえかよ……それ」
常和は呆れたような表情をし、苦笑いをしていた。
今の成績が心寧より下なのは確かであり、心寧を追い越せない限り、灯の次というのは夢のまた夢のような話だ。そうであっても、頑張らない理由にはならないだろう。
「常和は勉強というよりも、試験をちゃんとすれば上は狙えるだろ」
「はは。さあー? なんのことだか、俺にはわかんないな」
常和の場合、成績はあくまでオマケ扱いであり、勉強に力を入れて心寧を支えたい思いがあるらしい。
清も灯の隣に立っていたい思いがあるため、常和の気持ちは全て、とまでいかなくとも理解はできる。
常和と二人して笑っていれば、心寧が声をかけてきた。
「ねえねえ! 今日の夜ご飯、お邪魔してもいいかな?」
「灯が嫌でないのなら、俺は構わないぞ」
「私は構いませんよ。その代わり、心寧さんには今から買い出しに付き合ってもらいますよ」
「あかりーの手料理が食べられるのなら、お安い御用だよ!」
話が決まったところで、買い出しに行ってきますね、と灯は言い残し、心寧と一緒にリビングを後にした。
二人が買い出しに出かけ、常和と勉強を進めていれば、清の目の前にそっと紙が差し出される。
「これは?」
「五月中旬の大雑把な内容」
「……てか、なんでお前が情報を持っているんだよ」
「まあ、あれだ……秘密の裏ルートがあってだな」
清が苦笑いすれば、細かいことを気にしようとせず「二人の時にでも開けてくれ」と常和は言ってくる。
常和と心寧は普段から様々な情報を持ってくるため、気にするのも今更ではあるだろう。
「清は、今が楽しいか?」
「……楽しいよ」
「そうか」
楽しいか、と常和がいきなり聞いてきたのは謎だが、楽しい、のは本当だ。
その後、灯と心寧が帰宅して夜ご飯を作り始めた。また、その間は常和と勉強をしてほしいらしく、清は常和と勉強をしていた。
準備が出来て夜ご飯になれば、四人の食卓には話が途絶えることなく咲き続けた。




