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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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六十六:君との時間

 温かい。まるで、夢を見ているかのようだ。

 意識のある場所が魔力の源なのは確かだ。それでも、今までとはどこか違う感じがある。

 懐かしいほど温かく、泣きそうなほど辛く、嬉しいほどに優しいを、清は全身で感じていた。

 それなのに足りないと感じてしまうのは、気持ちを未だに伝えられていない、灯という大切な存在がいないからだろうか。

 いつも隣で一緒に笑って過ごしている灯に、心からの言葉を伝えたい。それなのに……怖くって――。




 ふと、自身の頬を伝った雫に気づき、清は目を開く。

 潤んだ視界には、白い天井が映る。


(……灯の魔法が直撃して、気を失っていたのか)


 ベッドで寝かされているのを見るに、保健室に運び込まれたようだ。

 清は小さくため息をつきながら、ゆっくりと耳を澄ます。

 そこで、小さな寝息が聞こえてくることに清は気がついた。


 寝息の聞こえる方に目をやれば、清の体に頭を預けて寝ている透き通る水色の髪を持つ少女が目に映る。それは、清が今もっとも気持ちを伝えたい相手である、灯だ。

 灯は清の服を小さな手でしっかり握り、こちらに顔を向けて寝ている。

 女の子の寝顔をまじまじと見るのは申し訳ないが、この状況下は不可抗力としか言いようがないだろう。

 その時、灯の目元に小さな光が輝いた。


「……灯、ごめん」


 清は小さく呟き、静かに灯を両腕で包むように抱きしめた。寝ていれば気づかないほど弱く、ソフトタッチと思えるほど優しく。


「……温かい」


 灯が起きていたら、抱きしめるなんてことはしてなかっただろう。いや、できないだけだ。

 今はただ、寂しい思いを灯にさせてしまったことへの、ささやかなお返しのつもりだ。

 灯の温かさを堪能していれば、灯が「ううん」と小さく喉を鳴らした。

 清は灯から焦って腕を離す。


 灯は目をぼんやりと半開きにし、とろけたような表情をしながらも清を見てくる。正確には、清の方向を見ていた。

 灯は焦点が合ってないらしく、しっかりと認識できていないようだ。

 数分もすれば視界が安定してきたのか、灯は清が見ていることに気づけば、頬が赤みを帯び始める。寝顔を見られるのが嫌だったのだろう。


「おはよう、灯」

「お、おはようございます……」


 清が小さく笑みをこぼしながら、灯の頭を優しく撫でれば、恥ずかしそうにしながらも灯は嬉しそうな表情を見せる。

 清は灯の頭を撫でつつ、ゆっくりと上半身を起こす。


「清くん……体に痛みとかは無いですか?」

「ううん、ああ、特に痛みとかは無いから安心しろ」


 特に違和感なく起き上がった為、灯の言葉に一瞬とまどってしまったが、灯が安堵の息をこぼしたのを見るに心配はないだろう。

 清は、それよりも一番疑問に思っていたことを灯に聞こうとした。


「なあ、灯。一つだけいいか?」

「なんでしょうか」

「あの魔法は何だったんだ?」

「あの魔法……つまり、零式(ぜろしき)、のことですよね」


 清は灯の言葉に小さくうなずいた。

 灯に魔法を打たれた瞬間、何も認識できず、気づいたら保健室で寝ていたのだ。気にならない筈が無いだろう。

 灯は小さく息を漏らした後、ゆっくりと口を開く。


「――無制限合成魔法【零式】。簡単に言ってしまえば、無制限合成魔法そのものを打ち出す……私の持つ、星の魔石の力そのものですね」

「無制限合成魔法そのものを……打ち出す?」


 無制限合成魔法は、合成魔法に制限が無い認識だったが、どうやら認識が違っていたらしい。

 清が不思議そうに首を傾げれば、灯がクスリと笑う。


「まあ、無制限合成魔法についてはいずれ細かく教えてあげますから。本題である零式ですが……わかりやすく言えば、あの瞬間、周りの空間と次元すらも歪める物質を打ち出したのですよ」

「俺が認識できなかったのはそのせいか……」


 魔法は認識できて当然、という認識外からの魔法となれば、納得せざるを得ないだろう。

 結局のところ、灯と本気で渡り合えていた、という夢見心地だった自分を情けなく思えてしまう。

 清は小さく息を吐いた後、肩を落とす。

 その時、灯が清の手を優しく握り、真剣な表情でこちらを見てくる。


「零式を受けて、何か思い出したことや気づいたことはありますか?」

「気づいたこととかって言われても……強いて言うならば」

「言うならば?」

「夢の中で魔力の源に意識が合って、懐かしい感じがしたくらいかな」

「……やっぱり」


 灯はそう言うと、手を清の頬に移動させ、むにーっと横に引っ張ってくる。

 痛いという程ではないが、どこかむず痒さを感じさせてくる。

 嫌がるそぶりを見せないからか、灯は面白そうに笑みをこぼしていた。


「清くん、そんな暗い顔をしていたら幸福も逃げちゃいますよ?」

「はは、それもそう――」


 清が最後まで言い切らないうちに、大きな音を立ててドアが開いた。

 そして、一気に足音が近寄ってくる。


「あかりー! 今日は帰ることになったから教えに来たよー! あ、まことー……大丈夫?」

「よっ、清! 体の方は大丈夫か?」

「常和に心寧。ああ、この通り大丈夫だ」


 軽く腕を回してみせれば、常和と心寧は安堵したのか、二人して息を漏らした。


「というかさ、なんで帰る事になったんだ?」

「清、星名さんから聞いてないのか?」

「……何をだよ」


 清が悩んだように首を傾げれば、灯は何かを思い出したように「あっ」と声を漏らした。

 灯の様子を見るに、うっかりと忘れていたのだろう。


「まことーは気を失ったから知らないかもだけど、あかりーのあの魔法でね……第二グラウンドが跡形もなく消し飛んだからだよー」

「心寧、なんとなくは理解できたんだが、一応聞いていいか?」

「うちが答えられる事だけならいいよー」

「どうして二人は無事なんだ?」


 グラウンドが跡形もなく消し飛んだのなら、見ていた二人にも魔法の影響が及んでいたはずだ。

 清が疑問気に聞けば、常和が苦笑いをした。


「まあ、あれだ……ツクヨ先生の魔法を打ち消す力と、俺と心寧が魔法を使って防いだんだよ。あの時にツクヨ先生の合図が無かったら、無傷ではすまなかったけどな」

「そうだったんだな。そのツクヨさんは?」

「あー、今回の件の後処理をしてるよ」


 心寧が言うには、授業の一環でやったとしても流石に度が過ぎてしまったらしく、ツクヨは始末書を作成しているらしい。また、グラウンドの再復帰を一任されたとのこと。

 魔法勝負をしたいとは言ったが、大規模な後処理をツクヨに全部させてしまうことに、清は最悪感を感じた。

 清が常和たちに「ありがとう」といえば、常和が「親友なんだからいいってことよ」と言った後、常和と心寧は保健室を後にした。


「清くん、もう少し様子を見て大丈夫でしたら、私達も一緒に帰りましょうね」

「そうだな」


 今回の魔法勝負が完全なる本気とは言えなくとも、これを機に……少しくらいは灯との距離が縮まったらな、と思うのは心の中だけで留めておくことにした。

 それに、灯に本当の気持ちを伝えるのは、自分の記憶が全て戻った後、と清は決めているのだから。

魔法勝負は負けてしまった清くんですが、灯への気持ちは一歩成長したのかな

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― 新着の感想 ―
[良い点] 灯の魔法、サラッと流してますけどとんでもないですね^^; 常和と心寧でも、勝てなさそう。 それを修復できそうなツクヨも、とんでもないですね。 [気になる点] 星の魔石ってなんなんだろう…
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