六十五:君と本気の魔法勝負
次の日、学校の第二グラウンドで、清と灯は向かいあって立っていた。
また、見学として常和と心寧がベンチに座っており、中央には審判としてツクヨが立っている。
表向きは授業の一環としてやるため、お互いにジャージを着用している。
清が手を握って開いてを繰り返し、体を学校のジャージに慣れさせようとすれば、灯も同じ仕草をしてくる。
その時、中央に立っていたツクヨが腕をあげる。
『黒井君に星名君、準備は大丈夫かね?』
「俺は大丈夫です」
「私も、準備は平気です」
ツクヨは清と灯の二人を見た後、小さくうなずいた。そして、フードから魔石を取り出し、天にかかげる。
次の瞬間、ツクヨを中央とし、黒いベールがグラウンド全体を包み込む。
ツクヨは空間が完全に出来上がれば、何も言わずに常和たちの居るベンチの方へと向かっていった。
「清くん……始めましょうか。お互い本気の魔法勝負」
「ああ! 念のため言っておくが、手を抜くのは無しだからな」
「ふふ、わかっていますよ。――魔力シールド展開です」
「――魔力シールド展開」
展開された魔力シールドは身を包み、透明となる。
出方をうかがう予定だったが――猶予を与えさせてもらえないようだ。
「――速射【ばーん】――」
灯が手を銃の形に模し、即座に魔法を放ってきた。
清は体を横にずらし、瞬時に避ける。速射は速度と威力を兼ね備えているが、軌道は一直線の為、来るとわかれば避けるのはたやすいものだ。
そして、清は避けながらも右手に魔法陣を展開させ、灯に狙いを定める。
「仕返しだ! 魔法――光線【こうせん】――」
魔法を打つ瞬間、清は地を力強く前に蹴り、後ろに飛ぶ。そして、一気に魔力を圧縮し、高威力で光線を放つ。
光線は強い光を発して灯を狙う。しかし、灯は避けようとすらしない。
むしろ――微笑んでいる。
「ふふ、受け止めてあげます。無制限合成魔法――魔法シールド――」
光線は瞬時に展開された空間のシールドに阻まれ、強烈な爆風を引き起こす。
気を抜けば体を宙に浮かせるほどの強い風が吹き荒れる。
(これが、本気の灯との魔法勝負!)
強風がおさまれば、二人の表情には笑みがこぼれていた。
「灯……俺は今、灯との勝負がすごく楽しい。だからこそ、負けられない!」
「私も清くんとの勝負、すごく楽しいです。本気で渡り合えるあなたに、敬意を表し――私のたどり着いた終着点、星の魔石の真理をお見せしましょう」
灯が右腕を横に振りきれば、周囲に無数の魔法陣が展開される。そして、灯は腕を真上に伸ばした。
「ここからが本当の本番です! 無制限合成魔法――【複合式プラス単発式】――」
灯の伸ばした腕がゆっくりと振り下ろされた瞬間、無数の魔法が清に向けて放たれる。
無数の魔法が迫りくる中、清は集中力を極限まで高め、瞬時に魔法陣そのものを分析した。
(複合式で逃げ道を狭め、単発式で俺を狙っている……なら!)
一つの魔法が当たりそうになる瞬間、清は足に魔力を込め、全力で地を蹴って横に飛ぶ。蹴った地面はえぐれ、降り落ちた魔法で原型を無くす。
魔法の包囲網に一瞬の猶予ができるまでは、完全に防戦一方だ。
こちらに向かってくる魔法は『魔法の壁』で防ぎ、それ以外は位置を予測し全て躱す。
「逃げてばかりでは私には勝てませんよ?」
「悪いけど……おっと」
「ふふ、話をする余裕すらなさそうですね」
「それはどうかな?」
「じゃあ、もう少し魔法の質をあげましょうか。その強がり、いつまでもちますか?」
灯の言う通り、完全に強がりだ。
現状、魔法は全て受けながすか防御をしている。だが、これより上になるとすれば、時間の問題だ。
灯の魔法は時間が経つにつれ激しくなり、爆風を強く引き起こし、足場をぼろぼろにしていく。しかし、同時に魔法の軌道を限定しはじめていた。
(……ここだ! 炎の魔法――愛【ソウル】――)
清は魔法の雨に隙を見つけ、炎の魔法を穿つ。針の穴に糸を通すように、一直線に灯を狙う。
「私を狙ったところで……え?」
灯を狙った魔法は寸前に軌道を真上、というよりかは周囲の魔法陣に変える。
炎の魔法は一気に魔力を膨大させ、強い熱風を引き起こす。熱風により、無数にあった灯の魔法陣はかき消えていく。
「まさか、本体である私を狙うよりも魔法陣を消すとは……」
「これが最初から狙いだったからな」
「清くんの星の魔石の分析力、少々あなどっていました」
灯は微笑みながら拍手をしてくる。同時に、残っていた魔法陣は姿を消す。
「楽しかったこの時間も――これで最後にしましょう」
「望むところだ!」
「これが、私の本当のとっておき」
その瞬間、一気に灯の魔力が跳ね上がる。そして、周囲には小さな粒が煌めき、灯の透き通る水色の瞳と髪は輝きを強くしていた。
唯一わかるのは、今までの魔法が比べものにならない程――手加減されていたということだけだ。
限界負荷すらも力に変えているのか、小さな粒は更に輝きを強めていた。
(これが、灯の全力……楽しくなってきた)
清はヤバいと楽しいを感じながらも、右腕を横に突き出しながら魔法陣を展開する。
明らかに不利だとわかる状況は、逆を返せば受け止めきれさえすれば勝機があるということだ。
魔力の質を見るに、避けるのはまず不可能に近いだろう。消極的に考えれば、向かい打つのが一番の最適解となる。
「星の魔石の真理……いえ、無制限合成魔法の真なる意味、初めては清くんにと決めていました。受け取ってください――最後の記憶が戻りつつあるあなたへ、私からのプレゼントです」
灯は両手を合わせた後、右手を前に突き出す。
「無制限合成魔法――零式――」
気づいた時には音や魔法を認識できず、目の前が暗くなっていた。
零式という言葉を最後に、清の意識は水の底に落ちる。
この度は、数多ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
清くんは無事に零式を食らいましたが、気を失っただけなのでご安心ください……?




