六十四:譲れない者同士
数日後の体育の時間、清は常和と一緒に、灯と心寧が走っている姿を見ていた。
走っている二人は、お互いに一歩も譲らない速度を維持している。
灯は普段着でジャージを着ることが無い。そのため、授業であるから着ているとはいえ、珍しさを覚えそうだ。
ふと気づけば、常和がにやけた表情をして、こちらの方を見ていた。
「清、星名さんに見惚れてるのかー?」
「別にいいだろ」
「え、思ったより素直で引くんだけど」
「なんでそうなる……」
「はは、冗談だ。それより星名さん、心寧に追いつくのかよ。すごいな……」
「まあ、灯だからな」
清が自信満々に言ったせいか、常和は呆れながらも笑っていた。
灯は幼い頃から足が速い方であるが、心寧は更にその先を行く速さを持っている。また常和いわく、心寧は全力で走っていない、というのだから驚きだ。
心寧の身長は灯より少し高いくらいではあるが、心寧の洗練された走り方によって、灯との走りに差が出ているのだろう。
体格で見てしまえば、風の抵抗面積が少ない灯の方が上と言えるが、結局は走り方の問題だ。
(灯……常和の体格発言、意外と根に持ってはいるからな。俺はどんな灯であろうと、好きなんだけどな……)
変なことを考えてしまった自分を隠すように、清は目をつぶりながら首を軽くふった。
「灯は努力家だから……いずれ心寧よりも速くなるからな」
「やけに自信満々だな! まあ、俺の心寧が負けるなんて絶対にありえないけどな!」
笑顔で言い切る常和は、以前にも増して嬉しそうに見える。
話題が好きな人、もしくは彼女のことになれば、お互いが譲れない者同士のため、話や考えが合うのだろう。
さらに言うならば、清と常和はお互いの良いところを見つけては褒め合っている為、変にほころびが生じないのだろう。
その時、常和が呆れた様子で清を見ていた。
「しつこいのは承知の上で聞くんだけどさ……清は星名さんにいつ思いを伝える気だよ? おまえらのその距離感で、未だに付き合ってすらいないから気になるんだよ」
常和から言われて改めて思うが、傍から見れば付き合っていない方がおかしい距離感であるのも事実だ。幼い頃から隠れてよく遊んでいたから、という言い訳は通用しないだろう。
清はふと、灯が休憩のために心寧と座って話している姿を見た後、頭を下げながら小さくため息を吐く。
「まあ、なんだ……常和、俺は自分のペースでやるから」
「そうか。ま、頑張れよ! 困ったことがあれば、恋愛の先輩として相談ならいくらでも乗ってやるから、一人で抱え込みすぎるなよ」
常和は笑いながら、清の背中を軽く叩いてくる。まるで後押しをするかのように。
伝えたい思いが心にあっても、言葉として伝えなければ伝わるはずがない、というのは清もわかってはいる。それでも、その一歩を踏み出せないからこそ、清は常和の言葉を心の中で嬉しく思う。
心寧と灯の方を見ていた常和は何かを思い出したのか「あっ!」と声を出す。
「そういやさ、清は星名さんといつ本気の魔法勝負をする気なんだ? 心寧も早く見たいって言って、期待してるみたいだからさ」
清は悩むしかなかった。
新学年の始まった日、灯と同じ会話をしたばかりなのもあり、魔法勝負をどうやってするか考えていた。
お互いに本気でやるとなれば、ツクヨの力を借りなければ難しいため、ツクヨと話す機会をうかがっていたのだ。
常和に理由を話そうとした――その時、後ろから聞きなれ始めた声が聞こえてくる。
『黒井君に古村君、二人しておさぼりかい? 返答によっては、評価の態度を減点しなければいけないね』
ツクヨが急に背後に現れたのだ。
常和と話して油断していたのもあるが、背後を取られるのは恐怖しかないだろう。
清と常和は反射神経で後ろを向きつつ腕を出し、魔法陣を展開してツクヨに向ける。
『……驚かせてすまなかったね。黒井君は炎の魔法、古村君は静風剣を展開する前に消して、少しは落ちついたらどうだい』
気づけば魔法を向けていたことに清は驚き、手をグーにしつつ自分の方へと戻し、魔法陣をゆっくりと消す。
常和は静風剣を創成したが、すぐさま剣を宙に投げて回転させた。すると、風と共に剣は姿を消していく。
清はふと、ツクヨが来たのをちょうどよく思った。
「ツクヨさん、灯と本気の魔法勝負を近々したいのですが、勝負するための空間を用意していただけないでしょうか?」
今までにないほど清は言葉を丁寧にし、ツクヨに頼んだ。
ツクヨは悩んだ仕草を見せた後、大きくうなずいた。しかし、相変わらず素顔は仮面に隠れている為、ツクヨの表情を理解することが出来ない。
『そうだね……明日でもいいのなら、特別授業に変える調整をして、黒井君と星名君が勝負をできる時間を設けようか』
清と常和はあっさり了承されるとは思っていなかったため、驚きつつも二人で顔を見合わせた。
「ツクヨ先生は俺と心寧が見た通り、やっぱり良い人だ!」
「ツクヨさん、ありがとうございます」
『礼には及ばないよ。未来ある子供に手を差し伸べるのは、大人の仕事だからね。それよりも、私を警戒しているあの二人にもよろしく頼むよ』
ツクヨはそう言いながら灯と心寧の方を指さし、その場を去っていく。
ツクヨの姿が完全に見えなくなった時、灯と心寧がゆっくりと近づいてきていた。
「清くん……ツクヨと楽しそうに、何を話していたのですか?」
「楽しく話していたつもりはないんだけどな……。簡潔に言うとさ、灯と本気の魔法勝負ができる時間を、明日設けてもらえる話になった」
「え、まことー! それはほんとに!?」
灯が疑うような視線でこちらを見ている中、隣にいた心寧の表情には笑顔が咲き誇っていた。
常和は心寧の表情を嬉しそうに見ながらも「心寧、本当だから落ちつけ」、と心寧の頭を撫でながら落ちつかせている。
「清くん。魔法勝負ができると決まった以上、絶対に負けませんよ」
「ふん、灯……あの頃とは違うって、見せてやるよ」
清と灯が熱くなり始めた時、静かに見ていた心寧が「二人とも仲いいねー」と言いながら、常和と一緒にニヤニヤしていた。
そして案の定、灯の頬が赤みを帯び始める。
「ま、清くん、休憩はもう十二分に済んだことでしょうし、一緒に走りましょ……」
「そ、そうだな。俺もちょうど走りたいと思っていたんだよ」
その場をしのぐ為にも清は灯の意見を承諾し、優しく手を取る。
「あー、あかりーとまことー、もしかして逃げようとしているなー!」
「なんだと、それは残念だなー! これは追いかけるしかないな!」
「とっきー、あのうぶな二人を追いかけるよ!」
清は追いかけてくる二人に呆れつつも、ふと灯の方を見た。すると、小さな微笑みという名の幸せな笑みが、間近に映りこむ。
(どんな笑みであっても、かわいいのはズルすぎだろ……)
体育の時間が終わるまでの間、気づけば魔法を使った鬼ごっこが始まっていた。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
今話でも触れましたが、次回は夢の話を抜けば、約三十話ぶりの魔法勝負の回になります! ……一体この間に何があったのでしょうかね。
※余談ですが、明日の9月1日は本編では灯によって触れられなかった、清くんの誕生日になります!
灯と清くんには内緒ですよ……灯に知られたら作者が怒られちゃいますので……。




