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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第二章

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六十一:君と新学年

「教室が移動になるだけで、この四人が固定になるとはな……」

「ふふ、でも良かったじゃないですか」

「それもそうだな」


 四月の始めで桜が舞う時期。春休みが明ければ学校は再開となり、昇降口にはクラスの割り当てが張り出されていた。

 いつもの四人は何故か別の紙に書かれており、教室の移動だけとなっていたのだ。


 新しい教室の目の前に着き、清は一呼吸した後、灯と共にドアを開けた。


「あかりー、まことーおはよー! 現実世界に行く前ぶりだね!」


 清と灯が教室に入るのと同時に、心寧は開口一番に挨拶をしてくる。

 現実世界に行って以降は、学校でみんなの変わった感じを見たいね、という話しになったため、この四人が揃うのは無かった。

 そのためか、懐かしさを感じさせてくる。


「よっ! お二人さんおはよう! ……清、良い顔してるな」

「常和に心寧、おはよう。……ありがとう」

「古村さんに心寧さん、おはようございます。清くん、今日は素直ですね」

「……灯、うるさい」


 灯に微笑ましそうな目で見られつつも、清は自身の席へと荷物を置いた。また、灯と席が隣同士であるためか、灯は準備中にすごく嬉しそうな顔をしていた。

 黒板に書かれた席が二人同士の形になっているのは、明らかにあの二人の粋な計らいだろう。

 清は心の中で嬉しく思いながらも、四人が再度集まったところで、疑問になっていたことを口にした。


「そう言えばさ、なんで俺達だけ別の紙に書かれていたんだ?」


 不思議に思いつつ話題として出せば、常和と心寧は顔を見合わせていた。

 二人は無言でうなずいた後、清と灯の方を向きなおす。


「二人はさー、うちらがペア試験後に管理者から呼び出されていたの、覚えてる?」

「ペア試験の後の話ってことか?」

「清、そういうことだ。簡単に言えばさ、俺らも二人と同じように願いを叶える権利が与えられたんだよ」


 そこから常和と心寧に話されたのは、二人も清達と同じように保留したらしく、願いをどうするか考えていたらしい。

 そして二人が願いを叶えてもらったのは、管理者の部屋前ですれ違った後、つまりは清達が帰った後の出来事になるようだ。


「俺らの叶えてもらった願いはな……」

「この四人が同じクラスのまま、って願いだよ!」

「……常和に心寧、ありがとう」

「心寧さんに古村さん、貴重な願いをありがとうございます」


 灯が丁寧にお辞儀をすれば、心寧がニヤニヤしながらも灯に近づき、横から思いっきり飛びつくように抱きついた。

 灯は心寧に抱きつかれて嫌がるよりも、何故か喜んだような表情をし、くすぐったそうにしている。

 灯が嫌でないのなら、こちらが無理に口を出す必要もないだろう。しかし、過去の自分であれば、火を見るより明らかに止めていただろう。

 灯と心寧の様子を見ていれば、常和が口を開いた。


「星名さん、別にいいってことよ。心寧、あまり張り付くと清が焼きもち焼くから、ほどほどにしとけよー」

「常和、なんでそうなる」

「あちゃー、素直に認めれば星名さんが喜ぶと思うのに……。あ、そうそう、礼にはおよばないからな!」

「うんうん! うちととっきーは、もう一つ叶えてもらっちゃったからねー」


 心寧は灯を強く抱きしめながらも、気楽そうに言葉を漏らした。

 心寧のその言葉を聞いた灯が「もう一つの願いは何にしたのですか?」と聞けば、「すぐにわかるよー」とニヤニヤしながら意味深に言っている為、答える気はないらしい。

 また、隣で常和もニヤニヤしているところを見るに、嫌な予感しかしないだろう。

 清が呆れてため息をつけば、常和が肩に手を置いてくる。


「にしても清、二人の美女がくっついて仲良さよさそうなのって、良い眼福だな」

「常和、急にどうした……控えめに言ってキモイ」

「はは、辛辣だなー」


 辛辣だな、と言われても仕方ない部分があるだろう。

 二人の仲がいいのは嬉しいことではある。しかし、それが眼福かと聞かれれば、清からしてみれば否だ。


「一応聞くけどさ、どの辺が眼福なんだよ……」

「……あ、そういうことか! ほら、心寧は星名さんの腕に当たって形が変わる程たわわに実っているだろ。そして、小さく実っている星名さんは、心寧に抱きつ――いたい、いってぇ! 清、す、すまない!」


 清は常和の足を力強く踏みつけ、追撃に肘を横腹へとぐりぐりした。

 流石の常和も焦って謝っているが、誰だって大切な存在を変な目で見られれば、簡単に許す理由がないだろう。


「常和――俺の灯を変な目で見るな。これは甘んじて受け入れろ」

「とっきー、流石にうちは今回、まことーの味方かなー」

「おれの……はっ。古村さん、ご愁傷さまです。今だけは敵ですね」


 灯は微笑みながら言っている。だが、目が笑っていない。

 常和が灯の禁断の果実に触れてしまったのは確実だろう。

 常和をぐりぐりしていた腕を清が止めれば、常和は灯に全力で謝っていた。

 謝ってすむのだろうか、と思ってしまうが、触らぬ神に祟りなしだろう。


(でもまあ、このままにしておくのは不味いよな……)


 清はそう思いつつ「今だけは見逃してやってくれ」と灯に言えば、「じゃあ、後で労わってください」と灯に言われ、帰ったら労わることが決まったのだ。

 くすくす笑いながら二人のやりとりを見ていた心寧が、何かを思い出したように口を開いた。


「そういえばさ、現実世界はどうだったの?」


 清は心寧の言葉を聞いた後、灯と顔を見合わせ、何も言わずに二人してうなずく。

 そして、現実世界で家族と決別したことや、灯の母に会ったことなどを、清と灯は話した。

 清と灯が話終われば、常和はゆっくりと口を開く。


「清が現実世界に悔いがなさそうで……よかった」

「常和……悔いが残らないように、だろ?」

「ああ、そうだな!」


 男二人で熱い会話をしたせいか、心寧が手で顔を扇ぎながら笑っていた。

 常和が心寧の笑顔を見て頬が緩んだあたり、心寧の笑顔が好きだ、と雰囲気から感じさせてくる。


「清に灯、うちらを家族だと思ってもいいからね!」

「それにさ、四人で教訓を今後も共にする仲だし、グループというよりも、家族の方が響きとしてもいいだろ?」

「常和に心寧、ありがとう……俺はうれしいよ」

「ふふ、清くん……心が温かくなりますね」


 灯の言葉に清は頬を赤くしつつ、小さくうなずいた。

 四人は顔を見合わせながらうなずき、腕を前に出し、優しく当てる。この瞬間、世界という名の境界線を越えた四人は、家族として、新たな始まりをきったのだ。


 それから数分後、朝の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。

 清たちは話を終わりにして席に着いた。

 その時、ドアがゆっくりと開き、ある人物が入ってくる。


「え……ツクヨ、さん?」

「なんで、ツクヨが?」


 ツクヨはゆっくりと歩き、教壇に立つ。


『君たちが卒業するまで――このクラスを受け持つことになった、ツクヨだ。今後は君たちの担任として、よろしく頼むよ』


 その言葉と共に、新学年は幕を開けた。

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