第六話:君と親友の彼女
新たな登場人物が増えるので改めて全人物の読み方を記載させていただきます。
・黒井清 ・星名灯
・古村常和 ・美咲心寧
月曜日になり、学校へと登校し教室に入った瞬間、清は目を疑ったのだ
常和がいるのは当たり前だ。しかし、その隣には制服の上にローブ、首回りに付け袖を着飾っている彼女がいたのだ。
(何で教室に星名さんがいるんだ)
本来違うクラスで、この教室にいるはずのない灯の姿が真っ先に目に入ったのだ。
「清、おはよう」
「黒井さん。……おはようございます」
「お、おはよう、二人とも……」
常和が挨拶をした後に、灯が少しためらった様子で挨拶をしてきたのでとりあえず返すことにした。それはそれとして、灯と常和が話していたのを不思議に思ったので、それを聞こうと常和の方を見た。
聞こうと思ったのだが、常和は何故かあきれた様子で後ろの方を指さした。また、常和の隣に立っていた灯も不安げな顔をしていた。
その理由がわかるのは数秒もかからなかった。
「まことー! おはよう!」
後ろから声が聞こえると同時に、清は突き飛ばされたのだ。体制を崩して、倒れるのを覚悟した。
だが、無動作で灯が小さな魔法陣を清の近くに展開し、風を起こし転倒を防いでくれたおかげで倒れずに済んだ。結果的に灯から守られる形になったが、清は心の中で感謝した。
「……心寧、おはようで突き飛ばすなよ。危ないだろ」
突き飛ばしてきたのは彼女——美咲心寧だ。心寧は常和の彼女であり、好奇心旺盛すぎるため清が苦手としている人物だ。
そんな清のことは気にもせずに、心寧は常和の方と言うよりかは灯にくっついていた。この行動に灯は諦めているようだった。
隣で呆れていた常和が何かを思い出したように話だした。
「どうせ、星名さんと心寧が居る理由を知りたいんだろ?」
「そうだけどさ。まずはお前の彼女をどうにかしろうよ」
心寧の暴走を止められるのは常和しかおらず、そのことを一番理解しているのも常和本人だろう。
遠回しに頼んだつもりではあったが、当の本人は苦笑いしているため止める気はないようだ。
そんなことを無視して常和が話を進めてきた。
「簡単に言うとだな、心寧が元のクラスから追放されてこのクラスに来た。星名さんは一緒にいた巻き沿いらしい」
本当に簡単に言われたそのことに清は理解が追い付かなかった。
「……いやいや、ちょっと待て。心寧が追放された理由も気になるが、星名さんは完全に流れ弾が当たったってことなのか?」
びっくりするようなことを言われたので、とりあえず灯のことを再度確認すると、常和がうなずいたから間違いではないようだ。
こちらの話を聞いていたらしい心寧が灯から離れるところが見えた。心寧が離れると、灯は乱れた服装を綺麗になおしているようだ。
心寧が常和の近くに立つと話し始めた。
「そのことはうちの方から説明するね!」
「心寧さんが起こしたことなのですから当たり前ですよ」
服装を整え終わった灯が呆れ気味に心寧のことを指摘した。その時、話しながら清の隣に立ったのは、心寧と距離をとるためのものだと思うことにした。
ほとんど対角線上の立ち位置になる形となったのは当たり前と言えばいいのだろうか。
そんなことを考えていると、心寧が話の続きを始めていた。
「合成魔法で三つの属性を混ぜようとしたらまた失敗しちゃったの! クラスでそれをやったから追放される形になったの」
「それとだな、清が気になっている星名さんの巻き沿い理由だが——」
「それは私の方から説明します」
話を一緒に聞いていた灯が常和の言葉を遮って声を出した。
その隣で常和が心寧に軽く叩かれている。なぜ叩かれているのかはわからないが、清は見てないことにした。
二人のそんなやり取りに苦笑しつつ、清は灯の方を見た。その時の灯は二人を不思議そうな顔で見ているようだった。
清の視線に気づいたらしい灯は、思い出したかのように続きを話し出した。
「私の場合はですね、心寧さんの失敗を予め防ごうとしなかったという連体責任ですね」
「えっとそれはつまり、心寧の近くにいたからこうなったということで?」
「そういうことです」
灯が諦めたように認めたのは、心寧と関わっていればいずれこうなることが分かっていたからだろう。
清としては、灯が同じクラスに来たことへの嬉しさはある。だが、むやみやたらに関わろうとすれば、常和たちから怪しまれるのは時間の問題だろう。
さらに問題点としてはそこだけではなかった。ペアが灯であることを公言するような出来事があれば、穏便に行動するのは難しいだろうと清は考えていた。
ペアを作るだけで報告制でなかった学校側の落ち度に今だけは感謝すべきだろう。
そんな考え事をしていた清そっちのけで、常和を叩き終わったらしい心寧が何やらうずうずした様子に恐怖を覚えた。
「うちらはこれからこのクラスだからよろしくー!」
「ご迷惑おかけするかもしれませんがよろしくおねがいします」
軽い心寧とは裏腹に、律儀でしっかりしているのは灯らしいなと清は思った。
「星名さんこちらこそよろしく。隣にいる清は不愛想だが良いやつだから仲良くしてやってくれ」
「常和、余計なお世話だ。心寧に星名さんよろしく」
灯が常和の言葉に反応しなかったことに清は助かっていた。
授業の始まりを迎えるチャイムが鳴ったので、各自の席へと戻ることにした。その時に、灯がこちらを見て軽く微笑んで席へと戻った。
近くにいた常和はそれを見逃さなかったらしい。
「おまえ、星名さんと仲いいのか? 初めて会った他人のようには見えないんだが」
「授業始まるし、また後で」
そんな勘の鋭い常和を無視するように、清は席へと戻った。
元のクラス人数が少ないこともあってか、灯の席がちょうど清の隣なのは狙ってことなのかと疑問になるほどだ。
心寧は『監督責任を背負う』と言った常和の隣にされていたので、しばらくは安心できるだろう。
考え事をしているうちに担任が来て授業の始まりを迎えた。
「とっきー、まことー! 一緒にお昼食べよ!」
お昼休憩になると同時に、清は心寧から共にお昼を食べようと誘われていた。
普段、学校の食堂で心寧を見かけたことが無い。つまりはお弁当派なのだろう。
常和は断る理由がないため簡単に承諾していた。
そんなとき、お弁当を持った灯が近くに寄ってきた。
「あ、そうだ。あかりーも一緒だよ」
「清、あきらめろ。今の心寧には何言っても無駄だ」
「黒井さん、本当にすいません」
「いや、星名さんが謝ることじゃないから。常和と俺は学食だから、場所は食堂でいいよな?」
心寧はみんなで食べられるのなら何でもよかったらしくあっさりと受け入れていた。
常和がニヤニヤしながらこちらを見ている。おそらく、灯と違和感なく話したのが原因だろう。
清はからかわれながらも、灯たちと一緒に食堂へ向かうことにした。
食堂についた清たちは席を確保した後、常和と一緒に注文したものを取りに行った。その際に、灯との関係をまた聞いてきたのは気になるからだろう。
「常和、何を思って聞いているんだ?」
「星名さんと清が普通に話せる関係みたいだから気になったんだよ」
常和はそう笑いながら答えつつ、注文したものを受け取ると先に灯たちの待つ席に戻っていった。
常和は何かと清のことを心配してくれる優しいやつだ。ちゃんと話すべきだろうなと思いつつも、注文したものを受け取り席へと戻った。
席に戻ると灯が何やら暗い顔をしていた。
「星名さん、顔色悪いけど大丈夫か?」
「黒井さん……大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
少し暗めのトーンで返された様子を見るに何かあったのは違いないだろう。
……先に気づくべきだった。それは、席に戻ったはずの常和と心寧の姿が見当たらないことだ。
周りを見ても見当たらない様子を見るに、心寧が何かやらかして常和が注意でもしているのだろう。
灯は落ち着いたのか、深く着ていたローブを緩くし、こちらの方を見て話しかけてきた。
「まずですね、古村さんは心寧さんを説教する形で席を空けています」
「説教するって、よっぽどのことがあったんだな」
「はい。じつは……」
出来事が起こったのは、清が席に戻ってくるちょっと前の事らしい。
灯によると、ペアを誰と組んだのかを心寧が無理やり聞き出そうとしてきたのだという。そのことに関してはさすがに黙秘を突き通したらしいが。
しつこく迫られていた時に、ちょうど戻ってきた常和が見かけてしまったらしく。『心寧の行動は行き過ぎだ』と言って説教するために場を移動したのだという。
灯は話し終わると静かにお茶を飲んでいた。よほど大変だったことがうかがえる。
そんな灯に見とれかけていたその時、説教が終わったらしい常和が心寧を引き連れ戻ってきた。
「星名さん、この度はすまなかった。少しの間とはいえ嫌な思いをさせてしまった」
「い、いえ、そんなことはないですよ」
灯が常和に謝られ少し困ったような返事をしていた。
心寧の方を見ると今まで見たことのない冷静な姿勢と雰囲気を醸し出している事に清は驚きを隠せなかった。
常和が何かを察したように心寧にも謝ることを促した。
「灯さん、今回は迷惑かけてしまい申し訳ございません」
ちゃんと謝りながら頭を下げている心寧は別人かと思えるほどだ。
「えっと、あ、頭を上げてください! ……心寧さん、ですよね?」
灯も疑問に思ったらしく心寧なのかを確認している。心寧が静かにうなずいたとこを見るに別人ではないらしい。
常和が不思議そうに清と灯を見てきているのは違和感がないからだろうか。
「そうか。心寧が二重人格というか、このテンションの時を見たことないのか」
「常和、そもそも心寧と全く話さないからな」
「ああ、清はともかく星名さんもなのかって思ってな」
「私も初めて見ましたよ」
常和曰く、心寧はテンションが上がると好奇心旺盛状態になって、素を知る人からみたら動くものに反応する猫のようなものらしい。
その時は一人称が変わっているらしく見分けやすいそうだ。
「そんなことよりさ、みんなでご飯食べたいんだが」
「清にしては珍しい発言だな! 俺は賛成だ」
珍しいは余計だと言いたかったが、ここはぐっとこらえることにした。
「心寧さん、私たちも食べましょうね」
「清さんと灯さん、ありがとうございます」
無事にみんな揃ったので清たちはご飯を食べることにした。
その時に色々な話をできたのは食を共にする仲間がいるからだなと、清はしみじみ思った。
……学校が終わり、放課後となった。
「黒井さん、本当に良かったのですか?」
清の席に近づくなり聞いてきた灯は少し心配そうな顔をしていた。それもそうだろう、放課後に常和と心寧を家に招くことになったのだから。
お昼ご飯を食べているときに、心寧が清の家に行ってみたいという話になり、灯も大丈夫だと言うことで承諾したのだ。
条件として常和を連れてくることにしたのだが、喜んで引き受けていたことに少し困惑した。
帰りの準備ができたらしい常和と心寧が近くに寄ってきた。
「改めて確認するが、学校から直で来ることでいいんだよな?」
「おお、だから一緒に帰ろうぜ!」
清と常和の会話を聞きつつも、心寧は近くにいた灯の方を見ていた。そして、小さな声で周りに聞こえないように話した。
「えっと、灯さんは清さんの家に住んでいるのですよね」
「そうですね。皆さんと一緒に帰るのは色々まずいので、私は先に帰りますね」
灯はそう言い残すと先に教室を後にした。
「俺らもぼちぼちいくか」
「……清、ほんとうにいいやつだよおまえ」
常和が照れくさそうに言ってきたが無視をすることにした。
清たちも帰るために教室を後にした。
学校から距離はあるが遠すぎるほどでもないので、話しながら歩いているとすぐに感じた。
「着いたぞ」
そう言いつつ、清は玄関の鍵を開けた。
「清の家に入るの久しぶりだな。お邪魔します」
「お、お邪魔します」
清は常和と心寧が家に入るのを見てから静かにドアを閉めた。