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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
一テン八章:goodbye to my past

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第五十四話:現実世界、覚悟の音が鳴る

 清は意識がぼんやりしつつも着替えを終えた後、窓のカーテンを開けた。

 その視界に入ってくるのは、輝いて生き続けるきれいな星々だ。

 ふと机の上に置いてある時計へと目をやった。


「……午前四時か。灯と現実世界に行く約束の時間が近いな」


 清は小さく呟いた後、階段を下りてリビングの方へと向かった。


 灯は先に起きていたらしく、リビングは電気がついており、キッチンのテーブルの上には朝ご飯が用意されていた。

 テーブルに置かれた料理を見ていると、ソファのある方から声が聞こえてくる。


「……清くん、おはようございます。眠れましたか?」

「灯、おはよう。ああ、おかげさまでな……灯は?」

「ふふ、私も大丈夫ですよ」


 灯はソファに座って清が下りてくるのを待っていたようで、その場を立ち上がり清の方に近寄ってくる。

 この時の灯の服装は、学校のとは別物のローブらしく、フードが付いた羽織らないタイプのローブをしっかりと着こなしていた。また、透き通る水色の髪はヘアゴムで一つに束ねられており、学校で見慣れたポニーテールをしている。


「清くん、とりあえずは朝ご飯を食べましょうか」

「わかった。いつもありがとうな、灯」


 ……清と灯は朝ご飯を食べ終わった後、辺り一面が薄暗い庭へと出ていた。

 朝ご飯を食べている際に、気持ちの準備が改めて完了した清は、現実世界に行く覚悟はしっかりと決まっている。

 庭に出てから少し歩いたところで、灯は足を止めた。


「清くん、少しだけ私の後ろに居てください」


 灯の言葉に、清は何も言わずに従った。

 その様子を見ていた灯は、前を向きなおして口を開いた。


「星と星は虚空(こくう)で光の道を創りて、現実と魔法の世界を繋ぐ線となる」


 灯が詠唱を終えると、時空が歪んだように目の前の風景は姿形を変え、歪んだ空間が現れたのだ。

 これが以前から聞いていた、世界を行き来する力なのだろう。

 歪んだ空間に軽く動揺していれば、灯が手を差し伸べてきていた。


「清くん、この空間に入ったら……後戻りは出来ませんよ。覚悟はできていますか?」

「灯、覚悟はできているよ。……ありがとう」


 感謝を告げた後、灯から差し伸べられた手を優しく握り、もう一度覚悟を決めた。


「入った後、絶対にこの手を離さないでくださいね」


 その言葉に小さくうなずき、灯と共に空間へと足を踏み入れた。


 入ってから後ろを見れば、入り口は歪みを戻しながら消えていた。

 空間の中は先の見えない黒い世界が一面に広がっており、足場は白い光が導くかのように一直線に続き、周りに星のような小さな光が輝いている。例えるのなら、星の輝く夜道が一番近いのだろう。

 灯はこの空間に詳しいようで、優しく手を引かれるままに、二人でただひたすらに歩き続けた。

 そんな中、黙っていた灯は小さく口を開いた。


「清くん、虚空の意味を知っていますか?」

「ああ、それくらいは本で読んだことがある」


 虚空とは、簡単に言ってしまえば何もない空間のようなものだ。今まさに歩いている、この空間そのものを指していると言っても過言ではないだろう。


「それならよかったです。虚空の意味と詠唱の言葉も含めて、私はこの空間のことを『(ほし)(しるべ)』と呼んでいます」


 この名もないような空間に、星の導という名前を付けてあげる灯はとても優しいのだろう。


(灯は本当に星が好きだよな……)


 そしてまたしばらく無言で歩き続けていれば、灯は握っていた手を少し強くしてくる。


「清くん、改めて聞きますが――家族と会い、何を話す気ですか?」


 灯は理由を知っているうえで、改めて聞いてきているのだろう。

 自分が家族と再度向き合うことを、灯はあまり望んでいないのだ。それは、家族と再度会って話すことにより、今あるこの気持ちが壊れてしまうかもしれない、と危惧しているからだろう。

 灯の心配してくれる気持ちはありがたいが、自分が決めたことを受け止めきれないほど弱くない、と内心は思っている。


「魔法世界で仲間と共に暮らすこと。そして、今の俺は家族の操り人形としてはさようならしている、と……この二つを話す気でいるよ」

「ふふ。それだけ覚悟が決まっているのなら、過度に心配する必要はなさそうですね」


 小さく微笑みながら言う灯は、覚悟を認めてくれたってことだろうか。

 清は灯に聞こえるか聞こえないくらいの声で小さく、ありがとう、と言葉を口にしていた。普段から二人の間にある魔法の言葉、ありがとうを。


 感謝を口にしてから、少し歩いたところで小さな一筋の光が差し込んでくる。


「そろそろ空間の終着点です。……清くん、私は現実世界でこの髪を見られるわけにはいかないので――」

「灯、言わなくてもわかっているよ。その服装を見た時からな……」


 灯は清の言葉を聞いて嬉しそうな微笑みを見せた後、フードを優しく被り、透き通る水色の髪を覆い隠した。

 水色の前髪がチラリと見えている今の灯の姿は、透き通る水色の瞳も相まってか、どことなくツクヨと似たような印象を感じさせてくる。

 そんなことを思っていれば終着点についたようで、灯は足を止めていた。


「この先が、私達が過去に暮らしていた世界――現実世界ですよ」

「……やっと着いたんだな」

「ええ。それと清くん、星の導の空間内に入ってから時間がずれているので、現実世界は十時くらいになっていると思っておいてください」


(確か家を出たのが四時半くらいで、ここまで歩くのにおおよそ一時間くらいか……)


 魔法世界と現実世界は何かと時間がずれているらしく、灯の言葉からするに、四時間ほどは時差があるのだろう。

 清は灯の手をしっかりと握り直し、歪んだ空間の出入り口へと二人で足を踏み入れた。


 空間から出た瞬間、清は見えた光景に深く息を呑んだ。


「ここは……」

「ええ、清くんと私の家の近くにある……星の魔石を拾った草原」


 清と灯の住んでいたところは、都会が近くにある田舎のような場所で、自然豊かなところだ。そのため、家が一か所の地域に集中しているのもあり、草原らしきところがあるのはそう珍しくない。

 灯は言い終えると、清が住んでいた家の方に向かって静かに歩き出した。それを見た清も、後を追うようにその場を後にした。


 ……庭の広さは相変わらず、といったところだろうか。

 清が住んでいた家の庭は、田舎の中では他と比べて明らかに広い。


「清くん、私が付き添えるのは一旦ここまでです」


 その時、灯は黙っていた口をゆっくりと開いた。


「あ、実家に一人で戻るわけではないですよ。清くんが家族と話し終わるまで、私は待っていますから」


 家の庭前付近で、灯から言われた言葉に清は軽く震えた。

 家族が怖いというわけではないが、灯の小さな気遣いに心からの感謝をしたせいだろうか。

 灯は多くを言わないが、家族との話を絶対に邪魔しない、というのを遠回しに伝えているのだろう。


「わかった――頑張るよ」


 清が灯に笑顔で言えば、灯は頬を赤くし始め、誤魔化すかのように清の背を優しくも強く押した。それはまるで、覚悟の後押しをしているかのように。

 それから清は広い庭を歩き、玄関前までたどり着いた。


(家族と決別するために来たんだ……覚悟を、決めろ)


 清がしっかりと腕を伸ばして押したインターホンから、低い音が鳴る。

この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

今話より第一章の最終幕、一テン八章始まりました。

本日を含め、この五日間は毎日一話ずつ投稿になりますので、一テン八章の終わりまでお付き合いしていただければ幸いです。

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