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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第三部

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第四十八話:君はズルいよ2

※追記

7/22:文章内の、温かくも空気の通りがよさそうな格好をしているあたりを、上下に温かそうなスウェットを着ているあたりに大幅変更いたしました。

 次の日の朝、カーテンを開けつつ窓を覗けば、空は薄黒い雲で覆いつくされている。

 階段を下りてリビングに向かえば、灯が制服姿でソファに座っていた。

 清が下りて来たことに気づいていないのか、灯は仕草ひとつ変えずに凛と座ったままだ。


「灯、おはよう」

「あ、清くん、おはよ――」


 声をかけた次の瞬間、ソファから立ち上がった灯が倒れるように清へと寄り掛かってきたのだ。

 灯が倒れる前に反射的に支えたが、手が触れたその体はいつも以上に冷たく、体温が低くなっているとわかる。また、微かに魔力の粒が灯の体から漏れ出していた。

 熱がある、というわけではないみたいだ。しかし、この状況を見て心配にならない理由などないだろう。


「灯。何も言わずに、今日はゆっくりと休んでくれ」

「清くん……ごめんなさい」

「馬鹿、謝るなよ。その……寝かせるところ、俺の部屋でもいいか?」


 灯が何も言わずにうなずいたのを見るに、問題はないという事だろう。

 男の部屋で寝かせるのもどうかと思うが、清としては女の子の部屋に入りたくないのが本音であり、この反応はありがたく感じている。また、灯も女性であるため異性を部屋に招く、というのは嫌だろう。相手が清であっても、その例外にはならないはずだ。


「あのさ、灯の部屋まで一度運ぶから、一回着替えて来てもらってもいいか?」

「……わかりました」


 一歩踏み出した灯の足がおぼついているのを見るに、またいつ倒れてもおかしくない。

 このまま歩かせるのも悪いと思い、灯の背中と膝裏に手を回して抱きかかえれば、灯は反応が遅れつつも服を掴んでくる。

 灯は何も言わずに頬を赤らめている。抱っこされるとは思っておらず恥ずかしかったのだろう。それでも、清の手よりもひと回り小さな灯の手は、優しく握った清の服を離そうとしない。


 今まで灯を持ち上げたことが無かったため知らなかったが、とても軽い。

いつも一緒にご飯を食べているのに、食べていないのではと思えてしまう程に。


(……体重にどうこう言うのは、野暮にも先にも失礼か)


 灯を部屋に運んだあと、廊下で連絡をして待っていれば、扉の開く音が後ろから微かに聞こえてくる。

 振り返れば、灯が扉の隙間から顔を覗かせている。

 こちらへと歩いて近寄ってきたが、ふらつきが見えるあたり心配だ。


「灯……悪いけど、また抱っこさせてもらうからな」

「え、あ」


 灯が言葉を言い終わる前に、清は灯を抱っこして自室へと運んだ。


 抱きかかえている際に、清はチラリと灯へと目をやった。

 灯は寝間着姿でなく、上下に温かそうなスウェットを着ているあたり、体調不良に関しても用意万端なのだろう。

 灯の寝間着姿を目にすることは多いが、ほとんど目を逸らしている清からしてみれば、心臓の負荷が減って安堵している。


 灯を自身のベッドで横にさせれば、灯はこちらを見たままだ。


(朝ご飯を準備してなかったあたり、多分食べてないよな)


「灯、食欲はあるか?」

「え、ええ、多少は」

「その、お粥作ってくるから少し待っていてくれるか」

「はい。嬉しいです」

「そうかよ」


 数十分ほどが経ち、清は作ったお粥を自室へと運んでいた。

 念のためにドアをノックすれば、灯から「はい」と返事が返ってくる。

 部屋に入った後、清はお盆を近くの机に置きつつも椅子に座り、お粥の入った茶碗とスプーンを灯に手渡した。


「……食べやすい温度に冷ましてあるから」

「清くんの……手作り?」

「ああ。灯ほどではないけどな」

「清くん、嬉しいです。ありがとうございます」


 灯からしてみれば、清は未だに料理が出来ない認定だったのだろう。

 確かに灯程の料理は到底できない。それでも、灯が料理しているのを見続けているうちに、多少の料理をできる程度に成長しているつもりだ。


 それから灯は数分程お粥を見たまま無言だったが、ゆっくりとスプーンで掬い、静かに口に含む。

 お粥を食べてくれたことに、清が胸を撫で下ろして安堵した時だった。


 ――灯の頬を雫が伝い、小さく流れ始めている。


「なんで泣いているんだよ。……もしかして、不味かったか?」

「とても美味しいです。看病されるのが夢みたいって思ったら、自然と涙が溢れちゃっただけですから」


 過去に孤独になっていたのは自分だけではなく、灯もその一人なのだ。ましてや、灯は父が行方不明になってから、母に心配をかけないようにしているとも言っていた。

 体調が悪くなっても、無理をして黙ったまま、灯はずっと隠し通していたのだろう。


「灯、無理はするな。だから、今はゆっくりとしてくれ」

「うん」

「薬は灯が持参したやつで大丈夫なんだよな?」

「そうですね」


 灯はお粥を食べ終わった後、薬を飲んで静かにしていた。

 少し経って落ちついたのか、灯は上半身をベッドから起こし、清を見たままでいる。


「あの、清くん」

「灯、どうした?」


 灯は透き通る水色の瞳を逸らさずに、清をただジッと見つめてきている。

 何かを伝えたい、という意思が灯から感じ取れる。それを受け止めない理由は、どこにもないだろう。

 清が小さくうなずけば、灯は口を開き言葉を紡ぎ始めた。


限界負荷オーバーフロー……これ以上は隠し通せないですよね。だって、私が体調を崩している理由、それが原因ですから」


 昨日の夜や、灯が朝にふらついた時もそうだが、魔力の粒が出ている時点で察するべきだったのだ。そもそも、魔力の粒が漏れ出ること自体ありえないのだから。

 清が驚いて言葉を発する間もなく、灯は話を続けた。


「改めて確認しますが、限界負荷によって髪と目の色が染まる。前に話しましたから、それくらい把握していますよね」

「灯に教わったんだ……忘れる理由がないだろ」

「ふふ、よかったです。……デメリットが存在している、というのはご存じでしたか?」


 限界負荷オーバーフローのデメリット、と灯に言われても想像がつかない。

 星の魔石が特有のデメリットを持っていたとしても、限界負荷は髪と目の色が染まるだけ、と認識していたのだから。

 清が首を傾げていれば、灯は察したかのように言葉を口にした。


「清くんが知らないのも無理はないですよ。まず、限界負荷オーバーフローには二つのデメリットが存在しています。その一つ目は、魔力が普通よりも多く減ってしまうというもの」

「あのさ灯、星の魔石自体が魔力は多く減るよな。それに足されるって感じなのか?」


 灯は何も言わず、小さくうなずいた。

 灯の言っていることが本当であるのなら、灯は無制限合成魔法で多くの魔力を失っているのにも関わらず、自己保管(じこほかん)魔法まほうで魔力回復をずっとしていたことになる。

 身体への負荷を考えれば、脳にも相当の負荷がかかっていたのは間違いないだろう。

 そして魔法勝負の時、灯は顔色一つ変えずに魔法を使っていた。魔力を回復しながらの勝負は不可能に近い、と清自身もよくわかっている。


(……なら、どうやって灯は魔法を?)


 ふと気づけば、灯はこちらを見ている。というよりも見ていたままだ。

 灯は軽く呼吸をした後、冷たいような声で言葉を口にした。


「そして二つ目は……魔力が常時少しずつ減っていく」

「魔力が減っていくって」

「対策方法としては、魔力の回復を常時使用し、魔力の消費を限りなくゼロにする必要があります。私はそれを完璧にやっていました。でも、気を抜いてしまったから今に至っているのですよ……馬鹿らしいですよね」


 思い出してみれば、灯は魔力の消費を限りなくゼロにしている、と前に言っていた。それに、灯の持つ自己保管魔法自体が、魔法から作り出された回復魔法だ。

 徐々に魔力が減っていく中、常時回復魔法を使うとなれば寸分のズレも許されないだろう。


 ずっと一緒に居た灯が大変な思いをしていたのにも関わらず、その気持ちに気づいてあげられなかった。ましてや、こちらが限界負荷になりそうになった時、灯は優しく止めてくれた。

 己の身を犠牲にしても他人の幸せを願う灯は、優しすぎだ。


(馬鹿なのは、俺の方だ)


 清は黙って灯の手を優しくも強く握り、言葉を口にした。


「灯、お前が馬鹿なわけないだろ。馬鹿なのは、灯の今までの努力に気づけなかった俺の方だ。……だから、そんなに自分を否定するなよ」

「ふふ、清くんも自分を否定しちゃダメですよ。でも、ありがとう」

「善処する。というか、別に何もしてない」

「素直じゃないですね」

「う、うるさい。……あのさ、一つだけ聞いてもいいか?」

「なんでしょうか?」

「答えたくなかったらいいんだけどさ、俺が限界負荷オーバーフローになって欲しくなかった理由ってなんだ?」


 流石に聞いたのはまずかったのか、灯はうつむいて考え込んでいる。

 無理に答えてもらう気はなかった為、灯に声をかけようとした時だった。


「清くんを私と同じ過去の過ちに触れさせたくなかった。もっと言えば、負荷がかかってない、笑顔で過ごすあなたの笑顔を見ていたいと思ったから。……だって、清くんは私の中で、誰よりも一番大切な存在」


 灯が小さな微笑みを作りながら言った言葉に、清は息を深く呑んだ。

 誰よりも一番大切な存在というのは、こちらも同じだ。仮に自分が灯の立場だとしても、同じ言葉に行動をしていたかもしれない。


 過去の自分が孤独の中、灯はいつも傍で支えようとしてくれた。なら、今度は自分が恩を返す番だろう。

 数多あまたの時を超えた、幾千もの思いを乗せて。


「灯、本当に一人で無理するなよ」


 気づけば、清は頬に涙を伝わせながらも椅子から立ち上がり、灯を優しくそっと抱きしめていた。


「ズルい君に、気づいてあげられなくてごめん」

「清くんが謝ることではありませんよ。ズル、というのは気づけないのが普通ですから。それでも、気づいてくれてありがとう」


 灯は小さく微笑みながら、灯を抱きしめたままの清の背中を優しく撫でていた。



 灯を抱きしめて数分が過ぎたころ、抱きしめていたことに気づき、清は慌てて腕を離した。

 火照ったような頬を冷ましつつ、灯の方に目をやれば、小さな手が服の袖を掴んできている。


「灯、どうかしたか?」


 ベッドで横になっている灯の視線に合わせるように、腰を低くして聞けば、灯は頬を赤くしている。


「あの……その、今日は……そばに居て欲しい、と言ったら」

「ずっとそばに居てやるよ。大切な存在なんだ、当たり前だろ」


 そう言いつつ灯の小さな手を握れば、ひんやりとした感覚が伝わってくる。魔法が影響しているといっても、最初に触れた時よりは温かくなっている。治りかけている証拠なのだろうか。


「温かくて、優しい」

「そうかよ。絶対に離れないから、今は寝とけ」

「うん。清くん、おやすみなさい」

「灯、おやすみ」


 しばらくすれば、灯は眠ったようで小さな寝息が聞こえてきた。それでも、握った手を離さんと言わんばかりに、強く優しく握ったままだ。

 眠った女の子……ましてや眠った灯の傍にいるというのは、男として認識されていないのか、と思うくらい困惑してしまう。

 普通の男ならこれを好機として襲っているかも知れないが、清にそんな気持ちは微塵もない。そもそも、そんな事をしてまで灯との関係を崩す理由はないだろう。


 灯の事は誰よりも大切で、ずっと笑顔で居て欲しいと思っている。それ以上の欲は必要ないだろう。

 それでも灯が自分の前だけでなる、可愛い寝顔に無防備さだ。


(灯……君は本当に、ズルいよ)


 清は灯の手を離さないように、少しだけ目を閉じた。


この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

「君はズルいよ」まさかの2を実現いたしました!読んでついてきてくださる読者様が

いるからこそだと思っております。本当にありがとうございます!


夜くらいに、この話の続きである四十八テン八話が投稿されます。文字数が少ないため、おまけ3の扱いになるので、気楽に読んでいただければと思っております。

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