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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第三部
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第四十七話:お返しはひとすくい

 学校終わりの放課後、清は心寧と共に、心寧行きつけのお店に来ていた。


 魔法世界ではめずらしく、テラス席が常設されているお店だ。また心寧いわく、このお店のパフェは絶品らしい。

 パフェ以外にも、店内にはプリンやシュークリーム、他にも様々なデザート類を多く取り扱っている。

 テラス席に座り一息ついたところで、清は心寧に声をかけた。


「心寧、相談に乗ってもらってすまないな」

「まことー。友達なんだから、困った時はお互い様でしょ?」


 バレンタインのお返しを常和に相談しところ、心寧に相談したらどうだ、と言われて今に至っている。

 心寧の頼んだパフェが来たところで、心寧は口を開いた。


「確かー、あかりーにホワイトデーのお返しをどうするかだっけ?」

「すまん。常和経由でしか聞いてなかったよな」

「まーねー。でも、なんとなく察してはいたから」


 常和と心寧は二人揃って察しが良いのは、相談する清からしてみればありがたい限りだ。

 心寧に相談をまかせる、というのを常和は今までやってこなかった為、何か思い当たる節があるのだろう。


 清が少し考えをまとめていれば、見ていた心寧が言葉を口にした。


「そもそも、まことーは、あかりーに何をお返しする気なの?」


 何をお返しする気と言われてみれば、形が決まっていない。もしくはアクセサリーとかでいいのでは、と思っていたほどだ。


「……わかってないし、決まってない」


 その瞬間、パフェを食べていた心寧の手が止まっていた。

 そして真剣な表情で、清の方をしっかりと見てくる。


「清。お返しする物が分からないんじゃなくてさ……本当は、お返しする物の形が見えてないよね? それになんとなくだけど、灯の気持ちを見て見ぬフリしてるよね」


 心寧から言われた言葉に、清は息を呑んだ。

 お返しをする以前に、灯の気持ちから目を背けていた。灯に嫌われたくない、一緒に居られる時間を手放したくない、それらはただのエゴでしかない。


 灯の気持ちを理解するよりも先に、清は自分という存在を守ろうとしていた。

 偽善的な思いからのお返しをしたところで、喜ばれるかといえば否だろう。


「何も言い返せません」

「清、別に気にすることでもないよ」

「え?」


 心寧が不意に小さく呟いた言葉に、清は困惑を隠せなかった。


「一応、バレンタインのお返しはね、周りによくいるアクセサリーが絶対! じゃなくてね、食べ物とかでもいいんだよ?」


 お返しをアクセサリー限定として考えていた為、食べ物でも大丈夫なのは盲点だった。

 灯が好きな食べ物なら、清は誰よりも熟知している自信があるため、選ぶだけなら簡単だろう。


「心寧、ありがとうな。迷いが晴れたよ」

「やっぱり、二人は似た者同士だね」

「……どういうことだよ」

「あ、別にー」


 心寧は誤魔化すように、パフェの残りを再度口にしている。

 お返しする物に目星がついたとしても、振り出しに戻ったのも事実だ。


(食べ物、どこで買うべきか……)


 ふと気づけば、心寧は食べ終わったようで、スプーンをテーブルに置いていた。

 そして清の方をじろじろと見てきている。


「心寧。なんだよ」

「いやさー、よかったらここで買うのはどう?」


 そう言って、心寧は店内の方を指さした。

 このお店はその場で食べるよりも、お持ち帰り前提らしく、心寧の判断に間違いはないだろう。また、店内の商品を全種制覇しているらしい心寧が言うのだから、心からの信用性がある。


「そうするよ。あと心寧、お礼として何か買わせてくれ」

「え、パフェまで奢ってもらったのに悪いねー。じゃ、行こっか!」


 二人はその場を立ち上がり、店内の方へと向かっていった。




 ホワイトデー当日となり、清は灯が二階から下りてくるのをリビングで待っていた。


 学校ではいつも通りにしていた為、ホワイトデーとはいえ浮かれた様子はなかっただろう。

 今までの清なら、前髪を適当に下ろして印象を暗く見せているところだ。しかし今回の待つ姿は、前髪を軽くサイドに整え、少しでも印象を良くしようとしていた。


 この格好にしたのは、心寧の入れ知恵ありきだ。前に常和と勝負した際、前髪を軽く横に避けて戦っていた清の姿を「かっこいい」と灯が口にしていたらしい。


 普段着がパーカーのままなのは、センス以前の問題として潔く諦めている。


 慣れない髪型のせいか、灯にお返しを渡すと意識して緊張しているせいか、どちらにせよ鼓動が鳴りやまない。


 階段の方から微かに足音が聞こえてくる。灯が夜ご飯の準備のため下りてきたのだろう。

 灯はリビングに足を踏み入れた瞬間、清の姿を見て固まっている。


「灯……その、バレンタインのお返し」


 清は手に持っていた水色のリボンが付いた小箱を、灯の前に差し出した。

 灯は硬直が解けたように、小箱を静かに受け取った。


「あ、ありがとうございます」


 灯は小箱を見つつも、チラリとこちらを見てくる。


「灯、開けていいから」


 言葉に反応してか、灯は器用にリボンをほどき、小箱を開けた。

 細い指先がそっと小箱から物を取り出すと、プリンがその姿を見せる。


「プリン」

「ああ。灯、プリン好きだろ?」

「大好きです……清くん、ありがとう。すごく嬉しいです」


 灯は感謝を言うと、清の傍に近寄ってきた。

 そして清の耳の近くで小さく囁いた。


「清くん。かっこいいですよ」

「え、あ、灯!?」


 透き通る水色の髪が軽く浮きつつ、灯は逃げるようにキッチンへと向かっていった。

 灯にかっこいい、と言われるとは思っておらず、清は顔を赤くした。

 心寧から聞いてはいたが、直接言われるのは予想外だ。


 夜ご飯を食べた後、二人でソファに座っている。

 目の前のテーブルには、灯にあげたプリンが置いてある。

 灯がチラリ、とこちらの方を見てきた。


「灯、俺の事は気にしなくていいから」

「わかりました……いただきます」


 自分の分を買ってこなかった為、灯は気にしているのだろうか。食べる前に他人の心配をする灯は、誰よりも優しすぎるのだろう。


 灯は小さく会釈した後、置いてあるスプーンを手に持ち、プリンをひとすくいして口に含んだ。

 その瞬間、灯はおいしそうな笑みで頬に手を添え、とても可愛い笑顔を見せてくる。


(……その笑顔はズルすぎだろ)


 灯の可愛い笑顔を直視してしまった為か、平然を保っているのが不可能に感じるほどだ。


 ふと気づけば、灯がスプーンをこちらに向けてきていた。そして、当たり前のようにプリンが乗っている。

 目を合わせれば、灯は透き通る水色の瞳で見つめてくるだけだ。


「あ、灯?」

「え、あ、てっきり、見ていたから食べたかったのかと」

「……意味がわかっていると恥ずかしい」


 その言葉に反応してか、灯の頬は少しだけ赤みを帯び始めていた。

 清が誤魔化そうと軽く苦笑いをすれば、灯がスプーンを持った手とは逆の手で、清の服の袖をそっと掴んできた。


「清くん……美味しいを分け合いたかった、と言ったら?」


 灯との身長さのせいもあるが、上目遣いで恥ずかしそうに言ってくるのは、反則だ。

 そして今の状況から目を背ければ、二度と前を向いて、灯の気持ちを受け止めるのは不可能だ。


(今は……気持ちをひとすくいするだけだ)


 清は覚悟を決めて、軽く息を吐いた。


「灯、すまない……その、食べてもいいか?」

「うん。清くん、どうぞ」


 やはりというか、灯は自らの手で食べさせる気らしい。

 目をつむりながら、清は恥ずかしさを押さえプリンを口に含んだ。

 口に広がるのは、しっとりとしたなめらかさ以上に、甘さだった。


「甘いな」

「生クリームがたっぷり使われているからですかね」

「いや、絶対違うだろ」

「ふふ、そうかもしれませんね」


 灯がプリンを食べ終わった後、二人で外に出て星を見ていた。

 今日は新月なのか、月明かりが差さず、星の明かりだけがきれいに輝いている。


「灯、一つだけ聞いていいか」

「なんですか?」

「あのさ、灯の誕生日っていつだ?」


 灯は少し驚いた顔をした後、ゆっくりと口を開いた。


「私の誕生日は六月十日ですよ」

「そうだったのか。知らなかった」

「……清くん、そもそも自身の誕生日を覚えているのですか?」


 誕生日――思い出そうとしても、脳が思い出させようとしない。本能が反射的に、自分という名の存在を守っているのだろう。

 どうしたものか、と悩んでいれば灯が声をかけてきた。


「清くんの誕生日なら私が覚えていますから、安心してください」

「俺が本人だけど、教える気はないんだろ?」

「ふふ、よくおわかりで」

「それくらいは、な」


 清は笑いながらも、ふと空を見上げた。

 今日は月が出ていないが、この世界で灯との出会いは、星を見たいという理由だけで外に出たのが始まりだ。


 あの日の思い付きが無ければ、今頃は灯に救われていなかった可能性も高い。

 神のお遊びだったとしても、魔法のような再開には感謝しかないだろう。


(ほんと、近くて遠い存在だよ)


 そんな事を思い出していれば、風が吹いて肌を撫でてくる。


「清くん、そろそろ家の中に戻りましょうか」

「え、あ、そう――」


 灯の方を見た瞬間、風が透き通る水色の髪をなびかせた。

 風になびいた透き通る水色の髪は、数多ある星の粒の光を反射し、髪の中に星空を作り出している。そして、小さな輝きと共に灯を更に美しく見せてくる。


「清くん、どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。戻るか」

「はい」


 家に戻ろうとした時、灯の髪から小さな魔力の粒が一瞬浮かんだのを、清は見逃さなかった。


(あれは……気のせい、か?)


 魔力を一瞬感じたが、星の光と見間違えたのだろうか。しかし、心には違和感があるようで残ったままだ。

 ふと気づけば、灯は玄関の方に戻っていたらしく手を振っている。


 清は考えすぎだと思い、灯の待つ方に走って向かった。

この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

ちょっとずつでも成長の兆しを見せている清くん。頑張ってほしいものですね。

それと、何気に物語は三月に入りましたね。この後の物語予定は、三月内での話になるため、内容が少し詰まった感じになります!


※余談:サブタイトルの「ひとすくい」今回の話内で各場所に散りばめられていたのですが、わかりましたでしょうか……?

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