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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第三部
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第四十五話:君はチョコよりも甘くズルい【中編】

 バレンタイン当日になり、お昼休憩中にある光景を目の前で見せつけられていた。目の前に居るのは、常和に心寧という組み合わせだ。

 チラリと隣に座っている灯を見れば、流石に呆れたような表情をしている。


「とっきーこれあげる!」

「ありがとう心寧」

「……お前ら何がしたいんだよ」


 清は呆れた声を出さないようにしつつ、常和と心寧に対して冷静に問いかけた。

 バレンタインで好きな人にチョコを渡すのはわかるが、目の前で正々堂々と見せつけるものなのだろうか。

 また食堂ということもあり、周囲を見渡してみれば、周りからは殺意の籠った視線を向けられている。


(頼むから灯を巻き込むのだけはやめてくれ……)


 清からしてみれば、自分が二人の巻き沿いを食らうのはいいとしても、灯だけは巻き込んでほしくないと思っている。

 誰の手にも触れさせないで、灯の幸せな笑みを守りたい、というエゴもあるからだろう。


「清、キョロキョロしてどうしたんだよ。もしかして、羨ましいのか?」

「もしかして、あかりーも羨ましいの?」


 清は何でそうなると思いつつも、ため息をつくことしか出来なかった。

 流れ弾を食らった灯の方を見れば目が合う。お互いに少し顔を見合わせた後、常和達の方に向き直した。

 言葉を交わさなくとも、灯の言いたいことはわかる。というよりは、この状況なら尚更だろう。


「あのな、別に羨ましくないから」

「清くんの言う通り、羨ましくないですよ」


 これを羨ましいと言えるかは、その人次第だろう。少なくとも清からしてみれば羨ましくはない。

 それにチョコを貰う予定もなければ、貰う相手すら居ない。


 ふと隣を見れば、灯が不機嫌そうな顔をしている。その表情は何時に無く機嫌が悪い、と見て取れるほどだ。


(まあ、機嫌悪くしない理由がないよな……俺が言えた口ではないか)


 機嫌を悪くしているのは灯だけでなく清も同じだ。また表情にこそ出していないが、見ていて気分が良い筈はない。

 そんな清達の様子に気づいたのか、心寧は慌てたように言葉を口にした。


「ねー、二人して機嫌悪くしないでよー」

「清と星名さん、これには訳がある。話だけでも聞いてくれないか?」


 常和は苦笑いしつつ話だけでも、と言っているから本当に訳はあったのだろう。

 どうしたものかと思っていれば、灯が急に制服の袖を優しく引っ張ってきた。


「清くん。二人の話、聞くだけ聞いてみませんか?」

「わかった。灯がそう言うなら」


 灯は心を読んでいるのだろうか、と思えるほど的確な助言に清は気を取られかけた。

 それよりも先にまずは、二人に悪意があってもなくても、聞かなければ始まらないのも事実だ。

 清が灯の言葉にうなずき、二人の方を向き直せば心寧が口を開いた。


「あのね。もし、あかりーがまことーにチョコを渡すとしたら、こんな感じかなーって話になったの」

「それでな、二人の前でやって後押ししようぜ、という話になったんだ」

「後押しって……はあ、余計な考えをどうもありがとう」

「……私は、そんな軽々しく渡したりしないですから」


 灯の小さく呟いた言葉に清は息を呑んだ。

 チョコを渡す予定があってもなくても、渡し方を選んでくれるのは、渡される側は嬉しいものだろう。

 仮に渡す予定があるのだとすれば、灯が誰に渡すのか気になってしまう。


(……余計な考えはよくないな)


 常和と心寧は聞こえていなかったのか、急に黙り込んだ清達を不思議そうに見ている。


「二人とも、急にどうしたの?」

「別に何でもない」

「何でもないですから」

「お二人さんは本当に仲がいいな」


 常和の言葉に灯は反応したのか、灯は頬を薄っすらと赤く染めている。

 気づけば灯は照れ隠しをするかのように、清の右手を静かに握ってきていた。


「あ、一応言っとくけどね。とっきーへの本命は別でちゃんと用意してあるからね」


 悪ふざけの為に準備したのを褒めればいいのか、と清は呆れて思いながらも、灯から握られた手を優しく握り返した。


 放課後になれば、浮かれた声が廊下のあちらこちらから聞こえてくる。本日がバレンタインというのもあり、チョコを巡った熱い心理戦が繰り広げられているのだろう。


(義理によって血涙を流すか、本命という幸せを掴む……俺にはよくわからないな)


 清は行事にあまり興味がないため、帰ろうとして席を立てば、常和が近寄ってきた。


「清、今日はすまない」

「あー、別に気にしてないから謝んなって。それより、心寧へのお返し頑張れよ」

「まあなんだ。お前も頑張れよ」

「頑張るって、何をだよ?」


 常和の言葉に疑問を感じていれば、いつの間にか灯が近くに来て、手を優しく握ってきた。

 ふと気づけば、心寧も常和の傍に立っている。先ほどまで二人で話していたみたいだが、話終わったのだろう。


「灯、帰るか」

「はい、清くん」


 灯が寄り添いつつ微笑みながら返してくるため、本当に灯が彼女だったらな、と思えてしまう。

 常和と心寧に別れの挨拶を告げ、灯と一緒に教室を後にした。

この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

常和と心寧は悪ふざけしたというよりも、遠回しに自信を持てと伝えたい、粋な計らいだったのですよね。清と灯は気づいていないみたいですが。


後編は早ければ明日には上がる予定です!

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