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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第二部

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第三十四話:君と星夜のクリスマス

 ペア試験が終わり、道中何事も無く家へと帰ってきていた。

 灯の作ってくれた夜ご飯を食べ終え、今は二人でソファに座っている。


(バレていない……よな?)


 クリスマスプレゼントを灯に渡すため、小さな紙袋をソファの横に隠しているのだ。

 今までに無いほど、清の心臓は鼓動を増している。それは緊張からなのか。はたまた、隠し事が苦手なせいなのか。多分、後者だろう。

 ふと横を見れば、灯は特に何も無い様子で凛と座っている。


「そういえば清くん」

「え、あ、灯……どうした?」


 いきなり話しかけられると思っていなかったため、動揺のあまり言葉が詰まってしまった。

 清の気持ちには触れる気が無い、と言わんばかりに動揺を見て、灯は微笑みの目線を向けてくる。

 変に模索されるよりはマシだ、と思った方がいいのだろう。


「これをどうぞ、ココアです」


 いつの間にか席を離れていた灯は、マグカップを前に差し出してきたのだ。


「ありがとう。いつも助かる」


 灯の手から受け取りつつ、口に付けた。

 口の中には芳醇なココアの香りと、優しい甘みが広がっていき、心を包むように落ち着かせてくる。

 マグカップを口から離しつつ、テーブルの上にそっと置いた。その時、灯も合わせるかのようにマグカップを置いたのだ。


「先程話そうとしたことなのですが」

「ああ、なんだ?」

「学校の本格的再開日。清くんはわかっているのかなと」


 本格的再開日、と言われてもピンとこなかった。というよりも、理解していないが正しいだろう。

 ペア試験は日程通りに行っただけで、学校が再開になったわけではないのだ。


「いや、知らないな」

「しょうがない人ですね。再開日は一月四日からですよ」

「そうだったのか。灯、ありがとな」


 感謝を言えば、灯は微笑みを何も言わずに返してくる。それは、優しく柔らかい表情で、手を伸ばして触りたいと思えるほどだ。

 クリスマスの話題を出すのか、と思っていたが、灯は一切触れようとしない。しかし、無理に避けているようにも見えない。


 お互いの距離感的にも、触れないのは当然なのだろうか。


 ふと考えていれば、右肩に軽く温かい重みを感じた。

 焦って横を見れば、灯が疲れた様子で寄り添ってきているのだ。しかも、甘えた様子なのが……ズルい、としか言えない。


(そんな表情されたら……受け入れるしかないだろ)


 この三日間の出来事を考えれば、灯が疲れているのも無理はないだろう。

 清は少しだけと思いつつ、柔らかそうな頬に左手を伸ばし、お餅を撫でるように優しく触れた。


 とても柔らかく、温かい。

 急に触れたせいだろう。灯はピクリと体を震わせて、水色の瞳をパチクリしている。それでも、触られたくない、というような表情をしていない。

 触るのを止めようと手を離そうとした時、灯は頬を擦り付けてきたのだ。


「あ、灯?」

「……清くんが先にやってきたのですよ」

「おっしゃる通りです」


 それから灯が満足したのは……数分後だった。

 お互い我に返れば、二人して頬を赤く染めているような状態だ。


 恥ずかしい、という気持ちを抑えながらも、清は隠しておいた小さな紙袋を手に取った。

 これには灯も気づいたようで、不思議そうな顔をしている。

 その様子を横目に、紙袋から赤いリボンの付いた小さな小箱を取り出し、灯の目の前に差し出した。


「え、えっと、それは?」

「灯。俺からのクリスマスプレゼントだ。受け取って、くれるか?」


 灯は小さくうなずき、清の手から小箱を優しく受け取った。

 小箱を手にしながら、灯は嬉しそうな表情をしている。それは、初めての物を手にして、喜んでいる幼い子供のようにも見える。


「あ、ありがとうございます。開けても、いいですか?」

「好きにしてくれ」

「ふふ、素直じゃないですね」


 灯はそう言いつつ優しい手つきで箱を開ける。すると、中には三日月がモチーフになっているシルバー色のアクセサリーが付いた、白いヘアゴムが二つ入っている。

 以前の買い物の時、灯が好きそうなシンプルな装飾かつ、透き通る水色の髪に似合うと思い選んだのだ。

 三日月のアクセサリーは、箱の中に納まったままでも光を反射し輝いている。


 取りだそうともしないので、気に入らなかったのかと聞こうとした瞬間、灯は口を開いた。


「清くん、とても嬉しいです。このセンス……私は好きです」

「そうか。なら良かったよ」


 笑顔で言い切れば、灯の頬は赤みをうっすらと帯びていた。照れているのだろうか。

 照れ隠しするように灯はヘアゴムを取り出し、手の上に二つ置いて見ている。


 灯の可愛さも相まってだろうか、その手の上に置かれたヘアゴムがとても美しく見えるのだ。


 そんな様子で見ていれば、気づけば灯の頬に清は手を伸ばそうとしていた。しかし、伸ばし始めの直前に、逆の手で手首を掴みつつ踏みとどまった。

 ふと気づいた時には、灯との距離感がいつもこんな感じだ。


「ありがとう……。明日から使いますね」

「ああ、好きにしてくれ」


 灯は小さく感謝の言葉を言った後、急に立ち上がり、キッチンの方へと向かっていった。


(え、俺、なんかやったか?)


 一瞬不安になったが、灯は二つのお皿を持って戻ってきたのだ。また、お皿の上にはケーキが載っており、目の前のテーブルに静かに置かれた。

 灯はゆっくりと隣に座りながら、こちらを見て口を開いた。


「ケーキ、口に合うかはわかりませんが……一緒に食べませんか?」

「もしかして、灯の手作りなのか?」

「ふふ、そうですよ」

「ありがとう。ありがたく頂くよ」


 清は感謝を言いつつ、灯からフォークを優しく受け取った。

 一口大にケーキを切り、ゆっくりと口の中に招き入れる。

 齧った瞬間、とろける様に柔らかく、ふんわりとした甘さが口に広がっていく。


「すごく美味しい」

「ふふ、美味しいと言ってもらえて嬉しいです」


 フォークをくわえたまま、清は灯の方を見た。

 灯は小さく一口大に切り、可愛いらしい表情をしながら食べている。また、自分で作ったのもあり、甘い物でも文句なく食べられているのだろうか。


(灯に食べさせてもらいたいな)


 清が見ている視線に気づいたのか、灯はチラリと見た後、優しく微笑んできたのだ。

 そんな表情を直視したのもあり、心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。そのため、ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着けた。


「灯」

「清くん、どうしました?」


 お皿をそっと置き、持っていたフォークを無言で灯の目の前に差し出した。


「食べさせてくれ」

「……は?」


 わかりやすく言ったつもりが、上手く伝わらなかったのだろうか。


「いや、だから、灯から食べさせてもらいたいと」

「……清くん、それは本気で?」

「なんで俺が灯に嘘をつくんだよ」

「嘘、とは言ってないですから」


 食べさせてほしい、と言っただけなのに、灯はどこか疑問そうな表情でこちらを見つめてくる。

 この見つめ合う時間は早いようで、遅いようにも感じた。

 その時、灯は硬直が解けた様に口を開いた。


「もう一度聞きますが……本当に私に食べさせろと」

「駄目、か?」

「うっ……少し待ってください」


 灯はそう言うと、軽く深呼吸をしていた。

 その様子を見ている中で、無理にお願いをしているわけではない、と言うのは遅すぎだろう。

 ふと気が付けば、灯は透き通る瞳で真剣に見つめてきていた。


「しょ、しょうがない人ですね……」

「え、ああ、うん?」


 灯は何故だかフォークを受け取ろうとせず、自身のフォークで清のケーキを一口大に取り、清にケーキを向けてきた。

 灯が自身のフォークで食べさせようとしてくるのは予想外だ。

 チラリ、と灯の方を見ても、おとなしくこれで食べろ、と言わんばかりの視線が向けられる。


(これで食べたら、間接キスだよな)


「清くんが言ってきたのですよ。何かご不満でも?」

「別にない」


 雑念を捨て、灯から向けられたケーキに齧りついた。

 口の中に広がる甘さと、間接キスをした、という現実が更に甘くさせてくる。

 ふと灯を見れば、何故だか頬を赤くしていた。


 確かに間接キスはした。だが、それ以外の事は何もしていない。


「灯、すごく美味しかった」

「……あの。間接キスしたのは、気づいていますよね……」

「ああ、気づいている。というか、他に何かあるのか?」

「もう忘れてください! 清くんの鈍感、馬鹿!」

「そこまで言うか」

「ふん、当たり前です」


 間接キス以外にも思い当たる節が灯にはあるようで、ちょっぴり不機嫌にさせてしまったみたいだ。

 何の事か理解できず、その後は普通にケーキを食べることにした。

 食べ終わった後、星を見るために二人で外に出ていた。


「清くん。私はてっきり、清くんがクリスマスを嫌いだとばかり思っていました」


 星を見ていた灯は小さく呟いた。


「もしかして、過去と何か関係あるのか」


 灯は「これに関しては察しがいいですね」と言った後に、軽く深呼吸をしている。

 これに、と言われたのは気になるが、触れない方がいいだろう。


「私の口からは言えませんが、清くんの家族が関係している、とだけ言っておきます」


 前もそうだが、灯は清の家族関係を意地でも話したくないようだ。それでも、何か知っているのであれば、今は知りたい。


「灯、少しでもいいから……教えてくれないか。俺の、家族を」

「……受け止める決心、ついているのですか?」


 灯を真剣に見つめたまま、清はしっかりうなずいた。


「私が記憶のカケラを持っていると言ったら。清くんはどうします?」

「君がそばに居てくれれば、辛くても乗り越えられる。俺はそう信じる」

「わかりました。明日までに決めておきます」


 記憶の一部である、記憶のカケラ、灯が本当に持っていると思ってよさそうだ。

 どんな家族の記憶が待ち受けているのか、今は灯しか知らない。だけど、思い出してみたい。そう思える理由が、ここにあるから。


「清くん。今はただ、二人で星を見ていたいです」

「偶然だな。俺もだ」


 小さくも優しい灯の呟いた声、それを聞き逃すことはない。

 灯の手を優しく取れば、ギュッ、と握り返してきたのだ。


 その行動に驚きつつ、ふと横を見た。


 次の瞬間、月の明かりが差し込み、灯を美しく照らして輝かせた。また、風がふわりと吹き、透き通る水色の髪をなびかせる。


 月の明かりに照らされた、透き通る水色の瞳を持った顔。そして、風になびく透き通る水色の髪。

 これは、自然から二人に送る、クリスマスプレゼントなのかもしれない。


(この魔法のような星夜せいやに、君の隣に居られてよかった……)


この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

今回は二人のクリスマスを書かせていただきました。清くん、間接キス以外の事を、灯にさせていると気づいてくれ。


本日、6月10日は星名灯の誕生日です!活動報告でも書いていますが、ここで改めて伝えさせていただきました! 二章からになると思いますが、本編でも誕生日回をやりたいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >次の瞬間、月の明かりが差し込み、灯を美しく照らして輝かせた。また、風がふわりと吹き、透き通る水色の髪をなびかせる。  月の明かりに照らされた、透き通る水色の瞳を持った顔。そして、風にな…
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