第三十三話:ペア試験閉幕、君との帰り道
数分後、管理者の言葉通り、優秀な成績を修めたペアの発表がされようとしていた。
朝礼台前に一日目と同じく全員が集まり、ざわつきながら発表を待っている状態だ。
『全員集まっているようだね。これより、優秀な成績を修めたペア及びに、願いの聞き入れを行う』
朝礼台に突如現れた管理者が言葉を発した瞬間、周囲のざわつきは静まったのだ。いや、急なことに驚いている、と言うべきだろう。
ふと隣を見れば、灯が管理者を睨みつけているのがわかる。
清は灯の右手をそっと宥めるように握った。そして、ピクリ、と震えた感覚が手を伝ってきた。
『前置きは無しにして、優秀な成績を修めたペアだが。黒井君、星名君ペアとなる。前に出てもらえるかい? 願いを聞き入れるためにもね』
その瞬間、喜ばしいことなのだろうか、という疑問が脳裏をよぎったのだ。また、灯が制服の袖を力強く握ってきたところを見るに、同じ疑問を抱いたのだろう。
「灯、どうする?」
周りに聞こえないくらいの声で、清は灯に話しかけた。
「周りからの反感を買うこと前提で、理由を聞くしかないですね」
お互いに意見は同じようだ。そして、小さくうなずいた後、灯と共に管理者の方へと足を進めた。
その時の周囲からは、嫉妬、羨ましい、哀れみといった様々な視線が送られてきていた。
管理者の前に立てば、謎の威圧感を放っている、と直感が瞬時に感じたのだ。
清が聞こうとするよりも早く、灯が先に口を開いた。
「ツクヨ、私たちは魔法射撃を失敗している。それなのに何故、優秀なペアとして選ばれたの?」
「俺も灯と同じ意見だ」
聞かれるのがわかっていた、というように管理者は話し始めた。
『君達は、何を基準に失敗と言っているのかな?』
その言葉は的を射ている。基準、と言われれば曖昧でしかないのだから。
失敗だから失敗だと思っている、と言ってしまえばそれまでだ。だが、それでは筋が通らない。
「基準か……常和たちが基準、と言ったら?」
『ああ、全ての的破壊を達成したペアだね』
管理者の思い出したかのような言い草。まるで、全ての的破壊に興味は無いと見える。
『……しょうがない。ここに居る全員に、魔法世界での勝負が何たる意味なのかを……教えてあげよう』
(魔法勝負の、意味?)
魔法勝負の共通認識として、魔力シールドを先に破壊した方が勝ち、というとてもシンプルなルールだ。
それに対して、他の意味があるのは初耳だった。
一番不思議であるとすれば『魔法世界での』という言葉だろうか。その言葉は、現実世界との関わりがあると思わせてくる。
ふと横を見れば、あの灯ですらキョトン、とした顔をしている程だ。この状況からして、今はおとなしく聞くのが得策だろう。
『魔法世界はね、争いごとを嫌うのだよ。それにより、魔法勝負は誰もが傷つかない……お遊戯とすら言えるものだ。現実世界から魔法世界に来る理由。黒井君、記憶が不安定な君でもわかるだろ?』
いきなり名指しで指名してくるとは、思ってもいなかった。ましてや、要らない言葉を添えてだ。
清は気持ちを落ち着かせつつ考えてみた。
魔法世界に来ることになる理由は何個かあるが、主な理由は一つしかないと言いきれる。だが、話を聞いている限り、間違っているとすら思えるのだ。
「魔法で他人を傷つけた場合です」
『あってはいる……だけど、答えが足りないね』
管理者はそう言うと、一呼吸置き、再度話し始めた。
『現実世界を恐怖に包ませないため、魔法世界は創られ存在している。そして、魔法をここでも縛られたらどうする?』
「……魔法世界を壊そうとする者が現れる」
管理者の質問に対して、灯はどこか不安そうな声で返していた。
魔法勝負は、魔力シールドがあるからこそ安全で成り立ち、誰もが自由に魔法を使い勝負出来ている。だけど、そこにシールドがなければ……魔法世界でも制限される、と容易に想像できる。
『そうだね、星名君。それを管理するのが我々管理者なのだよ。おっと、論点がずれていたね。魔法勝負はつまり、平和を願った犠牲の上で創られたのだよ』
管理者はそう言いながら、黒いフードで隠された両手を天に向け仰いでいた。
正直な話、言っていることに理解はできない。それでも分かるのは、助け合いが大事、ということだけだろう。
優秀な成績を修めたペアとしても、納得しておくべきなのだろうか。
考えていると、灯が話しかけてきた。
「ツクヨには何を言っても無駄です。今は受け入れておきましょう」
「灯がそれでいいなら」
灯との意見は同じようだ。そうなれば、後は一つしか言う事が無いだろう。
「管理者」
『黒井君、なんだね?』
「優秀なペアとしては腑に落ちないが認める。けど」
『けど、なんだね?』
一回、灯と顔を見合わせ、お互いにうなずいた。
考えは前に灯と話したから、言葉を交わさなくとも十分だ。
軽く深呼吸をしてから、清は口を開いた。
「願いは、まだ待ってくれないか」
「それは私からもお願いします」
間髪入れずに、灯は言葉を継ぎ足すように援護してくれた。
二人の意見が同じなら、管理者も引くに引けないだろう。
『それは構わないよ。ただし、期限は三月までだ』
なんと、管理者はあっさりと受け入れたのだ。
この展開は予想外であるが、願いを待ってくれるのは好都合だ。
これで終わりか、と思ってホッとしていたが、管理者は最後の最後でとんでもないことを言い残した。
『あ、そうそう。この学校に滞在しなければいけなくなったから、今後もよろしく頼むよ』
さすがにまずいと思い、灯の方を見れば案の定、魔法陣を展開しようとしていたのだ。
これ以上騒ぎを起こすわけにもいかないため、清は灯をどうにか落ち着かせた。
『これにて、ペア試験は閉幕とする』
閉幕の言葉と共に、三日間に渡るペア試験は終わりを迎えたのだ。
帰り道、灯と一緒に帰路を辿っていた。
閉幕の後、常和たちは管理者に呼ばれたため、学校で別れることとなったのだ。
夕日が差し込む帰り道は、どこか寂しくも、温かさを感じる。
「灯、管理者は結局どうだったんだ?」
灯にそう聞くと、繋いでいた手がギュッと握られる感覚があった。
「ツクヨが来るとは、正直思っていなかったです」
「触れる気はないけどさ、いずれ話してくれるか」
灯が小さくうなずいたのが見えた。
今は話す気がない。それだけは事実のようだ。
過去に関しては、お互いに触れたくないものとしての認識であるため、当然と言えば当然だろう。
「そういえばさ、灯は帰ってから何かする予定とかはあるのか?」
「いえ、特にないですね」
そう言いながら、灯は距離を詰めて寄り添うように歩いてくる。
いつもの日常が戻ってきた、と思える瞬間だった。
清は灯と歩きながらも、あることを考えていた。
(今日は十二月二十五日……ようやく、この時が……)
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
ペア試験はこれにて無事閉幕となります。全六話分お付き合いいただきありがとうございました!
次回は予告通り、おまちかねのアレをやるイベントです!甘め多め予定なので、楽しみに待っていただけると幸いです。
※管理者の今回の話は後ほど、深堀する回があります




