第三十二話:最高のペア同士
※今回は魔法が多発しているため、紛らわしくならない程度のルビ振りを多めにさせていただいてます
改めて状況を確認してみれば、常和は風剣を構えており、心寧は後ろから援護するような距離だ。それは、相手から見ても同じことだろう。
だからと言って、灯が後ろから援護してくれるからと調子に乗り、攻める瞬間を間違えば負けに繋がってしまう。
「灯、俺は今……本気で勝ちたい」
「ふふ、じゃあ、勝ちましょうか」
後ろから聞こえた返答に、清は静かにうなずいた。また、勝ちたいという思いは同じようだ。
常和と心寧を前に、どちらが先に動くか見合っている状態だ。
次の瞬間、後ろから魔法陣を展開する音が聞こえた。
「無制限合成魔法――複合式【ふくごうしき】――」
灯の魔法を皮切りに、勝負は動き出す。
常和が姿勢を低くしながら走ってきているのを確認し、清も合わせるように走り出した。
走り出せば、灯の弾幕と光線が先に常和を狙う。
「あかりー、させないよー! 合成魔法――雷雨【サンダーレイン】――」
だが、心寧の魔法である、電気を纏った槍のような雨を迎撃するために方向を変えたのだ。
灯と心寧の魔法が宙でぶつかり、相殺し爆風を起こしたところで清は常和とぶつかった。
近づいた瞬間、常和はすぐさま風剣を縦に振ってきた。それを間一髪の距離の中、反射で右に躱しつつ魔法陣を左手に展開した。
(魔法――光線【こうせん】――)
不意を衝くため、魔法を瞬時に発動させ常和に放った。
少しでも当たれば、と思ったが甘かったようだ。
常和は姿勢を低くしながら体をひねり、風剣を右手で振り上げる体勢を取っている。
咄嗟に防御しようとした、その時だった。
「詰めが甘いね! 水魔法――雨【レイン】――」
心寧の設置魔法である雨が、魔法陣と共に周りから姿を見せたのだ。
灯が抑えてくれると思っていたが、設置魔法までは考慮していなかった。だが、策がないわけではない。
「くっ! 防御魔法――魔法の壁――」
常和の風剣を、魔法の壁を纏わせた右腕で防ぐようにし、そのまま地面を殴った。
殴られた地面を中心に魔法の壁が現れ、向かってくる雨を防ぐことに成功したのだ。
しかし、一瞬距離を空け躱していた常和が、再度風剣を振り上げようとしていた。
「清、油断大敵だ!」
「油断しているのは古村さんの方ですよ」
常和が風剣を振り上げるよりも早く、灯の光線が近くの地面に当たり、爆風を起こし風圧を発生させたのだ。
風圧により体勢をお互いに崩したが、常和の方が上手のようだ。
体勢を崩しながらも、常和は風剣を振る構えをしているのだから。
ヤバいと思いつつも、気づけば心寧の方から魔力を感じる。
「水魔法――水圧【すいあつ】――」
なんと、心寧は常和の行動に合わせ水圧を放ってきたのだ。
「灯! 空間魔法――失われた魔法【ロストオブマジック】――」
清を中心に魔法を望まない空間は展開し、入り込んだ水圧を一瞬にして消滅させる。
常和は気にもせず、風剣を勢いよく振り下ろそうとしてきた。だが、一直線に飛んできた魔法により、地を力強く蹴り、後ろに距離を取り下がったのだ。
「速射。清くん無事ですか?」
「ああ、灯のおかげで助かった」
常和が完全に心寧の方へと下がったのを確認しつつ、清も灯の近くに戻りながら感謝した。
今の状況を整理するに、お互いの力が拮抗し合い、埒が明かない状態に近いのだ。また、ペア戦のこともあり、一対一とは訳が違うのも原因だろう。
このまま探り合いが続いても、時間の無駄といえる。覚悟を決めて、やるなら今しかないだろう。あの魔法を。
ふと考えていれば、常和の方から凄まじい魔力の風が集中しているとわかった。
「清、星名さん……俺は今の俺を超えてやる、今ここで! 創成風魔法プラス――暴風剣【ぼうふうけん】――」
宣言通り、常和の両手に魔法陣が生成され、暴風剣を二刀流にして生み出したのだ。それは、一刀流しかできない認識でいたため、予定外の事態だ。
また常和の隣に居る心寧は、後押しされるかのように魔力が上がっているのを感じ取れる。
息を呑みつつ、灯の方を見れば目と目があった。
灯の透き通る水色の瞳は、恐れを感じないほど輝いているように見える。そうだ、恐れる必要は無いのだ。
灯が一緒に居て支えてくれるのだから。そして、清は軽く息を吐き、覚悟を決めた。
「灯、力を合わせてくれ」
「清くん、さっきから合わせていますよ……更に息を合わせましょう!」
「そうだな!」
清は左手、灯は右手を出し、手を繋いだ。
灯から流れてくる魔力は温かく、優しく、勝ちたい気持ちが伝わってくるようだ。
繋いだ手からは魔力の光が溢れだし、二人を包みこんでいく。
「これが灯とのオリジナル魔法! 魔法共鳴――星座【レゾナンス】――」
「私の……希望! 魔法共鳴――星座【レゾナンス】――」
魔法を発動した後に手を放しても、体には魔力が混ざり流れ続けている。
灯の小さな呼吸に合わせるようにし、清は姿勢を低くした。
常和の走り出すタイミングに合わせ、増大した魔力で地を強く蹴り、加速しながら走り出した。また、蹴りあげられた地は、えぐられるように形を変えていた。
(魔力を腕に集中。暴風剣は、躱さない!)
常和に急接近し、魔力を固めた腕で二つの暴風剣をいなした。しかし、これだと常和の方に分がある。
なぜなら、剣に対して腕を合わせなければいけないのだから。
更には、常和が縦に横にと振る暴風剣は、完全に隙を見せようとしないのだ。
次の瞬間、心寧の魔法が飛んできた。だが、清の近くに展開された灯の魔法陣により、魔法は迎撃されたのだ。
近くに魔法陣が展開され、常和が驚いている隙に反撃しようとした。
「――圧縮弾幕【あっしゅくだんまく】――」
「清、発動させるかよ!」
「ふん、常和! これが狙い通りだと言ったら?」
「なっ、まさか」
灯が近くに駆け寄ってきているのを横目で確認し、常和が防ぐよりも早く、圧縮弾幕を発動し一気に爆発させた。
常和と見合いながら、地を前に蹴り、後ろに下がりながら爆風を防いだ。
近距離で爆発させたが、常和の反射神経なら、爆風の影響すら受けていないだろう。
だが、後ろに下がったことにより、灯に近づけたのは好都合だ。
お互いに顔を見て、静かにうなずいた。そして、魔法陣を展開し合わせた。
「灯、頼む!」
「清くん、確かに託されました……魔法合成」
灯は魔法陣を託された後、目を閉じ、静かに二つの魔法陣を合わせた。
「星座魔法――あの日夢見た星空――」
灯の発動した魔法は、結界内の一番上に魔法陣が展開している。
次の瞬間、魔法が常和達を狙う。そして、煌めく星のように無数の弾幕になり、降り注ぎ始めたのだ。
常和は無数に降り注ぐ弾幕の中、隙間を縫うように駆けているようだ。
(あれは、身体強化か! なら、これで)
常和の行動を確認した後、清は自身の回りに弾幕を展開し、爆発させて周囲に煙幕を起こした。
「躱すのが無理なら本体を叩くのみだよね! オリジナル水魔法――自然の怒り【しぜんのいかり】――」
そんな中、心寧は魔法陣を破壊しようと、上空に水魔法を放ったのだ。
心寧は灯が対処すると言っていたので、今は目の前の常和に集中するべきだろう。
煙幕を張ったこともあり、常和は弾幕を躱すのに苦戦しているようだ。
「な、清! いつの間に……」
「簡単なことだ、星は自らが消えたことにすら気づかない」
「そうかよ、こんなんで負けてたまるか!」
煌めく星の弾幕の中に紛れ、常和の目の前に姿を現したのは、流石に予想外のようだ。それでも、冷静さを欠いていないらしい。
常和が二刀流の暴風剣を左右に振るのに合わせ、清は右手に魔法陣を展開させた。
「俺だって負けるわけには、いかない! 炎の魔法――愛【ソウル】――」
放った魔法は常和の暴風剣にぶつかり、押し合いとなる。
暴風剣の斬撃はこの際にも飛んできて、かすかに魔力シールドを削ってくる。それは、痺れる様な痛みがあり、辛いとすら思える。
(だけど、諦めて……たまるか)
清は右手の上に左手を重ね、押し込むように魔法を上乗せした。
「常和、俺の勝ちだ!」
「っ!?」
強い思いで最後の力を振り絞り、更に魔法の威力を強化させたのだ。
ぶつかり合っていた力は光輝きだし、風は炎を纏い、炎は風を纏い、二人を中心に強大な熱い風を巻き起こしたのだ。
(はあ、はあ、どうなっ……た)
熱風の影響で意識が不安定になりかけながらも、清は辺りを見回した。
見たところ、勝負場になっていた空間魔法は解除されているらしい。
近くには魔力シールドを破壊された常和が、仰向けで横になり空を見上げている。
また心寧はというと、少し離れたところで灯に魔力シールドを破壊され、お互いに座っているようだ。
「常和、楽しかったよ……ありがとう!」
そう言いつつ、常和に手を伸ばした。
「清、今回は負けたけど、次は負けないからな!」
常和は清が伸ばした手を掴み、その場で立ち上がった。
その瞬間、周りで見ていた生徒は盛り上がり、勝負を褒める声が校庭を包み込んだ。
「あかりー、二人の友情は熱いねー」
「ふふ、そうですね心寧さん」
盛り上がっている中、管理者が観戦席から姿を見せたのだ。
『ペア試験三日目、最後の魔法勝負勝利は、黒井君と星名君ペア。数分後、優秀な成績を修めたペアの発表を行う』
管理者の言葉と共に、ペア試験は終わりを迎えようとしていた。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
ペア試験三日目の魔法勝負も無事に終わり、次回でペア試験編は終わりを迎えます。※管理者の今後は次回触れます
第二部は後数話程続くので、今後もよろしくおねがいします!