第三十一話:ペア試験三日目、親友の願い
「常和……負けてやらないからな」
「清、俺に勝てるとでも?」
「あかりー、男二人は勝負になると熱いねー」
「ふふ、そうですね」
ペア試験三日目、魔法勝負最後の幕を飾るため、四人で空間魔法の結界内に立っていた。そこは、魔法射撃と同じ空間になっているようだ。
常和と向き合い、お互いに負けを譲らないという強い意志を醸し出している。
ある一つの違和感を除き。それは、空気を壊すかのように、真ん中には何故か黒いフードを着た人物――管理者のツクヨが立っているのだ。
常和に聞いたところ、二日目も開始宣言役として立っていたらしい。
灯が睨むような視線を向けているのは、気にしない方が身のためだろう。
数分後、管理者が手を上にあげた。
『お互いに準備はできたかね? ……ペア試験三日目、最後のペア勝負開始を今ここに宣言する』
空間の外へ管理者が抜けるのを見てから、四人は魔力シールドを展開した。
展開した後、即座に常和が動きだしたのだ。
「清、先手はもらう! 風の生成魔法――風剣【ふうけん】――」
風剣を出した常和は姿勢を低くし、突撃してきたのだ。
(距離は……まだある。これなら出せる)
目を閉じ、神経を集中させた。
目を開けば、そこは全ての魔法が流れるような空間。そして、一つの光輝く剣へと清は手を伸ばした。
現実へと意識を戻せば、常和が寸前にまで近づいている、と視認できる距離だ。
常和の剣の振りに合わせ、清も手を振った。その瞬間、手からは光の柱が溢れだし、風剣を受け止めた。
「願いの光――星剣【せいけん】――」
清が前回見た剣を出したことに、常和は驚きつつも少し後ろに下がった。
(まだ終わらない。星剣に、空間魔法――失われた魔法【ロストオブマジック】――)
「灯頼む!」
「心寧さん、少しだけ封じさせていただきますよ! ――償えない寂しい過去――」
清の合図と共に、灯は心寧を氷の牢獄へと封じ込めたのだ。
「あかりー! なにするのよー!」
心寧を封じ込めても、常和との距離は近いままだ。だが、それは狙い通りだ。
すかさずに常和の風剣をめがけ、勢いよく剣を振るった。
「常和、ここからが本番だ!」
「お前さ……何を企んでいるんだ! っ!?」
空間魔法を纏った星剣が、風剣とぶつかった瞬間――剣の間から空間が歪み始め、すぐさま二人を黒い世界へと飲み込んだのだ。
黒い世界の空間には、見えない足場があるらしく、浮いているようにすら思える。また、周りでは星のような光が輝いている。
空間を引き起こしたのは、灯に聞いていた通りだ。そして、目の前には常和だけがいる。
またここまでの一連の流れ全てが、実は計画通りに進んでいるのだ。
(……ここからはアドリブか)
計画はここまでだ。空間を生み出せるかは一種の賭けだったのだから。
常和が風剣を構えなおすのを見てから、星剣を近くに寄せるようにしつつ、清は片手で構えなおした。
「清、なんでだよ」
常和はそう言いつつ風剣を振ってくる。それに対し、風剣を狙うようにして星剣を軽く振った。剣がぶつかった瞬間、重い風が生まれ、光の粒が宙を舞ったのだ。
「前にも言っただろ――お前の魔法は受け止めてやるって」
「っ! だったら、もう負けてくれよ!」
常和は何度も剣を振るってくる。それでも、反撃をせずに何度も星剣で受け止めた。
前回の勝負とは違い、剣を振るたびに温かく、希望に満ちた力を感じるのだ。考えている際にも、縦に横に斜めにと、風剣は重く振るわれる。
(常和に『自身の風魔法を本格的に使うには、願いの光が必要なんだ』って相談された理由、今ならわかるよ)
光の粒は星剣を包むように、今もなお、輝き続けている。また、風剣と当たるたびに輝きを増しているのだ。
お互いに魔法という小細工を使わずに、剣だけを強く、熱く、風が起きようが当て続けていた。
常和は周りを動かすほどの行動力と、誰にでも接することができる才能というのを持っている。だけど、自分自身を大切にしていない。そう思えてしまう程、周りを優先しているのだ。
だからこそ、最高の親友を……この手で、魔法のように救いたい。
「清、もういいよ。これで終わりにしてやる。風の生成魔法――暴風剣【ぼうふうけん】――」
常和は暴風剣を出すなり、力強く振るってきたのだ。
合わせるように星剣を横に振るい、受け止めには成功した。だが、受け止めたのは、剣だけだ。
暴風剣から吹き荒れた斬撃は、魔力シールドをかすめるように当たったのだ。
「常和、少しだけでいい……話を、したい」
清は剣を地に刺すように、見えない足場へと離した。
「暴風剣解除」
「ありがとう」
星のような粒が輝く黒い空間で、二人は立ち、話すことを選んだのだ。
常和にはどうしても伝えたい気持ち、それは親友だからこそ思うことがある。
清は軽く深呼吸をし、口を開いた。
「常和は、もう諦めているのか? 魔法にできる願いを――」
「諦めているわけないだろ!!」
清の言葉を遮り、常和は強く言葉を発した。
常和の手をみれば、何故か震えているのだ。まるで、何かを恐れているように。
「俺はさ……もう、俺の魔法で誰も傷つけたくないんだよ。だけど、怖いんだよ。願いの光でも魔法が魔力を帯びず、相手を傷つけてしまうんじゃないかって」
常和の震えるような声は、相手を思いやるが故に、過去の恐怖を感じているのだろう。人を傷つけてしまったという、過去を。でも、それは清も同じだ。
記憶を失ったとしても、傷つけた過去は残っていた。だからこそ、同じ過ちを持つ親友……常和を救いたいと思っている。
「ならさ、俺がお前を救ってやる」
「……どうやってだよ」
「だってさ、俺たちの未来への希望は今も動いているんだ。だから、その希望を俺が見せてやる」
希望を示す言葉と共に、地に刺さっていた星剣は共鳴するように輝きだした。そして、光の粒は一つにまとまり、剣に吸い込まれていくのだ。
何も言わずに、清は両手で剣の柄を持ち、抜いた。
抜かれた星剣はさらに輝きだし、黒い空間を照らしながら光に染めていく。
(そうか! 願いの光である星剣よ――今その力を星の光に変え、夢と希望の未来に染まり導いてくれ)
心からの願いを星剣に伝えた瞬間、剣は光の塊となり、清の両手の上で浮いている。
「常和、これを受け取ってくれ。今までの感謝を」
両手を常和の方に向ければ、光の塊は導かれるように向かっていった。
常和に近づくなり、光の塊は輝きながら包み込んだのだ。
輝きが収まると、常和は姿を現した。そして、ゆっくりと口を開いた。
「ありがとな清。もう大丈夫だ!」
その瞬間、常和の目からは小さな雫が舞っていたのだ。思いが伝わったのだろう。
「ふん、常和、ここからが本当の本番だからな」
「そう言われなくとも、手は抜かないからな」
二人を包んでいた空間にヒビが入り崩れ始め、壊れゆくパズルのように光が差し込み始めたのだ。
パリン、と音がすると同時に割れ、灯達の待つ空間へと戻ってこられたのだ。
地面に着地すれば、すかさず灯が近寄ってきた。
「無事だから安心しろ。それより、時間はどのくらい経った?」
灯は安心したように息を吐きだし、答えてくれたのだ。
「数分間くらいですよ。多分、あの空間の中は時の流れが遅いですから」
灯には全てお見通しなのだろう。聞きたいことを予め答えてくれるのだから。
常和達の方を見れば、心寧を封じていた氷の牢獄は消えており、お互いの安否を確認し合っているようだ。
常和と心寧はこちらに気づいたようで、改めて距離を空け、向き合う形を取っていた。
ふと灯の方を見れば目が合った。お互いに考えていることは同じなのだろう。そう、ここからが魔法勝負本番なのだから。
「清、星名さん……二人には敬意を込めて、俺の本当の魔法を見せてやるよ」
常和は右腕を前に出し、魔法陣を生み出したのだ。
「これこそが、魔法の風で生み出された剣。 創成風魔法――風剣【ふうけん】――」
風を剣にしていた風剣は無くなり、魔法の風で構築されているようだ。つまりは、魔力シールドにも影響するようになったのだ。
これが本当の闘いというものだろう。
「灯、やれそうか」
「やれそう、じゃないですよ」
「ああ、やりきるだな!」
灯を後ろに、清は足を前へと一歩踏み出した。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
ペア試験も終盤の三日目に入りました!読んでくださる読者様の応援があってのおかげです。本当にありがとうございます!
常和を救えた清くんですが、魔法勝負の本番はここからです。次回は、四人が魔法を使いぶつかり合う、ペア試験の魔法勝負ラストとなります。
試験の話数は残り二話となってます……最後までお楽しみいただけるよう、誠意を込めて制作していますので、今後もよろしくおねがいします。




