第三十話:ペア試験二日目、君との共鳴
「ここが第二グラウンド……いつからあったんだ?」
「入学初日からありましたよ」
ペア試験二日目の始まりと同時に、第二グラウンドへ灯と来ていた。
他のペアの魔法勝負を見学しないで来ている為、他は誰も居ないのだ。また、念には念をと、監視の先生には許可を取ったので問題は無いだろう。
ペアでの魔法勝負をする以前に、灯と魔法を合わせたことが無いため、魔法を使った動きの確認を今回の目的としている。
(魔力は……大丈夫そうだな)
灯が昨日の夜に魔力を調整してくれたため、魔法の感覚が治っているのを感じ取れる。灯さまさま、と言ったところだろう。
感謝しつつ灯の方を見ると、左手を上に向け前に出しているようだ。
「灯、何をしているんだ?」
「すぐにわかりますよ」
灯はそう言うと、左手をゆっくり戻すように引き寄せ、右手を合わし合掌の姿勢をしている。
「星と共に静かに眠りて空間となる魔法――夜のベール――」
魔法の詠唱を灯が唱え終わると同時に、グラウンドの回りを包むように薄く黒い空間が展開されていた。
「これで周りの目を気にせず練習できますね」
「周りから中の様子が見えない空間魔法か」
「そうですね」
灯は笑顔で普通のように言っているが、空間魔法をできる方がすごいのだ。空間を維持するだけでも魔力の消費を要するため、そこに付与効果を付けるのは至難の業だ。
魔力が減らない特権、と言ったところだろう。
空間を灯が作ったとなれば、昨日の打ち合わせ通りにやるべき魔法がある。
(防御魔法――魔法の壁――)
魔力を最高まで圧縮し、魔法の壁を清はグラウンドの中央に作り出した。これは、魔法の壁を的と見立て、動きを合わせるという練習方法だ。
灯とだからできる方法であり、普通の魔法使いはまず不可能に近い。
「清くん、これを――魔法シールド――」
「ありがとうな」
「無属性にしてありますので、複合式が間違って当たっても大丈夫ですよ」
「当てないようにはしてくれよ。……じゃあ、練習始めるか」
灯が何も言わずにうなずくのを見て、清は神経を集中させた。
今回は動かない的だが、本番相手は常和と心寧のペアだ。練習だからと手を抜けば、痛い目を見るのは確実だろう。
お互い同じ瞬間に息を吐きだした時、清は的へと走りだした。的との距離を詰めるのは、常和との近接戦を想定した動きをするためだ。
合わせるように、後ろでは灯が魔力を魔法に変えているのが分かる。
「無制限合成魔法――複合式【ふくごうしき】――」
弾幕に光線といった様々な合成魔法が、清の横を通り抜け的を狙っている。また、何発か的を外しているのは、心寧が居るのを想定してのことだろう。
少しの考えが油断を招いてしまったのだろう、一つの弾幕が背中に当たり、押される感覚があったのだから。
(灯のシールドがなかったらヤバかった……)
恐る恐る灯の方を見てみれば、流石に魔法を止めているようだ。
「すまない灯! もう一回頼む!」
清は先ほどの位置に戻りながら灯にお願いした。
「私の方こそすいません。成功するまでやりますよね?」
「ふん、あたりまえだ」
その後も何度か挑戦したのだが、清が的に魔法を打つ際にも失敗。また、光線が素で清に当たるという事故もあり、失敗を何度も繰り返していた。
灯の魔法に問題があるわけでなく、合わせられない清に問題があるのだろう。
ふとそんなことを思っていれば、灯が話しかけてきた。
「清くん、魔法名を言う意味を知っていますか?」
「魔法名を言う意味? 星の魔石なら言う必要がないから考えたことないな」
「しょうがない人ですね。説明してあげます」
「お願いします」
灯は優しく微笑むと、軽く深呼吸をしているようだ。そして、深呼吸が終わるとしっかりとした眼差しで見てきたのだ。
「簡単に言いますよ。魔法名を言うのは、命中精度及び威力を高められるのです。言わない場合は、精度が下がる代わりに、即打ちを可能とします」
「なるほどな……そういうことか、ありがとう」
つまりは、脳から信号を身体に流すか、脳でそのまま使うかの違いと言ったところだろう。
予備動作無しで魔法を使っていた為、灯との連携にミスが生まれていたわけだ。
理由がわかれば、後は即行動に移した。
灯にわかるよう魔力で僅かな動作を行ったところ、見事に成功したのだ。また、魔法の壁が残っているあたり、圧縮で強固にしすぎたらしい。
「やったな、灯!」
「はい、嬉しいです! とりあえず、少し休憩を挟みましょうか」
灯はそう言うと、静かに飲み物を渡してきたのだ。
ありがたく受け取り、清は口に付けた。一時間以上やっていたのもあり、水分が体に染み渡るのを感じる。
ふと隣に居る灯の方を見れば、目と目が合った。
「清くん……昨日、二人だけの秘密を、と言ったのは覚えていますか?」
「優しい言葉で言われたんだ、忘れるはずないだろ」
「……よかった。次は魔法を合わせてみましょうか」
「そうだな」
灯と魔法を合わせることになるとは、出会った頃は思いもしなかっただろう。
そう思っていれば、灯が立ちあがった。その行動が休憩の終わりを意味しているのは、見ればわかるものだ。
清も合わせるように立ちあがった。
言葉を交わさない合図にも慣れたものだ。
灯に合わせれば水色の瞳で微笑んで見てくるものだから、正直、その方が心臓的には辛いまである。
「魔法陣を近づけて合わせる感じでいいか?」
灯から提案される前に、先に提案をしてみた。この時に、驚いたような表情だけはしないでほしかった。
「清くんから提案とは珍しいですね。やってみましょうか」
「ああ」
魔法陣を展開して合わせる、というのは未知の領域に近かった。なぜなら、魔法がまぐれで合わさるのはあっても、意識して合わせるのはないのだから。
灯が左側に居る為、清は左手で魔法陣を展開させた。この時に、灯が右手で魔法陣を展開してくれたのだ。
そうなれば、後はどう合わせるかが問題だ。
「灯、この後どうすればいい?」
「そういえば、清くんが合成魔法あまり使えないのを忘れていました」
「わかった。合成する感じで合わせればいいんだな」
灯がうなずくのを見て、清は魔法陣を近づけた。
近づけた魔法陣は、回転をしていき成功かと思われた。だが次の瞬間、魔法陣は崩れるように消えてしまったのだ。
消えたというのは失敗を意味しているのだろう。しかも、失敗をしてしまった原因はわからないのだ。
予定外の状態に考えていれば、灯が制服の袖を優しく引っ張ってきた。
「清くん、これは魔法の質が違いすぎるがための失敗です」
「灯、俺の心を読んでいるのか?」
「見ればわかりますよ?」
ふざけてからかった言い方をすれば、真面目な返答を灯にされ言葉が出なかった。
灯から魔法の質と言われ、考えてみればわかりきっている事だった。灯は合成魔法、清は単発魔法、とお互いに得意魔法が違うのだから。
魔法で合わせるのが駄目だとすれば、どうするべきなのだろうか。
(魔法を合わせる……あれだ!)
記憶を遡れば簡単な答えなのに、思いつかないとは情けないものだ。
「灯」
「どうしました?」
「俺と手を繋いで、魔力を合わせてくれ!」
「……なるほど。あの時の再現ですか」
灯もどうやら気づいたようだ。あの時の再現……教室でクラスメイト二人に灯が狙われた際、手を取ったのが原因で魔法が混ざったことがある。それを清は思い出したのだ。
普段は意識外にしていたが、女の子と手を繋ぐのを意識するのは恥ずかしさがあった。
そんな雑念を取り除くように、清は深呼吸した。また、それを見ていた灯も真似るように深呼吸をしている。
「灯、やるぞ」
「はい、清くん」
優しく灯の右手を左手で取り、魔力を集中させた。手を繋いでみれば、お互いの魔力が混ざり流れているのを感じ取れるのだ。
昨日の逆流させた時の魔力とは違い、今はとても優しく、温かい。
集中するために閉じていた目を開けば、輝いた世界が見えた。これは、二人だけでしか見えない世界にも感じる。
その時、灯の方から小さな呟きが聞こえてきた。
「星の光が繋がるように、優しい世界に眠りて、夢見る世界はあなたのために」
灯は魔力の調和を図っているのだろう。
耳を澄ませば優しい気持ちが巡り、今を生み出す雫が落ちるような音がした。
「灯……ありがとう」
感謝を言えば、魔力が溢れるように体を包み始めた。
驚きながらも、灯と目を合わせてから手を放してみた。それでも、灯の魔力を感じ取れたままだ。
(灯がそばに居てくれる、温かい感じがある……)
両手を見れば、今でも魔力が流れているのだ。これは、夢なんかではない。
魔法の壁へと左手を前に出し、狙いを定めた。また、灯も合わせるように右手を前に出してくれたのだ。
「灯、今ならやれる気がする」
「やれる気がするのではなく、やれるのですよ!」
灯の言う通りだ。何も恐れるべき理由はどこにもないのだから。
二人で顔を見合わせ、軽く呼吸をし、小さくうなずいた。
「君とならどこまでも! 炎の魔法――愛【ソウル】――」
「星の明かりで導く! ――【無制限合成魔法】――」
灯と同じ瞬間に打った魔法は、魔法の壁に向かう際に混ざり合い、一つの光線となった。
その光は流れ星のように速く、高威力であるのが目に見てわかるほどだ。
魔法の壁に当たった魔法は、光を吸い込んだ後、小さな爆発をその場で起こしたのだ。それはまるで、惑星が生まれる瞬間を見ているようだった。
爆発が収まると、魔法の壁は跡形もなく消えていた。
「……成功したのか」
「成功ですね」
「やったな!」
「やりましたね!」
最初はどうなるかと思っていたが、今は練習が成功したことだけを二人で喜んだ。
灯が展開していた空間魔法を解除した後、二人だけで話していた。
「灯、あの魔力って」
練習が終わって魔力を静めた瞬間、魔力の流れは収まったのだ。そのため、今は灯の魔力を感じ取れない。
「私達だけの秘密の魔力……でいいじゃないですか」
優しい微笑みを向け言ってくる灯に、何を言っても敵う気がしない。
「じゃあさ、名前くらいつけないか?」
「……名前、ですか?」
名前の提案をしてみれば、灯が悩んだような仕草をしていた。
数分すれば思いついたようで、灯は小さく手招きしている。それは、耳を近づけろという合図だろう。
素直に従い、清はおとなしく耳を近づけた。その瞬間、灯は小さく囁いてきた。
「次使うまでは秘密ですよ……共鳴魔法」
共鳴魔法……灯と初めてのオリジナル魔法だ。この名前に文句などなかった。
だがその直後、続きの名前を言われ清は驚くこととなった。
「灯、明日の魔法勝負、改めて一緒によろしくな」
「ええ、一緒に頑張りましょう」
出番のないペア試験二日目は、灯との距離が縮まる良い機会だったのかもしれない、と清は心から思ったのだ。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
ペア試験二日目も無事に終わりを迎えられました!読んでくださる皆様が居るおかげでございます。
ペア試験三日目はペア戦の本番です。二話構成で勝負を書かせていただく予定です。
最後に、次の話で皆様とまた会えることが出来たら嬉しいです。