第二十七話:君の隣で見る魔法の町
二人でお出かけだというのに、パーカーとはいかがなものなのだろうか。この時だけ、清は普段着の少なさに恥ずかしさを覚えそうだ。
(服もしっかり買うべきか……)
そんな考えをしてリビングで待っていれば、階段の方から足音が聞こえてきた。
「清くん、お待たせしました」
「い、いや、待ってないから」
ふわりと目の前に現れた灯は、髪はポニーテールで、白を基調とした服に身を包んでいた。
首周りにはフリルがあしらわれており、袖は灯の手が少し隠れるくらいの長さだ。全体的に見て優しく温かい服装に見える。
また、肌の露出が見えない服装であるため、清としては安心できる。もちろん、精神的での意味合いが強い。
「灯、可愛いよ」
「あ、ありがとう……ございます」
褒められると思っていなかったのだろうか、灯はほんのりと頬を赤く染めている。
「とりあえず行こうか」
灯が何も言わずに小さくうなずいたのを確認し、玄関を出て外に行き、鍵を閉めた。
「清くん、鍵は閉めましたか?」
「一体何を見ていたんだよ」
「ふふ、冗談ですよ」
冗談を平気で言ってくるようになった灯に、安心感……いや、嬉しさがあるのは何故だろう。
そんなことを思っていれば、灯に手を引かれ転送魔法陣を抜けた。
この魔法世界には、電車や車、バスなどの交通機関が存在していないのだ。そのため、徒歩か魔法での移動が普通となっている。
お互いに魔法を極力使用しないため、徒歩での移動が主なので、近場を回ることになるだろう。
また、ここら辺の地域は、田舎や都市が融合したような町となっており、回るだけでもいろいろな発見がありそうだ。
他愛もない雑談をして歩いていれば、灯が何か見つけたらしい。
「清くん、あの服屋さんに寄ってみませんか?」
「あ、ああ、そうだな」
服、と言われ少し動揺したのは、灯に気づかれていないようだ。
店内に入ってみれば、服屋なだけあり、様々な服が置かれている。
灯に「清くんも服買いませんか?」と勧められたが、見ているだけで満足なので断ってしまった。
灯が気にしなかったのが、不幸中の幸いだろう。
「この服なんてどうでしょうか?」
そう言って灯から見せられたのは、青を基調とし、ふんわりした温かいようなワンピースで、首元に付け袖とリボンが付いているタイプだ。
灯に似合う、と直感が言うので、着れば可愛くも美しいのは確実だろう。
返答しようとしたその時、やり取りを温かい眼差しで見ていた店員が声をかけてきた。
「お客様、よろしければ、ご試着してみてはいかがでしょうか?」
「……清くん、ちょっと試着してきますね」
「ああ、待っているよ」
灯は店員に案内され、試着室の方へと向かっていった。
試着を基本的にしない清としては、待っている時間に服を見ているだけでも楽しく感じるものだ。
しばらくして「彼氏さん、こちらにどうぞ」と何故か店員に呼ばれたのだ。
言われるままに向かってみれば、試着し終わった灯が待っていた。
その姿は予想した以上に似合っており、なんて声をかければいいのか、清はわからなくなっていた。
見ていた店員ですら、話しても大丈夫ですよ、といった様な顔をしてしまう程の沈黙に包まれている。
「あ、清くん、似合っていますか?」
そう聞いてくれる灯に、うなずくことしか出来ない。それは、男としてどうなのだろうか。
「よかった……この服を買いましょうかね」
灯に気遣われてしまうのは情けないものだ。
会計を済ませ店の外に出れば、少し気持ちが落ちついてくる。
「灯、先ほどはすまない!」
「いえ、気にしてないですよ? 清くんは人前だと、相手を褒めるのが苦手ですからね」
「ごもっともで」
「ふふ、次はどこにしましょうか」
そう言って、臨機応変に対応する灯には頭が上がらない。
数十分ほど歩いただろうか、その先でゲームセンターを見つけたのだ。
入ってみたいと思い、灯を見れば小さくうなずいたので、ゆっくりと店内に入る。
入ってみれば、驚きしかなかった。それもそのはずだ、現実世界のゲーム機やクレーンゲームが置いてあるのだから。
(魔法世界で見ることになるとは……)
魔法世界では基本的に、現実世界のゲーム、という概念がほとんどないのだ。
クレーンゲームを灯と見て回れば、一つの筐体で止まった。
「清くん、ゲーム得意ですよね」
「そうだな」
「じゃあ、あの景品取ってほしいです……駄目ですか?」
灯が指さしたのは、現実世界の本が景品となっている筐体だった。
クレーンゲームの台設定としては、谷台というものだ。真ん中に景品が置かれている台で、手前と奥が中央の穴に向かって谷のような坂になっており、坂には滑り止めがついているという特徴がある。
取る人によっては簡単で、苦手な人は永遠に取れない形になるほどの難しさを誇る。
この筐体は、交換箱を取れば景品と交換できる仕組みとなっている。
景品が傷つくのを嫌な人からしてみれば、とてもいいものだ。
(……爪の角度とアームの形はよさそうだな)
アームの確認ができれば、後はアームの力と、右か左に寄せた際の抜け方次第。また、景品の重心がどう影響するかだろう。
「灯、やってみるよ」
「え、嬉しいです!」
お金を入れ、移動ボタンを操作し、手前を右寄せして掴む形にしてみる。すると、手前の側面が浮き、奥の左角が沈むという理想の形になったのだ。
「よし!」
一回でこの形になるのは良設定というものだろう。もしくは、初期位置ミスのどちらかになる。
滑らないアームで力も入っており、寄せた際に爪がしっかりカバーしてくれる。後は、次の一手でこれが邪魔をしないかが問題だ。
先ほどと同じで、手前を持つのは変わらないが、少し甘めに左寄せをしなければ暴れてしまう可能性がある。
チラリと灯を見れば、輝くような目で見ているものだから恥ずかしくなりそうだ。
お金を入れつつも集中して、計算された位置になるようにアームを操作した。だが、寄せを甘くしすぎたのもあり、奥角が滑り止めよりも下にすべて沈む形になる。
こうなれば、後は手前を寄せずに持ってあげれば獲得できる。
(……そうだ)
「灯、良ければやってみないか?」
「え、いいのですか? 私がやると取れませんよ……」
「俺が教えるから安心しろ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
灯に手前を持ってみてほしい、と言い、後は見守ることにした。
センスがあるのだろう、灯は言ったとおりの場所に上手く操作でき、無事に景品を獲得できたのだ。
「おめでとう」
「ふふ、清くんのアドバイスのおかげですよ」
灯が喜んでくれるのは、とても嬉しいものがある。
本に交換してから店を出て、近くにあったベンチへと二人で座った。
「あの、清くん」
「どうした?」
「もう一つの目的があるって言ったこと覚えていますか?」
もう一つの目的……学校で管理者の話が上がった際の帰り道に、灯がこぼした言葉だ。
それを聞いてくるというのは、決心がついたのだろう。
「ああ」
「実は、私が幼いころに行方不明になった……お父さん、星名月夜が魔法世界に居るのではないかと思っているのです」
「何でそう思うんだ?」
「確証はありません。ただ、居たらいいなって」
そう寂しげに呟く灯は、悲しそうにはしておらず、どこか割り切っている様子とも見える。
灯は清に会う前に、今もなお行方不明になっている家族を探していたのだろう。この広い魔法世界をたった一人で。
何も言わずに、清は灯の手を握り締めた。
「灯、俺も手伝うよ」
「ありがとう、清くん……な、泣かないですよ」
「知っているよ」
そう言いつつ休憩を終わりにして、ベンチから立ち上がった。
お出かけは、まだ終わっていないのだから。
その日の夕方になった帰り道、灯と手を繋ぎながら帰路を辿っていた。
歩きながら、ずっと疑問に思っていた話を灯に持ち掛けた。
「灯、俺に家族は居るのか?」
「居ますよ」
素直に返された返答のはずなのに、どこかトゲがあるように思える。
「その記憶も忘れていたのですね。清くんの家族関係は、私の口からは話せない……それだけは言っておきますね」
「いや、居るってわかっただけで十分だ。ありがとう」
そう返せば、灯は小さくうなずいた。
その時、ふわりとした表情をしている今の灯が、とても優しく輝いて見える。
「話は変わりますが、お出かけ楽しかったです」
「俺もだ」
話しながら帰路を辿る二人の足音は反響し、差し込む夕日が帰り道を照らしてくれるように輝いていた。
この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。
今回は清くんと灯のお出かけを描かせていただいたのですが、どうでしたか?
※謝罪:今までの作中で触れ忘れているのですが、二人は現在高校一年生です。大変申し訳ございません。
次回は今まで話に出てた『ペア試験本番』となります。何話構成になるかは現在未定ですが、次回も読んでいただけたら幸いです。
最後に、お読みいただきありがとうございました。




