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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第二部

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第二十七話:君の隣で見る魔法の町

 二人でお出かけだというのに、パーカーとはいかがなものなのだろうか。この時だけ、清は普段着の少なさに恥ずかしさを覚えそうだ。


(服もしっかり買うべきか……)


 そんな考えをしてリビングで待っていれば、階段の方から足音が聞こえてきた。


「清くん、お待たせしました」

「い、いや、待ってないから」


 ふわりと目の前に現れた灯は、髪はポニーテールで、白を基調とした服に身を包んでいた。

 首周りにはフリルがあしらわれており、袖は灯の手が少し隠れるくらいの長さだ。全体的に見て優しく温かい服装に見える。

 また、肌の露出が見えない服装であるため、清としては安心できる。もちろん、精神的での意味合いが強い。


「灯、可愛いよ」

「あ、ありがとう……ございます」


 褒められると思っていなかったのだろうか、灯はほんのりと頬を赤く染めている。


「とりあえず行こうか」


 灯が何も言わずに小さくうなずいたのを確認し、玄関を出て外に行き、鍵を閉めた。


「清くん、鍵は閉めましたか?」

「一体何を見ていたんだよ」

「ふふ、冗談ですよ」


 冗談を平気で言ってくるようになった灯に、安心感……いや、嬉しさがあるのは何故だろう。

 そんなことを思っていれば、灯に手を引かれ転送魔法陣を抜けた。


 この魔法世界には、電車や車、バスなどの交通機関が存在していないのだ。そのため、徒歩か魔法での移動が普通となっている。

 お互いに魔法を極力使用しないため、徒歩での移動が主なので、近場を回ることになるだろう。

 また、ここら辺の地域は、田舎や都市が融合したような町となっており、回るだけでもいろいろな発見がありそうだ。



 他愛もない雑談をして歩いていれば、灯が何か見つけたらしい。


「清くん、あの服屋さんに寄ってみませんか?」

「あ、ああ、そうだな」


 服、と言われ少し動揺したのは、灯に気づかれていないようだ。

 店内に入ってみれば、服屋なだけあり、様々な服が置かれている。

 灯に「清くんも服買いませんか?」と勧められたが、見ているだけで満足なので断ってしまった。

 灯が気にしなかったのが、不幸中の幸いだろう。


「この服なんてどうでしょうか?」


 そう言って灯から見せられたのは、青を基調とし、ふんわりした温かいようなワンピースで、首元に付け袖とリボンが付いているタイプだ。

 灯に似合う、と直感が言うので、着れば可愛くも美しいのは確実だろう。


 返答しようとしたその時、やり取りを温かい眼差しで見ていた店員が声をかけてきた。


「お客様、よろしければ、ご試着してみてはいかがでしょうか?」

「……清くん、ちょっと試着してきますね」

「ああ、待っているよ」


 灯は店員に案内され、試着室の方へと向かっていった。

 試着を基本的にしない清としては、待っている時間に服を見ているだけでも楽しく感じるものだ。


 しばらくして「彼氏さん、こちらにどうぞ」と何故か店員に呼ばれたのだ。

 言われるままに向かってみれば、試着し終わった灯が待っていた。

 その姿は予想した以上に似合っており、なんて声をかければいいのか、清はわからなくなっていた。


 見ていた店員ですら、話しても大丈夫ですよ、といった様な顔をしてしまう程の沈黙に包まれている。


「あ、清くん、似合っていますか?」


 そう聞いてくれる灯に、うなずくことしか出来ない。それは、男としてどうなのだろうか。


「よかった……この服を買いましょうかね」


 灯に気遣われてしまうのは情けないものだ。

 会計を済ませ店の外に出れば、少し気持ちが落ちついてくる。


「灯、先ほどはすまない!」

「いえ、気にしてないですよ? 清くんは人前だと、相手を褒めるのが苦手ですからね」

「ごもっともで」

「ふふ、次はどこにしましょうか」


 そう言って、臨機応変に対応する灯には頭が上がらない。




 数十分ほど歩いただろうか、その先でゲームセンターを見つけたのだ。

 入ってみたいと思い、灯を見れば小さくうなずいたので、ゆっくりと店内に入る。

 入ってみれば、驚きしかなかった。それもそのはずだ、現実世界のゲーム機やクレーンゲームが置いてあるのだから。


(魔法世界で見ることになるとは……)


 魔法世界では基本的に、現実世界のゲーム、という概念がほとんどないのだ。

 クレーンゲームを灯と見て回れば、一つの筐体きょうたいで止まった。


「清くん、ゲーム得意ですよね」

「そうだな」

「じゃあ、あの景品取ってほしいです……駄目ですか?」


 灯が指さしたのは、現実世界の本が景品となっている筐体だった。


 クレーンゲームの台設定としては、谷台というものだ。真ん中に景品が置かれている台で、手前と奥が中央の穴に向かって谷のような坂になっており、坂には滑り止めがついているという特徴がある。


 取る人によっては簡単で、苦手な人は永遠に取れない形になるほどの難しさを誇る。

 この筐体は、交換箱を取れば景品と交換できる仕組みとなっている。

 景品が傷つくのを嫌な人からしてみれば、とてもいいものだ。


(……爪の角度とアームの形はよさそうだな)


 アームの確認ができれば、後はアームの力と、右か左に寄せた際の抜け方次第。また、景品の重心がどう影響するかだろう。


「灯、やってみるよ」

「え、嬉しいです!」


 お金を入れ、移動ボタンを操作し、手前を右寄せして掴む形にしてみる。すると、手前の側面が浮き、奥の左角が沈むという理想の形になったのだ。


「よし!」


 一回でこの形になるのは良設定というものだろう。もしくは、初期位置ミスのどちらかになる。


 滑らないアームで力も入っており、寄せた際に爪がしっかりカバーしてくれる。後は、次の一手でこれが邪魔をしないかが問題だ。

 先ほどと同じで、手前を持つのは変わらないが、少し甘めに左寄せをしなければ暴れてしまう可能性がある。


 チラリと灯を見れば、輝くような目で見ているものだから恥ずかしくなりそうだ。

 お金を入れつつも集中して、計算された位置になるようにアームを操作した。だが、寄せを甘くしすぎたのもあり、奥角が滑り止めよりも下にすべて沈む形になる。


 こうなれば、後は手前を寄せずに持ってあげれば獲得できる。


(……そうだ)


「灯、良ければやってみないか?」

「え、いいのですか? 私がやると取れませんよ……」

「俺が教えるから安心しろ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 灯に手前を持ってみてほしい、と言い、後は見守ることにした。

 センスがあるのだろう、灯は言ったとおりの場所に上手く操作でき、無事に景品を獲得できたのだ。


「おめでとう」

「ふふ、清くんのアドバイスのおかげですよ」


 灯が喜んでくれるのは、とても嬉しいものがある。

 本に交換してから店を出て、近くにあったベンチへと二人で座った。


「あの、清くん」

「どうした?」

「もう一つの目的があるって言ったこと覚えていますか?」


 もう一つの目的……学校で管理者の話が上がった際の帰り道に、灯がこぼした言葉だ。

 それを聞いてくるというのは、決心がついたのだろう。


「ああ」

「実は、私が幼いころに行方不明になった……お父さん、星名ほしの月夜げつやが魔法世界に居るのではないかと思っているのです」

「何でそう思うんだ?」

「確証はありません。ただ、居たらいいなって」


 そう寂しげに呟く灯は、悲しそうにはしておらず、どこか割り切っている様子とも見える。

 灯は清に会う前に、今もなお行方不明になっている家族を探していたのだろう。この広い魔法世界をたった一人で。

 何も言わずに、清は灯の手を握り締めた。


「灯、俺も手伝うよ」

「ありがとう、清くん……な、泣かないですよ」

「知っているよ」


 そう言いつつ休憩を終わりにして、ベンチから立ち上がった。

 お出かけは、まだ終わっていないのだから。



 その日の夕方になった帰り道、灯と手を繋ぎながら帰路を辿っていた。

 歩きながら、ずっと疑問に思っていた話を灯に持ち掛けた。


「灯、俺に家族は居るのか?」

「居ますよ」


 素直に返された返答のはずなのに、どこかトゲがあるように思える。


「その記憶も忘れていたのですね。清くんの家族関係は、私の口からは話せない……それだけは言っておきますね」

「いや、居るってわかっただけで十分だ。ありがとう」


 そう返せば、灯は小さくうなずいた。

 その時、ふわりとした表情をしている今の灯が、とても優しく輝いて見える。


「話は変わりますが、お出かけ楽しかったです」

「俺もだ」


 話しながら帰路を辿る二人の足音は反響し、差し込む夕日が帰り道を照らしてくれるように輝いていた。

この度は、数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございました。

今回は清くんと灯のお出かけを描かせていただいたのですが、どうでしたか?

※謝罪:今までの作中で触れ忘れているのですが、二人は現在高校一年生です。大変申し訳ございません。

次回は今まで話に出てた『ペア試験本番』となります。何話構成になるかは現在未定ですが、次回も読んでいただけたら幸いです。

最後に、お読みいただきありがとうございました。

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