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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第六章:君と過ごせる魔法のような日常

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二百四十四:過去から未来への繋がり

 クリスマスが過ぎると、世間は年越しムードを迎えていた。


 清の通う学校では初めての冬休みが訪れたのもあって、浮かれるものも居るのだろう。


 ツクヨが季節ごとや行事ごとの長期休みを定めたのもあり、危険人物が通う学校であっても、多少は過ごしやすくなったのかもしれない。


 そんな冬休みという長期休暇が始まりを向かえた日、清は常和と一緒に魔法の庭に来ていた。

 心寧が灯を借りたいと言ったのもあり、二人一組で動く形となっている。


 泡沫のようなこの時間の中、現在は森の中をゆっくりと歩いていた。


「あのさ、常和……魔法を極める意味を聞きたいんだけど」

「清、またその話か?」

「いや、俺のじゃなくて……その……」

「ははん。なるほど。つまり清は、俺と心寧が辿り着いた極めし境地とも言える世界を知りたいんだな」


 こちらを見てくる常和に、そっとうなずいた。

 清自身、魔法を極めるのはそれぞれの形と聞いているのもあり、自身の答えに繋がるのではないかと思ったのだ。


 当然、常和と心寧の経験談を聞いたところで、魔法を極める形を確実に見つけられるかと言えば、恐らく否だろう。


 聞いてできるのなら、こんなに苦労する理由がないのだから。

 先を歩きつつも、常和は悩んだ様子を見せていた。そして、ふと立ち止まり、木々に囲まれた開けた空間を指さす。


「清、歩いて話すのもなんだしさ、そこで座って話そうぜ」

「わかった」

「で、聞くとしたらどっちから聞きたいんだ?」

「……俺的には心寧かな」


 常和は、了解、といった視線を向けつつ、端の方で横たわっている木へと腰をかける。

 常和を見つつ、清も目の前にあった切り株に腰をかけた。


 冬であるのに温かな風は、木々をそっと撫でて森の演奏会を静かに始めている。


「簡潔言うと、心寧は……魔法勝負を美しく見せる、っていう極め方をしたんだ」

「それ、実質的に心寧の口癖だよな」

「はは、俺の彼女らしくて可愛らしいだろ?」


 勝手にのろけとけ、と言いたかったが、にこやかな笑みだけ清は返しておく。

 心寧の極め方は、予想通りと言えば予想通りであるが、美しい中にある強さは、まさしく強い芯を持った可憐な女性と言えるだろう。

 心寧に面と向かって言うつもりはなくとも、清は少なからずそう思ったのだ。


 清が感心していれば、常和がそっと木を叩いて音を立てている。重い音の中にある鈍さ、木の中で小さくこだまするような低音は、耳に優しい音色のようだ。


 ふと気づけば、常和は両手の平を上と下から合わせ、上から置いた右手をゆっくりと左にずらしていく。

 常和の手の平には風が渦巻き、まったりとした動作から、静かに風剣が生み出され、左手でくねりと風剣を振るってみせる。


 そして、常和の左手に持たれた風剣は、光の粒となって天へと昇っていった。


「次は、俺が魔法を極めた境地の形だな」

「ああ、よろしく頼む」


 常和は多分だが、自分の話をするからこそ、風剣を出して最初に見せてきたのだろう。

 常和の振る舞いに見惚れていたのもあり、言葉が出なかったわけだが。


「俺はさ、大切な人の為に己が盾となりて、魔法を切り裂く極め方をしたんだ」

「……わかりやすくお願いしてもいいか?」

「清、すまない」

「いや、気にしないでくれ! 俺が理解できないのが悪いだけだから」

「つまりはな、心寧をこの手で守る、っていう決意をしたんだよ。まあ、結果として風剣以外……あれを除いて使えない縛りみたいにはなったけどな」


 笑って話している常和は、特に風剣だけである事を気にしていないのだろう。


 清からすれば、現在知っているだけでも常和は四本の風剣で魔法勝負をしており、創成魔法の腕前は最高峠ではないかと言えるくらいだ。

 常和の言う『あれ』とは、恐らく風の魔法である【託す思い】の事だろう。


 常和の話を聞く限り、その魔法は常和自身か心寧にしか使っているのを見たことがないため、守る魔法としてみれば優しさの塊と言える。


「てか、常和は素の体術とかが強いよな」

「これでも純魔法使いだからな。筋力や体の構造は人と一緒でも、魔力での固め方や反射神経は違うから次元が違うんだよ……心寧を抜いてな」

「なんか、心寧の住んでいる次元が違い過ぎないか?」

「美咲家の末裔かつ、心寧だからなー、羨ましいだろ?」


 ここぞとばかりに心寧を押してくるため、彼女自慢を出来る常和を清は何かと羨ましく思っている。


 清はそっと息を吐き出し、空を見た。


(魔法を極めるって、志の違いもあるんだろうけど、常和と心寧は凄いな)


 星の魔石がなければ、二人の足元どころか、同じ土俵に立てるとすら思っていなかっただろう。

 魔法を嫌いだった過去の自分を思えば、今の自分は恵まれているのかもしれない。だからこそ、魔法を使ってでも、救いたいものがあるのだ。


 空を見上げていた清は、ふとある事を思い出し、常和の方に視線を戻した。


「そういや常和?」

「どうした?」

「話は変わるんだけど……灯と心寧は、現実世界、もしくは世界の間にある空間で出会ったことがあるのか?」


 常和は驚いた様子を見せ、青く澄んだ雲一つない空を見上げた。

 心寧に聞いても良かったが、常和と話しているのもあり、心寧と灯の関わりを知っていそうなので話を持ち出したのだ。


 クリスマスの日、灯から聞いた話が記憶改変ではない限り、ツクヨと一緒に、常和と心寧が裏で関与していると思ったのだから。

 常和は考えがまとまったのか、見上げた視線を下ろし、静かながらも真剣な目でこちらを見てきている。


 その時、風がお互いの間を通り抜けるように吹き、木々や草花で音を立てている。


「……星名さんが魔法世界に来る前の話なんだけどさ、俺と心寧は月夜さんに、星名さんの審判をしないかって誘われたんだよ」


 何の前触れも無しに話してくれる常和に、清は考えが落ちつかないでいた。


「常和、簡単に話してくれるんだな?」

「清なら、口外しないって信用できるからだよ。……星名さんはもちろん、心寧にも話すなよ」

「分かった、そんな目で見ないで、話を続けてくれ」


 常和から圧をかけるような目で見られたため、清は両手を上げて、右手を胸に当ててみせた。

 常和はこちらの行動が面白かったのか、何故か笑っている。


 清としては、灯の話の真相が知りたかっただけであり、特に話そうとは思っていないのだ。それは、当の本人が話しても気にしていなかったのだから。


「結果から言えば、心寧と星名さんは過去に会ったことがあるんだよ」

「やっぱり、そうだったんだな」

「ああ。心寧が俺の魔法を付与して星名さんと魔法勝負をしたんだ」

「……確か、心寧が善戦していたんだよな? それで、灯が無制限合成魔法の複合式を習得して流れが変わった……」

「清、知っているのかよ」

「すまない。灯が話してはくれたんだけど、関与しているのか気になってさ」


 常和から、最初からそう言えよ、と言いたげな視線が飛んできている。

 流石に悪いとは思った為、両手を合わせて申し訳なく頭を下げておく。


 常和はため息一つこぼし、健やかな笑みを宿した。


「あそこで星名さんが無制限合成魔法に目覚めたのは極めたというよりも、星名さんが言っていた真理に辿り着いたからなんだろうな。だからこそ、星名さんは俺たちみたいに魔法を極める必要がないわけだ」


 常和の言葉から察するに、常和と心寧から見た灯は、既に魔法を極めている状態に近いのだろう。

 灯が魔法勝負を苦手としていなければ、魔法の手数の多さや火力は、本気に近い実力を出していた心寧を上回る可能性もありそうだ。


 ふと思えば、この四人の中で魔法を極められていないのは清だけ、という事になるのだろう。

 正直、気づくべきではなかった、と清は肩を落としたくなりかけた。


 常和からは「どんまい」と励ましの言葉をかけられている。


「最後になるんだけど、心寧は自らの意思で勝負をした記憶を忘れて、星名さんと今を楽しんでいるんだよ。この話を知っているのは、俺と月夜さんを除いて、清と現当主くらいになったってわけだな」

「……ずっと前から四人は繋がっていたんだな」


 しみじみと言ったのが悪かったのか、常和は笑っていた。

 灯と心寧の関わりがどうであれ、二人が笑顔で仲良くできているなら、彼氏としては願ってもない幸福だろう。


 ふと気づけば、常和は木から立ちがあり、こちらへと近寄ってきている。そして、清の肩にそっと手を置く。


「清も頑張れよ。俺は、清なら俺らの見えた形の先を知れる、って信じているからな」

「常和、ありがとう。ものにして見せるから」


 お互いに顔を見合い、笑い合っていた。

 近くに居れば勇気をもらえ、お互いに支えあえる、最高の親友である常和と、魔法世界で出会えて本当に良かった。


 清も切り株から立ち上がり、魔法の庭の散歩を再開することにした。

 数秒後に散歩を始めようとした時、常和から持ちかけられた提案に清は驚くこととなるのだった。

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