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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第一章:第二部

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おまけ2:君の優しい手当てと嬉しい不意打ち

※二十三話で帰った後の出来事となります

 月が出る前に家に帰ることが出来た。

 帰れたのはよかったが、今、目の前で灯にジッと見られつつ圧をかけられている。目を逸らしているので余計に圧が怖いのだ。

 手当てされるのを拒んだ結果、座布団に座らされる事態になってしまったのだ。


 灯の方を恐る恐る見ると、横に救急箱を携え、ソファに座りながら呆れたような視線を向けていた。


「……清くん、そろそろ観念して怪我を見せてくれませんか?」

「……嫌だと言ったら?」

「この状態を続けます」

「嘘だよな」

「嘘なんか言いませんよ」


 灯は簡単に引き下がってくれないようだ。

 今置かれている状況は清の方が辛かった。座布団があるとはいえ、正座をさせられた状態でかれこれ数十分続いているのだ。


 家に一緒にいるルールとして『お互いに過干渉は避ける』があるのだが、健康面等に問題がある場合はルールの例外になってしまう。

 これは、灯がなんでもできてしまうがために、清が設けてもらったのだ。

 これ以外のルールなどは暗黙の了承以外で存在していないのだ。


「はあ、背中だけでもいいので見せてくれませんか? というか、背中以外は回復魔法でほとんど治っていますよね?」

「よくわかるな」

「……だって、いつも近くに居たのですよ」


 灯から小さく呟かれた言葉を聞き、清は息が止まったように思えた。


「あのさ、灯、俺に半裸を強要しているってわかっているか?」

「清くん、大切な人が怪我をしていて悪化してしまうのは、男性の肌を見るのより嫌なことなのですよ……」


 大切な人、と言われ内心驚きはしたが、灯に悲しい表情をさせてしまったのは失態だ。

 優しさの気持ちを素直に受け取れなかった。そう思うと、清の中には反省の気持ちが募っていた。


「……あの、お願い……してもいいか」

「ふふ、喜んで」


 灯は悲しい表情から、一気に明るい表情になった。また、嬉しそうな声で承諾してくれたあたり、本気で心配してくれていたのだろう。

 清は静かに服を上だけ脱ぎ、灯に背中を向いて見せた。


「やっぱり、赤くなっていますね。氷でしっかり冷やしてから湿布とかするので、動かないでくださいね」

「もしかして、わかっていたのか?」


 灯は慣れた手つきで、清の背中に冷たすぎず冷たいような氷水の袋で優しく冷やし始めた。


「ええ、最後、壁に強くぶつかっていましたし」

「……心配かけたな、ありがとうな」

「いえ、これに懲りたら頼ることを覚えてくださいね」

「精進します」

「珍しく素直ですね」


 照れ隠しをしながら「そうかよ」と言えば、灯が小さく微笑んだのが分かった。

 一か所が冷えすぎないようにするためか、こまめに場所をずらして冷やしているのが分かる。これも優しさなのだろうか。

 同じ場所を冷やされすぎても妙に痛く辛いので、正直助かっていた。


「そういえば、古村さんの魔法はすごいですけど」

「すごいけど、どうした?」

「魔力シールドの魔法吸収……下手したら機能してないですよね?」

「ああ、機能してないな」


 話しているうちに冷やし終わったのか、灯は救急箱から湿布と包帯を取り出していた。

 灯の言っていた通り、常和の魔法は魔法勝負に適していないのだ。

 常和が戦闘狂で名が通っていた頃に、剣を使う近接戦をされたため、清はその際に斬撃で負けてしまったのだ。


「一応、あれだ……斬撃なら風圧に魔力がかかっているから、魔力シールドを破壊できる」

「そうなのですね。湿布貼りますから、痛かったら言ってくださいね」


 灯は興味なさそうに返答し、背中に湿布を貼ってくれた。灯の優しい手つきには心地よさを覚えそうだ。

 一人でやれば雑どころか、湿布さえも張らずに自然治癒に頼っていただろう。

 灯に頼りきりにならないよう努力しなければいけないのに、手が回らない、という言い訳に任せて頼っているのだから、男としても情けなく思えてしまう。

 考えているうちに湿布を貼り終わったらしく、灯は用意してあった包帯に手を伸ばしていた。


「灯、何でこんなに優しくしてくれるんだ?」


 灯の方を向かず、今まで気になっていた事を尋ねてみた。ある種の好奇心と言うものだ。

 気配的にピタリ、と止まったのを感じたあたり、聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。

 少しすれば、小さく呼吸する音が聞こえてきた。


「私と清くんは幼馴染と話しましたよね」

「ああ、思い出したから知っている」

「幼馴染だと、何かと放っては置けないのですよ?」

「そういうもんなのか?」

「そういうものですよ。ほら、包帯巻きますからね」


 都合のいい言葉を言われた気がするが、これ以上言及すると灯が口を聞いてくれなくなりそうなので、今は静かに促されておいた。

 包帯を巻かれるのは、清としては不安な部類だった。だが、そんな不安を良いように裏切られた。

 灯から包帯を巻かれている際、動きづらさを一切感じないのだ。


 包帯をしっかりと巻かれれば、変に部位が締め付けられ、とても動きにくくなり行動制限されるものだと思っていた。

 しかし、灯から巻かれている場合は違った。

 しっかり巻かれているのは同じだ。ただ、優しく丁寧で、邪魔にならないように巻かれているのが大きな違いであると理解はできる。


 灯はほとんど何でもできるからこそ、小さな気遣いにも目を配り、不安が無いようにしてくれているのだろうか。


(……灯を労われるように努力しないとな)


 心の中でそんなふうに思っていると「終わりましたよ」と言う声が聞こえてきた。

 清は包帯がずれないように服を着て、灯に感謝をするために振り向こうとした。


「う、後ろを向かないでください」


 灯に焦ったように止められ、前を向くままにした。

 ――背中から前へと小さく包まれる感触が体を伝った。そして、右肩に軽い重みを感じたのだ。


 驚いて目をやると、灯が肩に頭を乗せ、後ろから手を回し抱きしめてきていたのだ。

 今の灯の体温は温かく、可愛らしく思えてしまう。いや、そんな考えをしている場合ではなかった。

 どうしていきなり、後ろから包まれるように抱きしめられているのだろう。

 心臓が鼓動を速め、全身が熱くなっているのが分かる。


「驚きましたか?」


 灯は小悪魔のように、小さな声で耳元に囁いてきたのだ。


「驚くだろ普通」

「私に後ろから抱きつかれるの……嫌でしたか?」

「……別に、嫌じゃないよ」


 本当は嬉しいだなんて、口が裂けても言えたものでは無い。

 動揺を隠すように、清は灯の頬に手を近づけた。

 仕返しと言わんばかりに、優しく振れるようにツンと触れてみたり、お餅をつまむようにつまんでみたりした。


 灯の頬はとても柔らかく、優しい温かさがあり、潤いが保たれている。ケアに相当気を使っている、とケアに疎い清でもわかるほどだ。

 灯は直接触られたことに驚いたのか、水色の瞳をパチクリ、とさせていた。


「頬を勝手につまむって……何を考えているのですか」

「ちょっとだけ触ってみたかっただけだ」


 頬から手を離すと「えっ」と灯は言葉を漏らした。


「もっと触ってほしかったか?」

「ばか」

「……ばかは君の方だよ」

「うー、いきなり君っていうのは反則です」


 余計な一言を言ってしまい、灯の機嫌を損ねてしまった。

 先ほどまで抱かれていたが解除され、お互い近寄りつつソファに座った。

 機嫌取りをするように、灯の頭を優しく撫でると照れた顔をしていた。また、頬が赤くなっているのが分かる。

 機嫌をなおしてくれ、と言えば「私が良いって言うまで撫でてください」と言われた。

 それから、灯が満足したのは数分後だった。


おまけをお読みいただきありがとうございます。

おまけは軽い息抜きなのと、魔法勝負の後でもあるため甘み成分を多めに投与しています。

家で周りを気にせず行われる恋愛空間っていいですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハードな戦いの後のスイーツ成分ごちそうさまでした。 バランスいいですね。 ちょっとずつ距離が近付いてる感じも良きです。 [一言] また読みに来ます!
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