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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第六章:君と過ごせる魔法のような日常

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二百三十八:弱さを知って強くなれ

「まことー、お互いに付与の準備は済んだね」

「ああ、始めるか」


 清は灯と共鳴魔法【星座(レゾンナンス)】をし、心寧は常和から風の魔法【託す思い】を受け、清と心寧は向き合っていた。


 間に渦巻く空気が熱を帯びるように、お互いに存在する魔力を証明しているようだ。


「そうそう、うちはあかりーを信じて魔力シールドを展開しないから、そっちの合図でかかっておいでー」


 心寧が灯と常和の観戦している方を見ながら言うあたり、魔力シールドが無いからと手加減をする必は無いのだろう。


 心寧が目をつむるのを合図に、清は息を吸った。


「――魔力シールド展開」


 魔力シールドは無色透明の膜となり、清の身体に纏われる。

 距離がある中、心寧は目を開き、魔法勝負では見たことのない笑みを宿していた。


「……まことー、あかりーもそうなんだけど、今まで本気を出してなくてごめんね。でも、とっきーの魔法を使った今なら、本気に近い実力を出せるよ」

(今までが本気じゃなかったのか)


 心寧に注目して姿勢を低くした時、夜のベールは校庭を包み込むように降ろされる。


 清が一気に地を蹴れば、それは始まりの合図となった。


 風の音が空を切ると同時、心寧から溢れ出る魔力を確認した。

 溢れ出る魔力は無数の糸の様に浮かび上がり、心寧は口角を上げて腕を前に出す。


 その瞬間、三つの魔法陣が出現している。

 走って距離を詰めようとしたのも束の間、見える光景に目を疑いそうだった。


「まこと、手加減はしないよ」

「魔法名を言わずに使えたのか!?」


 心寧が指を鳴らすのを合図に、魔法は牙を向くように清へと襲い掛かる。


 いつの間に設置していたのか、地面や空の四方八方から、心寧の得意魔法である雨【レイン】が雨粒のように襲ってきている。


 無数に召喚された魔法陣を見て、清は空中へと飛び上がり、体を出来る限りひねらせて交わしつつ空中から距離を詰めた。


(まじか)


 更に上を見上げた時、雨よりも速く、合成魔法である雷雨【サンダーレイン】が襲い掛かってきていたのだ。

 水に電気を纏った槍のような雨は、瞬く間にゆく道を塞いできている。

 清的には魔法を使って反撃してもいいが、反撃した隙を狙われれば心寧の思う壺だろう、という第二の判断で魔法を迎撃として使っていない。


 躱すのを優先しているものの、空中に足を踏み出したのもあり、体をひねらせて交わすので清は精一杯だ。まるで、紡との魔法勝負と同じく、空中に打ち上げられて何もできなかったかのように。

 ふと考えていた時、それは一つの隙となったようだ。


「っ! 本命は水斬(みずきり)か! 魔法の――いや、だめだ」


 四方八方を水で囲まれている中、一直線に水の刃が迫ってきていたのだ。

 魔法の壁で防ごうとしたが、水斬は心寧の魔法の中で唯一、灯の防御を破った魔法である。魔法の壁が役に立つかと言われれば、否だ。


(……あれなら)


 水斬が迫り時間が止まるような中、清は一つの考えを思いつく。

 水斬の挙動に合わせ、清は手に魔力を集中させ、合気道の様に受け流し、安置となっていた地面へと下りた。


 心寧との間合いが直線となった今、清は足に力を込め、砂埃を舞い上げて距離を詰める。


「心寧、詰めが甘かったな! 魔法、こうせ――嘘、だろ」

「まこと、うちは何度も魔法勝負を見てきてるんだよ。同じ戦法は、詰めが甘いよ」


 心寧に手を伸ばした時、清は真横に強く流された。

 突然の出来事に清は対応できず、なされるがまま地面を抉っている。

 衝撃が落ちついてから心寧をしっかりと見れば、清とは正反対の方に魔法陣が出現していた。


 心寧との距離を詰めたと思っていたが、心寧はそれすらも織り込み済みだったらしく、一直線の水を放つ水圧【すいあつ】を横に備えていたようだ。


 まるで、全てに繋がりがある心寧の魔法は、針の穴に糸を容易く通せるほどに美しく洗練されている。

 星の魔石にある魔法分析がなければ、何が起きたかすらも不明だっただろう。


 清は衝撃を受けた体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がる。そして、もう一度心寧との距離を詰めるため、一気に地を蹴り飛ばした。


「心寧、そんな強さがあるなら、何で今まで本気を出さなかったんだ」

「これでもとっきーの魔法ありきだから、うちは本気に近い実力を出してるだけだよー」


 心寧を囲うように、無数の圧縮弾幕、光線を繰り出しているが、心寧は微動だにせず受け流している。


 逆に魔法を打っている清の方が息は上がりかけていた。

 心寧は呼吸のペースを乱すどころか、飛んできた魔法を手で軌道を変えては、その場から一歩も動いていない。


 魔法勝負が始まってから驚くことに、こちらがいくら距離を詰めようと、心寧は分かっているように手だけを動かしているのだ。


 灯の魔力シールドが対応している確認をするどころか、心寧に一切の魔法が当たっていない。また、星夜の魔法を現状態で使おうにも、その隙すら無いのだ。


「ほら、甘いよー」


 心寧は言葉を合図に、腕を横へと薙ぎ払い、魔力を帯びた風を生み出した。


 清が驚きつつ後ろに飛んでいなせば、心寧は更に笑みの花を咲かせる。


 その瞬間、心寧の足元に魔法陣が展開される。


「これだと、まことも本気を出したくても出せないよね」

「いや、これでも十分本気なんだが……」

「更に本気でいっちゃうよ! 美咲家相伝――咲く一線【さくいっせん】――」

「……魔力覚醒か」


 心寧から溢れ出す魔力の粒は、魔力覚醒も相まって、更なる境地を見せてきているようだ。

 清の使っていた魔力覚醒が心寧の二番煎じであるが、ここまで差があるのは余程本気を出していなかったのだろう。


 心寧が今まで、魔法勝負は美しく見せる、と言っていたのを考えれば、魔力覚醒は楽しむためのオマケに過ぎないのかもしれない。


 清と違い、心寧の魔力覚醒は静かに燃える炎のようで、地も揺れず風すらも揺らしていないのだ。以前教えてもらった際は、ただ理解しやすくされているだけだったと思えるくらいに。


 清が息を呑み込めば、心寧は手を前に出した。


「まこと、気づきを教えるのも指南者の役目だから悪く思わないでね。水の創成魔法――命の雫【いのちのしずく】――」

「水の、剣」


 心寧の右手は水に纏われ、持ち手のない水の剣を生みだしていた。

 光もあいまって、心寧の楽しみたいという心を映し出しているようだ。


 清は気づけば笑みを宿し、腕を横に出して魔法陣を展開していた。


「魔法って、ここまで美しいのかよ……。炎の魔法――煌星【きらぼし】――」


 清は両手に炎を纏わせ、変幻自在の炎を生み出した。


 風が間を通り抜けた瞬間、一気に距離を詰め、両手を振るって心寧に炎の乱舞を繰り出す。

 しかし、心寧は水の剣を振るい、軽々しくいなしてくる。

 これまでの魔法勝負が、まるでお遊戯だと言わんばかりに、心寧との差は歴然だった。


 清がいくら腕を振るおうと、いくら背後を取ろうと、心寧は一歩も動かずに適応していく。

 いくら魔法を振り続けても当たらない、その歴然の差から清は後ろに下がって、下を向いて膝をつきかけた。

 気づけば、魔法が怯えるように姿を消しているくらいだ。


「……命の魔法、いや、それ以上だ」


 初めて認識した心寧の隠された実力に、清はなすすべを見出せなくなりそうだった。

 命の魔法以上の強さという認識と、魔法の本来あるべき姿と言える美しさを心寧は兼ね備えているのだから。


 清が(すべ)を考えていれば、心寧は笑みを浮かべていた。


「本当の大きな壁に当たった時、清はひざまずいて諦めちゃうんだね」

「……おれは、諦めてない」

(――今ある魔力を全て、星夜の魔法に接続)


 清は立ちあがると同時に、炎の魔法として使っていた魔力を、星夜の魔法の魔力に集中させ、体中の血液が駆け巡るように適応させた。


 星の魔石にある、魔力の源から直接魔法を使うように。


 清の身体からは魔力が溢れ出し、今まで使えなかった星夜の魔法の欠片を感じさせていた。


「心寧、これが俺の本気だ! 星夜の魔法――零式【ぜろしき】――」

「……おめでとう。でも、うちは褒めて負けちゃうとっきーよりも甘くないんだよね」

「――えっ、零式を、片手で……」


 清は、今見た現実を疑いそうだった。


 清の持つ零式は本来、あらゆる光を全て吸い込んで爆発する、いわばブラックホールのようなものだ。

 だが心寧はそれを、魔法が発動する前に片手で弾いてみせたのだ。

 星夜の魔法を使ったにもかかわらず、縮まらない圧倒的な実力差。ましてや零式が効かないとなれば、心寧を一歩動かすだけでも困難だろう。


 星夜の魔法に接続したのもあり、魔力の器はもはや魔力が底をつきかけている。


 ふと気づけば、心寧からは笑みが消え、真剣な表情で見てきていた。


「まこと、降参して」

「魔力シールドが残っているんだ、誰が諦めて降参なん、か――」

「分かった。まこと、これほどの差を見ても言える?」


 諦めの言葉を言わないと決めていた。だが、心寧に勝てるのだろうか。

 ふと気づけば、地は揺れ、風は揺れている。その中心は、明らかに心寧である。


 今まで静かだった心寧の魔力は、白い魔力を浮かび上がらせ、地を泣かし、風を騒がしていた。


 その瞬間、清は息を呑み込んだ。


 心寧の魔力は、白い柱を立てるように天へと上り、灯の貼っていた夜のベールを破壊し、強烈な風を起こしているのだから。


 魔力の流れは天へと渦巻き、心寧の魔力以外は何も感じられないくらいだ。

 空に浮かぶ雲は消え去り、太陽よりも眩しい心寧の魔力は自然すらも恐れるような恐怖を証明している。


 気づけば、手は震え、様々な思考が巡っていた。

 才能があると言われても、どれだけの努力をしても決して敵わない、そう改めて思わされるくらいの壁に清は当たったのだ。


 清は初めて膝をつき、体を震わせながら心寧に頭を下げた。


「俺の……負けです。……降参、します」


 震えた声が心寧に届いたのか、魔力はピタリと収まり、宙に浮いた地の欠片は音を立てて崩れ落ちた。


 心寧は清の降参を聞き、ゆっくりと近づいて、そっと手を差し伸べてきている。そして、ゆっくりと口を開く。


「まこと、立ち向かう勇気もいいけどね、逃げるのだって後に続く者の道標になるの。あの時だって、弟くんとの勝負でシールドを家に貼って逃げれば、被害も最小限に抑えられたんじゃないかな」


 心寧の言っていることは正論であり、清が気づかなかった考えだ。

 灯と満星を守るためとはいえ、わざわざ紡と勝負をする必要は無かったのだから。

 灯とシールドを一緒に貼れば、あの時でも命の魔法を防ぐくらいはできただろう。


「負けた俺に、何も言う資格はありません」

「まことは確かに負けたかもしれない……けど、それは違うよ」


 優しく呟かれた言葉に、清は顔を上げた。


「負けを知って、自分の弱さに気づいた。それが大事なの。魔法を極めれば、確かにどんな状況だって覆せる、でもね、過信した強さは何れ隙となって、命にかかわるの」

「……心寧」

「清は、この魔法勝負を通して弱さを知って、強くなったんだよ。気づいたでしょ? 清はもう、一人じゃないって」


 そう言って手を差し伸べてきている心寧の手を、清は優しく取って立ち上がった。


「まことー、次に進む時だよ!」

「心寧、ありがとう」


 心寧が手を離した瞬間、清はもう一度仰向けになって倒れた。


(……温かいな)


 魔力が底を尽きたのにも関わらず、鼓動の様に動く魔力を清は感じていた。

 魔法勝負に負けたが、得られた経験は多く、負けた悔しさよりも先に笑顔が咲き誇っていた。

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