第二十三話:才能と希望
※今回は魔法勝負メインのため、恋愛要素がほとんどありません
魔力シールドをお互いに展開し、その場に立ち様子を窺っていた。
魔法勝負、と言っても命に係わる危険なものでは無い。魔力シールドが、魔法の痛みをある程度防いでくれるものなのだ。
久しぶりの本格的な魔法勝負に、胸が躍るように熱くなっているのが分かる。
胸の高鳴りを抑えながら、清は常和の方に注目した。
「清、落ち着いたか? まあいいか、見せてやるよ……もう一つの剣を。風の生成魔法――風剣【ふうけん】――」
そう言いながら常和は右手を前に出し、魔法陣から風剣を生成した。
常和の作り出した風剣は、風だけで構築されており、手を柄にして風が出ているイメージに近い。
「風剣?」
「ああ、俺が持つ三種の剣の中で一番無難で普通に扱いやすい剣だ」
「なるほど、つまりは小手調べって感じか」
「まあな……やるぞ!」
常和は言い終わると共に、音を置き去りにしながら一気に距離を詰めてきたのだ。
(――前よりも、速い!)
気づいた時には、剣を振り上げる姿勢に入られていた。
かすりそうになりつつも、後ろに回り込みながら躱すのに成功した。剣の振り上げられたとこらからは、風の衝撃波が重く、強く発生している。
当たればただでは済まない、と言ったところだろう。
「あのさ、後ろに回れば安全とでも? 甘いな、想定済みだ!」
常和は力強く体をひねり、後ろに振り向きながら、勢いよく剣を振り下ろしてきた。
「くっ、避けられない……なら」
(――魔法の壁。受け止めるしかない!)
魔法の壁を左腕に圧縮し、剣を防いだ。だが、その一撃はとても重く、ずっと防いでいれば腕が持ちそうにない。
そうなれば、危険だ。
咄嗟の判断で地面を前に蹴り、衝撃を受け流しながらも後ろに下がり、少し距離を取れた。
距離を取れた、と言うよりも、常和の力により吹き飛ばされたが正しいだろう。
だが、距離を取れたのは事実だ。
(腕はどうにか無事か……食らうとしても、あと一回が限度ってところか)
痺れと痛みはあるものの、無事であるのに越したことは無い。
しかし、受け流しに失敗すれば、危なかったのにも違いはない。
「次はこっちからだ! 魔法――圧縮弾幕【あっしゅくだんまく】――」
あえて魔法名を喋ることにより、魔法に気を引かせる方法を選んだ。
距離の空いた空間には、目の前の魔法陣から生み出された弾幕により埋め尽くされた。
魔法だけ見るならば、分があるのは明らかに清の方だ。
常和との距離を取りつつ、できるだけ隙を作るのに専念すれば、勝ち筋は見つかるはずだ。
だが、そんな幻想はすぐに崩れ去る事態になった。
「風剣解除。風の生成魔法――静風剣【せいふうけん】――」
「まさか、嘘だろ?」
「詰めが甘いのは相変わらずだ、なっ!」
常和は一気に姿勢を低くし、力強く地を蹴り、弾幕の中をそのまま突っ込んできたのだ。
静風剣を逆手持ちすることにより、さらに速さを増しながら、剣の先端で弾幕をかすりながら向かってきている。
剣がかすった弾幕は連鎖するように衝撃を放ちながら爆発している。
軽いような身なりで爆風すらも躱し、残った弾幕を切り裂く。もはや、神業としか言いようがない。
この身体能力の高さは、縮めようにも縮めることはできない。生まれつき持つ才能、と言う名の壁だ。
「これならどうだ! 魔法――光線【こうせん】――」
右腕を前に出し、有無も言わさず速さで魔法陣から、一直線に狙いを定めつつ常和に魔法を放った。
圧縮をしない事により、威力が拡散し狙いを定めるのは難しいが、使わないよりかはましだ。
「清、お前は戦闘センスが無さすぎる。風魔法――身体強化【ふうまい】――」
常和は静風剣を順手持ちにし、その場で止まりながら縦に振り下ろした。そして、光線を真ん中から切り裂いたのだ。
切りさかれた光線は、空間の壁に当たり爆風を起こした。
(身体強化……自身の周りに吹く風の圧を部位ごとに変える魔法)
一振りで軽いように見えた一撃は、身体強化により重くされていたのだろう。
先ほど起きた爆風からの強い風により、気を抜けば全身が宙に舞ってしまいそうだ。
それにより、爆風から身を守るために腕で顔を覆ってしまった。それは、まずい判断だった。
気づけば、常和が距離をすぐ目の前で詰めていたのだから。
「……静風剣は静なる風のごとく。相手から目を逸らしたら駄目だろ、清?」
常和が片手にしか剣を出せないのが幸いか、縦に横にと振られた攻撃をどうにか見切り、防御に徹した。
静風剣は風剣よりも軽く連撃に向いている。そのため、一撃一撃の威力は低く、防御魔法を腕に固めれば対処はできる。
しかし、身体強化をされれば状況は大きく変わってしまう。
「ここで抑えてやる!」
剣の動きをピンポイントで見切り、左手に全防御魔法を集中し掴むことに成功した。
真剣白刃取りならぬ、片手風剣取り、と言ったところだろう。
本物の剣ならできないが、あくまでこれは魔法で作り出した剣だ。同等以上に魔法を固めて、動きさえわかれば動作もない。
「成長したな」
「守る者の為に、俺だって努力して進化しているんだよ!」
剣を抑えていたら、力をそのままに常和は話しかけてきたのだ。
普通に話しているあたり、今の清より数段余裕があるように思える。
「……清、努力が思いだけで埋まると思っていんのか? お前が成長したのなら、周りはお前以上に成長しているんだよ……甘い考えで努力を語る、な!」
先ほどのまでの力は全力ではなかったのか、受け止めていた剣はさらに力を増していった。
「くっ、この戦闘狂が……」
「懐かしいな、清に会った当初の肩書だったな」
「今では丸くなったけど、勝負になると変わらないな」
「勝負は勝負で、真剣だからな! ほらよ、身体強化でさらに上乗せだ!」
防御魔法からは、小さくひび割れるような音が聞こえてきた。抑えているにしても限度があったようだ。
逆転の手を打たない限り、このままでは押し通されて負けてしまう。
(……右手が空いている――これなら!)
常和は右手に重心をかけるように、左腕を後ろにしたままだ。上から振り落とす構えをしているのが影響しているのだろう。
そうなれば、清は右手が空いていて、ましてやゼロ距離とも言える状況で直接常和を狙える。
逆転の一手、と思った作戦をすぐさま行動に移した。
(――炎の魔法を圧縮して右手に魔法陣展開)
常和に悟られないよう、静かに魔法陣を小さく展開し、常和の腹部へと手を近づけた。
「これなら、ど――」
「だからさ……気づかない、とでも?」
――気づいたときには常和が視界から消え、右腹部からの強い痛みと共に、清の身体は回りながら宙を舞っていた。
(……どうして)
速い勢いで宙を舞いながらも、常和の方を見れば、体勢からして蹴りを入れられたのが理解できた。
常和は清の魔法を阻止するために、瞬時に身体強化を使い、勢いを付けつつ左足で回し蹴りをし、右腹部に蹴りを入れ吹き飛ばしたのだろう。
だが、問題はそこではない。宙を舞った状態では何もできない、というのが問題だ。
一か八かで、右手が上に来るタイミングで炎魔法を上空に放ち、地面に叩きつけられるように落下した。
(痛いな……息がしにくい)
落下の瞬間に防御魔法を発動させたことで、どうにか怪我はなかった。だが、右腹部を蹴られた影響もあり、息が苦しかった。
魔力シールドが破壊されていないあたり、勝負には問題なさそうだ。
(できるだけ使いたくはなかったけど――応急回復魔法)
常和が追撃してこないのは好都合だった。今追撃されれば、確実に終わっていたのは清だ。
痛みを抑えつつ、清はどうにか立ち上がれた。
どうやら、常和の方もだいぶ体力を消費していたようで、回復魔法を使っているのが見えた。
回復魔法が間に合ったおかげか、普通に動けるほど痛みは癒えた。
「清、今の魔法は危なかったぞ」
「ここまで吹き飛ばしておいて、どの口が言う」
「それもそうか。静風剣解除。風の生成魔法――暴風剣【ぼうふうけん】――」
「……まじか」
「ほら、ここからはさらに本気だ!」
暴風剣は魔法をも切り裂く斬撃を放つ剣。常和の持つ剣の中で、最高の力を持つ風剣と言える。
遠距離に斬撃を放て、近くによれば重い一撃で切れる近距離の剣……隙が無いにも程がある。
また、剣の性能に埋もれがちだが、常和の持つ判断力と身体能力が合わさり、全ての風剣と相性が良すぎるのだ。
(……最悪が揃ったこの状況、どうするか)
考えていると、縦に斬撃が飛んでくるのが見えた。
地面を横に蹴り、ギリギリで躱すことに成功した。目に見えたのが幸いだ。
――次の瞬間、常和は有無も言わさぬ速さで次の斬撃をいくつも放ってきたのだ。
斬撃は縦に横にと、もはや躱す間隔すらなかった。
(こうするしかないのか、防御魔法――魔法の壁)
魔法で作り出した壁を地面から生成し、斬撃をどうにか防いだ。
それでも、ヒビが入り始めるのが早かった。
悩んでいると、灯たちの観戦している席が見えた。
遠くからでもわかる……灯がとても心配そうな顔をして、こちらを見ている。
ここで傷つき、灯に悲しい表情はさせるなんて真似はできない。
(……だから、今だけは、本気で勝ちたい。灯を悲しませないためにも)
最後の魔法の壁が破壊された時、清は魔法を使おうとした。
その時、生み出した魔法陣が今までのとは……どこか違った。
魔法陣は星の模様をしており、魔法陣からは剣の柄と言える部分が出ているのだから。
まるで、この力を使え、と言わんばかりだ。
「清、本当におもしろいな! 偶然でもいい、その力を使い俺にかかって来いよ」
使うと決めていないのだが、何故か常和はやる気満々だ。
「わかった。この力……いや、希望を使って――常和、勝つよ」
常和に笑顔で勝利宣言を言い切り、魔法陣から出た柄を両手で掴み、力の限りに引き抜いた。
引き抜かれた剣は、静かにその姿を現した。
剣の形は西洋の剣に似ていた。だが、部分的な分け目は無い。
簡潔に言うのなら、中央のひし形を中心に、西洋の刀身と柄が一体になってついている剣だ。また、剣にしてはとても軽いのだ。
剣からは光の粒が漏れ出し、星のように輝いていた。
「まるで、希望の未来を模している感じだな。清はいつも、俺を飽きさせないから楽しいぜ!」
常和はすぐさま距離を詰め、暴風剣を力強く振り下ろしてきたのだ。
反射的に、手に持った剣を横に振ると、急激に重くなり、重い一撃で暴風剣を受け止めたのだ。
これには常和も予想外らしく「なに」と言い、焦った顔をしていた。
「……なんだ、この剣」
「まさか、俺の剣を受け止めるか。なら、次だ!」
常和は、瞬時に後ろに飛び跳ね距離を取った。
距離を取ったのを見るあたり、斬撃を飛ばしてくる気だろう。
制御しきれない剣の挙動に清は動揺しつつも、剣をしっかり振ることに意識を集中させた。
「さすがに斬撃を防ぐのは……無理だろ!」
先ほどよりも縦に大きく振られた暴風剣からは、今まで以上の威力で斬撃が放たれ向かってきた。
一回しか振らなかったのを見るに、一撃で終わらせるつもりなのだろう。
斬撃に合わせ、手にした剣を横に振った。すると、斬撃は消えながら、魔力の粒となり空へと昇ったのだ。
制御できていないにも関わらず、常和と対をなせるのはありがたかった。
この剣が現れていなければ、負けていたのは確実に清だ。
「これ以上の小細工は要らないな。だからこそ、真正面から正々堂々だ!」
距離を詰められ、常和の剣とぶつかり合った。
見知らぬ剣に常和は慣れてきたのか、先ほどの優勢は無くなり、力が互角の競り合いになっていた。
剣を片手で持っていたのだが、常和の力に押されそうになり、清は両手でしっかりと持ちその場を耐えた。
「……まさかさ、清と剣で戦う日が来るなんてな」
「ああ、でも俺は嬉しいよ」
「ならさ、お前も魔法で剣を作るのはどうなんだ?」
「悪いけどお断りするよ」
「やっぱそう言うか。まあ、そろそろ次の一撃で決めてやるよ!」
「なら、俺だってやってやる!」
常和はまたもや距離を取り、手を剣に重ねていた。
「魔法を剣に――風魔法【託す思い】――」
何をするのかと思えば、暴風剣に魔法を付与したようだ。
本当に次で決める気らしい。
本気でやると決めれば本気になる。そんな常和と言う存在に、本気でぶつかり勝ちたいと思ってしまう。
清は深く息を吸い、剣を両手でしっかりと持ち、目を閉じて意識を全身に集中させた。
すぐに目を開けば、世界が輝きだしたように見えた。
気づけば、常和の真似をするように剣へと魔力を流していた。
剣は光の粒を加速させ、上空へと舞い上がらせていた。
最初の光の粒が消えるのを合図に、お互いに勢いよく走りだした。
――距離が近づいた瞬間、互いに剣を縦に振りぶつかったのだ。
剣を中心に風が大きく吹き荒れた。
(やばい! 吹き飛ばされ――)
ぶつかり合った強い力と共に衝撃波が発生し、お互いを吹き飛ばした。
体勢を崩したまま、清は空間の壁にぶつかった。
意識がかすれそうになりながらも、常和の方を見れば、清と同じように壁まで吹き飛んだようだ。
どうにか意識を保ち、手を地につけて立ち上がりながらも落ちた剣を握った。
……しかし、剣はもう一度、地面に音を立て落ちていった。
「清くん、今回は引き分けです」
「灯、なんで……」
気づけば、目の前まで来ていた灯に手を握られていたのだ。
「当初の目的を忘れ、本気になってどうするのですか?」
当初の目的と言われ、灯に常和の魔法を見せるのが目的であったのを思い出した。
常和と同じ意見だったはずなのに、お互いに熱くなり忘れていたのだ
ふと、常和の方を見れば、心寧が止めている姿が目に映った。
最初から止める予定でもあったのだろうか。
「清くん、この後はみんなで前みたいに……ご飯食べましょうね」
「ああ、そうだな」
「……よかった。瞳の色が元に戻ったようで」
「何のことだ?」
「ご飯食べに行きますよ」
灯に聞き返したが、笑顔を作り本気で流している。答えたくないようだ。
何か気になる事を言われた気がするが、スタジアムの食堂へ常和たちと向かった。
各々が頼んだ食事をテーブルに置き、勝負を話題に話しながら食べていた。
「清、結局あの剣はなんだったんだ?」
「さあな、勝負が終わった瞬間には消えていたからな」
なんと、清の使っていた剣は、光の粒に覆われながら姿を消してしまったのだ。
灯にも聞いてみたのだが、魔法陣から剣が出てくるのは聞いたことないらしく、新しい発見にとても驚いていたのだ。
推測であるが「星の魔石が関連しているのは事実」と灯は言っていた。
「とっきーはさ」
剣について考えていると、心寧が呆れたように呟き始めた。
「ペア戦以外だと、ただの戦闘狂だよね」
「常和は前からだろ」
「言われてみれば戦闘狂に近いですよね」
灯から見ても、常和は戦闘狂の勝負スタイルに近いらしい。
戦闘狂に関して意見が一致したことに「俺の味方はいないのか?」と常和が言い、みんなして笑ってしまった。
……常和たちと別れ、灯と一緒に帰り道を歩いていた。
始めたのはお昼前だったはずなのに、今見える太陽の光は暗いオレンジ色になっていた。
そっと吹いた風に、水色の髪が優しく揺らめいた瞬間、目と目が合った。
「あの、清くん、怪我していますよね?」
「してないから心配するな」
「嘘はダメですよ。帰ったら私が直々に手当しますからね」
家に帰れば、強制的に灯の手当てをもらうのは決定したようだ。
心配するように、灯は繋いだ手を離さんとばかりに強く握っていた。
家に帰っても今日と言う名の日常は終わってくれないらしい。
この度は数ある小説の中から、私の小説をお読みいただきありがとうございます。
今回は本格的な魔法勝負を書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
また、甘み多めのおまけを制作していますので、出来上がり次第投稿させていただきたいと思います。




