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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第六章:君と過ごせる魔法のような日常

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二百二十三:日常に存在する、身近な自然に感謝を

「お守りに、素材の数、この調子だと足りなくなりそうですね」

「常和、どうする?」


 お昼の前に水分休憩を挟んでいる最中、清は灯と共に使う予定の素材の数等を確認していた。


 来客数は予想を遥かに上回り、お守りの作成もだが、今ある素材だけでは最終日である本日を最後まで回しきるのが不可能に近い状態だ。


 また、清自身も感づいているが、灯と常和、心寧の表情はいつもより疲弊している。


 朝から数百人規模を四人で捌いていたのだから、疲れるのも無理はないだろう。

 教室をいったん閉じて休憩しているが、教室のドア前では今か今かと、幕開けを待ちわびる声が聞こえてくる。


 常和はペットボトルの中身を全て飲み干し、三人、静観しているツクヨを含めて四人の方を向く。


「仕方ないな。今すぐ魔法の庭に行って取ってくるぜ」


 常和が心寧に魔法の庭に繋げてもらおうとした時、ツクヨの制止する声が静かに聞こえる。

 椅子に座って悩んでいたツクヨは立ち上がり、ゆっくりと黒板の前に立つ。


『黒井君に古村君、今の分でどのくらい続けられそうかね?』

「今の分だと、良いところで二から三回が限度かと思います」


 清が答えれば、ツクヨは仮面の奥底で息を吐きだした。

 そして、四人の顔をしっかり見た後、淡々とした様子で決断を口にする。


『今ある素材が終わり次第で、このクラスの出し物は終了としようか』

「……え? ツクヨさん、どうしてですか!?」

「そうだぜ、ツクヨ先生。現状は来客数一位になれたかもしれないけど、この後に追い返されるかもしれないだろ?」


 反発を見せたが、ツクヨはそれらの視線や言葉を退け、チョークを手にする。

 常和は納得したくないらしく、眉間にしわを寄せてこちらに近づいてくる。

 そんな常和を横目に、清はふと、先ほどから言葉を発していない灯と心寧の方を見た。


 灯と心寧は、お互いに顔を見合せ、少々悩ましい表情をしている。

 清と常和がツクヨの意見に反発した中、灯と心寧は何か思い当たる節、もしくは共感する考えがあったのだろう。


 清もだが、目の前の壁しか見ていなかった自分に首を振り、近くに立っていた常和に制止の声をかける。


「常和、一旦落ちつこうぜ」

「……そうだな。心寧と星名さんがしっかりと思考しているのに、俺らだけが熱くなったら今までが台無しだよな」


 常和はいつの間にか二人の方に目をやったらしく、眉間に寄せたしわを戻し、そっと息を吐き出している。


 その時『落ちついたかね』というツクヨの声に目をやれば、黒板には雑であるが自然を模した絵が描かれている。


『今君たちがやっている出し物は、自然を自分たちが好き勝手に扱っている、というのは理解しているかね?』

「……素材、それは自然からの恵み」

『言葉足らずだが、星名くんの言う通りだね。弱肉強食という言葉があるように、自然にも自然の形があるのだよ。自然のままに扱う力を踏まえても、君たち四人は、魔法の庭や魔法世界を通して、自然が如何に大地の恵みを我々人間に分けていたのか理解できているはずだよ』


 ツクヨの言葉に、清は胸が刺されるようだった。それは、自分の経験に思い当たる節があるからだ。


 現実世界だと気づきづらかった月の明かりは、魔法世界だと暗い道を明るく照らし、夜であるのに輝く世界を見せてきていた。

 そして木々や川は、耳に優しく触れる自然の音色を風と共に奏で、共に生きる意味を間接ながらも伝えてきていたのだから。


 木や草花があるからこそ、豊かな空気は生まれ、香りとなりて太陽の光のありがたみを受け取れるものだ。

 水があるからこそ、流れる日々に潤いを与え、生きる青色に全てを詰め込んでいるようなものだろう。


 気づけば、心寧はツクヨの言葉を聞いてか、一歩を踏み出して言葉を口にする。


「うち、っていうよりもね……魔法の庭の管理人としてだけど、あの自然が無限かと言われると、魔力が湧き出なかったら有限の自然だったから……出来るなら、我がままに採取する行為は避けたいよね」


 どこか曇ったような表情で言う心寧は、いつもの明るい声で言っているのに、しんみりとしたように聞こえてくる。

 心寧は胸に手を当て、そっと笑みをこぼした。


「それに、美咲家の先祖が残して受け継いできた庭でもあるし、美咲家の末裔であるうちが大事に繋いでいきたいな、って」

「……心寧さん」

「でもでも! 四人で上を目指すなら――」


 心寧が首を振って明るく話を続けようとした時、常和が腕を横に伸ばして心寧の言葉を遮った。

 常和の急な行動に驚いてか、心寧は目を丸くして口をぽかりと開けている。それでも、常和の目を見てか、安心しきった笑みを宿していた。


 ゆっくりと心寧に振り向く常和の目は、考えることもなく真剣な眼差しだ。


「心寧、無理はするなよ」


 と、常和は心寧の肩に手を置いて、芯のある声で言ってみせた。

 常和はツクヨに視線を送った後、黒板の前に立って見せる。


「清、心寧、星名さん。このクラスの学園祭進行役として――いや、俺の意見だ。聞いてくれるか?」

「常和、聞かせてくれ」

「聞かない理由はありませんね」

「うちも同じくー」

「見てくれた人に俺たちの想いは間違いなく届けられた。だからこそ、この残り少ない素材を大切に使って、更に美しく見せようぜ!」

『つまりは、これが終わるのを合図に打ち切りでいいという決断だね?』


 素材を見て言ったツクヨに、常和は深くうなずいてみせる。

 常和の言葉を考えれば『勝つ』という概念に囚われていたのだろう。

 自分たちで伝統を広めることを目標に始まったこの計画も、学校から提示された数字の魔の手により、確実な目的を見失っていたと言える。


 清は思い出し、ゆっくりと手を鳴らす。

 灯と心寧も釣られてか、同じく拍手をして音を鳴らした。


「そうだよな、俺たちは一位を目的にやっているんじゃなく、伝統を広めるためにはじめたんだよな」

「ふふ、そうでしたね」

「よーし! 来てくれた人全員が真奈叔母様の伝統を羨ましいと思えるくらいに、最後までうちらで駆け抜けようね!」


 共感、というよりも、本来あるべき目標を見つめ直したことで、気持ちがもう一度一つに向かい始めたのだろう。


 聞いていたツクヨは、今来ている人にまとめた話を通すためか、先にドアから廊下へと出て行こうとしていた。


 その際にツクヨから『私の方からも伝えておくが、君達からも伝えるように』と言葉を残し、廊下へと姿を消した。


「……ツクヨさん、言われなくても、分かっています」

「よーし! 休憩も終わりにして、最後の一秒までやりきるぞー!」


 常和の鼓舞を合図に、改めて素材の準備及びに配置の確認を終わらせる。

 四人で休憩を終わりにし、最後の幕を開けるのだった。

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