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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第六章:君と過ごせる魔法のような日常

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二百十五:自然に湧き出るものの名は、感情と愛情

「清くん、ずいぶんとお疲れのようですね」

「慣れない事をしたせいだな」

「甘えておきますか?」

「今は遠慮しておく」


 夜ご飯を食べ終えた後、灯を横目に清は冷蔵庫を漁っていた。

 そして灯は、清が洗い物を終えたのを合図に温かい飲み物を用意しているようだ。


 冷蔵庫から桃ゼリーを取り出してソファに移ろうとすれば、灯が見計らったようにスプーンを差し出してきていた。


「どうぞ」

「灯、ありがとう」


 灯は飲み物の準備を終えたのか、マグカップを二つ手に持ち、同じくソファに歩を進めている。


 一緒にソファに座れば、テーブルには一つの桃ゼリーと、白い湯気を立てているマグカップが二つ置かれた。


 結局のところ、学校で笑みの練習を灯としたものの、清は上手くいかずに壁に当たった状態となっている。


 小さなため息一つすらこぼさないように灯を見れば、灯は美味しいそうにココアを啜っていた。

 温かい飲み物を飲んで生まれる笑みすら、小さな未来の糧となり、柔らかな感情として変換されるのだろう。


「そう言えば、出し物はわかったのですか?」


 マグカップを置いて疑問気に尋ねてくる灯は、内容が不明になっていたから気になっているのだろう。


「ああ……真奈さんから聞いた話だと、混ぜる工程と創る工程を披露してもらう、って言っていたな」

「混ぜるに、作る?」

「灯は真奈さんの仕事を見たことがなかったよな」


 思い出したように言えば、灯は静かにうなずいていた。

 清はわかりやすいように、灯に全体的にお手伝いでやっている流れを説明した。


 簡単な説明で理解できたのか「なるほど」と灯は興味深いように両手を合わせている。


 清的には、常和から特別講師が学校に来ると聞いているため、出し物よりもそちらの方が気になっている方だ。

 流れ的に考えれば、真奈が来ると確定しているが、特別講師という響きはいつになってもワクワク感が止まらないものだろう。


 心寧でもないのに好奇心旺盛になりつつあった気持ちに鞭を打ち、清はそっと息を吐いた。


「……学園祭が終われば、数日もすれば十二月ですね」

「そうだな」


 学園祭だからといって、努力を怠るわけにはいかないのだ。


(……頑張らないとな)


 学園祭が過ぎれば、灯にあげる指輪を完成まで持っていくという、大胆な約束を真奈と交わしている月になる。


 また、十二月が意味するのは、三十一日に紡と魔法勝負をすることが迫ってきている月を意味しているのだから。


 多くの難題が迫りくる中でも、清は決して努力を欠かすような真似はしていない。

 魔力や魔法を極める面では現在、真奈のお店を手伝うことで魔力を繊細に扱う、という常和仕込みの同時進行のやり方をしている。


 気づけば、紡との魔法勝負だったり、灯にあげる指輪を創ったりと、巡りくる感情をしみじみと感じていた。


 そんな感情を感じつつも、清は灯の方へと視線を戻した。

 視線を戻せば、灯は最初の頃にあげた、星の周りに雪の結晶が二つ付いた魔石のペンダントを小さな手で優しく撫でていた。


 星の魔石がハマっているペンダントを見るのが久しぶりなのもあってか、清の中では嬉しい気持ちが込み上げてきている。


「それ、懐かしいな」

「……清くんに魔法世界で初めてもらったプレゼントですし、今も大切に使わせてもらっていますよ」

「そっか……ならよかったよ」


 小さく微笑む灯を見てか、清は思わず手が伸びて、灯の頭を優しく撫でていた。

 魔石のペンダントを撫でていた灯は、急なことに驚いた様子をみせたものの、清に気持ちを預けているように見える。


 自分は灯の嬉しそうな笑みを見るために生まれてきた、そう思わせるくらいに灯の笑みは愛おしいものだ。


 そっと頭から手を離せば、灯は目で手を追ってくるため、幼い子どものような微笑ましさがある。


「清くん、私を撫でることに戸惑いはなくなりましたよね」

「まあ、灯だけにしかしないからな」


 清は話していた手を止め、テーブルに置いておいた桃ゼリーのカップに手を付けた。

 ゼリーの蓋を開ければ、カップから溢れんとするゼリーの弾力さに、桃の優しい風味を直感に伝えてきている。

 置いておいたスプーンを拾い上げ、清はゆっくりとゼリーに近づけた。


「それに、灯は頭を撫でられるのが好きかな、って思っているからさ」

「間違い、ではないですが……改めて言われると恥ずかしいですね……」


 灯は白い頬に薄っすらと紅色を帯びさせつつ、じっとこちらを見てきている。

 見てきているというよりも、視線は明らかにゼリーへと向かっていた。

 透き通る水色の瞳からは食べたいと、ひしひしと気持ちが伝わってくるようだ。


 お互いに桃が好きである事を考えれば、灯も食べたい気持ちがあるのだろう。


 清はそっと笑い、スプーンでゼリーを一口掬い、灯の方に差しだした。

 灯は差し出されると思っていなかったのか、驚いたように目を丸くしてこちらを見てきている。


「うん」

「わああ」


 灯が小さな口を開けてくるため、清はそのままスプーンを灯の口へと運ぶ。

 スプーンがぱくりと咥えられれば、灯は美味しそうな笑みをして目を細めていた。


「美味しいか?」

「美味しいです」

「ほい」


 面白半分でもう一度掬って灯に差し出せば、灯はぱくりと食べている。

 美味しそうに食べる灯は見ていて微笑ましいものがあった。


(……感情って、自然に湧き出るものなんだな)


 表情には出していないが、灯が美味しそうに食べているのを見て嬉しいと思うのも感情の一つだろう。

 清は感情に疎いが、改めて感情が何を意味するのか理解できた気がした。

 作り笑顔でもいい、自然な笑顔でもいい、他者の感情を否定する者は居ないのだから。


 清的には、男に食べさせてもらって嬉しいのか、という疑問が湧く半面、灯に食べさせてもらう時の自分自身も嬉しいため、思考を若干放棄気味である。


「灯、ありがとう」

「え? 私、何もしていませんよ?」

「俺が勝手に感謝しているだけだ。それと、これ全部やるよ」

「え?」


 自分で食べるために買ったつもりでいたが、清は感情を知れて満足した分、押し付け気味に桃ゼリーをスプーンと一緒に灯に渡した。


 灯が不思議そうに見ている中、清は灯の入れてくれたココアを口にする。


「もう。ご自身で食べるために買ったのでしょう?」

「まあ、そうだけど」

「ほら、私が食べさせてあげますから」

「だ、大丈夫だから」


 引く様子を見せない灯に清が先に音を上げ、灯から一口だけ同じスプーンで食べさせてもらうのだった。

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