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君と過ごせる魔法のような日常  作者: 菜乃音
第五章:hope union

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二百一:希望同盟――四人の目指す道に希望を

「あかりー、まことー、おまたせー!」

「よっ、お二人さん」

「常和、心寧、ずいぶんと遅かったな?」

「……こんばんは」


 清が灯を沸騰させてから数分が経ったころ、常和と心寧が山の中腹へとやってきた。


 常和と心寧は言い出しただけあり、二人も例にもれずしっかりと浴衣を着用している。

 常和は渋い黄緑色の浴衣に黒い帯を付けており、和風色が強めとなっているようだ。

 着る本人の容姿が整っているのもあってか、渋さの中に穏やかでありながら澄んだような印象を持たせてくるため、気づけば視線を惹かれてしまう。


 心寧に関しては、つぼみを模した青色の浴衣に、赤い帯の真ん中にピンク色のラインが引かれたものを着用している。

 ショートヘアの髪は、特徴的なビーズの髪飾りが花形になっているのもあってか、明るめの印象を持てるように整えられているようだ。

 活発系のような美少女である心寧は、まったりした印象を持たせてくる灯とはまた違った個性を持っているのだろう。


 心寧は到着するなり灯の変化に気づいたのか、まことー何かした、と言いたげな視線を飛ばしてきている。


 清は灯の額にキスをしただけで、それ以外は何も手を出していないため、無言で首を横に振るしかなかった。


 常和が苦笑して見ている辺り、心寧を止める気はないのだろう。


「アイコンタクトでの意思疎通は置いといて、色々買ってきたから皆で食べようぜ!」

「置いておかないで止めてくれないか?」

「はは、今日は祭りだから仕方ないことだな」

「お祭りじゃなくても心寧さんはそんな感じですよね?」


 灯が不思議そうに首をかしげていると、心寧は灯に近づき買ってきた物を手渡していた。

 また清も、常和が選んで買ってきてくれた物を受け取ってから、四人でベンチの方へと移動する。


 ベンチは二つあり、間が少し空いているだけなのもあって、端から清と灯、心寧と常和の二人一組の形でベンチに着いた。


「これ、美味しいな」

「だろ? お祭りなのもあってか、今日は鮮度がいつもの五倍は高いらしいからな」


 清は常和から、焼きとうもろこしとキウイのジュースをもらっている。

 キウイのジュースを口に含んだだけで、味わい深いものを感じさせてきたのだ。


 各々がもらったり、買ったりしたものを嗜んでいれば、灯がこちらをじっと見てきていた。


「灯、どうした?」

「それ、飲んでみたいです」


 灯はそう言って、小さな人差し指をキウイのジュースが入ったカップに向けていた。

 清の中では、本当に大丈夫か、と言った不安がありつつもゆっくりとカップを手に取る。


 灯の方にストローを向けて差し出せば、灯は嬉しそうにストローを口に含んだ。


 少しストローから吸った瞬間、灯は分かりやすく軽く渋い顔をしていた。

 灯は種も一緒に入っている飲み物をあまり好まないため、キウイなのも相まって口に合わなかったのだろう。


「大丈夫か?」

「……清くんと同じのを飲んでみたかっただけですから、大丈夫、です」

「嬉しいけど、無理はするなよ?」

「……無理はしていません」

「灯、俺もそれ、一口貰っていいか?」


 灯に関しては心寧から切り桃をもらっており、清は灯が手に持った容器を指さした。

 灯は嬉しそうな笑みでうなずくため、嫌では無いのだろう。


 二人で空間を創りかけていれば「うちらもやろう!」と見ていた心寧に常和はせがまれているようだ。


 心寧がちゃっかりと常和の食べ物を真似と称して食べ進めている時、片手間に口を開いた。


「まことーととっきーの件も済んだし、二人は十一月からどうする気?」


 予定に対しては、灯と顔を見合せて悩むしかなかった。


 予定と言えば、灯に渡すための指輪の話が十一月に控えているため、あると言えばあるだろう。だが、サプライズで渡したいのもあり、当の本人が居る前では無いとしか言えないジレンマが存在している。


 そんな清の隣で灯は悩んだ末、清の持った焼きとうもろこしを軽くかじかじした後、ゆっくりと口を開いた。


「私は、清くんの記憶を全て思い出させる、というのは全て終りましたし……強いて言えば、清くんの時間が許す限りは一緒に居たいだけですね」

「まことーの魔法、あかりーが一番心配してたもんね」


 灯は暴露されると思っていなかったのか「心寧さん!」と頬を赤らめていた。

 清自身、灯が心配してくれる気持ちは誰よりも嬉しいため、透き通る水色の髪をそっと撫でておく。


 自分がこの場に居るという存在をくれた、たった一つの希望なのだから。


 魔力を分けてくれた灯が居なければ、常和や心寧に会う以前に、魔法世界に来なかった世界線があるかもしれないからだ。


 このベンチから見下ろす町並みも、魔法世界に生きる空気や木々、雲雲(くもぐも)も、今では全てが大切な思い出となっている。


 両手で抱えきれない思い出すら、拾って集めてくれるものがいると、確信を持てるからだろう。


「……俺は、(つむぐ)との魔法勝負に向けた最終調整になる感じか?」

「まー、清の魔法は未だに謎が多いし、極めて損は無いからな」

「とっきーはただ単にまことーと勝負したいだけだよねー」

「はは、そうともいうな」


 小さな会話ですら笑みをこぼせるのは、この四人で居るおかげだろう。


「みんなそれぞれの目指す道を行くんだね」


 と笑顔で言い切る心寧に、清はふと疑問がよぎった。

 自分らの事は話したが、心寧と常和は自分達の事を言わずに締めようとしているのだから。


「二人はどうする気なんだ?」

「うーん……十二月の混乱に乗じた作戦をとっきーと立てているから、強いて言っても、うちは特にないかなー」

「心寧はそれまで俺らの魔法磨きか、星名さんと魔法の庭の管理でもしてると思うぜ」

「さらっと流していますが、お二人共、十二月に何をする気で?」

「なんだと思う?」

「やる事は違っても、みんな希望は同じなんだな」

「ま、清くんはなんで気になら――」


 灯が何か言おうとした瞬間だった。


 辺りに爆発する音が轟くと同時、見えうる夜空が色鮮やかな花で染まったのだ。

 夜空に咲く花、打ち上げ花火。


 気づけば、四人で立ち上がり、柵の方へと近づいていた。

 魔法で創って打ち上げられている様々な花火の時間に、今までの会話がそっちのけとなっているくらいに。


 魔法の庭で手持ち花火をやったが、夜空に上がる花火はそれとはまた違った、特別なときめく気持ちがあるからだろう。


 四人で花火に見惚れていれば「あっ」と心寧が鈴を鳴らすように声をもらした。

 心寧が声を鳴らしたのを合図にしてか、花火の明かりに照らされながら常和がこちらを見てきていた。


 灯も二人の様子に気づいたらしく、そっと視線を空から二人に移している。


「なあなあ、花火にちなんでさ、改めて俺らのグループ……いや、チームに名前をつけないか?」

「急すぎないか? てか、なんでだよ」

「――もう一度みんなで、ちゃんと一つになりたいからだ」


 真剣に言ってくる常和の瞳には、花火の明るさも相まってか、清と灯、心寧の姿がしっかりと反射して映っている。


 ふと腕の方が揺れたかと思えば、灯が寄り添ってこちらを見上げてきていた。


「清くん、いいじゃないですか」

「……まあ、灯や心寧がいいなら、俺はいいけど」

「うちは賛成しているから、名前を付けないとね!」


 四人で賛成となったが、名前を改めて付けるとなり、どうしたものかと頭を悩ませた。


 ふわりと肌を撫でるように吹いた風は、木々の葉っぱを揺らし、くすくすと笑っているように思えてしまう。

 月明かりが柔らかに差し込んだとき、心寧が宙に指を伸ばした。


 心寧の指先に集まった魔力は、宙に文字を描いていく。


「これ何てどう『希望(きぼう)同盟(どうめい)』」

「清に星名さん、俺と心寧、四人の名前が全て詰まったようなチーム名だな」


 宙に描かれた『希望(きぼう)同盟(どうめい)』という文字に、どこか気持ちが惹かれるものがあった。

 ふと灯を見れば、透き通る水色の瞳に魔法の文字を反射させ「わあ」と声を鳴らしていた。


 清自身、心寧の考えたチーム名に反対の意見は無く、賛成に心が揺らいでいる方だ。

 常和と心寧は気に入っていそうなので、後は灯の意思証明だけだろう。


「希望、同盟……ホープユニオン、良い名前ですね」

「灯……今の俺らにはぴったりだな」

「ホープユニオン、ね……。四人、いや二人一組ではあるけど、希望に向かう者同士の集まりのうちらにはいいよね!」


 向かう道は違うといえど、四人の仲を証明するようなこの名前に異議を唱える者は、四人の中に居るはずはないだろう。


 気づけば、常和と心寧が四人で円を作る位置に立っていた。

 そして常和がゆっくりと左手を宙にあげる。


「清と星名さんは魔法世界をかけた勝負を! 俺と心寧は今を変える動きをする為に! それぞれの行く道に希望を!」

「うちも、たとえそれが綺麗事だと言われようと、希望をかかげるよ!」

「俺も……未来に希望を」

「魔法を超え、世界を超え、運命を超えた出会いに、希望を」


 四人で左手を伸ばし、約束を誓った。

 最近のように思えるこの感じも、気づけば一年前になりかけているのだろう。


 どんなに離れていようと、四人で誓う約束は安心感があり、希望に満ち溢れた世界だと、改めて実感させられるようだ。


 一時(ひととき)ですら最高に楽しめる瞬間に、四人は笑みを宿していた。


「ねえねえ、うちらも花火上げよう!」

「お、いいな!」

「花火か、できるかな」

「清くん、私がお手伝いしてあげますよ」


 山の中腹から打ち上げられた花火は、赤や水色、緑色や青色、四人の色を混ざり合わせ幻想的な瞬間を生み出すのだった。

 終わりではない、始まりの音を奏でるように。



 その後、四人で町に下りて、最後まで笑みを宿してお祭りを楽しむのだった。

読者の皆様、貴重なお時間を使い、ここまでお読みいただき大変ありがとうございます。


第五章はこれにて閉幕となります。

第六章に関しましては、準備出来次第投稿をしますのでしばしお待ちいただければと思います。

第六章が実質的には最終章として予定しておりますので、最後まで楽しんでいただけるよう『君と過ごせる魔法のような日常』を最高な形で終わらせるよう精一杯努力してまいります!

清と灯、星の魔石を持った者の行く末を優しく見守っていただけたら幸いです。

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